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汚職・賄賂をめぐるアメリカ「FCPA(海外腐敗行為防止法)」、日本「不正競争防止法」の最近の動向について

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年06月24日

汚職・賄賂をめぐるアメリカ「FCPA(海外腐敗行為防止法)」、日本「不正競争防止法」の最近の動向について


汚職・賄賂

 森・濱田松本法律事務所とコントロール・リスクス・グループ株式会社が共催する「海外汚職リスクセミナー」に参加してきた。以下、セミナー内容に関するメモ書き。

 (1)アメリカでは、1977年にFCPA(Foreign Corrupt Practices Act:海外腐敗行為防止法)が制定され、汚職・贈賄が厳しく取り締まられている。ロッキード事件などの賄賂事件がきっかけとなり、1970年代中頃に実施されたU.S. Securities and Exchange Commissionによる調査の結果、400以上のアメリカ企業が海外公務員などに対して違法な支払い、または問題と思われる支払いをしていることが認められた。FCPAの制定にはこのような背景がある。

 FCPAの特徴は、域外適用があるという点である。アメリカ企業が海外で当該国の公務員に贈賄を行えば、当然FCPAの処罰の対象となる。だが、日本企業が海外で同様の行為をした場合、仮にアメリカの金融機関の口座を介して贈賄が行われれば、FCPAにより罰せられる。

 2015年9月に、アメリカ司法省(DOJ)長官が連邦検察官に宛てたYates Memorandumは、企業犯罪における個人責任の追及を強化する方針を打ち出している。贈賄に関する刑事捜査や民事事件の調査は、開始当初から個人に焦点を当てるべきだとされた。DOJ担当官は、関連する個人に対する事件が解決できるという明確な見込みがない限り、企業に対する事件を終結させるべきではない。また、民事事件を担当するDOJ担当官は、常に個人への責任追及を視野に入れ、支払い能力の有無にかかわらず、個人に対する訴訟を検討する必要がある。

 司法省は2016年4月に、「自主申告に関するパイロット・プログラム」を執行すると発表した。独占禁止法に関しては既に類似のプログラムが導入されているが、贈賄についても自主申告制度が取り入れられた。当面は1年間のパイロット・プログラムとして運用される。FCPA違反行為を自主申告すれば、申告者に対する制裁が減免される可能性がある。ただし、社員が自主申告した場合、企業側は当該個人に対する責任追及のための情報提供を要求される。

 (2)世界的には、贈賄規制を強化する傾向が強くなっている。OECDは1999年に「OECD外国公務員贈賄防止条約」を制定した。同条約は、OECD加盟国以外の国・地域も条約に加入できることに特徴があり、やや古い情報だが2011年7月現在で38ヵ国が締結している。

 ただし、各国の規制度合いには温度差があるのも事実である。例えば、イギリス、中国、マレーシア、南アフリカ、香港、シンガポールなどでは、民間贈賄も処罰の対象となる(英連邦である/あった国に多い)。行政サービスに係る手続きの円滑化などを目的とした少額の支払いであるいわゆる「ファシリテーション・ペイメント(Facilitation Payments)」は多くの国で規制対象となっているものの、アメリカだけは例外的に容認している。日本は不正競争防止法で贈賄を規制しているが、OECDからは「摘発件数が少なすぎる」と厳しい指摘を受けているという。

 経済産業省は、2015年7月に「外国公務員贈賄防止指針」を改定した。OECDからは以前より、「ファシリテーション・ペイメントの合法性に関する情報が不正確・不明瞭である」、「少額の支払いであれば全て賄賂にあたらないと誤解される可能性がある」と指摘されていた。これを受けて、ファシリテーション・ペイメントに関する記載を削除した。ただし、これは不正競争防止法の解釈の変更を意味するものではない点には注意が必要である。

 経済産業省は同指針の中で、外国公務員などに贈賄を行うとそれが慣例化する可能性が高いため、「金銭等の要求を拒絶することが原則である」と述べている。ただし、過度の賄賂の要求により、「営業上の不正の利益を得る」という目的を超えて、自社の事業に対する深刻な損害や、社員に対する危害が予測される場合には、「自社単独でまたは現地日本大使館・領事館や現地商工会議所などを経由して拒絶の意思を明らかにすることが望ましい」とされている。

 (3)私が今まで参加してきた海外リスクマネジメントセミナーは、主に中小企業を対象としたものであった。しばしば、参加者からは、「いわゆる”袖の下”の要求に対してはどのように対応すればよいか?」という質問が出た。私の印象では、どの講師も明確な答えを持っていたわけではないものの、必要最小限の少額の贈賄は仕方ないのではないかという見解で概ね一致していたように感じる。中小企業の場合、言葉は悪いが相手は”小役人”であるから、小役人の小遣い程度で自社の事業が円滑に進むのであれば黙認しようということだったのかもしれない。

 しかし、本セミナーは森・濱田松本法律事務所(日本で3番目に大きな法律事務所)が主催したものであり、参加者は大企業の法務部門の方が多かったと推測される。大企業の場合、相手から要求される賄賂も高額であり、それを無下に拒否してよいのかという問題が生じる。つまり、相手の背後に有力な大物政治家がいて、事業許可を取り消される、あるいは相手が凶悪なヤクザを連れてきて、事業を妨害するという深刻なリスクに発展する恐れがある

 本セミナーを共催したコントロール・リスクス・グループ株式会社は、ビジネスリスクマネジメントを専門とするイギリスの企業である。世界全体で36か所の拠点、約2,500名のスタッフを抱えている。各国の諜報機関や防衛機関からの出身者も数多く在籍しているという。

 同社のソリューションは、まず賄賂を要求した人間と、その背後にいる人物との関係図を明らかにする。その関係性を踏まえた上で、賄賂を支払った/拒否した場合のリスクを予測する。賄賂を拒否したいが、自社に対する影響が大きい場合は、賄賂を要求した人間が所属する組織の内外で、自社にとって味方になってくれそうなホワイトな人物を調査する。企業はその人物を通じて贈賄を拒否することで、自社へのダメージを最小限に抑えることができる。イギリスは昔から非常にインテリジェンスを重視する国である。戦争の時も、植民地を開拓する時も、相手のことを徹底的に調べ上げる。同社のサービスはいかにもイギリスらしいものだと感じた。




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