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補助金にふさわしいと思う中小企業の3条件
補助金の適正利用をチェックするよりも、補助金の投資対効果をモニタリングすることに注力すべきでは?
中小企業向けの補助金・助成金を検討されている皆様へ(リスクを覚悟しましょう)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2017年03月15日

補助金にふさわしいと思う中小企業の3条件

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地震計測器

 中小企業診断士という仕事柄か、補助金・助成金(以下、単に補助金とする)を受けたことがある中小企業を見学させていただく機会が増えた。もう何年も前のことだが、訪問企業の中にこんな中小企業があった。この中小企業は、地殻のひずみを測定する「ひずみ計」という機器を製造している。ひずみ計は微細な地殻変動をとらえ、地震を予知するのに使われる。精度が高いひずみ計になると、1億分の1~10億分の1ミリというひずみを測定することができる。

 一般的なひずみ計の原理はシンプルである。円筒状の金属にオイルを満たし、地中深くに埋める。地殻が変動すると、金属が押されることによってオイル面が上昇する。その上昇幅でひずみの大きさを測定するというわけである。ところが、この形態のひずみ計を設置するためには地下1,000mほどの穴を掘る必要があり、ボーリングだけで1億円以上かかる。また、オイル面の上昇幅しか測定しないため、円筒がどの方向から押されたのか解らないという問題もあった。

 そこでこの企業は、地下500mほどでも測定可能なひずみ計の開発を行った。また、地殻変動の方向を把握するために、円筒状の金属の中にオイルを入れるのではなく、小型のひずみ感知器を十字型に配置することとした。これで4方向の地殻変動を測定できるようになる。この企業は、新型のひずみ計の開発のために補助金を活用していた。

 東日本大震災以降、地震予知の研究は活発になっているのかと思いきや、全くの逆方向に動いているそうだ。気象庁は毎年、全国に設置されているひずみ計のリプレースのために概算要求を出しているのだが、財務省との予算折衝の過程で削られてしまうらしい。大学の地震研究の予算も同じように減少傾向にある。そのため、地震学科を廃止する大学が増えている。削られた予算はどこに向かっているのかというと、被災地の復興や原発の安全対策、津波防止などに振り向けられている。地震予知のような基礎研究には、予算がつきにくいのが現状である。

 補助金は資金調達の一手段である。ただし、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」でも書いたように、補助金は書類作成が非常に大変であり、使途も厳しく限定される。よって、金融機関から借り入れることができるなら、はっきり言ってそれに越したことはない。借入が難しいということは、金融機関からその企業はリスクが高すぎると判断されたことを意味する。そういう企業に対して、補助金という公的資金を投入するのは、公的資金を投じてでもその企業を存続させたいそれなりの理由があるからである。

 それなりの理由とは、私なりに考えると3つある。第一に、事業化のハードルは高いが、事業化に成功すれば一定の市場規模が確保できるような、イノベーティブなアイデアを持っていることである。別の表現をすると、現時点では潜在顧客が対価を支払うほど市場が成熟していないものの、製品・サービスのよさが認められれば、市場が一気に開ける可能性がある、ということだ。要するに、製品ライフサイクルの極めて初期段階にあるアイデアのことを指す。

 上記のひずみ計の例で言えば、今は地震研究に対する逆風で市場が冷えている。しかし、地震予知の必要性は多くの人が認めるところであり、政治的な風向きが変われば再び市場が広がるかもしれない。こういう事業はいわばイノベーションの卵であり、金融機関はリスクが高いと判断して融資に消極的になる。その代わりに、補助金がリスクマネーを提供する役割を担う。

 公的資金を投じてでも保護したい中小企業とは、優れた技術・ノウハウなどの蓄積がある企業であろう。これが補助金の要件の2つ目だ。企業が公器であるとすれば、企業が持つ技術などは社会的な資産である。せっかく価値ある資産を持っているのに、企業の倒産によってそれが消えてしまえば、社会にとっても大きな損失となる。したがって、補助金がそれを阻止する。

 前述のひずみ計製造の中小企業は、1億分の1~10億分の1ミリというひずみに反応する感知器を製造する技術や、地中深くで取得したデータを地上まで転送し解析する技術などを持っている。このような技術は、単に難易度が高いだけでなく、地殻変動の測定以外の分野にも応用できる可能性があると思う。だから、仮にこの企業が経営不振に陥ってその組織能力が失われるとしたら、非常にもったいないことであるに違いない。

 金融機関は、理由がどうであれ財務状況が悪化した企業にはなかなか融資しない。それをカバーするのも補助金の役割である。だが、慢性的に財務状況が悪い企業に補助金を投入するのは、単なる延命措置にすぎない。補助金が有効なのは、一時的な経営悪化によって一時的に資金繰りが苦しくなっている企業である。さらに言えば、経営悪化の原因を適切に把握していることが必要だ。業績不振の原因を外部環境のせいにせず、内部環境の面から自己分析している企業であれば、補助金を使って経営を立て直せるかもしれない。これが3つ目の要件となる。

 ご紹介した中小企業の経営者は、気象庁に予算がつかない影響で経営が苦しいとこぼしていた。ただ、財務諸表を見せてもらうと、実はかなりの内部留保がある。だから、本当は補助金に頼らなくてもやっていけた可能性がある。優れた技術・ノウハウの蓄積がありながら、一時的な経営不振で資金難に陥っており、イノベーティブなアイデアで巻き返しを図ろうとする別の中小企業に補助金を回した方が効果的だったかもしれない。

 中小企業向けの補助金については、審査ポイントが公募要領などで全て公開されている。いくつかの公募要領を見てみると、1つ目の要件であるイノベーティブなアイデアの有無に関しては、たいてい審査対象となっている。ところが、2つ目の要件である優れた技術・ノウハウなどの蓄積については、どこまで突っ込んだ審査が行われているのかやや不明である。

 補助金に限らず中小企業の経営者とお話をさせていただく中で私が感じるのは、中小企業は意外と自社の競合他社がどこなのか知らない、ということである。優れた技術・ノウハウとは、一言で言えば強みである。だが、企業経営における強みとは、競合他社との比較で相対的に判定される。「我が社はこれが強い」といくら声高に言っても、自社が勝手にそう評価しているだけでは意味がない。補助金の審査においては、申込企業が競合他社を特定できているか?競合他社と自社の組織能力を定量的/定性的に比較できているか?その上で、自社の強みを明確にしているか?といった点を見るべきだと思うが、果たして十分に審査されているだろうか?

 3つ目の要件、すなわち、一時的な経営不振で一時的に資金繰りが逼迫しているが、経営不振の原因を適切に自己分析できているという点については、私が知る限り審査の対象になっていない。むしろ、以前の記事「とある中小企業向け補助金の書面審査員をやってみて感じた3つのこと(国に対して)」で書いたように、資金繰りが安定していることの方が高く評価される。

 もちろん、慢性的に資金難の企業は、補助金を受け取ってもその後の事業が続かないリスクがあるため、資金繰りを重視したくなる理由も解る。しかし、資金繰りが安定しているのであれば、何も面倒な補助金に頼らず、金融機関から借入をすればよい。私は、慢性的に資金難の企業に補助金を与えよと言いたいわけではない。繰り返しになるが、それでは中小企業の延命策になってしまう。あくまでも、一時的に資金難に陥っている企業を対象にした方がよいと考える。

 かつ、経営不振の原因を他責的ではなく自責的に分析できていることが望ましい。他責的な企業は、同じような環境変化が起きると再び経営不振に陥る。こういう企業に補助金を与えると、経営が苦しくなったら補助金に頼ればよいという依存症に陥る。そうではなく、経営不振の原因を自責的にとらえ、前向きに組織学習できている企業の方が、補助金にふさわしい。「今回だけは補助金を利用するが、今後は経営不振の教訓を生かして、補助金に頼らず安定的・持続的な経営を目指す」という企業こそ、補助金を最も有効に活用してくれるだろう。

2017年03月13日

補助金の適正利用をチェックするよりも、補助金の投資対効果をモニタリングすることに注力すべきでは?

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積み上げられた書類

 中小企業診断士として独立してから、経済産業省や中小企業庁の補助金を受けている中小企業を支援させていただく機会が増えた。経済産業省関連の補助金の多くは事後精算であり、中小企業が購入した物品に関連する伝票類などの書類を揃えて事務局(たいていは、公的機関が経済産業省などから補助金事業の業務遂行を受託している)に提出することとなる。だが、事務局の要求はとにかく厳しい。例えば、機械装置を購入した場合には、

 -見積仕様書
 -見積書
 -注文書
 -注文請書(注文書と注文請書の代わりに契約書でもよい)
 -納品書
 -請求書
 -金融機関への振込依頼
 -会社の預金通帳のコピー

を用意しなければならない。これらの証憑類を、原材料や機械装置などを購入するたびに、また外注先や大学・公的研究機関などの委託先を使うたびに用意する必要がある。これに加えて、現物の写真や、委託先から納品された報告書なども提出を求められる。

 見積依頼書とは、「こういう仕様の製品を貴社に発注したいので、見積書を作成してください」とメーカーなどにお願いをする書類のことである。しかし、中小企業の商習慣上、見積依頼書を作成することはほとんどない。そのため、見積依頼書が抜けてしまうことが多いのだが、それでも事務局は許してくれず、事後的にでも作成してほしいと言われる。そこまで言うのだから、しっかりした書類でなければいけないのかと思いきや、「『見積書をください』というメールのコピーに責任者の印鑑を押したものでよい」と言うのだから、何とも形式的だという印象がぬぐえない。

 納品書も、単にメーカーから送られる納品書を保管するだけでは不十分とされる。余白に「検収済み」と書いて、検収した担当者の印鑑と検収日を添えなければならない。それが抜けていると、事務局から書類を突き返される。メーカーの中には、独自の検収書を用意してくれる親切なところがある。検収書は中小企業が必要事項を記入してメーカーに返却するため、中小企業の手元に残らない。ところが、そういう場合でも、事務局は「メーカーに返した検収書のコピーをメーカーから取り寄せよ」と注文をつけてくる。

 金融機関への振込依頼と会社の預金通帳のコピーを両方用意しなければならないのも厄介だ。なぜこの2つが必要なのかというと、前者は「金融機関に対して『○○社に△△円の振込をお願いします』と依頼した証拠」になり、後者は「その依頼に基づいて、実際に口座から△△円を引き落とし○○社に振り込んだことの証拠」になるのだという。確かにお金を支払ったという証拠なら通帳のコピーで足りると思うのだが、通帳の摘要欄には支払先の名前が印刷されないことがあるため、金融機関への振込依頼で確認する必要がある、というのが事務局の言い分である。

 補助金の財源は国民の税金であるから、そのお金が不正に使われていないかどうかをチェックしたいというのが事務局の思惑なのだろう。個人的には、確かに物品を買ってお金を支払ったことを証明するためであれば、せいぜい見積書、注文書、請求書、通帳のコピーと現物の写真があれば十分であるような気もする。ところが、事務局はそれ以外の書類をあれもこれも提出するよう要求してくる上に、書類に1か所でも不備があると受理してくれない。

 例えば、見積書の有効期限内に注文書を発行していないと、見積書を再度メーカーから取得するように指導が入る。商習慣上は、見積書の有効期限が切れていても大して問題にならないが、事務局は許してくれない。納品書に「検収済み」と書かれていないだけでも、書類の修正を強いられる。「検収済み」と書かれているかどうかと、補助金が適正に使われているかどうかはあまり関係ないと思うのだが、事務局にそういう話は通用しない。複数の物品を購入した場合、消費税の計算がメーカー側と中小企業側で若干異なるために、請求書の金額と中小企業が実際に支払った金額が1円違うことがたまにある。この場合でも、1円の誤差を是正せよと言われる。

 中小企業向けの補助金は、儲かる見込みがある優れたアイデアがあるのに、資金不足が理由で尻込みしている企業を支援して、補助金を上回る税収をリターンとして獲得するのが目的であろう。それならば国は、(1)補助金を交付しようとしている事業は収益化の見込みがあるか?という点と、(2)補助金支払い後に実際に事業が軌道に乗ったか?という点を厳しく見るべきではないかと思う。ところが、(1)(2)のチェックに割かれている工数は、補助金の事務局員が書類のチェックに費やしている工数よりもはるかに少ないと推測される。

 補助金を希望する企業は、補助金を使ってどういう新規事業をしたいのかという事業計画書を提出する。中小企業向けの補助金は、だいたい数百万円~1,000万円程度であることが多い。中小企業は、補助金によって数千万円~億単位の売上増を狙い、その実現シナリオを事業計画書の中に落とし込んで応募してくる。これを国側から見ると、数多くある1,000万円前後の投資案件の中から、有望なものを選択することに等しい。よって、国は中小企業に対して綿密な事業計画書を要求し、それを入念に審査しなければならないはずだ。

 ところが、補助金の審査に関与した知り合いの中小企業診断士によると、1件あたりの審査時間はわずか20分~30分であるという。国からの委託報酬を考えれば、1件1件をじっくり見ている時間はないらしい。しかも、近年は経産省の方針で、補助金に応募するハードルを下げるために、事業計画書のフォーマットが簡素化され、2~3枚で済むようになっている。もちろん、事業計画書の枚数が多ければよいというわけではないのだが、審査の効率化ばかりに気を取られ、事業の収益性を適正に評価するという肝心の目的がおざなりになっている気がしてならない。

 補助金事業が終了した後のフォローも不十分である。経産省関連の補助金では、補助金事業終了後3~5年間は、毎年事業の収支実績を国に報告する義務がある。ところが、肝心の事務局は補助金事業が終了すると解散してしまい、収支報告書を中小企業から回収する部隊はいないという。さすがに国が定める義務だから、誰かはトレースを行っているのだろうが、補助金事業中の事務局の手厚い(?)対応に比べると、比較にならないほど軽い扱いである。

 前述の通り、補助金は将来的に税金という形でリターンを得ることが目的である。よって、単に収支実績を報告させるだけでなく、補助金事業終了後も中小企業に密着して、事業が軌道に乗るようにアドバイスを送り、収益化の道筋を立てるぐらいのことはやってもいいのではないかと思う。事務局が補助金の期間中だけ書類チェックのために相当の人員を抱えるよりも、いっそのこと書類チェックは簡素化し、補助金終了後のフォローアップを手厚くしてはどうだろうか?そういう経営支援の分野にこそ、中小企業診断士の活躍の場があるように思える。


 《補記1》
 ここからは余談。補助金と言うと返済不要であるかのように思われがちだが、経産省関連の補助金の多くは「収益納付」の義務を定めている。これは、補助金を受けて行った事業がその後収益を上げた場合には、補助金支払い額を限度として、利益の一部を国に返還しなければならない、というものである。法的には、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に根拠がある(第7条2項)(簡易なケースについては、以前の記事「【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある」を参照)。

 ところが、現実問題として、この収益納付が行われるケースは非常に少ないようである。過去に補助金事務局員を経験されたことがある方から聞いた話によると、その補助金事業で収益納付が行われたのは、全体の約0.5%だったという。新規事業の成功率が0.5%ということはいくら何でも考えにくい。収益が上がっているのに、収益納付を行っていない企業が相当数あると考えられる。収益納付の詰めが甘いのも、補助金事業終了後に事務局が解散してしまい、各企業の収益を継続的にウォッチする人がいないためであろう。

 《補記2》
 こういう話を周りの診断士にすると非常に驚かれる。ある診断士は、「大企業向けの億単位の補助金であれば厳しくする理由も理解できる。だが、中小企業向けの数百万円~1,000万円程度の補助金でそこまでするのはやりすぎだ。経済産業省は、大企業向けの補助金と同じ運用レベルを中小企業向けの補助金にも適用しているのではないか?」と分析していた。一方で、別の診断士は、東京都中小企業振興公社の補助金は、私が書いた話以上に厳しいと教えてくれた。どうやら、振興公社の補助金には収益納付の規定がないらしい。誤解を恐れずに言えば、「あげっぱなし」のお金になるため、あげるための要件を厳しくしているのかもしれない。

 「あげっぱなし」という点に関連してもう1つ書くと、補助金の中には「前払いであげっぱなし」というものもあるそうだ(冒頭で書いたように、一般的な補助金は事後精算である)。つまり、最初に一定の額を支払ってしまい、仮にお金が余っても返却を求めないのだという。何というズブズブな補助金なのだろう。補助金は奥が深いと言うべきか、闇が深いと言うべきか・・・。

2016年11月02日

中小企業向けの補助金・助成金を検討されている皆様へ(リスクを覚悟しましょう)

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お金

 安倍政権になってから補正予算などによって中小企業向けの補助金・助成金(以下、単に補助金とする)が増加しており、これらの制度の利用を検討している企業も多いと思う。個人的には、補助金はリスクマネーであると考えている。すなわち、優れたアイデア・技術を持ちながら、外部環境の急激な変化によって一時的に経営難に陥り、金融機関の通常の審査では融資を受けることが難しい企業に対して、資金を供給するのが補助金である。言い換えれば、市場の失敗をカバーする役割を持つ。苦境に陥っている中小企業の救済が目的であるから、本来的には迅速に補助金を支払い、中小企業の創意工夫によって補助金を自由に使わせるのが筋である。

 ところが、実際にはそのようになっておらず、補助金がかえって経営の足かせになる場合があるので、注意が必要だ。まず、補助金は交付を受けるまでに時間がかかる(「交付を受ける」とは補助金がもらえることではない。多くの補助金は、使用した経費の事後精算であり、「交付を受ける」とは、事後精算時に最大いくらまで補助金をもらうことができるのか、その権利を付与されたものととらえるべきである)。金融機関から融資を受ける場合には、事業計画を提示してから通常は1~2か月で資金が振り込まれる。だが、補助金の場合はそうはいかない。

 例えば、近年の補助金の目玉の1つである「ものづくり補助金」を例にとると、2~3月に公募が始まり、5月に締切となる。その後審査が行われ、6月末ぐらいに採択結果が公表される。採択されたからと言ってすぐに事業を開始することはできない。公募の次に交付申請というもう一段階別の審査を受ける必要があり、最終的に交付決定が下りるのは7月末ぐらいになる。交付決定を受けると、ようやく事業を開始することができる。そうすると、2月に事業計画を作成しても、7月末までの約5か月間、事業計画が塩漬け状態になることを意味する。早く事業を開始して経営難から脱したい企業としては、これは非常にリスキーである。

 補助金は事後精算であると書いたが、補助金をもらうためには、購入物に関連する各種伝票類を漏れなく揃える必要がある。その事務処理が非常に大変である。この点については、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」でも書いた。通常の取引であれば、見積書や注文書を何度かやり取りしているうちに、見積書の日付が注文書の日付より新しくなることがある。税務署はこの点を全く問題視しないのだが、補助金ではNGとなる。見積書の日付は注文書の日付より古い日付でなければならず、もしそうなっていなければ見積書を取り直すか、注文書を再作成する必要がある。

 日付の矛盾だけでなく、金額の矛盾にもうるさい。細かい原材料を何種類も一度に購入した場合などに起こるのだが、消費税の計算がメーカーと中小企業によって若干異なる場合がある。請求書の金額と実際に支払った金額が1円違っていたりする。これも、税務署ならば全く気にしないが、補助金ではその1円の違いを説明させられる。「消費税計算の四捨五入の考え方の違いで1円異なっており、メーカーもその差異について了承している」という文書を作成しなければならない。あまりに事務処理が大変なので、「事務処理用に社員をもう1人雇わなければならない」と悲鳴を上げる中小企業もあるくらいだ。事務処理のために、本来業務が圧迫されるリスクがある。

 金融機関からの融資の場合、申請した資金使途に反していなければ、借りたお金を自由に使うことができる。これに対して、補助金の場合は資金使途などに関して細かいルールがたくさん定められている。そのルールを無理やり中小企業に適用すると、組織がおかしくなる危険性がある。ものづくり補助金に関しては、以下のような話を聞いたことがある。

 ものづくり補助金では、外注加工費を補助対象経費総額の2分の1以下にしなければならないというルールがある。ある中小企業は外注先を使って新しいソフトウェアを開発しようとしたが、普通に計算すると外注加工費が経費総額の2分の1を超えてしまう。そこで、一時的に外注先からその企業に社員を出向させたという形にして、直接人件費として処理した。また、別のある企業はソフトウェアの内製を検討していた。平成27年度補正予算のものづくり補助金からは直接人件費が補助対象経費から外れたため、このままでは補助金が受けられない。そこで、社員を辞めさせて個人事業主にし、その社員に発注することで、補助金のスキームに乗せたという。こういうケースで最も不幸なのは、企業側の都合で出向させられたり、退職させられたりした社員である。

 安倍政権になってから、日本の開業率をアメリカ・イギリス並みの10%に引き上げるという目標が掲げられており、創業支援にも力が入っている。創業希望者を支援する企業・団体向けの「創業支援事業者補助金」という制度がある。補助金を受けた支援事業者は、創業希望者に対して窓口相談業務を提供したり、創業・経営に必要な知識を学ぶセミナーを開催したりする。

 この補助金では、支援事業者の直接人件費も補助対象になっているのだが、要件として、「新たに採用した社員の人件費」を補助対象とすると定められている。創業支援事業者補助金は、地方自治体が定めた3~5年の「創業支援事業計画」と連動した補助金であり、毎年公募が行われる。すると、継続的に補助金を受けたいと考える支援事業者は、毎年新たな社員を採用しなければならない。おそらく、創業は雇用を生み出すものだから、支援事業者も同じように雇用を生み出すべきだという考え方が背景にあるのだろう。しかし、この事業のために毎年新たに社員を採用するのも大変である。そこで、ある団体では、1年だけ社員と雇用契約を結び、翌年は別の社員とまた1年だけ雇用契約を結ぶ、ということを繰り返していると聞く。

 私は以前、公益財団法人東京しごと財団が実施する「高齢者職域拡大モデル事業」という補助金の申請支援をしたことがある。これは、高齢者を活用した新たなビジネスモデルに対して補助金が出るというものである。私が支援させていただいたのは、主に高齢者向けの健康関連製品を販売する企業であった。高齢者のニーズをよく解っているのは高齢者自身であるから、高齢者を販売員とする新しい販売モデルを構想した。具体的には、販路開拓のために、地方にある代理店に向けて新たな教育プログラムを整備することとした。ところが、補助金の要件が「都内で雇用すること」となっている。そこで、地方の代理店で販売員を採用し、補助金を受ける間は東京の本社に出向させ、教育が完了したら元の代理店に帰任するというモデルを描いた。

 しかし、入社後いきなり出向させられることを条件に入社を決める社員などいないし(ましてそれが高齢者となればなおさら難しい)、本社側も出向者受け入れ期間中の家賃などを負担しきれないということで、結局は申請を見送った。企業側の担当者は当初、「この補助金が自社にぴったりだ」と熱が入っていたのだが、かなり無理をして補助金のスキームに当てはめようとしていたため、申請を断念してよかったと私は思っている。

 以上のような話があるため、現行の補助金制度は、リスクマネーの迅速な供給という本来の役割を果たしていないと感じる。補助金に頼ると、事業がなかなか開始できない⇒事務処理に時間がかかり本業に集中できない⇒業績が回復しない⇒再び補助金に頼るという、魔のループに陥る恐れがある。だから、私が中小企業を支援させていただく際には、私の方から積極的に補助金を勧めることはない。やはり王道は、金融機関から融資を受けることである。一時的な経営難により通常の審査では融資を受けることが難しいのであれば、金融機関の心証をひっくり返せるような納得性の高い事業計画を練り上げることに時間をかける。補助金の事務処理やルール遵守(ルールのすり抜け?)に振り回されるより、そちらに頭と時間を使うべきだと思う。

 《余談》
 以前の記事「「開業率アップ」を掲げながら創業補助金には及び腰になった中小企業庁」で、補助金の適正規模について触れ、直観的に「1%」という数字を使った。創業補助金であれば、毎年の創業者数の1%、ものづくり補助金であれば、その年に新製品開発をする中小製造業の1%といった具合だ。この「1%」にもっともらしい説明をつけるとすれば、次のようになる。

 前述の通り、補助金の本来の役割は市場の失敗をカバーすることである。個人の世界において、市場の失敗をカバーする役割を持つのは生活保護である。生活保護の受給率は約1.7%である。ただし、生活保護の場合は、本来生活保護を受ける資格があるにもかかわらず、何らかの事情で生活保護を受けていない人がいる。日本の場合は特にその数が多いと言われる。そこで、本来生活保護を受ける資格がある人のうち、実際に生活保護を受けている人の割合のことを捕捉率と呼ぶ。日本の場合、捕捉率は15.3~18%である。この数字を基に、生活保護を受ける資格がある人の割合を計算すると、約26~31%となる。

 生活保護の場合は、憲法25条で生存権が保障されており、生まれたからには生きる権利があるから、保護対象が広くなるのは当然である。一方、企業の場合は、ゴーイングコンサーンという言葉はあるものの、企業が永続的に存続する権利はない。仮に市場が失敗したとしても、市場から退出しなければならないケースもある(その代わり、やり直しがきく)。そこで、本当にカバーすべき市場の失敗を、生活保護よりも相当辛く見積もって1%としたわけである。

 中小企業向けの補助金を生活保護と同列で論ずることには異論もあるに違いない。だが、生活保護を受けている人は、そのことを堂々と宣言せず、どこか後ろめたさを感じているのと同様に、補助金を受けている中小企業も、同じような後ろめたさを感じている部分があるのではないかと思う。ある企業は、補助金を使って開発した製品のパンフレットに、経済産業省の補助金を受けたことを記載することで、経済産業省の”お墨つき”をもらったとアピールしたがっていた。しかし、「経済産業省 ○○補助”金”事業」と書くのは嫌だという。そこで、「経済産業省 ○○補助事業」と書くことにした、という話を聞いたことがある。


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