2013年02月07日
森繁和『勝ち続ける力』―落合氏と森氏に共通する7つの思考(1)
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まず初めに、先日の記事「森繁和『参謀』―阪神が涙目になる中日の投手王国の仕組み」の補足。森氏の下では、1軍と2軍が一体となり、入念に準備された計画の下で緊密に連携しながら投手を育成していたことが伺える箇所を引用しておく。
先発とリリーフでは部署が違うのだから、2軍でずっと先発として育てていた投手を、1軍に上げてリリーフで使うことはない。2軍でリリーフに配置した投手は、1軍でもリリーフで使って育てることだ。逆もまた然りで、2軍でリリーフしか投げていない投手を1軍で先発させることは、絶対にない。おーい、阪神の首脳陣、聞いているか~!?(苦笑)
1軍の投手不足に困ったら、2軍の投手を上げる。その場合、大切なのは1軍の投手コーチと2軍の投手コーチが、同じ考えで最新の情報を共有していることだ。お互いの状況を常に把握しておく。「今、こういう状況で、この選手の調子が悪い。昇格候補のピッチャーの状態を、いつでも1軍に上げられるように整えておいてくれ」と頼んだりする。(中略)
先発でもリリーフでも、1軍に上がってきたら「今までの投げ方、やり方でいいからな」と言えるようにしておく。2軍で投げてきたことと同じことをやればいい、仕事の内容は同じ、今までやって来たことの延長線上でやれ、と。1軍で投げさせるときは、できるだけ2軍で一番いい状態のときに投げさせる。1軍に上げた以上は、早めに投げさせることだ。結果が出ようが出まいが、すぐ登板させる。(中略)
そうして、次に進む課題を自分で考えさせる機会をつくる。この経験が今後の本人のステップアップにつながっていくようにしなくてはならない。
さて、森氏の『参謀』に続いて近著『勝ち続ける力』を読んでみると、落合氏と森氏は共通の考え方を持ってチームを運営していたことがよく解った。落合氏の著書『采配』と森氏の『参謀』、『勝ち続ける力』から、その共通点を7つにまとめてみた。マネジメントが共通の価値観を持っている組織はやはり強い。落合氏と森氏で大きく意見が食い違ったことと言えば、落合政権1年目の時に、落合氏が川崎憲次郎を開幕投手に指名したことぐらいだろうか?当時、川崎はヤクルトからFAで中日に移籍してきて3年目のシーズンを迎えていたが、ケガのため過去2年間は1軍での登板がなかった。落合氏は、その川崎に大事な開幕戦を託そうとした。これにはさすがの森氏も、「開幕戦から捨てゲームをやるのか?」と驚いたそうだ(J-SPORTSの対談より)。
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(1)上司の仕事はとにかく選手を「観察」すること
8年間、監督を務めてきて強く感じているのは、選手の動きを常に観察し、彼らがどんな思いを抱いてプレーしているのか、自分をどう成長させたいのかを感じ取ってやることの大切さだ。自分なりに選手の気持ちを感じ取り、その意に沿ったアドバイスをすることができれば、それが厳しさを含んだものであれ、選手がこちらを見る目は変わる。
「ああ、監督は俺のことを思ってくれているんだ」
そう選手に思わせることができれば、底から先のコミュニケーションは円滑になるのではないかと考えている。(『采配』)
(西部の元監督である)根本(陸夫)さんには、まず人を「見る」ことを叩き込まれた。人を見ないまま、いきなり自分の考えを押しつけるだけでは、選手は絶対に動かない。「見る」ことは「育てる」ことのスタートなのだ。(中略)(2)「心技体」は「体」からスタートする
「見る」というのは、見える先の、見えないものを見ることだ。技術だけでなく、見る相手の心の中―何を考えているのか、どんな性格なのか、相手のことを本気で考えろ、ということなのだと思い至った。(『勝ち続ける力』)
「技身体」や「体心技」と口にしてみると、確かに「心技体」が最も語呂がいい。では、この3つの要素を大切な順番に並べるとどうなるか。
私は「体・技・心」になると思う。プロ野球選手だからというわけではなく、ビジネスマンであれ学生であれ、仕事や勉学に打ち込む時には体力が必要だ。病気などで体力が落ちている時は、なかなか気力も湧いてこない。人間の生活を根本的に支えているのは体力なのだから、まずは体力をつけておくことが肝要だろう。(中略)
技と心は序列をつけにくいが、技術を持っている人間は心を病まないという意味で技を先にした。(中略)セールスポイント、あるいは得意分野を2つ、3つと増やしていけば、ちょっとしたことで悩んだりしないはずだ。仕事自体が嫌いになるような状況にも陥ることにないし、心の健康も保っていられる。(『采配』)
まずはこの投げ込みができる体力をつくることから始める。「心技体」のなかで、私は「体」が一番だと思っている。どこを鍛えるにも、まず体ができていないと次の目標に向かえないだろう。(中略)(3)階段は1段ずつその選手に合ったペースで登らせる
ビジネスパーソンでも同じことが言える。体力をつけてから次のステップに進む。体力をつけながら、技術や心を少しずつ伸ばしていくほうが結局は早いのだ。(『勝ち続ける力』)
仮に、身につけなければならないことが10段階あり、5のレベルに達すれば1軍でプレーできるとしよう。私はドラフト1位で入団した選手にも、6位や7位といった下位で入団してきた選手にも、別け隔てなく、1のレベルから取り組ませる。中には、ドラフト下位指名でも春季キャンプの間に5のレベルをクリアし、オープン戦を経て開幕から1軍でプレーできる選手もいる。反対に、1位という期待を寄せられながら、1年経っても2、3のレベルで苦戦する選手もいる。
プロ野球界でよくあるのは、ドラフト1位で入団した選手が2や3のレベルで伸び悩むと、途中を端折って6のレベルのことを教え、無理して1軍で使ってしまうケースだ。(中略)本人が気づいてしっかりと足固めをすればいいのだが、多くの選手は壁にぶつかった途端に自信を失い、ルーキーの時の輝きは何だったのかという選手になってしまう。
それでは選手が不幸だ。(中略)指導者が肝に銘じなければいけないのは、1のレベルから2、3、4と、ある程度の時間がかかっても辛抱強く、段階を踏んで教えていくことだろう。(『采配』)
すぐ結果を求めたほうがいいのか、まず体づくりを数ヶ月やらせたほうがいいのか。すぐやらせたら故障につながる選手には、段階を踏ませる。みんなに同じことをやらせることはできない。しばらく2軍に行かせて2軍の選手たちと、ひとつ下げたところから鍛えて、1軍でできる体力になってからゲームに参加させるといった仕組みをつくる。1年間はこれでいい、2年目からこういう練習メニューをやらせようと考える。大学卒か社会人か、一人ひとりが違う状態で入団してきているから、全員同じメニューをやらせることは無理だ。(『勝ち続ける力』)(続く)