2015年08月11日
『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(2/2)
前回「『中小企業白書』、『小規模企業白書』(2015年度)の概要について(中小機構「虎ノ門セミナー」メモ書き)(1/2)」の続き。
<<『小規模企業白書』>>
(1)中小企業は事業承継がなかなか進んでおらず、やむなく廃業に追い込まれるケースが増えている。このことは、中小企業庁も社会的課題として認識している。本設問は、現在の経営者が事業承継を躊躇する個人的な理由を尋ねたものである。「厳し経営環境下で事業を引き継ぐことへの躊躇(後継者候補の人生への配慮)」が最も高い割合となっている。
「厳し経営環境下で事業を引き継ぐことへの躊躇」とは、言い換えれば「業績が悪いから、このまま後継者に引き継ぐのは忍びない」ということであろう。引き継ぐのがはばかられるような、欠陥のある事業しか残せなかったことは、経営としては恥である。企業というのは規模によらず社会的公器であるから、このような理由で事業承継が進まないのは残念だ(以前の記事「『人生心得帖(『致知』2015年5月号)』―中小企業は「生業」で終わってはならないと思う」を参照)。
企業は、たとえ小規模であっても、後世に引き継ぐことを前提として、経営資源の厚みを増し、持続的に業績を伸ばしていけるようなビジネスモデルを構築すべきである(そして、この指摘は、私自身のコンサルティング事業にも跳ね返ってくる)。
(2)「メールマガジン」が3.8%と非常に低い。中小企業庁のメールマガジンは約30万の会員がいるそうだが、メールマガジンでは情報が全然伝わっていないと解り、がっかりしたと中小企業庁の担当者がこぼしていた。一方で、「施策のチラシ・パンフレット」が39.8%と意外と高かった。公的機関に行くと様々なチラシ・パンフレットを見かける。正直なところ、「パンフレットなんて誰が見ているのだろう?(この時代にパンフレットなんて・・・。HPに掲載すれば十分ではないか?)」と疑問に感じていた。しかし、この認識は改めなければならないと感じた。
なお、このデータだけを見ると、中小企業は支援施策に関する情報をよく入手しているようにも思える。だが、実際には、支援施策の認知度は相当に低いと予想される。以前、私が関わらせていただいた「荒川区中小製造業調査」でも、支援施策を知らない中小企業が大多数であった。
(3)事業が好調だった要因、不調だった要因ともに、外部環境に求める割合が高く、そのことを指して中小企業庁は「他律的な経営」と評している。なお、HPで公開されている情報では「他律的な経営」となっているが、セミナーで配布された資料では「日和見的な経営」と、官公庁のレポートとしては珍しく厳しい表現が使われていた。
研究によると、企業の業績を説明する要因としては、政治・経済のマクロ環境が約10%、事業・市場環境が約10%、自社の組織能力が約40%、その他(運)が約40%だという。つまり、企業の業績に外部環境が与える影響は20%しかなく、内部環境が与える影響の方がはるかに大きい。事業が好調な要因を外部環境に求めるのは、謙虚であってよいのかもしれない。これに対して、事業が不調な要因は、安易に外部環境に転嫁してはならないと思う。
(4)販路開拓に「特に取り組んでいない」が49.5%と半数近くを占めるのが驚きである。販路開拓をせずにどうやって企業を経営しているのだろうか?「新しい顧客への直接訪問・売り込み」や「対面販売における顧客への説明・コミュニケーションの充実」に取り組む企業の割合が高いが、一方でそれが必ずしも売上高拡大につながっていない、という結果も出た。売上高を拡大するためには、「営業能力の高い人材の新規採用」を行うことが最も効果的であるようだ。