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フレデリック・ラルー『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』―ティール組織をめぐる5つの論点(2)
【フェアコンサルティング】~GST導入直前~インド税務・会計・法務の最新動向と進出のポイント(セミナーメモ書き)
タイの労働法制について(タイビジネスセミナーメモ書き)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年09月22日

フレデリック・ラルー『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』―ティール組織をめぐる5つの論点(2)


ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 嘉村賢州

英治出版 2018-01-24

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 (前回の続き)

 ③ティール組織の場合、伝統的な正社員という概念が崩れる。1日何時間、1週間に何日働き、どこで仕事をするかについて、メンバー間のコミュニケーションを通じて決定する。私はそれはそれでよいと思う。実際、オランダではそのような働き方が認められており、法律にも労働者の権利として明記されている。問題は、ティール組織ではフリーランスを活用する局面が増えるだろうとされている部分である。チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー『隠れた人材価値』で紹介されている企業が正社員比率を高めているのとは正反対の現象である。

 確かに、経営課題の解決に必要な人材を、ジャスト・イン・タイム方式のように調達できれば、非常に効率的な経営が実現されるかもしれない。だが、企業にとって効率的であるということは、フリーランスにとっては企業に搾取されることを意味する。私も長くフリーランスをやっているので、これは身に染みて解る。もちろん、中には顧客企業との交渉に長けていて、会社員時代よりも高い年収を獲得している人もいる(私も、もう少し営業が上手だったらよかったのにと思ったことが何度もある)。しかし、大半のフリーランスは非常に年収が低いことが中小企業庁の『小規模企業白書』でも明らかにされている。実際、ランサーズなどを覗いてみるとよい。「こんな報酬で生活できるか」と怒りたくなるような案件がごろごろ転がっている。

 日本に限った話になるが、フリーランス(個人事業主)は国民健康保険と国民年金に加入する。国民年金の毎月の保険料はそれほど高くないものの、その反面、老後の年金額は非常に少ない。国民健康保険に関しては、今まで健康保険料が会社と個人で折半されていたものが全額個人負担になるため、保険料が非常に高くなる。しかも、国民健康保険は年金暮らしの高齢者や無職の人の割合が高く、さらに医療費もかさむことから、余計に高い保険料が課される。一方で、雇用保険が存在しない。そのため、万が一病気で仕事ができなくなっても、傷病手当金が給付されない。育児休業給付金も介護休業給付もない。個人事業主が廃業しても、失業手当はもらえない。このように、フリーランスを取り巻くセーフティーネットは非常に脆弱である。

 仮に、このようなセーフティーネットの問題が解消されたとしても、フリーランス頼みの経済や経営は非常に危険であると考える。まず、フリーランスは所詮個人であるから、大きな仕事ができない。現在、政府は働き方改革の一環としてフリーランスを増やそうとしているが、フリーランス中心の経済は、ちまちまとした仕事が集合したつまらないものになるだろう。

 たとえ企業がフリーランスをかき集めて大規模な仕事をするとしても、よほど契約をしっかり結んでおかない限り、プロジェクトの終了とともにフリーランスのノウハウは雲散霧消し、企業に蓄積されない。正社員中心の企業であれば、社員のノウハウは企業に属することになっているから、ノウハウがちゃんと残る。そのノウハウを活かして別の社員が仕事をし、ノウハウを膨らませる。さらに別の社員がそのノウハウを活用して仕事をし、ノウハウを発展させる。この繰り返しによって、強力なコア・コンピタンスが形成される。これが正社員中心企業の決定的な強みであり、社会的に意義のある大規模な仕事をやり遂げる競争力の源泉となる。

 私は、人間が1人では決して携わることができなかったような大型の仕事に加わるチャンスを与えられるという点でも、社員に対して十分な社会保障を与えられるという点でも、現代の会社という形態が最強だと思っている。つまり、会社は資本主義的にも社会主義的にも優れているのである。個人的には、フリーランス社会を歓迎することはできない。

 ④ティール組織は達成型組織と違って、定量的な目標を追っていないと書いた。だが、本書で紹介されているティール組織は皆、通常の組織よりも高い業績と成長率を達成しているという。私は、何だかんだ言っても、ティール組織は成長の幻想を未だに追いかけているのだと思う。以前、「上原春男『成長するものだけが生き残る』―日本企業は適度に多角化した方がよい」などと呑気な記事を書いてしまったが、現代の成熟社会においては、成長に代わる新しい発想が必要とされている。アメリカは日本と違って人口が増加しているからまだ成長が見込めると思われるかもしれない。だが、そのアメリカでも、GDP成長率は2018年で2.93%(予測)にとどまる(ちなみに、日本は1.21%)。成熟社会に適した新しい経営のあり方が必要である。

 経済が順調に成長を続けている時代においては、毎年新入社員を採用し、その数も年々増加させることができた。しかし、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で書いたように、採用した社員から、転職した人や業績不振の人を除いた大半の社員を順調に上のポストに昇進させるには、業績を猛スピードで伸ばす必要があり、どうしても限界がある。企業の規模が大きくなればなるほど、その難易度は上がる。これまでは子会社を作ったり、関連会社に出向させたりして何とか雇用を維持できたものの、最近はその手も使えなくなっている。

 近年、成長という言葉に代わって持続可能な経営という言葉が使われるようになっている。この言葉には2つの意味があって、1つは自然環境に配慮し、自然と共存できる経営を目指すという意味である。もう1つは、これまでの高い成長を諦め、低成長で満足するという意味である。しかし、後者の場合、低成長を続けた結果、ある日突然人員過剰に耐えきれなくなり、大規模なリストラを行うという爆弾が隠されている。私は、そんな爆弾の爆発を将来に先延ばしにするくらいなら、いっそ最初から企業規模の縮小も視野に入れ、経済の成熟度合いに合わせた経営を行うことを社員に対して宣言しておいた方が親切であると思う。

 現在の雇用を守るために、新卒採用を抑制する企業も少なくない。だが、若年層の失業率が高いと社会が深刻な不安に見舞われることはヨーロッパ諸国が証明済みである。新卒採用は続ける。しかし、雇うことができる社員数には限りがある。となれば、後は中高年社員に退出してもらうしかない。以前から主張しているように、私は年功序列は支持するものの、終身雇用は支持していない。だから、今後は解雇権の条件緩和を議論する必要があると考える。

 今までは、成長が見込める事業機会を発見し、その機会を獲得するために最適な組織や人員配置を検討するという手順を踏んでいた。しかしこれは、その事業機会に手を出せば、大部分の既存社員を昇進させ、さらに新卒採用もできるほどに高い成長が期待できることが前提であった。ところが、その前提が崩れて以降、企業は事業機会の期待成長率だけしか見なくなった。そして、数年後に人員過剰が判明すると、慌ててリストラに走るのであった。ひどいコンサルティング会社になると、将来的に人員過剰になることに薄々気づいていながら、さもその事業機会に手を出せば業績が上向くかのように見せかけてまずは事業機会のみを提案しておき、いざ社員が過剰になったら今度はリストラを提案して、同じ顧客企業で2度儲けるというビジネスをしていた。事業会社もコンサルティング会社も、従来のやり方を改める時期に来ている。

 戦略立案に先立って、仮に既存社員の大半を昇進させ、さらにマネジャーやリーダーの数に見合うだけの新卒採用を行った場合の人員構成と人件費総額を明らかにしておかなければならない。その次に、外部環境アプローチでも内部環境アプローチでもよいのだが、成熟社会においてもなお成長が見込める事業機会を必死に探す。その事業機会の候補の中から、できるだけリストラを最小限に抑えることができる事業機会を選択する。

 従前の戦略プロセスでは、事業機会を選択し、結果的に余剰となった社員に対しては、ある日突然「ハイ、サヨナラ」と告げていた。だが、これからの戦略プロセスはもっと温かみのあるものにしなければならない。誰が余剰人員になるのかを慎重に見極めなければならない。特に中高年社員について、本人のキャリア志向、本人と組織の価値観の重なり具合、これまでの経験や知識・能力、過去の人事考課の結果、周囲の社員に与えている影響、周囲の社員から支持されている度合い、モチベーションの高さ、今後のポテンシャル、キャリアの予定などに関して、1人ずつ丁寧に評価する。その評価を踏まえて、どうしても自社から溢れてしまうと判断した社員に対しては、早い段階、できれば退職(解雇)の2~3年前にその可能性を伝える。

 社員には、その2~3年の間に次のキャリアをどうするのか考えてもらう。企業側は、社員の次のステージに向けた準備をバックアップする。異業種へ転職するというのであれば新しい能力の開発や知識の習得を支援し、起業するというのであれば資金の融通や経営ノウハウの提供を行い、Uターン・Iターン転職するというのであれば転居資金の手当てや転居に関わる諸々の手続きのサポートをする。ここまでが、新しい戦略のカバーする範囲である。

 (ちなみに、私はこれから40代のミドル世代の起業が急増すると予測している。ミドルが興した企業は、最初の数十年は順調に成長し、社員数を伸ばすだろう。だが、やがて既存企業と同じように成長が頭打ちを迎える。その際、昇進のポスト数が限られてくる60代ぐらいのシニア社員が退職〔解雇〕の対象となる。一昔前であれば、もうここでリタイアとなるところだが、最近のシニアは元気であるし、また医療費の抑制という社会的な要請もあって、まだまだ働き続けることになる。だから、長い目で見ると、シニア世代の起業も増える。働ける人は80代ぐらいまで働く。この辺りについては、前掲の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で書いた)

 本当は、雇用保険がこうした支援をしてくれればよいのだが、ハローワークの職業能力開発は硬直的であるし、ハローワークが起業支援をするにしても、ハローワークに事業の可能性を評価できる能力があると思えない上、お役所仕事的に大量の書類を要求するだけだろう。だから、こうした取り組みは企業自身が行った方がよい。当然のことながら、これらの取り組みには相応のコストがかかるから、新しい戦略を事業計画に落とし込む際には、そのコストも考慮した予測損益計算書、予測貸借対照表を作成しておかなければならない。企業が単独で対応することが難しければ、産業全体で雇用保険とは別の基金を作ってもよいと思う。

 人口減少によって国内の需要が減るのであれば、国内の供給も減る。過去の日本経済の栄光にすがって、いつまでも成長を追いかける必要はない。これからは、需要と供給の減少に合わせて、企業をダウンサイズすることも選択肢の1つに入ってくるだろう。ここで、国内の需要が減るならば、新たな成長源を求めて海外に進出するべきだという意見も聞かれる。だが、日本企業が海外で売上を獲得するということは、その分現地企業の売上を奪うことに等しい。その国のGDPは増えても、GNPは減ってしまう可能性がある。これは、新しい経済植民主義になりはしないかと私は心配している。現在、安倍政権は中小企業の海外進出を強力にプッシュしているけれども、日本企業がこぞって海外に進出するまでもないと思う。

 幸い、需要が減ると言っても、代わりとなる新しい産業や市場は生まれているし、供給が急激に減りすぎて困窮している産業もある。企業は、余剰社員と簡単に縁を切るのではなく、彼らがそのような産業へとスムーズに移行できるように支援することまでがその責任範囲となるだろう。ただし、退職(解雇)の2~3年前にその可能性を告げられた社員のモチベーションをどうやって保つか、退職(解雇)の妥当性をめぐる法的問題にどのように対処するか、彼らのモチベーション低下が周囲の社員に悪影響を与えないようにするにはどんな策を講ずればよいか、退職する社員が起業という道を選択した場合、今までとは全く能力やマインドセットが要求されることになるが、その習得を具体的にどう後押しするのか、といった問題が想定される。

 ⑤存在目的に向かて経営を行うティール組織は、価値観重視の経営を行っていると言える。価値観重視の経営については、以前の記事「チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー『隠れた人材価値』―「価値観重視」の経営は重要だが、ちょっと油断すると簡単に崩壊する」でも書いた。だが、肝心の価値観の具体的な中身については深掘りをしてこなかった。旧ブログで「なぜリーダーにはリーダー固有の「価値観」が必要なのか?」などといった記事を書いてきたが、私の怠慢でそれ以来ほとんど進歩が見られていない課題である。

 経営陣は何に関する価値観を重視し、それを「組織に練り込」めばよいのか?まず考えられるのは、顧客や製品・サービスのレベルに関する価値観である。「顧客はこういうニーズを持っているはずだ」、「顧客はこういう暮らし(BtoC)、事業(BtoB)を実現したいと思っているはずだ」、「我が社の製品・サービスはこういう価値を実現しなければならない」などといった価値観である。こうした価値観は、経営陣が実際に顧客に会って個別のニーズを拾い上げ、それをアブダクティブ・アプローチ(仮説的推論)によって一般化することで導かれる。

 しかし、顧客や製品・サービスに関する価値観は、時代や社会の変化に伴って変質する可能性が極めて高い。先ほど紹介した旧ブログの記事では、書籍に対する日本人とアメリカ人の認識の違いを述べた東京電機大出版局長の意見を引用したが、これとて決して固定的なものではない。いつ日本人とアメリカ人の認識がひっくり返るか解らない。また、今まで多くの企業は「安さ」、「早さ」を重視してきたものの、近年は環境意識の高まりや自然災害・企業不祥事の増加を受けて、「自然との調和」、「安全性」を重視する方向へと舵を切る企業も多い。よって、顧客や製品・サービスに関する価値観は、経営のベースとするには柔らかすぎる。

 次に考えられるのは、企業の成長や変化に関する価値観である。「我が社はスピーディーな成長を追求している」、「我が社は常に変革に挑戦しなければならない」といったものである。GEはジャック・ウェルチ時代に「スピード、スピード、スピード」というスローガンを掲げていたことがある。ところが、市場の成長が鈍化すると、この価値観は途端に無効になる。そもそも、こうした価値観は、④で述べたような成長への幻想にとらわれたものであるから、危険をはらんでいる。GEはとうの昔にウェルチのスローガンを捨て去った。現在のGEは、ジョン・フラナリー体制の下で、社員の創造力を重視する人間中心の価値観に転換している。

 事業環境の不確実性が高まると、変革への挑戦という価値観も多く見られるようになる(実は、事業環境の不確実性が高まっているという認識は、既に1970年代の新聞に掲載されていたことを私は確認している。よって、変革への挑戦という価値観も、その当時から存在したと推測する)。だが、価値観重視の経営の目的は、社員が人間としての叡智を結集した結果、自ずと変化に適応できるような強い組織を作ることであり、最初から変革を目的とした組織を作ることではない。目的と結果を混同してはならない。変革への挑戦という価値観は、明らかに変革それ自体が目的と化するリスクを帯びている。もはや笑い話だが、富士通が1990年代後半に、変革する組織への脱皮を目指して成果主義を導入した際、目標管理シートに「今季の目標は、○○部門の組織名を△△へと変えることです」と書いた社員がいたそうだ。

 私は、価値観重視の経営が重視すべき価値観とは、結局のところ働く社員に関する価値観なのではないかと考える。言い換えれば、人間の存在とは何かに関わる価値観である。これは、時代が変化しても簡単には変わらない。「人間は何を得ると安心するのか?逆に、人間を苦しみに追い込む状況とは何か?」、「人間は何を動機として生きているのか?」、「人間は仕事を通じて何を実現したがっているのか?」、「人間はどのような家庭生活を望んでいるのか?」、「人間は総合的にどのような人生を歩みたいと思っているのか?」、「人間は他の人間とどのような関係を構築したいのか?」 ここまでは人間の本源的な欲求に関する問いである。

 同時に、人間の社会性に関する問いも発しなければならない。「人間は社会に受け入れられるためには、どのように振る舞うべきか?」、「人間はどうすれば社会との絆を強められるのか?」、「人間は社会や共同体に対してどのような貢献をすべきか?」、「人間が『人間』、つまり和辻哲郎の言うように人と人との間に生きる社会的動物となるためには、いかなる道徳、規範、倫理に従う必要があるのか?」、「それらの道徳、規範、倫理はどのような社会的背景、人々の合意の下に成立したものなのか?」などといった問いである。これら両面の問いに答えることで、人間の存在に対する理解を深め、人間の欲求とその人間の集合体である組織の規律を調和させながら、組織が目指す成果を上げるためのマネジメントの原理原則を導く。

 これらの問いに答えることは、言わば人間学を極めるということである。現在の日本の経営者で最も人間学を極めているのは稲盛和夫氏だと思うのだが、人間学の極みに達すると、その価値観は非常にシンプルになる。これは、ブログ別館の記事「稲盛和夫『生き方―人間として一番大切なこと』―当たり前の道徳を実践することの重要性」を見るとよく解る。だがここで注意が必要なのは、皆が同じような価値観に到達してしまうと、結局それは普遍的価値となり、せっかくのティール組織も、私が前回の記事で恐れていたような全体主義的な経営論になってしまうということである。それを避けるには、価値観の解釈を多義化することである。そして、多義化された価値観を複数組み合わせることで、多様性を確保することである。

 先ほど挙げたどの問いも、その答えは1つに収斂するとは限らない。前掲の記事「チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー『隠れた人材価値』―「価値観重視」の経営は重要だが、ちょっと油断すると簡単に崩壊する」でも書いたように、基本的によほどのことがない限り、価値観に善悪はなく、ある価値観とは正反対の価値観が成立することがある。例として、X理論とY理論がある。X理論は、人間は本質的に怠け者なので、飴と鞭を駆使して強制的に働かせなければならないという価値観に立脚している。一方、Y理論は、人間は本来的に成長を志向する存在であり、適切に動機づけをすれば自律的に創意工夫を凝らして仕事を遂行することができるという価値観に立つ。X理論の信奉者は随分減ってしまったものの、途上国で人材の能力がまだ十分に開発されていないような環境では、未だに有効であると言われる。

 ある価値観を思いついた時、それとは正反対の価値観が成立しないか検討することには大きな意義がある。仮に正反対の価値観が発見された時、当初思いついた価値観とどちらが優れているかを慎重に検討する。あらゆる経営者がこのような知的作業を行えば、価値観の選択肢が増え、その組み合わせのパターンも広がり、価値観重視の経営が多様化する。

 人間学を学ぶには、経営者が実際の人間に会い、彼らから学習することが第一の方法である。しかし、経営者個人が会うことのできる人間の範囲には限界がある。そこで、人間学を学ぶ格好の材料となるのが歴史である。歴史には、その時代を生きた人々がどのような価値観に基づいて人生を送ったのかが膨大に記録されている。その記録を読み解き、どういう価値観は上手く機能し、どういう価値観は失敗へと至るのかを自分で考え抜く。歴史は、リアルネットワークの限界を突破する。経営者に歴史好きが多いのは決して偶然ではない。ただ、最近は過去を振り返りもせず、歴史の価値を軽視し、自分がどれだけ儲かったを自慢する世俗的で刹那的な人生に埋没している経営者が増えているような気がしてならない。

2017年07月19日

【フェアコンサルティング】~GST導入直前~インド税務・会計・法務の最新動向と進出のポイント(セミナーメモ書き)


インド国旗

 主催者のご厚意で「株式会社フェアコンサルティング」の無料セミナーに参加させていただいた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 Ⅰ.インド会計・税務の最新動向
 ・インドでは7月1日から「GST(Goods and Service Tax)」と呼ばれる新しい税制が導入される。これにより、中央税のうち中央物品税、医療・トイレ整備にかかる物品税、特別重要品にかかる追加物品税、追加関税・相殺関税、特別追加関税、サービス税、物品・サービスに課されていた中央サーチャージおよび目的税、州税のうち州ごとの税、中央売上税、贅沢税、購入税、入境税、遊興税、広告・宝くじ・賭博・ギャンブルにかかる税、物品・サービスに課されていた州サーチャージおよび目的税など、多くの間接税が廃止される予定である。

 ・GSTとは、原材料の製造から最終消費者に届くまでの全ての段階において課される付加価値税である(消費税と基本的な仕組みは同じ)。州内の取引については、中央税であるGSTと州税であるGSTの双方が課され、それぞれ「CGST(Central GST)」、「SGST(State GST)」と呼ばれる。インド国内において州をまたぐ取引については、CGSTと対象州のSGSTが融合され、「IGST(Integrated GST)」と呼ばれる(IGSTはCGSTとSGSTの和にほぼ等しい)。

 ・簡単な仕訳の実例で見てみよう。
 ①A社は原材料をINR150,000で州外から購入した。
 ②A社は製品をINR150,000で州内で販売した。
 ③A社は製品をINR100,000で州外で販売した。
 ④A社はコンサルティングサービス料としてINR20,000を州内で支払った。
 ⑤A社は製品を生産するための資本財をINR50,000で州内で購入した。
 CGST=6%、SGST=6%、IGST=12%と仮定する。金額は全て税抜き。

 《ケース①》
借方 金額 貸方 金額
仕入
仮払IGST・・・①-1
150,000
18,000
買掛金 168,000
 《ケース②》
借方 金額 貸方 金額
売掛金 168,000 売上
仮受CGST・・・②-1
仮受SGST・・・②-2
150,000
9,000
9,000
 《ケース③》
借方 金額 貸方 金額
売掛金 112,000 売上
仮受IGST・・・③-1
100,000
12,000
 《ケース④》
借方 金額 貸方 金額
支払報酬
仮払CGST・・・④-1
仮払SGST・・・④-2
20,000
1,200
1,200
未払金 22,400
 《ケース⑤》
借方 金額 貸方 金額
備品
仮払CGST・・・⑤-1
仮払SGST・・・⑤-2
50,000
3,000
3,000
未払金 56,000

 ○CGSTの相殺後金額=仮受CGST-仮払CGST
 =「②-1」-(「④-1」+「⑤-1」)
 =9,000-(1,200+3,000)=4,800
 ○SGSTの相殺後金額=仮受SGST-仮払SGST
 =「②-2」-(「④-2」+「⑤-2」)
 =9,000-(1,200+3,000)=4,800
 ○IGSTの相殺後金額=仮受IGST-仮払IGST
 =「③-1」-「①-1」
 =12,000-18,000=▲6,000
 ○納税額=CGSTの相殺後金額+SGSTの相殺後金額+IGSTの相殺後金額
 =4,800+4,800-6,000=3,600

 ・GSTの導入によって、自動車産業には様々な影響が出る見込みである。
 (+)現在、ディーラーはVAT以外の全ての税について仕入税額控除が認められていない。また、製造業も、原材料の仕入れに際して支払う中央売上税、入境税など、他州にかかる税額については仕入税額控除が認められていない。これらのコストは製造原価に転嫁されてきた。だが、GSTは部品メーカーから最終消費者までの州をまたぐサプライチェーン全体で仕入税額控除を認めている。その結果、製品の費用低減効果が見込まれ、需要の増加が期待できる

 (+)現在の間接税制度の下では、自動車メーカーやディーラーの広告サービスやビジネスプロモーションなどビジネス諸経費に関して支払われる間接税については、仕入税額控除が認められていない。しかし、GSTにおいては、「ビジネス上またはビジネスの促進において利用される・利用する意図において」行われるものであれば、これらの費用にかかる税額は仕入税額控除が可能となる。これは、自動車メーカーやディーラにとって管理コスト減につながる。

 (+)通常、自動車産業のTier1、Tier2は、VAT控除のために自動車メーカーの近くに工場を設立している。しかし、GSTにおいては、IGSTとSGSTの仕入税額控除を求めるのに自動車メーカーに近い場所に工場を整備する必要がなくなる。これは、自動車部品メーカーの設備投資額を減らし、運転資金増加をもたらす効果がある。

 (-)GSTでは供給行為が課税対象であるため、本支店間で車両を移動すると課税対象となり、車両が移動された日がGSTの仕入基準日となる。ビジネス上は仕入税額控除を受けられるが、納税期限の差異により、車両移動日と販売日の間で資金繰りが悪化する恐れがある。

 (-)現在は、ディーラーが顧客から受領した前受金には課税されない。しかし、GSTにおいては前受金にもGSTが課税される。これは、ディーラーの資金繰りを悪化させる。

 (-)通常、車両販売時に無料サービス券が顧客に交付されるが、GSTではサービス券発行のタイミングでGSTの納税が求められる。将来的には、無料サービスに付帯する有料サービスの提供を通じてGSTを回収することが可能であるものの、ディーラーにとっては資金繰りを大幅に悪化させることになるゆゆしき事態である。

 (-)製造業者は年末セールなど特別な機会に、ディーラーに対して値引き販売をしている。一般的に、GSTにおいては値引きは供給として位置づけられ、この値引きが特定の請求書に基づく場合のおいてのみ、値引き額が取引額からの控除として認められる(※)。

 (※)GSTにおいては、物品・サービスの「評価額」が課税対象額となる。仮に、ある企業が100万INRの製品を正当な理由なく値下げして50万INRで販売すると、政府および州にとっては税収減となってしまう。したがって、この場合は100万INRに対して課税することとなる。取引評価額には、価格に含まれない助成金、無償部品の価値、供給条件としてのロイヤルティーとライセンス料、立替費用、コミッション、発送時の梱包などの雑費、SGST・CGST・IGST以外の税や値引き、供給後のインセンティブなどが含まれる。

 Ⅱ.インド進出企業が直面する法律上の問題点
 ・インドでは賄賂を要求されることが日常茶飯事である。コンプライアンス違反を指摘されると、違反を見逃してやる代わりに賄賂をよこせと要求される。また、インドは法制度が非常に複雑であるせいもあって、何をするにも非常に時間のかかる国である。例えば、輸出入のライセンスを取得するには、通常3か月ほどかかる。また、債権回収がしばしば刑事事件に発展することがあるが、インドは警察官のレベルが総じて低く、遅々として手続きが進まない。そこで、賄賂をくれれば手続きを早くしてやる(ファーストトラック)と担当者が要求してくることがある。

 手続きを早く進めたい企業は、一度だけならと賄賂を支払いたくなるが、一旦賄賂を支払うと、インドの仲間内で「あの企業は格好のターゲットだ」という情報が回り、方々から次々と賄賂を要求されるようになる。もっと深刻な問題は、アメリカのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act)など、域外適用がある汚職防止法に引っ掛かり、巨額の賠償金を支払わなければならなくなることである。最近の事例で言うと、丸紅がインドネシアで支払った賄賂がFCPAに抵触し、丸紅は2014年に約8,800万ドルの罰金を科されている。

 ・インドはまだ外資規制が残っている業種が多く、インドに参入する場合にはJV形式をとるのが普通である。この場合、合弁契約書の内容を附属定款に漏れなく反映させておくことが非常に重要である。インドの弁護士の中には、合弁契約書を附属定款に添付すれば十分であると言う人もいるが、やはり文言として附属定款に盛り込むべきである。これを怠ったがために、ある日本企業とインド企業のJVでは、パートナーであるインド企業が日本企業の了解を得ないまま勝手に株式を自社に発行し、日本企業の持ち株比率を下げてマジョリティからマイノリティにしてしまったという事例がある(合弁契約書上では、株式の発行に関する取り決めが明記されていたが、それが附属定款に反映されていなかったのが問題であった)。

 ・インドでは社員、特にワークマン(いわゆる工場労働者)を解雇するのが非常に難しい。「会社は自分をクビにできない」と言い張って全く仕事をしない社員もいるぐらいである。他の新興国であれば警告書を何度か出し、それでも勤務態度に改善が見られない場合は解雇できることもあるが、インドではこの手法が通用しない。

 こういう社員を辞めさせるためには、まずはどうにかして「自主退職(辞職)」に追い込むのが一番である。自主退職であれば、紛争による蒸し返しのリスクが少ない。労働者寄りと言われるインドの労働裁判所も、任意の退職まで違法とは言わない(ただし、社員が「強制的に退職させられた」と主張すると紛争になる)。とはいえ、任意で会社を辞めてもらうことになるため、退職金を上乗せするなど、通常よりもよい条件にする必要がある。次に考えられる手段が「普通解雇」である。これは会社都合による解雇であり、以下の条件を全て満たす場合に認められる。

 ①解雇の1か月以上前に予告通知するか、予告期間に相当する給与を支払うこと。
 ②勤続年数に15日分平均給与をかけた補償金を解雇時に支払うこと。
 ③政府に対して①の通知を送付すること。
 ④一番最後に雇用した者から解雇すること。
 ⑤退職金を支払うこと。
 ※大規模工場の場合は、予告期間が3か月かとなり、かつ政府の承認が必要。

 上記の手続を遵守すれば、労働裁判所は解雇を違法とすることはない。ただ、③を忘れがちであるため注意が必要である。インドの弁護士によると、③を守っているインド企業は30%ぐらいしかないそうだ。③が抜けていると、企業は裁判で100%負ける(なお、個人的な感想だが、④の条件があるので、辞めさせたい社員が一番最後に雇用された者でない場合は、解雇が難しくなるのではないかと感じた)。最後の手段が「懲戒解雇」である。懲戒解雇は、100人以上を雇用する工場に適用される産業雇用(就業規則)法に規定されている。しかし、判例はそれ以外の企業にも適用されるとしている。要件は下記の通りだが、「非行事実」の立証責任が企業側にあるため、企業側が勝つことは非常に難しいと言われている。

 【手続要件】
 ①非行事実の書面による通知
 ②聴聞の機会の付与
 ③社内調査とその結果の通知
 【実体要件】
 ①非違行為の事実
 ②処分の相当性(重大さ、過去の事例、その他軽減ないし加重要因を考慮)
 
 ・インドの裁判は判決確定までに4~5年かかるのが普通であった。しかし、ここ数年で歓迎すべき法制定・改正が相次いで実施された。
 ①商事裁判制度・・・係争額1,000万ルピーに限定されるものの、原則約1年半で終結する。ただし、仲裁合意がある場合には利用することができない。実務上は、損害賠償額を上乗せして1,000万ルピー以上にし、本制度を利用するという方法がある。
 ②インド仲裁法の改正・・・従来は仲裁期間に制限がなく、いくらでも仲裁を引き延ばすことが可能であった。これが、法改正により原則1年以内に終結することとなった。また、インド国外仲裁における暫定措置(保全処分)の利用も可能となった。
 ③インド倒産法の制定・・・10万ルピー以上のデフォルトにより申立が可能であり、原則180日以内に終結する。日本では実質的な破綻が要件となっているのに対し、インドではデフォルトで申立可能という点が異なる。よって、債務者に対して催告書を送り、○○日以内に返事がなければ裁判に持ち込むと脅しをかけることができる。なお、これまでのインドでは倒産手続きに非常に時間がかかっており、現時点で20年以上手続中である案件が1,600件ほどあると言う。

2015年07月08日

タイの労働法制について(タイビジネスセミナーメモ書き)


タイシルク

 (写真は「タイシルク」。タイシルクの最大の特徴はその独特の「光沢」にある。タイシルクの産地であるイサーン地方の蚕は、日本の蚕よりも太い糸を吐く。そのため、光の反射と屈折が通常の細いシルクとは違った複雑なものになり、独特の光沢が生まれるのだという)

 タイビジネスセミナーでタイの労働法制について話を聞いてきたので、その内容のメモ書き。講師は牛島総合法律事務所の稗田直己氏。牛島総合法律事務所は、タイにおける地元最大の法律事務所であるテレキ・アンド・ギビンズ法律事務所(Tilleke & Gibbins)と提携している。日本の労働基準法と労働契約法に相当するタイの法律は、「労働者保護法」と呼ばれる。以下、同法の話を中心に記載する。

 (1)賃金は、労働者の就業場所で、タイの通貨により、月1回以上、全額を支払うと定められている。なお、法律では現金払いを想定しているため、銀行振込の場合は雇用契約でその旨を定めなければならない。なお、現物支給については、現金給与に相当する価値があれば、従業員との合意の下で認められる。

 (2)賃金カットは労働条件の不利益変更にあたるため、従業員から個別の同意を得る必要がある(全従業員の3分の2以上が加入する労働組合がある場合は、労働組合の代表と合意すれば、同種の業務を行う従業員の賃金をカットできる)。

 ここで注意が必要なのが、賞与の扱いである。賞与は、毎年1回、1か月分以上を支払うことになっていると、賃金と見なされる。そのため、賞与をカットする場合には、従業員の同意が必要になる。日本のように、賞与の金額を業績と連動させたい場合は、就業規則に連動のルールを明確に定めた上で、その通りに運用しなければならない。

 (3)時間外・休日勤務をさせる場合は、その都度従業員の書面による事前承諾が必要である(中断により業務に損害が生じる場合や緊急の場合などを除く)。この規定があるため、タイでは残業拒否が賃上げ要求の材料として使われる。バンコク商工会議所の調べによると、2013年に起きた労使紛争の中で最も件数が多かったのが残業拒否である。

 日本とタイでは、残業の定義が異なる。就業規則で所定労働時間を9:00~17:00(12:00~13:00は休憩)の7時間と定めている企業が、17:00~18:00の1時間残業をさせたとする。日本の場合、法定労働時間は1日8時間であり、残業を合わせても法定労働時間内に収まるため、割増賃金は発生しない。ところが、タイの場合、法定労働時間(日本と同じく8時間)内に収まるとしても、所定労働時間の7時間を超えているため、割増賃金を支払う必要がある。

 (4)管理職は時間外・休日超過勤務手当を受け取る権利を有しない。管理職とは、「使用者を代理し、雇用、報酬の付与、賃金の引き下げ、または雇用の終了の権限を有する者」と定められている。管理職に該当するかどうかは、雇用、報酬の付与、賃金の引き下げ、または雇用の終了について、独占的な権限を有するか否かで判断される。上司に事前に了承を取らなければ意思決定できない人は管理職とはならない。したがって、管理職の範囲は非常に狭い。

 (5)派遣労働者を使う場合、当該労働者の業務が、事業者が責任を負う生産工程または事業運営のいずれかの部分であるならば、事業者は当該労働者の使用者と見なされる。派遣労働者が、雇用契約に基づく労働者と同じ態様で労働する場合、使用者は公正な権利および利益並びに福祉を、差別なく受けさせなければならない。

 平たく言うと、派遣労働者と正社員の勤務態様が同じならば、派遣労働者に対して、正社員と同じ給与、賞与、各種手当などを支給する必要がある。この規定があるため、タイでは人件費抑制のために派遣労働者を使うメリットが薄れている。

 (6)タイの法律には疾病休暇の規定があり、労働者は病気の期間欠勤する権利があると定められている。しかも、最長で年間30日まで有給となる。タイの労働者はこの規定を利用して、無断欠勤した後、「実は病気でした。有休にしてください」と主張することがあるという。また、法律では、病欠が3勤務日を超える場合は医師の診断書が必要とも定められている。ところが、中には自分で自分の診断書を書いて、平気で会社に提出する人もいるので要注意である。

 私用休暇についても、期間、および有給か無給かを就業規則で定めることができる。タイは敬虔な仏教国であり、タイの男性は一生のうちに一度は出家するものとされている。そして、この私用休暇を利用して出家する。出家期間は人によってまちまちであり、2週間程度でいいと言う人もいれば、1年以上出家したいと言う人もいる。だが、仮に無給であっても1年間会社を休まれては業務に支障が出るから、私用休暇について就業規則で明確に定めておく必要がある。

 (7)普通解雇には、事前解雇通知をする場合と即時解雇する場合がある。事前解雇通知の場合は、当月の給与日以前に、翌月の給与日に解雇する旨の通知を行う(例えば給与日が25日で7月10日に解雇通知した場合、解雇できるのは8月25日となる)。即時解雇の場合は、事前通告による解雇時までの賃金に相当する額を支払う。加えて、事前解雇通知の場合も即時解雇の場合も、勤務期間に応じて解雇補償金を上乗せしなければならない。

 ここで注意が必要なのは、タイでは解雇の概念が広いことである。例えば、上司が部下とケンカになり、部下は「明日から来なくてよい」と言われたので翌日から会社に来なかったとする。日本であれば無断欠勤として扱われ、上司と部下の関係修復を試みるのが普通であるが、タイでは解雇と判断される。この場合は即時解雇にあたるため、事前通告による解雇時までの賃金に相当する額に、解雇補償金を上乗せする必要が生じる。なお、タイでは定年退職も普通解雇に該当するので、事前通知や解雇補償金の支払いが求められる。

 (8)タイの法律では機械導入などによる解雇が認められている。機械の導入、機械または技術の更新が従業員の削減を伴う場合、事業、製造工程またはサービスを再編する結果として従業員を解雇することができる。解雇予定日の60日以上前に、従業員名、解雇日および解雇理由を、従業員本人および労働監督官に通知する(または、通知に代えて賃金60日分を支払う)。そして、普通解雇の場合の解雇補償金を支払う。加えて、6年以上連続して勤務している従業員に対しては、勤務期間1年につき賃金15日分(最大360日分)を支払う。

 (9)解雇された従業員が会社と争う場合は、労働裁判所を利用することになる。労働裁判所は、手数料が無料、弁護士が不要、駆け込めば書記官が訴状を書いてくれるなど、労働者にとって非常に使い勝手がよいものとなっている。解雇の正当性については、使用者側が立証責任を負う。労働裁判所は、まず労使双方に和解を勧め、和解に至らない場合には証人尋問を行う。ただし、労働者寄りの裁判官が強烈に和解を勧めてくるケースが多いらしい。

 (10)これは余談。タイに短期間出張する場合であっても、タイでの終了に該当するならば、ノン・イミグラントビザBとワークパミットが必要になる。就労に該当しない行為として、タイ労働省雇用局は以下の行為を挙げている。

 ・会議、会合またはセミナーへの出席
 ・展示会、見本市への出席
 ・事業所の訪問または商談への出席
 ・特別なレクチャーまたは学術的講義の聴講
 ・技術訓練に関するレクチャーおよびセミナーの聴講
 ・見本市での商品の購入
 ・自社の取締役会への出席

 ただし、セミナーや展示会を開催すること、セミナーのスピーカー・講師となること、現地子会社の会議に出席した後工場を見学すること、OJT、監査業務、機械のアフターサービスは就労に該当するので要注意である(無償であっても就労と見なされる)。また、上記はタイ労働省雇用局が挙げた条件、すなわちワークパミットが不要となる条件であり、ノン・イミグラントビザBが不要になる条件は移民局に確認しなければならない。さらに、タイでは法律の運用が担当者によって異なることが多いため、常に現地の最新動向を確認する必要がある。




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