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エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』―アジア人の部下を日本方式で叱ってはならない
中小企業診断士として独立する前に「顧客接点」と「外注管理」は経験しておいた方がよい

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年08月04日

エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』―アジア人の部下を日本方式で叱ってはならない


異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
エリン・メイヤー 田岡恵

英治出版 2015-08-22

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 以前、ブログ別館の記事「エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』」で取り上げたが、改めて本ブログでも紹介したいと思う。

  《参考記事》
 (メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理(1)―『異文化トレーニング』(2)
 人間の根源的な価値観とマネジメントの関係をまとめてみた―『異文化トレーニング』(以上は旧ブログ)
 トロンペナールス&ターナーによる「文化の基礎次元」の補足

 各国の文化の特徴を研究したものとしては、上記の参考記事でも挙げたように、トロンペナールス&ターナー、クラックホルン&ストロッドベック、ヘールト・ホフステードなどが有名である。本書は「カルチャーマップ」という形で、文化に関する新しい視点を提供してくれる。

カルチャーマップ

 カルチャーマップでは、各国の文化を8つの視点で分析する。①コミュニケーションは、「ローコンテクスト」か「ハイコンテクスト」かという軸でとらえられる。コンテクストとは「文脈」という意味で、ローコンテクストとは、文脈を共有していないことを表す。別の言い方をすると、価値観、規範、文化、経験などを共有していないということである。一般に、西洋はローコンテクストの文化である。多様な価値観を持つ人々が集まる地域であるから、何でもかんでも言葉で表現しないとコミュニケーションが成立しない。これに対して、ハイコンテクストとは、文脈を共有している、つまり価値観、規範、文化、経験などを共有していることを指す。日本は典型的なハイコンテクストの国であり、いわゆる阿吽の呼吸で意味が通じてしまう。

 ②評価は、「直接的なネガティブ・フィードバック」か「間接的なネガティブ・フィードバック」かという軸でとらえられる。面白いのは、ローコンテクストの西洋の国々は否定的な評価を直接的に伝えるかというと、必ずしもそうではないという点である。西洋の中でも、アメリカやイギリスは、否定的な評価を間接的に伝える傾向がある。言葉の上ではそれほど怒っていないようでも、心の中でははらわたが煮えくり返るような思いをしていることがある。これを知らない他の西洋の国々の人々は、アメリカ人やイギリス人の言葉を額面通りに受け止めてしまい、彼らの本音をつかみ損ねる。例えば、イギリス人が「もう少し考えてみてください」と言う時、心の底では「悪いアイデアです。やめてください」と思っている。ところが、これをオランダ人が聞くと、「いいアイデアなんだな。もう少し掘り下げてみよう」と受け止めてしまう。

 ③説得は、「原理優先」か「応用優先」かという軸でとらえられる。原理優先とは、演繹的な思考と言い換えることができる。原理優先の国の人々は、「まず、一般的な原理としては○○である。この原理を今回のケースに当てはめると○○となる。したがって、結論は○○である」というロジックの組み立て方をする。結論が最後に出てくるため、応用優先の国の人からすると非常にまどろっこしく聞こえる。その応用優先の国では、結論が最初に述べられる。「今回の結論は○○である。なぜならば、A、B、Cという事実があるからである」というのが彼らの論理構成である。

 ④リードは、「平等主義」か「階層主義」かという軸でとらえられる。平等主義の国では、フラットな組織が好まれる。これに対して、階層主義の国では、ヒエラルキー型の組織が採用される。⑤決断は、「合意重視」か「トップダウン式」かという軸でとらえられる。通常、平等主義の国では合意重視、階層主義の国ではトップダウン式になるのだが、いくつかの例外がある。例えば、ドイツや日本は階層主義の国であるのに、意思決定は合意重視で行われる。一方、アメリカは平等主義の国であるのに、意思決定はトップダウン式で行われる。

 ⑥信頼は、「タスクベース」か「関係ベース」かという軸でとらえられる。タスクベースとは、仕事上の人間関係を通じて信頼を醸成することである。逆に言えば、仕事上の関係が全てであるという非常にドライな関係である。他方、「関係ベース」の国においては、仕事上の関係だけではなく、プライベートでの関係も重視される。会社での人間関係がプライベートにも介入してくるような、非常にウェットな関係である。⑦見解の相違は、「対立型」か「対立回避型」かという軸でとらえられる。意見が異なる時に、敢えて対立を扇動するのが対立型である。私はドイツ人と一緒に働いたことがある何人かの人から話を聞いたことがあるが、皆一様に「ドイツ人はずけずけ物を言うし、頑固で絶対に自分の意見を曲げない」と言っていた。対立回避型はその名の通り、対立をできるだけ避けようとするタイプであり、日本人はまさにこれにあたる。

 ⑧スケジューリングは、「直線的な時間」か「柔軟な時間」かという軸でとらえられる。直線的な時間とは、別の言い方をすれば時間厳守である。一方、柔軟な時間とは、乱暴な言い方をすると時間にルーズということである。例えば、今ある人と商談をしているとしよう。30分後には別の商談があり、そろそろ移動しないと時間に間に合わなないとする。この場合、日本のように時間を直線的にとらえる国の人々は、次のアポに間に合うよう、今の商談を何とか上手く切り上げようとするだろう。だが、時間を柔軟にとらえる国の人々(中東に多い)は、次の商談の時間を気にしない。今目の前にいる人との関係が重要であり、話が終わるまでは絶対に席を立たない。仮に商談が長引いて次の商談に遅れても、悪びれる様子はないし、相手も遅刻を咎めない。

 上記のカルチャーマップを見ると、フランスとドイツ、日本と中国は比較的近い文化であるように思える。ところが、両国の間には大きな違いがいくつかある。フランスとドイツに関しては、ドイツよりフランスの方がハイコンテクスト寄りであり、意思決定がトップダウン式であり、人間関係がウェットであり、時間に対する意識が柔軟である。日本と中国に関して言うと、中国の意思決定がトップダウン式であるのに対し、日本の意思決定は合意重視であるという決定的な違いがある。また、時間に対する意識も、中国は柔軟であるが、日本人は時間厳守の意識が強い。西洋人だから、東洋人だから皆同じだと一括りに考えるのは、ミスコミュニケーションの元となる。

 同じアジアでも、日本と他のアジアの国で決定的に違うのが、「部下の叱り方」ではないかと思う。先ほどのカルチャーマップを見ると、②評価のところで、日本は「間接的なネガティブ・フィードバック」に寄っていることが解る。この点については少し補足が必要であろう。つまり、日本人が否定的な評価を間接的に伝えるのは、会議などの場に限られるということである。日本人は、会議では波風を立てたくないと考えるため、反対意見をあまりはっきりと言わない(⑦見解の相違とも関連)。ところが、部下と1対1になると、突然高圧的な態度に出ることがある。「お前、ちっとも仕事ができていないじゃないか!」、「このバカヤロー!」など、他の社員が見ている前で、特定の部下を名指しして大声で怒鳴ることがある。

 この日本式の部下指導を、他のアジアの国に持ち込むと危険である。特に、中国、フィリピン、タイ、インドネシアでは気をつけた方がよい。これらの国の人々は面子やプライドを非常に重視する。そのため、人前で叱られると面子やプライドを傷つけられたと感じる。部下はその場で会社を辞めてしまうかもしれない。会社を辞められるだけならまだましな方で、最悪の場合、その社員の家族や親族から復讐(物理的な攻撃)を受けることがある。こういう国々の人に対して否定的な評価を伝えるコツとして、本書では5つのポイントが挙げられている。

 ①グループの前でフィードバックしない。
 ②メッセージをぼかす。
 ③フィードバックをゆっくりと、長い時間をかけて行い、徐々に浸透するようにする。
 ④好ましくないメッセージをぼかすために、一緒に食事などをしながら話す。
 ⑤よいことを言い、悪いことは言わない。

 最後の「⑤よいことを言い、悪いことは言わない」とは、次のようにフィードバックすることである。例えば、部下に3つのドキュメント作成を依頼し、2つのドキュメントはよくできていたが、残りの1つのドキュメントの出来がひどかったとする。この場合、日本人なら「お前、この最後のドキュメントは何だ!?全然できていないじゃないか!」と怒り出すところだが、アジアにおいては出来がよかった2つのドキュメントに着目しなければならない。そして、「最初の2つのドキュメントはよくできていたよ」とだけ言う。すると、部下は「最後のドキュメントについては何も言ってくれなかったから、ひょっとしたら上司の期待水準を満たしていなかったのではないだろうか?」と思ってくれるかもしれない。その可能性に賭けるしかないのである。

 部下に対して否定的な評価を伝えなければならないのが人事考課面談である。こんな状況を考えてみよう。皆さんは、ある情報システム会社のインドネシア支社で部長を務めているとする。部下であるプロジェクトマネジャーに対して、人事評価の結果を伝える面談を行うことになった。事前に手元に用意した紙には次のように書かれている。

 <よかった点>
 (ⅰ)顧客企業の中でシステム導入に反対していたA課長を粘り強く説得したこと。
 <悪かった点>
 (ⅱ)自社で開発できない機能まで安易に引き受けて、部長である自分に承諾を取らないまま外注先を使った結果、プロジェクトのコストがかさんだこと。
 (ⅲ)前任の部長がプログラムの品質管理に厳しかったためか、必要以上に細かいプログラムテストにこだわりすぎて、バグが一向に減らなかったこと。
 (ⅳ)マネジャーなのに部下の仕事を手伝いすぎている。そのせいで、顧客とシステムの仕様を擦り合わせたり、プロジェクトの進捗を報告したりする時間が十分に確保できていない。
 ⇒総合評価はA(よい)~E(悪い)の5段階のうち、「D」。

 (※私がIT業界出身で、コンサルティングでもIT業界のクライアントが多いため、すぐに作成できるケースがIT業界のものになってしまう点はご容赦いただきたい)

 部下が日本人であれば、上記で書かれている内容をそのまま伝えるだろう。よかった点はよかったと言い、悪かった点は悪かったとはっきり言ってあげるのが部下のためと考えられている。しかし、相手がアジア人(このケースではインドネシア人)の場合は一工夫必要である。ネガティブなことをそのまま伝えると、相手のプライドを傷つける恐れがある。よって、ネガティブな事実の中からできるだけポジティブな要素を見出し、それを伝えるように努めなければならない。

 例えば、(ⅱ)の「自社で開発できない機能まで安易に引き受けて・・・」という箇所は、肯定的にとらえれば「顧客のニーズをきめ細かく吸い上げて対応した」ということになる。よって、まずはその点を強調する。その上で、「顧客のニーズに追加対応する際には、自社で本当にできるのか、コストはどのくらいかかるのかをもう少し慎重に検討した方がよい」と、やんわり改善点を伝える。(ⅲ)に関しては、「前任の部長のやり方に引きずられなくてもいい。君がいいと思う方法でやってみなさい」と言うのも1つの手であろう。(ⅳ)にある「マネジャーなのに部下の仕事を手伝いすぎている」という箇所は、肯定的にとらえれば「マネジャーとして部下の支援を十分に行っている」ということになる。それを強調した上で、「部下を支援する時間と同じくらいの時間を、顧客とのコミュニケーションにも費やしてほしい」と提案する。

 ただし、これだけ肯定的な点を見出して部下にフィードバックしても、総合評価の「D」は変更できない。上記のようにできるだけ肯定的にフィードバックした結果、部下から「なぜ自分はDなのですか?」と聞かれたら、こう答えるとよい。「今期は他のプロジェクトマネジャーが君以上にすごく頑張ったから、相対評価でDなんだ」。おそらく、これでは部下は十分に納得しないかもしれない。また、上司の側も、本当はプロジェクトマネジャーとしてもっとこうしてほしいと思うところがたくさんあるだろう。その場合は、前述した「否定的な評価を伝えるコツ」の「④好ましくないメッセージをぼかすために、一緒に食事などをしながら話す」に従うとよい。部下を何度か食事に誘い、食事をしながらプロジェクトマネジャーのあるべき姿を何回かに分けてゆっくりと伝えていく。

 アジアで事業展開をしている企業から話を聞くと、どの企業も人事労務管理で非常に苦労されている。現地の法制度や行政とのやり取りの仕方が日本とは全く異なるのも理由の1つであろうが、日本式の部下指導・部下育成のやり方がアジアでは通用しないという点が非常に大きいのではないかと思われる。決めつけはよくないが、アジアの人々は必ずしも日本人と同等の能力を持っている人ばかりとは限らない。彼らに対して、日本人は、恐らく自分が昔日本国内で上司からされたように、厳しく指導をしたくなる。だが、アジアではそれを我慢して、可能な限り部下のプラスの面を見出し、部下が自然と育っていくのをじっくりと見守る懐の深さが求められる(ただし、不正は別問題である。不正に対しては毅然とした態度をとらなければならない)。

2015年07月03日

中小企業診断士として独立する前に「顧客接点」と「外注管理」は経験しておいた方がよい


 最近は若くして独立する中小企業診断士が増えている(それでも、企業に勤めたままの診断士=企業内診断士の割合は依然として7割に上るらしい)。ただ、診断士は公認会計士・税理士や弁護士、弁理士など他の士業と異なり、法律で定められた独占業務がないため、独立開業したからといってすぐに仕事が来ることはまずない。私が独立したばかりのころは、年配の先輩診断士から、「何社かの中小企業と顧問契約を結んで安定収入を得るまでは、公的機関の窓口相談業務や専門家派遣業務を請け負うとよい」と助言された。

 ところが、窓口相談業務や専門家派遣業務も、若手の独立診断士にとって決して受注がやさしいものではない。公的機関は能力よりも経験を重視する傾向が非常に強い。中小製造業の販路開拓の専門家であれば、大手メーカーでだいたい10年以上製造・販売に携わった経験が要求される。海外展開支援の専門家の場合は、商社などで貿易業務を10年以上行ったとか、海外駐在の経験が5年以上ある、などといった条件がつく。

 だから、私みたいに社会人経験が7~8年、しかもベンチャー企業の経験しかないまま独立するのは、実は非常に無謀である(私がなぜこの年齢で独立することになったのかについては、別の機会に述べたいと思う)。もし独立を考えている若手の企業内診断士の方がいれば、あと5~10年ぐらいは今の企業に勤めるとよい、とアドバイスを送りたい(以前の記事「中小企業診断士として独立してよかった2つのことと、よくなかった5つのこと」を参照)。

 その5~10年の間に最低限経験しておいた方がよいと思う業務が2つある。1つ目は「顧客接点」における業務である。顧客接点における業務とは、営業、販売、接客、コールセンター、クレーム対応、アフターサービスなどのことである。私はベンチャー企業にいたせいか、何でもやらされていたので、顧客接点で働くことは当たり前だと思っていた。しかし、診断士になる人は大企業の人が多いせいか、顧客接点を経験していない人が案外多い。

 これも先輩の独立診断士の言葉だが、「コンサルティングとは全人格的なビジネス」である。コンサルタントは、顧客企業から”人間として”全幅の信頼を獲得しなければならない。信頼されるコンサルタントになるためには、自らの一挙手一投足を洗練させる必要がある。顧客企業はコンサルタントの言動を、コンサルタントが思っている以上に細かく観察しているものだ。全人格的な素養は机上では絶対に身につかず、顧客とじかに接する中でしか培うことができない。

 しかし、顧客接点を経験していない(と推測される)独立診断士は、身だしなみに無頓着であったり(鼻毛が出ている独立診断士を何人も見たことがある)、電話やメールでおよそ顧客に対する言葉とは思えないような高圧的な言葉遣いをしたり、敬語が正しく使えなかったり(タメ口をきけば顧客との心理的距離が縮まると勘違いしている人がいる)、足を組みふんぞり返って顧客の話を聞いたり、会議中に携帯電話をマナーモードにしなかったり、さらに電話がかかってくると会議を抜け出して電話を優先したりと、驚くような行動をとる人が結構いる。

 こういう細かい言動の不備から、信頼感は壊れていくものである。そのくせ、コンサルタントとして正論を吐く。診断士の試験には合格しており、なまじ地頭はよいだけに、余計に厄介だ。人は、自分があまり信頼していない相手から正論を言われると、それがどんなに正しいと頭で理解していても、かえって反発したくなるものである。ローランド・ベルガーの遠藤功氏は、コンサルタントが策定した戦略が実行されるためには、「適社性」と「納得性」が必要であると説く。コンサルタントの不誠実な行動は、顧客企業の「納得性」をくじいてしまう。
 適社性とは「自社の持つ組織能力やコア・コンピタンスに裏打ちされた競争戦略となっている」ことである。いくら時代の潮流を読んだ斬新な戦略であっても、それが自社の「持ち味」と合っていなければ実行可能な戦略とはなりえない。

 納得性とは「経営のトップから現場に至るまでの全員が理解し、共感する『腹に落ちる』競争戦略となっている」ことである。戦略を実行し、具体的な顧客価値を創出するのは現場である。現場がその気にならなければ、戦略など無価値である。
(遠藤功『現場力を高める』〔東洋経済新報社、2004年〕)
現場力を鍛える 「強い現場」をつくる7つの条件現場力を鍛える 「強い現場」をつくる7つの条件
遠藤 功

東洋経済新報社 2004-02-13

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 「適社性」を理解していない診断士も多い。別の先輩診断士は、「カラスが黒であっても、顧客が『カラスは白である』と言うのならば、やはりカラスは白なのである」と語っていた。たとえ試験勉強でそう学習したからとしても、また純粋に論理分析を行った結果そういう結論になったからとしても、「カラスが黒である」の一点張りしかできないコンサルタントでは幅が狭すぎる。これでは「適社性」を無視しており、顧客にとって受け入れられない正論になってしまう。

 顧客が「カラスは白である」と主張するのならば、その認識をいったん受け止め、カラスが白であるという前提に立って、そのカラスが外敵から身を守り、餌を獲得し、子孫を残すことができるようにするためにはどうすればよいのかを考えるのがコンサルタントの仕事である。

 これは決して、顧客に迎合することを意味するのではない。顧客の認識を前提としてロジックを組み立てた結果、それではどう頑張っても業績が好転しないと判断した場合には、顧客の認識を正す必要がある。事実、先ほどの言葉を語った診断士は、顧客企業の中国子会社で不正を働いた疑いのある経理担当者を、独学で勉強した中国語で説教するような人である。どういう時に顧客の認識を尊重し、どういう時に顧客に意見するのかという線引きは、顧客接点を経験していないと、なかなか判断できるようにならない。

 もう1つ、独立する前に経験しておいた方がよい業務は、「外注管理」である。独立診断士はチームで仕事をすることが多いが、それぞれの診断士は皆、自分の会社を持っている。よって、お互いに仕事の受発注をしなければならない。ところが、金額や契約内容を定めないまま発注したり、契約内容が決まっていないことをいいことに次から次へと仕事を命令したり、プロジェクトが終わる頃になってようやく自分の報酬が決まったり、その報酬が全く割に合わなかったりと、管理が非常にずさんで辟易することがある(そういう仕事を受けてしまう私にも問題があるのだが)。

 年配の診断士に多く見られるのだが、「この仕事は君の勉強になるから」と言って、若手の診断士に手弁当で(手弁当が出ればまだマシな方で、本当に無報酬の場合もある)仕事をやらせる人がいる。ある独立診断士から聞いた話では、年配の診断士から「この仕事は君の勉強になるから」と言われ、仕事の内容も聞かされないまま当日現場に集合したところ、スーパーマーケットの棚割管理システムに登録する商品の写真を3,000点分撮影する仕事だったという。

 本当に勉強になる仕事であれば、年配の診断士が自分の勉強のために自分でやればいい。診断士は仲間であると同時に、お互いが競合他社である。年配の診断士が、わざわざ敵に塩を送るようなことをする義理はない。だが、勉強になるという仕事が、実際にはさして勉強にならないことは火を見るよりも明らかである。面倒でお金にならないことを隠すために「この仕事は君の勉強になるから」という言葉が使われることに、私は強い違和感を覚える。

 相手の診断士は外注先である。通常、外注先を使う場合には、外注先に依頼したい仕事の内容を定めて見積依頼を出す。外注先は自社の収益性を考慮して見積書を提示し、発注者と金額の交渉を行う。発注者と外注先との間で、仕事の内容と金額に合意すれば仕事が始まるし、条件が折り合わなければ破談になる。無事に仕事が始まっても、途中で仕事の内容に変更が生じる場合は、双方の交渉によって契約を変更する。以上のことは、外注先を使う人ならば普通にやっているわけだが、どうもこの辺りを解っていない独立診断士が少なくない。

 こういう診断士は、他の診断士のことを外注先としてではなく、自分の部下として見ているのではないかと思う。上司と部下の関係であれば、仕事の内容をあらかじめはっきりさせなくてもいいし、仕事の内容に変更があったらその都度部下に命令すればよい。また、給料の面倒は会社が見てくれるから、上司も部下も、その仕事が割に合うかどうかなどいちいち気にする必要がない。言ってしまえば、なあなあの関係で何とでもなる関係なのである。しかし、その関係を独立診断士同士の間に持ち込むと、悲劇が発生する。

 先ほど、診断士は大企業勤めが多いと書いたが、大企業にいれば部下育成の経験はあるだろう。しかし、外注管理は購買業務に携わっていなければ経験することがない。そのため、外注管理が十分にできない独立診断士が生まれてしまうと考える。発注者と外注先では、力関係はもちろん発注者の方が上なのだが、その関係に甘えていい加減な管理をしていると、いつかしっぺ返しを食らう。清水建設社長の宮本洋一氏が、若い時の経験を次のように振り返っている。
 ある現場で、鉄筋圧接工の親方に、「次はこの日に来てください。それまでにこういう段取りをつけておきますから」と約束していたにもかかわらず、作業が予定どおり進まないまま、当日を迎えてしまった。

 彼は現場に現れるや否や、「これじゃ、仕事にならない。俺たちは請け負った仕事をして日銭を稼いでいる。部下にもちゃんと給料を払わなきゃいけない。どういうつもりだ。もう二度とおまえのところには来ない」と言って、怒って帰ってしまったのである。
(清水洋一「失敗を恐れずチャレンジ精神を燃やし続けよ」〔『致知』2015年6月号〕)
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