2015年02月04日
「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)(平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新事業」)(3)
平成29年度補正予算「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業補助金」の申請書の書き方に関する記事を公開しました。ご参考までに。
ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)|(2)
平成27年度補正予算「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の申請書の書き方に関する記事を公開しました。ご参考までに。《本シリーズを書くにあたって参考にした書籍》
「平成27年度補正ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金)」申請書の書き方(細かい注意点)
実際の設計 改訂新版-機械設計の考え方と方法- (実際の設計選書) 畑村 洋太郎 実際の設計研究会 日刊工業新聞社 2014-12-26 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
《これまでの記事》
「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)(平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新事業」)(1)|(2)
《申請書作成のステップ》
1.環境分析を通じたターゲット顧客・製品コンセプトの設定
2.競合他社との差別化要因の明確化
3.新製品の潜在的な市場規模、目標とする市場シェア・売上高・価格
4.顧客価値から要求機能への展開
5.要求機能から機構・構造への展開
6.機構・構造を実現するための技術的課題とその解決方法
7.製品開発プロジェクトのタスク、スケジュール、体制
8.製品開発プロジェクト後、事業化に向けた想定タスクとスケジュール
以下、前回の記事で整理した申請書作成の各ステップを解説する。
1.環境分析を通じたターゲット顧客・製品コンセプトの設定
まずは、新製品がターゲットとする顧客層と、ターゲット顧客に提供する製品のコンセプトを導くために、自社を取り巻く経営環境を概観する。経営環境を分析するフレームワークには、「3C分析」、「ファイブ・フォーシズ・モデル」、「SWOT分析」など様々なものがある。
ただ、最近はミクロな市場だけでなく、政治や法律、労働市場や資金調達市場、技術などの動向も新製品開発に影響を与えることが多いため、3C分析やファイブ・フォーシズ・モデルではやや片手落ちになる。また、SWOT分析は以前の記事「「神奈川県中小企業診断協会」の理論政策更新研修に行ってきた(テーマは「ものづくり」)(1/2)」で述べたように、機会と脅威、強みと弱みの切り分けが恣意的になりやすく、必ずしも客観的な分析に適しているとは言いがたい。
そこで、私は「PEST分析」を推奨したい。PEST分析は、政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)という4つの視点から、自社の外部環境を分析する。以下に産業エレクトロニクス業界のPEST分析の例を掲載する。
<図3:PEST分析の例(産業エレクトロニクス)>
(※ジェイ・フェニックス・リサーチ株式会社「事業環境激動時代の中期経営計画の基軸づくりの薦め」〔2013年1月16日〕より)
ここで重要なのは、PEST分析の4つのボックスを書いただけで満足しないことだ(PEST分析に限らず、フレームワークを埋めただけというケースは非常によく見られる)。PEST分析の目的は、ターゲット顧客と製品コンセプトを定めることであった。よって、政治、経済、社会、技術の動向を踏まえた上で、「誰に」、「何を」提供するのかを決めなければならない。上記の例で言えば、例えば「海外(新興国)に進出している日本のインフラ企業をターゲットに、インターネットを活用して稼働・故障情報をリアルタイムに把握できる産業機械を提供する」などとなる。
なお、PEST分析では、E(Economics)がマクロ経済を、S(Society)がミクロ経済や自社の事業領域を分析の対象とする、という棲み分けがされているのだが、マクロ経済の動向を調べても、中小企業にとってはほとんど意味がないかもしれない(せいぜい、円高による輸入資材の高騰ぐらいではないだろうか?)。それよりも、S(Society)について、自社が属する業界の構造や市場ニーズ、競合他社の動向などを丹念に分析した方が有益である。よって、個人的には、E(Economics)とS(Society)を統合して、PST分析などとしてもよいと思う。
2.競合他社との差別化要因の明確化
1で「誰に」、「何を」までは決まったが、これだけではまだ戦略コンセプトとして十分ではない。もう1つ明らかにしなければならないのは、「どうやって」という差別化要因である。この3つが揃って初めて戦略コンセプトと呼ぶことができる。
自社と競合他社の製品がどの点で違うかを可視化する最も簡単な方法は、「ポジショニング・マップ」である。その例としてよく使われるのがビールであり、「キレ⇔コク」、「苦味⇔さわやか」という2軸でマトリクスを作って、製品をマッピングする。ただ、顧客はたった2つの要因で購入を決めているわけではないから、個人的にはポジショニング・マップにやや疑問を感じている。実際、ポジショニング・マップを作ると、同じ象限に多くの企業が重なってしまうことがほとんどである。ポジショニング・マップだけで他社と決定的な違いを打ち出せる企業は、むしろ例外だろう。
先日、日本政策金融公庫で創業者向けの融資を担当している中小企業診断士の方と話をする機会があったのだが、「中小企業の場合は、1つの決定的な差別化要因ではなく、小さな差別化要因の積み重ねで差別化すべきだ」とおっしゃっていた。私もこの意見に賛成である。ポジショニング・マップよりもたくさんの差別化要因を挙げる方法としては、素朴なやり方だが、縦軸にQ(品質)、C(コスト)、D(納期)を、横軸に自社と競合他社の製品を並べ、自社と競合他社の製品がQCDの観点でどのように異なるのかを表にまとめる、という手が考えられる。
もっとビジュアルで表現したいという場合には、「戦略キャンバス」を使うとよいだろう。もともとは「ブルーオーシャン戦略」、すなわち、競合他社が全くいない未知の市場を開拓するためのツールとして考案されたものだ。とはいえ、競争が激しいレッドオーシャンにおいて、自社と競合他社の製品を複数の視点から比較するという目的でも使うことができると思う。競合他社よりずば抜けて優れた点がなくても、競合他社より少し優れている部分がたくさんあれば十分である。
<図4:戦略キャンバスの例(理髪店とQBハウス)>
(※「N's spirit ブルーオーシャン戦略とは 戦略キャンバス」より)
【POINT】審査項目の【事業化面】②事業化に向けて、市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。③補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、かつ、事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か。とも関連。(続く)