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土屋勉男、金山権、原田節雄、高橋義郎『革新的中小企業のグローバル経営―「差別化」と「標準化」の成長戦略』―共著と中小企業研究の悪癖が両方とも出た1冊

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京から実家のある岐阜市にUターンした中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。たまにモノローグ。双極性障害Ⅱ型を公表しながら仕事をしているのは、「双極性障害(精神障害)の人=仕事ができない、そのくせ扱いが難しい」という世間の印象を覆したいため。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年04月09日

土屋勉男、金山権、原田節雄、高橋義郎『革新的中小企業のグローバル経営―「差別化」と「標準化」の成長戦略』―共著と中小企業研究の悪癖が両方とも出た1冊


革新的中小企業のグローバル経営 ―「差別化」と「標準化」の成長戦略―革新的中小企業のグローバル経営 ―「差別化」と「標準化」の成長戦略―
土屋 勉男 金山 権 原田 節雄 高橋 義郎

同文舘出版 2015-01-22

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 ローカルニッチトップの中小企業の研究に関する共著である。いきなりの悪口で恐縮だが、中小企業の研究書は一体何が言いたいのかよく解らないものが多く(たいていは中小企業の多様性を言い訳にしている)、中小企業診断士でありながら読むのを敬遠してきた。また、共著というのはそれぞれの著者の考え方や文章スタイルを合わせるのが難しく、その調整に失敗したものは、これもまた読んでいて何が言いたいのか解らない代物になってしまう。残念ながら、本書は中小企業研究と共著の悪癖が両方とも露呈してしまった1冊であった。

 タイトルにある「革新的中小企業」とは、次のような企業のことである。
 革新的中小企業の特徴は、世の中にないまったく新しい製品技術を先行投入する事例がみられる。また他社に差別化した市場や技術領域で競争するため、独占に近い「オンリー1」ビジネスを展開する場合が多い。しかも製品技術の先行投入は、1回だけではなく、常に先行開発を持続することが重要である。多くの革新的中小企業は、経営理念や社是の中に研究開発の重要性をうたい、「持続可能な開発」の仕組みを構築している企業である。
 このような経営を実現するために、本書のサブタイトルにあるように、「差別化」と「標準化」を行っているというわけである。だが、本書で紹介されている11社の事例を見ると、確かにニッチ市場で高いシェアを保っているものの、標準化によって高いシェアを実現している企業と、多品種少量生産で高いシェアを獲得するに至った企業が区別されていないように思える。

 例えば、株式会社南武は、自動車用と製鉄用の特殊油圧シリンダで高いシェアを持つ企業だが、特殊シリンダは自動車メーカーなど顧客によってニーズが様々であるから、多品種少量生産を行っていると推測される。また、工作機械用の3ポジションイネーブルスイッチを製造するIDEC株式会社に関しては、工作機械自体が半受注生産型のカスタマイズ製品であるから、イネーブルスイッチもそれに合わせて多種多様になっていると思われる。栄通信工業株式会社(精密ポテンショメータを製造)や西精工株式会社(ナットを中心としたファインパーツを製造)は、本書に掲載されている写真を見るだけで、多品種少量生産型の企業であると解る。

 それに、その市場で「オンリー1」であるならば、競合他社が存在しないわけだから、差別化のしようがない。この点でもサブタイトルは矛盾を抱えている。また、引用文では、革新的中小企業は製品技術を常に先行開発、先行投入するとある。一般に、イノベーションにおいては、市場に一番乗りした企業が勝つとは限らないと言われている。むしろ、一番乗りした企業は市場のニーズを先読みしすぎて失敗することが多い。このことを知っているP&Gは、新製品を必ず2番手で市場に投入するそうだ。ただし、革新的中小企業に限っては、ターゲット市場に競合他社がいないから、新製品を市場に投入すれば、必ず1番手になるということなのだろう。

 新製品を市場に投入する時、「特許」と「標準化」のどちらを選択するかは重要な問題である。特許は「守りながら」市場を拡大する戦略であるのに対し、標準化は「攻めながら」市場を拡大する戦略であると言える。この点については、『一橋ビジネスレビュー』2017年WIN.65巻3号の「日本発の国際標準化 戦いの現場から(第1回) 大成プラス『ナノモールディング技術』」(江藤 学、鷲田祐一)が詳しい。大成プラス株式会社は、金属と樹脂の直接接合を可能にしたナノモールディングという技術を市場に展開するにあたって、より多くの企業にこの技術を使ってもらうことが、結果的に自社の利益に跳ね返ってくると判断し、特許でクローズにするのではなく、標準化によって敢えてオープンにするという選択を下した。

一橋ビジネスレビュー 2017年WIN.65巻3号―コーポレートガバナンス――「形式」から「実質」へ変われるか一橋ビジネスレビュー 2017年WIN.65巻3号―コーポレートガバナンス――「形式」から「実質」へ変われるか
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-12-08

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 この「特許か、標準化か」という問題について書かれたのが本書の第5章であり、極めて重要な章なのだが、内容がひどくてがっかりした。
 生き残る中小企業は、円(※この円については省略)上部の左上のビジネス―技術競争に特化している。消える中小企業は、円上部の右上のビジネス―価格競争に特化している。この事実は、同じく大企業にもいえる。
 国際ビジネスに限っていえば、商品販売に向いているのが欧米人(白人)である。それにくらべて、技術開発は国を選ばない。頭脳を選ぶ。だから、その担当はベトナムでも、日本でも、中国でも、もちろん欧米でも構わない。発展途上国の企業でも、技術が特段に優れていれば、それだけで技術開発から商品販売まで、通しのビジネスが可能である。
 製造販売業では、商売の強みを労賃という量(価格の価値)に置くか、技術という質(商品の価値)に置くか、という選択も必要になる。価格で勝負する企業の生命は1年、品質で勝負する企業の生命は10年、技術で勝負する企業の生命は100年、それが妥当なところであろう。
 価格競争が長続きしないという点には賛同するが、それにしても恐ろしく技術偏重の文章が続くのがこの5章である。技術が優れていても市場で勝てるとは限らないことは、ここ数十年の間に日本企業が嫌というほど経験したことではなかったか?顧客は技術の中身など評価しない。スマートスピーカーや電気自動車にどんな技術が使われているのかは、顧客の知ったことではない。顧客にとって大事なのは、「その製品・サービスがどのような価値を提供してくれるのか?」である。破壊的イノベーションで知られるクレイトン・クリステンセンの言葉を借りれば、「どんなジョブを解決してくれるのか?」である。そのためには、技術が優れているか劣っているか、進んでいるか遅れているかは関係ない。高い顧客価値を提供できるのであれば、劣った時代遅れの技術を使っていても構わないのである。アップルの初期のiPodはまさにそうであった。

 第5章には、「デファクト標準」、「デジュール標準」、「デファクト知財」、「デジュール知財」という言葉が登場する。「デファクト知財」、「デジュール知財」とは耳慣れない言葉であるが、「デジュール=公的機関が定めた」という意味合いであることを踏まえると、「デジュール知財」とは特許権をはじめとする産業財産権のことである。これに対して、「デファクト知財」は「デジュール知財」の反対であるから、ノウハウ、アイデアなどを秘匿しておくことを指す。第5章の著者は、事業の成長に応じて、標準と知財の戦略が変化すると述べている。誕生期には「デファクト標準/デファクト知財」、成長期には「デファクト標準/デジュール知財」、成熟期には「デジュール標準/デジュール知財」へと変化していく。言い換えれば、誕生期はクローズであるが、成長期、成熟期とステージを経ていくとオープンに移行するというわけである。

 第5章は本書の中で最も読みにくかったが、私なりに下図のような整理もできるのではと仮説を立ててみた。「市場の成長スピードが速いか緩やかか?」という軸と、「競合他社との関係が協調的か敵対的か?」という2軸でマトリクスを作る。市場の成長スピードが緩やかで競合他社との関係が協調的な場合、競合他社と協力しながら市場を成長させることが重要となるから、公的機関のお墨つきを得た「デジュール標準」が選択される。一方、競合他社との関係が協調的だが市場の成長スピードが速い場合は、協調的な企業が提供する一連の製品・サービスが市場の標準となり、「デファクト標準」が成立する。例として、ウィンテル連合が挙げられる。

 市場の成長スピードが速く競合他社との関係が敵対的な場合は、競合他社による模倣で損害を受けないように特許権などを取得する必要がある。よって、「デジュール知財」となる。製薬業界においては、新薬が完成すると市場が爆発的に広がるため、特許戦略をいかに展開するかが経営に大きな影響を与える。これに対して、競合他社との関係が敵対的であるが市場の成長スピードが緩やかな場合は、反対に敢えて特許権などを取得せずに秘匿するという選択肢もあり得る。つまり「デファクト知財」である。例えば、お菓子業界を見てみると、江崎グリコはポッキーに関して、製造方法や製造設備の特許を一切取得していない。

「標準化」と「知財」の使い分け

 本書を読んでも解らないことは山ほどある。五月雨式にここに書いておく。
 ・本書で紹介されている革新的中小企業は、そのニッチ市場をどうやって発見したのか?(事例を読むと「たまたま」という印象が拭えない)他の市場は検討しなかったのか?
 ・大手企業などの他社が開発を諦めるほどの高難度の技術をどのように開発したのか?
 ・毎年の研究開発費の予算をどのように捻出しているのか?
 ・毎年の研究開発のテーマはどのようにして決められるのか?
 ・自社の技術はポートフォリオ管理しているのか?
 ・高難度の技術を開発する人材をどのように育成しているのか?
 ・革新的中小企業の特徴に「規模を追わない」というものがあるが、規模を追わない経営の中で、役職やポスト以外の手段をどのように用いて社員のモチベーションを上げているのか?
 ・特許と標準化はどのように使い分けるべきなのか?あるいは、両者を組み合わせる場合にはどのような点に注意をすればよいのか?
 ・ISOによる標準化を競争力強化のためにどのように活用しているのか?(ISOはプロセスの標準化、デファクト標準は製品の標準化であり、両者はどのように関連するのか?)
 ・技術開発にあたって、地域産業クラスターの力をどのように活用しているのか?
 ・技術開発にあたって、産学連携にはどのように取り組んでいるのか?
 ・革新的中小企業はグローバル市場でも高いシェアを獲得しているが、どの国・地域に進出するかはどうやって決めたのか?(単に展示会があったからという理由ではなく)
 ・輸出の場合、社内でどう準備を進めたのか?社内体制はどうやって整備したのか?
 ・輸出の場合、最終顧客の声をどのように拾い上げ、製品改善に活かしているのか?
 ・技術重視の中小企業の場合、往々にして営業が受け身になりがちだが、その営業をどのようにして能動的な集団へと変えたのか?
 ・営業と開発の調整・連携・協調はどのようにして達成されているのか?
 ・革新的中小企業における経営者の役割は何か?一般の中小企業と何が違うのか?
 ・経営者の思いはマネジャーなどを通してどのように一般社員に届けられるのか?逆に、一般社員の声をボトムアップ的に経営者に上げるようなことはやっているのか?

 本書は学術書である。学術書の一般的な構成は次の通りである。
 ①同書で取り上げるテーマに関する先行研究のレビュー。
 ②①を踏まえた上での著者による仮設の設定。
 ③②の仮説を検証するために実施した調査の内容とその結果。
 ④同書の学術的な価値・成果と今後に残された課題。

 この流れに沿ってきれいに書かれている本として、ブログでは取り上げたことがなかったが、川上智子『顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス』(有斐閣、2005年)がある。同書は内容もさることながら、学術書としてのまとめ方も非常に参考になる。

顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス
川上 智子

有斐閣 2005-08-01

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 これに比べると、本書は中小企業に関する先行研究のレビューもないし、特許と標準、クローズとオープンに関する仮説もない。11社の事例は視点がバラバラであり、結局何を主張したかったのかが最後まで解らない。学者ならば、少なくとも検証したい仮説をまずは設定し、それを踏まえて定量調査や定性調査(事例研究を含む)を行ってほしかった。

 個人的に検証してほしかった仮説は、前述のマトリクスもそうであるが、もう1つある。下図はグローバル経営の発展の段階を簡単に示したものである。まず、生産面(縦軸)では、国内生産⇒生産委託⇒現地生産(現地に自社工場を保有する)⇒水平分業体制(例えば、タイで部品を製造し、ベトナムでその部品を組み立てる、など)と発展していく。次に、販売面(横軸)では、国内販売⇒輸出・代理店⇒現地販社⇒販社ネットワーク(例えば、タイとフィリピンに販社があるとして、タイの在庫が足りない場合にフィリピンの在庫を補充するなど、グローバルレベルで各地の販社の在庫を調整する、など)と発展していく。そして、グローバル化は、概ね矢印の方向に向かって進展していく(現実的な話をすれば、多くのグローバル企業はまず代理店や販社を通じて海外市場にアクセスし、海外でも自社製品が売れると手ごたえを感じてから現地工場を作る場合が多いため、下図のようなきれいな矢印にはならない)。

グローバル経営の発展と「クローズ―オープン」の変化

 私の仮説は、「グローバル化の進展によって、クローズからオープンへと移行する割合が高くなるのではないか?」というものである。この仮説に従って、中小企業に質問票を配布し、その企業がグローバル化のどの段階にあるのか、その企業の戦略がクローズなのかオープンなのかを回答してもらって、その結果を定量分析する。そして、必要に応じ事例研究で調査を補完する。本書でも、せめてこれぐらいのことはやってほしかったというのが正直なところである。



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