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『正論』2018年6月号『安倍”悪玉”論のいかがわしさ/シリア攻撃 揺れる世界』―政治家やメディアが国民に迎合したら民主主義は終わる
『ベンチャーとIPOの研究(一橋ビジネスレビュー2014年AUT.62巻2号)』―マクロデータから見る事業・起業機会のラフな分析
飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(後半)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年05月15日

『正論』2018年6月号『安倍”悪玉”論のいかがわしさ/シリア攻撃 揺れる世界』―政治家やメディアが国民に迎合したら民主主義は終わる


正論2018年6月号正論2018年6月号

日本工業新聞社 2018-05-01

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 森友学園に対する国有地売却をめぐる財務省の決裁文書が改竄された疑いがあると朝日新聞が報じたのが3月2日である。「安倍晋三の葬儀はうちで出す」を”社是”としている朝日新聞が、本気で安倍政権を潰しにかかってきている証拠であった。しかし私は、率直に言うと、語弊があるかもしれないが「朝日新聞が余計なことをしてくれた」と感じていた。

 この問題に関しては、首相や明恵夫人の働きかけの有無が焦点であったが、1年経ってもめぼしい証拠は出てこず、野党が憶測で安倍首相を攻撃しているだけで、正直に言えば「どうでもよい問題」であった(事実、改竄前の文書によって、首相や明恵夫人の関与がないことがより明白になった)。そのどうでもよい問題をめぐるどうでもよい答弁に合わせるために、財務省が余計な忖度をして決裁文書を改竄したわけである。そして今度はこの改竄問題をことさら大きく取り上げて、麻生財務大臣の管理監督責任だの、安倍首相の任命責任だのと言い出した。この朝日新聞の報道によって、しばらくメディアと国会はこの問題一色になると容易に予測できた。

 3月5日に、韓国の文在寅大統領の特使である鄭義溶国家安全保障室長が訪朝して、北朝鮮の金正恩委員長と会談した。その会談では、4月末に南北朝鮮軍事境界線に位置する板門店の韓国側施設「平和の家」において南北首脳会談が行われることが合意された。これを受けて、ソウルへ戻った鄭義溶氏は、文在寅大統領に金正恩委員長との会談結果を報告した後、3月8日に文在寅大統領の特使としてアメリカへ渡航し、トランプ大統領に対して、「金正恩委員長がアメリカ合衆国大統領と会談したい意向がある」という金正恩委員長からのメッセージを伝えた。トランプ大統領は、「金正恩からの要請に応じよう」と答え、史上初の米朝首脳会談が実現することになった。朝鮮半島情勢は急転直下の展開を見せていた。

 北朝鮮が対話に応じる姿勢を見せてきたのは、最大限の経済制裁が効果を表したからである。北朝鮮の窓が少し開いたその隙に、日本はどうやって北朝鮮との対話を探るのか?アメリカ、韓国、それから中国やロシアといった関係諸国とどのように連携を取って北朝鮮の非核化を実現するのか?会談が破談してアメリカが北朝鮮に軍事攻撃を加えるという緊急事態が生じた場合を想定して、日本はいかなる準備をしておくべきか?さらに日本の場合は、積年の課題である拉致問題をこの機会にどう解決へと導くのか?といったことを、超党派的に大いに議論すべきであった。ようやく課題解決のスタートラインに立ち、課題解決の長いマラソンが始まるはずであった。ところが、朝日新聞の余計な横槍のせいで国会は空転し、スタートでいきなりつまずいた。金正恩委員長には、「拉致問題については周辺国があれこれ言ってくるが、肝心の日本がなぜ直接言ってこないのか?」と暴露され、安倍政権と外務省は赤っ恥をかいた。

 朝日新聞が北朝鮮問題という日本国家を揺るがしかねない問題よりも、財務省の決裁文書改竄問題という国民にとって受けがよい問題を優先した結果がこれである。しかも、朝日新聞はこうした事態を自ら招いておきながら、日本が北朝鮮問題で孤立していると呑気に批判する。
 (※朝日新聞の)ツイッターは北朝鮮の労働新聞が安倍政権を「退陣直前の状況」と評したことに触れ、「安倍政権にとって『嘘つき内閣』という非難よりも手痛いのは『退陣直前』という分析だ。国交正常化を見据え、腰を据えて交渉する相手と見なされていないのだ。米中露韓の現政権はしばらく倒れない。日本だけこんな内閣では激動の東アジア外交でますます出遅れる」(3月31日)と書いている。
(石川水穂「朝日新聞”倒閣”記者ツイッターを告発する」)
 販売部数至上主義に陥っている新聞、視聴率至上主義に陥っているテレビは、国家や国民をめぐる数多くの問題の中から、読者や視聴者が理解しやすい簡単な問題を選択する傾向が強い。野党もそういうマスコミを利用して、その簡単な問題の責任は政権にあるとすぐに騒ぎ立て、政権を打倒しようとする。マスコミは立法、司法、行政に次ぐ第4の権力、あるいは権力の監視者であるべきなのに、今や単なる野党の広告塔に成り下がっている。
 分かりやすく「手柄」を引き出そうとするパフォーマンスも、真相を煙に巻く結果をもたらした。野党議員に聞いたことがあるが、国会質疑においては、どれだけマスメディアに取り上げられるかも重要な要素らしい。それによって、党幹部から評価されて、党内での地位が上がる。とすると、翌朝の新聞の見出しを頭に思い浮かべながら「切り取りやすい一言」狙いをするという野党の戦略も出てこよう。共産党の小池晃書記局長は、この手の国会質問が非常に巧みだ。(中略)小池氏は、さしずめ、「国会の一言炎上男」だろう。
(山口真由「ピント外れの国会審議 もう1つのモリカケ問題」)
 小池氏は3月19日の参議院予算委員会で、明恵夫人の名前が決裁文書に記載された点について太田充理財局長に問いかけ、「基本的に総理夫人だからだと思う」という答弁を引き出した。その上で、「重大な発言ですよね。重大な発言ですよ。総理夫人なんですよ。まさに、国会議員以上に配慮しなきゃいけない存在なんですよ。だから決裁文書に登場してきているわけじゃないですか」と返した。そして、マスコミは小池氏のこの「重大な発言ですよ」の部分を切り取って繰り返し報じた(私はこの頃入院しており、日中よくテレビを観ていたのではっきり覚えている)。

 私が言うまでもないが、マスコミは国民にとって解りやすいイシューではなく、国民や国家にとって重要なイシューを扱うべきである。販売部数/視聴率至上主義を捨て去り、もっと大局的な視点に立たねばならない。こうしたマスコミの姿勢は、最初はなかなか国民には受け入れられないだろう。それでもなお、イシューの重要性を地道に説いて回る営業努力が必要である。真のマスコミは、赤貧に耐え、それでもなお国民や国家に奉仕する高邁な志を持った人々によって支えられるべきである。だから、本来マスコミが儲かる職業であるというのはおかしいのである。自由市場が短期的に現世代の経済的ニーズを満たす仕組みであるのに対し、民主主義とは中長期的に次世代の社会的課題を解決する制度である(「私と同じ苦しみを子ども世代に味わわせてはならない」)。マスコミはそういう民主主義の進展を促進するものでなければならない。マスコミの姿勢が変われば、マスコミに迎合して一発芸を狙う安直な政治家も減るだろう。

 それにしても、野党やマスコミは、「モリカケ問題に首相が関与している」ということにどうしてもしておきたいようである。感情に訴えて国民を扇動すると、全体主義を生む危険性がある。
 高井:権力を持つ国会議員が国民の感情に訴え、それに国民が呼応している現状は、民主主義の土台が崩されかねないという意味で極めて危険です。事実に基づき、国民の理性に訴えるのが「説得」で、逆に事実を無視して、国民の感情に訴えるのが「扇動」です。ナチス・ドイツのゲッベルズ宣伝相は「扇動」で国民の支持を集めることに成功しました。彼のような人物が今の日本に存在するとは思いませんが、「ミニ・ゲッベルズ」ならば与野党を問わず誕生しかねません。
(高井康行「ジャーナリズムが民主主義を滅ぼす」)
 ただし、個人的には、国民の理性を信じて事実を訴えることが必ずしも正しいとは限らないのではないかとも思っている。仮に事実が1つであるならば、「説得」も「扇動」も1つの事実(「扇動」の場合は虚偽の事実だが)に向かって国民の感情を収斂させることになり、全体主義へとつながりかねない。「説得」の場合は”冷静な”全体主義となり、「扇動」の場合は”熱狂的な”全体主義となるという違いがあるにすぎない。この点に関して、掛谷英紀「大学政治偏向ランキング 学者の政治活動を徹底批判」という興味深い記事があった。これは、2015年の「安全保障関連法に反対する学者の会」に署名した学者の所属大学、専攻分野を分析したものである。

 掛谷氏は、「安保反対の会」に署名するような左派系の学者には理論系が多く、工学系が少ないと述べている。理論系の学者は文字通り理論を組み立てて事実を明らかにする。一方、工学系の学者は実験を繰り返して事実を明らかにする。もし安保法制が間違っているということが動かしがたい事実であるならば、理論系の学者も工学系の学者も「安保反対の会」に署名しそうなものである。ところが、工学系の学者が少ないというのは、彼らは厳密な自然科学の研究のルールに従うものの、事実が1つであるとは限らず、事実が別の実験でひっくり返ったり、事実が複数存在したりすることを認めているからではないだろうか?事実が異なれば解釈、主義主張も異なる。そして、そういう違いがあるところに政治が生まれる。
 それぞれの人々がそれぞれの正義を主張するとき、政治が生ずる。妥協、排除、暴力の行使等々あらゆる手段を講じて、自らの正義を実現しようと試みるのが政治という営みに他ならない。(中略)政治の場においていかなる正義の独占をも許さないとするのがリベラル・デモクラシーの基礎なのである。
(岩田温「あなたもバッシングされる?世にはびこる”悪玉”論の恐怖」)
 「群盲象を評す」というインド発祥の寓話がある。6人の盲人が象に触って、それが何だと思うかと王から問われた。足を触った盲人は「柱のようです」と答え、尾を触った盲人は「綱のようです」と答え、鼻を触った盲人は「木の枝のようです」と答え、耳を触った盲人は「扇のようです」と答え、腹を触った盲人は「壁のようです」と答え、牙を触った盲人は「パイプのようです」と答えた。それを聞いた王は、「皆正しい。あなた方の話が食い違っているのは、あなた方が象の異なる部分を触っているからだ。象はあなた方の言う特徴を全て備えている」と答えた、という話である(以上はジャイナ教の寓話に拠った)。政治はこれと似ている。ある人はAと言い、別の人はBと言い、また別の人はCと言う。それぞれの主張の長所を斟酌しながら、より高次の包括的な新しい知を創造するのが政治的な営みである。「AはAだ。A以外は認めない」では政治にならない。

 左派は自由を掲げながら、「反体制、親中、親北朝鮮」で凝り固まっていることを私はしばしば本ブログで批判してきた。この考えが行き過ぎると全体主義に陥る。だが、右派は逆に「反中、反韓、反北朝鮮」で凝り固まっており、これも行き過ぎれば全体主義になる。極右と極左は同根異種であると、以前の記事「『正論』2018年3月号『親北・反日・約束破り・・・/暴露本「炎と怒り」で話題沸騰』―小国・日本の知恵「二項混合」に関する試論(議論の頭出し程度)、他」でも書いた。極左は、国家という枠組みを取り払い、民族などの表面的な違いを無視して、全世界の人々は本質的に同じであると説く。一方、極右は日本こそが絶対善であり、異質を排除して全世界を日本化しようとする。極左と極右は一見すると正反対であるようだが、どちらも世界をモノトーンで見ている点では実は共通している。右派にも反省すべき点がある。

 3月以降、朝日新聞の全体主義的な「『安倍政権=悪』キャンペーン」が展開されたが、以前に比べると国民は賢明になったと思う。内閣支持率が30%台まで”しか”下がらなかったのがその証左である(内閣支持率は底を打ったとの見方もある)。これが森喜朗首相の時代であれば、一発で内閣支持率が一桁台まで落ち込んでいたことだろう。国民の中には、森友学園問題(と加計学園問題)が大した問題ではないと考える人が増えている。ただ、だからと言って、国民主権を頼りにし、国民の力に完全に依拠して政治を展開するのは難しいと感じる。

 インターネットが普及した時代であるから、例えばネット上に政治空間を作り、国民が自由にイシューを発案して、他の大勢の国民が議論のフィールドに参加しながら必要な法律や施策、規制などを策定していく民主主義も原理的には可能である。だが、発案されるイシューは膨大になり、優先順位をどうつけるかが問題となる。おそらく議論フィールドへのアクセス数、フィールドに参加している国民の数などでランキングが作成されるだろう。だが、ランキングを作成した時点で人気投票と化し、国民は近視眼に陥る。また、たとえ政治空間で実名性が担保されたとしても、炎上、暴言、脅迫が日常茶飯事となり、収拾がつかなくなるに違いない。前述の通り、しばしば政治家は視野狭窄に陥り国会を空転させ、行政は保身に走り余計なことをするが、国民がもっと利己的になり、罵詈雑言の類で議論フィールドを混乱させるよりかは幾分ましである。

 だから、現在の立法府や行政府は最善ではないが最悪でもないのである。その両権力を、中長期的な視点、将来の世代の視点、社会的な善の視点から監視する役割をマスコミには期待したいし、政治家(特に野党)はそういうマスコミを上手に利用して国民を啓発してほしい。

2014年11月18日

『ベンチャーとIPOの研究(一橋ビジネスレビュー2014年AUT.62巻2号)』―マクロデータから見る事業・起業機会のラフな分析


一橋ビジネスレビュー 2014年AUT.62巻2号: ベンチャーとIPOの研究一橋ビジネスレビュー 2014年AUT.62巻2号: ベンチャーとIPOの研究
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2014-09-05

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 (前回の続き)

 ここ数年、政府は「創業補助金」を出して起業活動を支援している。平成25年度と26年度はそれぞれ前年度の補正予算で実施されていたが、27年度は本予算で実施される見込みだ。ただ、以前の記事「平成27年度経済産業省概算要求 中小企業関連政策のポイント」で書いたように、政府は「創業すれば何でもいい」と考えている節がある。本来であれば、「経済の実態を踏まえて、この分野で起業してほしい」という方針を政府として明確に示すべきだろう。

 別の補助金の話になるが、「ものづくり補助金(中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業)」では、健康・医療、航空・宇宙、環境・エネルギーの3分野に該当する場合、補助上限額が1,000万円から1,500万円に上がる。また、各地方の「地方版成長戦略」で指定された産業に該当する場合には、審査で有利になる。この点で、ものづくり補助金は創業補助金よりも進んでいる。しかし、これらの重点分野がどのような基準で選ばれたのかがよく解らず、政治的意向が働いて「えいやっ」で決められたようにも感じる。

 起業・事業機会をマクロデータから導くには、財務省の貿易統計を利用する、という手が考えられる。財務省のHPには、品目別の輸出・輸入額が掲載されている。このうち、輸入超過に陥っている品目で、超過額が大きいものに着目する。

 こうした品目は、国内で需要があるにもかかわらず、国内の供給が追いついていないものであり、事業チャンスがあると言える。例えば、以前の記事「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて」で書いたように、医療機器は1.1兆円の輸入超過であり、ビジネスチャンスが大きい(ただし、輸入超過の品目の中には、コモディティ化して生産の大部分が海外に移っているために輸入超過になっている品目もあるので、その辺りは注意が必要である)。

 財務省の貿易統計で使われている品目コード(HSコード)は第1類~第97類まであり、さらに各類に下部コードがあるため、データ量が非常に膨大である。全部を分析すると大変なことになるから、一番解りやすそうなものとして、第85類「電気機器及びその部分品並びに録音機、音声再生機並びにテレビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及び附属品」をピックアップしてみた(なお、第85類には「集積回路(85.42)」があるのだが、他の品目に比べて輸出入額が大きく、グラフに含めるとグラフの形が崩れてしまうため省略した)。

○第85類「電気機器及びその部分品並びに録音機、音声再生機並びにテレビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及び附属品」の輸出額・輸入額・貿易収支(2013年、単位:10億円)
2013年輸出入金額(電気機器)

○第85類「電気機器及びその部分品並びに録音機、音声再生機並びにテレビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及び附属品」の内訳
HSコード(第85類)

 グラフからは、「電話機及びその他の機器(85.17)」が大幅な輸入超過であることが解る。固定電話はほとんどコモディティであるし、携帯電話は海外のスマートフォンが強いため、このような結果になっているのだろう。よって、この分野は輸入超過であっても、新規参入は難しい。

 このグラフで1つ注目したいのが、「電気絶縁をした線、ケーブルその他の電気導体及び光ファイバーケーブル(85.44)」である。以前、電気ケーブル業界について知り合いの中小企業診断士から教えてもらったのだが、電気ケーブルは自動車の生産ライン、産業用ロボット、半導体製造装置、プレス機械など、電気を使う機械には必ず使われる製品である。

 機械装置メーカーが新しい装置を開発する際には、サイズ、長さ、使用本数、耐熱温度、屈曲性など装置に適合した様々な特殊ケーブルを必要とする。機械装置メーカーは細かく仕様を決めて電気ケーブルを発注し、発注後はすぐに納品するように要求してくるという。一般的に、特注品・短納期の製品は、日本企業の得意分野である。それが輸入超過なのだから、日本企業が入り込む余地はまだまだあると言えるのではないだろか?

 貿易統計のデータは非常に細かく、分析が大変である。しかし、切り口が細かいゆえに、意外なニッチ市場が見つかる可能性がある。ただ、貿易統計からは、内需主導型の産業のことは解らない。そこで、厚生労働省の「労働経済動向調査」というデータを見てみよう。労働者DI(労働者が「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値)が長期間プラスになっている業界は、需要があるにもかかわらず慢性的に人手不足となっており、ビジネスチャンスがあると考えられる。

○産業別に見た常用労働者のDIの推移
20141004_産業別労働力DI推移

 労働者DIが長期間プラスで固定しているのは、情報通信業、運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業、医療・福祉である。これらの業界は離職率が高いので労働者DIがプラスになっているとも考えられるが、情報通信業ではIT技術が日々進化しており、運輸業・郵便業は荷物の小口化とWeb通販の拡大による荷物の増加によって物流量が拡大している。宿泊業・飲食サービス業は外国人観光客の急増で需要が伸びているし、医療・福祉については今さら言うまでもない。

 意外なところでは、学術研究・専門・技術サービス業の労働者DIが長期間プラスで推移している。弁護士、公認会計士、社会保険労務士などのいわゆる士業や、私のような経営コンサルタントがこのくくりに入る。どうやら、こういう人材が日本では不足しているようだ。ただ、これらのビジネスはあまり規模を追求できないので、雇用創出への貢献度は低いかもしれない。

 もう1つ意外だったのは、金融・保険業の労働者DIが低いことである。高齢者の潤沢な金融資産をターゲットとして金融商品が多様化・複雑化しており、高度な知識を持った人材が必要とされているのかと思いきや、現実はそうではないようである。だから、例えば今から保険の代理店事業を立ち上げようとするのは、ポテンシャルに乏しい選択肢なのかもしれない。

2014年06月03日

飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(後半)


目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法
飯田 順

税務経理協会 2009-10

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 (前回からの続き)

(3)戦略の方向性が「高品質化」、「低コスト」に偏りすぎ
 仮に戦略が立てられていたとしても、この2つに偏っていることが非常に多いという印象を受ける。私は、高品質化と低コスト(低価格)は「ジリ貧の戦略」だと思っている。どんな製品であっても、無限に品質を高めることはできないし、無限にコストを下げることはできない。

 物理的に限界があるというのももちろんだが、無限に品質を高めると過剰品質になり顧客がついてこられなくなる。また、無限にコストを下げると、競合他社も値下げで対抗し、利益の出ない不毛な争いに突入してしまう。高品質化と低コストは、一見すると戦略を立てたようであって、実は中小企業診断士が戦略を十分に練ることができなかった時の逃げの口実なのだ。

 本当の戦略とは、顧客にとっての価値を明確にすることであり、顧客価値を実現するための機能を取捨選択することである。別の言い方をすれば、顧客のニーズでまだ満たされてないホワイトスペースを発見し、そのスペースを埋める新機能を開発することである。このような戦略から生み出される製品・サービスは、競合他社のものと単純に機能を比較することができない。そもそも、競合他社の製品・サービスの機能から”ずれた”機能で勝負しているのである。そういう差別化要因をひねり出すことに、中小企業診断士の価値があるのではないだろうか?

(4)戦略を実現するための施策の数が多すぎる
 戦略を画餅に終わらせないためには、具体的な施策=戦術に落とし込む必要がある。経営革新計画でも、施策を列記し、実施時期、評価指標と評価方法、評価の頻度などを一覧にすることが求められる。ただ、本書でもそうだったが、施策の数が多すぎるような気がする。いくら3~5年計画とはいえ、10も20も施策を並べるのは非現実的ではないだろうか?リソースが限られている中小企業には荷が重すぎるはずだ。

 以前の記事「中小企業診断士が断ち切るべき5つの因習」でも書いたが、中小企業診断士は施策だの提言だのをやたらとたくさん並べ立てるきらいがある。その結果、レポートが膨大な枚数になることもしばしばだ。たくさん提案をすれば、仕事をした気になるのかもしれない。

 しかし、10の提案をして1つも実施されないのであれば、10の提案は無価値である。それよりも、提案は3つだけだが、3つとも実施される方がよっぽど価値が高い。私の知り合いに、中小企業診断士ではあるが診断士活動からは距離を置いているコンサルタントがいるのだが、彼は「クライアントに提案する施策は2、3個に絞っている」と言っていた。私も彼の意見に賛成である。

(5)「付加価値額の増加率が年率3%以上、経常利益の増加率が年率1%以上」は革新的か?
 これは中小企業診断士が責められる問題ではなく、中小企業庁の問題なのだが、経営革新計画の数字面での要件が緩すぎるのではないか?ということである。下表は財務省の「法人企業統計」に基づいて、過去10年間の1社あたり付加価値額、経常利益の増加率をまとめたものだ。

 もちろん、この表の数字は大企業によって上振れしている可能性があるし、株主の期待に応えるため経常利益をできるだけ稼ごうとする上場企業と、節税のために経常利益を低く抑えたがる中小企業を一緒くたに論じるのは乱暴かもしれない。ただ、平均的な企業であっても、「付加価値額の増加率が年率3%以上、経常利益の増加率が年率1%以上」を達成するのはそれほど困難ではないように見えるのである(特に、2003年~2006年はそう感じる)。

1社あたり付加価値・経常利益(法人企業統計)
(※クリックで拡大表示)

 「経営革新」というからには、もっと高い目標を課すべきではないだろうか?優遇措置によって一時的に金融機関の利率が下がったり、政府の税収が減ったりするが、それ以上に認定企業の事業が中長期的に拡大することで、新たな資金需要が生まれ、多くの税収が見込めるようになる、というのがこの制度の狙いのはずである。「付加価値額の増加率が年率3%以上、経常利益の増加率が年率1%以上」という数字は何を根拠に設定されたのか?優遇措置による企業への”先行投資”を回収できる目標値になっているのか?かなり疑問が残るところである。




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