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『世界』2018年5月号『”KAROSHI”を過去の言葉に/森友問題―”安倍事案”の泥沼』―過労死を防止するための5つの方法(提案)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年04月25日

『世界』2018年5月号『”KAROSHI”を過去の言葉に/森友問題―”安倍事案”の泥沼』―過労死を防止するための5つの方法(提案)


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 森友学園・加計学園の問題(モリカケ問題)が発覚してから、『世界』が安倍首相らの関与があったかどうかについて特集を組んでくれるのをずっと待っていたのだが、ついに特集が組まれることはなく、モリカケ問題は存在しないと思うようになった。ようやく今月号になって緊急特集が組まれたものの、安倍首相らの関与についてではなく、財務省の決裁文書改竄問題に焦点が当たっており、先の私の思いは確信に変わったところである。この緊急特集のあおりを受けて、本来の特集である過労死の中身がペラペラになってしまったというのが率直な感想である。

 過労死・過労自殺に関しては、2014年11月に「過労死等防止対策推進法」が施行され、その第2条において「過労死等」の定義がなされている。

  ①業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡。
  ②業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡。
  ③死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害。

 2~6ヶ月間で平均80時間を超える時間外労働をしている場合、健康障害と長時間労働の因果関係を認めやすいとされる。私の前職は教育研修&組織・人事コンサルティングサービスを提供するベンチャー企業であったが、長時間労働が常態化していた。そして、私のブログをずっと読んでくださっている方はご存知のように、私は前職の会社に在籍中に双極性障害という精神障害を発症した(経緯については以前の記事「【シリーズ】中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由(3)(4)」を参照)。今思い起こせば過労死ラインギリギリだったと思う。私には裁量労働制が適用されていたが、勤務時間管理がなされておらず、正確な記録が残っていないのが残念である。ただ、発症直前に23連勤をしていたことだけは覚えている。我ながらよく死ななかったと思う。私のようなケースは、上記法律の定義③に該当するのだろう。

 今月号の特集では、厚生労働省のデータ改竄ばかりが取り上げられており、肝心の過労死防止策に関する提言がなかった。そこで、僭越ではあるが私が過労死や長時間労働を防止するための改革案を5つ提案してみたいと思う。

 ①正社員の年間労働時間の上限を1,824時間とする。
 OECDの統計によると、日本人の年間労働時間は1,713時間であり、OECD加盟国の中で22位と低い。ただし、この数字にはパート・アルバイトなどの非正規・短時間労働者が含まれているため、実感よりも少ない数値になっていることは周知の事実である。WASEDA ONLINE「残業ニッポン―労働時間短縮に近道なし」によると、日本の正社員の年間労働時間は平均2,000時間であり、ドイツやフランスなどと比べると400時間ほど長いという。日本の労働基準法では、労働時間の上限が1日8時間、1週40時間と定められているから、年間の労働時間の上限は40時間×52週=2,080時間となり、先ほどの平均時間とほぼ等しい。よって、正社員の労働時間が正規分布に従うならばら、約半数の正社員は上限を上回って働いていることになる。

 この現実を是正するために、本来ならば、各企業が現状の業務を洗い出し、時間を短縮できそうな業務を特定して改善策を実行するのが王道だろう。だが、各企業の取り組みに任せていては、改革は遅々として進まないに違いない。そこで、思い切って労働基準法を改正し、正社員の年間労働時間の上限を1,824時間(8時間/日×19日×12か月)と、現在の平均よりも約1割短くする。強制的に労働時間を短くして、その時間内で仕事が終わるように各企業に知恵を絞らせるのである。時間外手当はアメリカ並みに高くする(日本は2割5分、アメリカは5割)。

 この改革は乱暴かと思われるかもしれないが、似たようなやり方で生産性向上に成功した例がある。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は、プロジェクトメンバーに週に1日の「計画休暇」を強制的に取得させた。単純に考えれば労働時間が2割減少するわけだから、メンバーは当初、顧客企業に対するサービス品質に悪影響が出ると反対した。だが、その反対を押し切って計画休暇制度を導入したところ、次のような変化が現れた。
 「計画休暇は、チーム全員が望むような会話のきっかけをつくってくれます。つまり、『仕事の能率を上げるには、どうすればよいだろう』『もっと協力し合うには、どうすればよいだろう』『ワーク・ライフ・バランスを犠牲にすることなく成果を上げるには、どうすればよいだろう』といった具合です」
(レスリー・A・パルロ―、ジェシカ・L・ポーター「ボストンコンサルティンググループでの実験が教える プロフェッショナルこそ計画的に休まなければならない」〔『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年3月号〕)
 結果的に、サービス品質を犠牲にすることなく、かつメンバーの満足度も高めることができたという。この論文では、具体的にコンサルティングプロジェクトの業務をどのように変えたのかまでは触れられていない。おそらく、「週に1日は絶対に休まなければならない」という制約が引き金となって創造力が刺激され、業務短縮のためのアイデアが次々と出てきたのだろう(旧ブログの記事「制約があった方が発想が広がる」を参照)。1つ1つは些細なものかもしれないが、それらが積み重なってプロジェクト全体の生産性を大幅に向上させることになったと推測する。

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 BCGに倣って、日本でも法律で強制的に制約を作り、企業の創造的な取り組みを促進する。中には猛反発する企業もいるだろうが、社員が死ぬかもしれないような環境で働かせることによってしか業績を上げることができないとすれば、それは適切な業務プロセスや組織、それを支える仕組み・制度・システムの整備を怠っているマネジメントの無能と言ってよいだろう。

 ②過労死・過労自殺が発生した場合は、企業名を公表する。
 過労死・過労自殺は企業による殺人と言える。だが、電通過労自殺事件でも解るように、過労死・過労自殺によって経営者を刑法上の罪に問うことは難しいのが現状である(電通過労自殺事件では、電通に対し労働基準法違反の罰則が適用され、罰金50万円の判決が下った)。

過労死・過労自殺・他殺者数(殺人)の推移

 上のグラフは、厚生労働省が毎年度発表している「過労死等の労災補償状況」と「人口動態統計」から作成したものである。2010年以降は、他殺者数よりも、過労死者数と過労自殺者数の合計の方が多くなっているのが解る。ニュース番組を見ていると、ほぼ毎日全国のどこかで殺人事件が1~2件起こっており、容疑者の情報が流れることに気づく。その他殺者数が2015年で314人ということは、日本で起きている殺人のほとんどは、容疑者の名前ととともに報道されていることを意味する。ならば、企業による殺人である過労死・過労自殺についても、企業の名前を報道することにすればよい。これによって、かなりの抑止力が期待できる。

 もし過労死・過労自殺が起きた場合、当該企業は第三者委員会を設けてその原因を分析し、再発防止策を報告書にまとめて労働基準監督署に提出することを義務化することも合わせて提案したい。そして、労働基準監督署は、企業秘密や過労死者・過労自殺者のプライバシーに関わる情報を除いて、その報告書を公開する。日本企業は、成功事例は他社に学ぼうとするが、失敗事例は他社に学ぼうとしない傾向が強い。成功事例については、自社もあの企業のように成功できるはずだと他社との類似性を強調するのに、失敗事例については、自社はあの企業とは違うと開き直ってしまうねじれたメンタリティがある。この精神を矯正するために、労働基準監督署は報告書に関する情報を積極的に企業に対して発信するべきである。

 ③管理職の時間外手当などの適用除外、みなし労働時間制を廃止する。
 過労死・過労自殺や長時間労働を防ぐためには、労働時間の管理を徹底し、割増賃金を漏れなく支払うことが不可欠である。現在、課長以上の管理職については、時間外手当や休日手当の適用外としている企業が多い。だが、労働基準法上、「管理監督者」と認められるには、

 (1)管理監督者としての職務を行っているか?
 (2)経営方針の決定、労務管理、採用上の指揮などが経営者と一体的な立場か?
 (3)自己の勤務時間について裁量を有するか?
 (4)役職手当などの待遇がされているか?

といった要素を考慮して実質的に判断するべきとされている。特に(2)が重要であり、「経営者と一体的な立場か」という文言に着目するならば、この要件を満たすのはせいぜいごく一部の本部長・統括部長クラスぐらいであり、一介の課長まで管理監督者に含めるのには無理がある。大部分の管理職は、労働基準法上の管理監督者には該当しない。よって、一般社員と同様に労働時間を管理し、割増賃金を支払う必要があると考える。

 みなし労働時間制には、事業場外労働、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制の3つがある。事業場外労働は、外出が多く勤務実態が把握しにくい営業担当者などに適用される。しかし、今や多くの営業担当者はPCやスマホを持ち歩いて仕事をしている。その使用ログを取得すれば、勤務時間管理は可能である。よって、事業場外労働は廃止した方がよい。

 専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制は、いずれも上司からの指揮・命令によってではなく、本人の自己裁量で仕事をしている社員を想定している。だが、企業という組織に属する以上、上司からの命令を受けないのは、トップに立つ社長のみである。それ以外の社員は何らかの形で必ず上司からの命令を受ける。よって、本人の自己裁量で仕事をしている人など存在しないのであり、2つの裁量労働制の対象者はいるはずもないのである。

 上司の側から見ると、上司は部下に対して命令を出し、部下が適切な成果を上げているかモニタリングするのが仕事である。別の言い方をすれば、部下が高い生産性で仕事をしているかを見るのが仕事である。仮に部下に裁量労働制が適用されているならば、生産性の分母となる労働時間の把握が曖昧になる。これではマネジメントができているとは言えない。マネジメントの原則を崩すような制度は即刻止めるべきである(当然のことながら、現在の働き方改革によって実現しようとしている企画業務型裁量労働制の拡張にも賛同しない)。

 ④CSR報告書で勤務実態について記述する。

企業のステークホルダー

 以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2017WIN.65巻3号『コーポレートガバナンス』―コーポレートガバナンスは株主ではなく顧客のためにある」で、上の図を用いた。企業と株主との関係で言えば、企業は株主からいくらの資金を預かり、それをどのような事業に使い、顧客に対してどんな価値を提供し、その結果としてどのくらいのリターンを獲得し、そのうちいくらを配当などの形で還元するのか説明する責任を負っている。私は、これと同じ関係を、他の経営資源を供給するステークホルダーとの関係にも当てはめる必要があると思う。詳細は以前の記事に譲るが、ヒトを供給する家族との関係で言えば、どの程度の労働力の供給を受け、それをどのような業務に使い、顧客に対してどんな価値を提供し、その結果としてどのくらいの利益を獲得し、そのうちいくらを人件費として還元するのかを説明する責任を有すると考える。

 株主に対してはIR報告書で説明責任を果たすことを踏まえれば、企業は家族に対して何らかの形で報告をするのが筋なのかもしれない。だが、これはあまりにも非現実的であるから、実際的な方法としては、企業が公表しているCSR報告書の中に書き込むことになるだろう(したがって、大企業や上場企業が率先して取り組むべきであろう)。手始めに、社員数、社員の労働時間の分布、支払った人件費、人件費に占める割増賃金の割合、割増賃金の金額の分布といった項目を正社員と非正規雇用者とで分けて公表することから始めるとよいと思う。

 ⑤労働基準監督署の職員数を増やす。
 労働基準監督署の労働基準監督官数は3,241名(2016年度)である。だが、日本全国の企業数は約380万社であるから、監督官1人あたりの担当企業数は1,172社となる。これではとても企業の監督などできない。私は少なくとも監督官数を現在の10倍に増やす必要があると考える。そうすると、監督官1人あたりの担当企業数は117社になる。117社であれば、2日に1社のペースで担当企業を訪問し、労働基準法を遵守しているかどうかチェックすることも可能になる。

 過労死・過労自殺につながる長時間労働の是正は、デフレ脱却にもつながると考える。安倍政権が発足してから未だにインフレ目標が達成できていないが、その理由は簡単である。多くの企業が社員を長時間労働させて製品・サービスの供給量を増やし、それを売るためにまた長時間労働をさせている反面、増加する販促費と在庫評価損で利益が圧迫されて、社員に安い賃金しか支払っていないからである。端的に言えば、モノが溢れているのに、社員が消費者の立場に立った時にはカネと時間が不足しているわけだ。これではデフレになって当然である。

 だから、まずは一部の高業績企業でいいから、短時間労働と高賃金を実現させてほしい。その賃金は他の企業の業績が改善され、社員の賃金増へとつながる。長時間労働しなくても製品・サービスが売れると解れば、長時間労働も是正されるであろう。そして、その企業の賃金増は、また別の企業の業績向上・賃金増をもたらし、長時間労働の改善につながる。これが連鎖していけば、日本経済は明るい方向に向かっていくであろう。




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