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『「慰安婦」戦、いまだ止まず/台湾は独立へ向かうのか/家族の「逆襲」(『正論』2016年3月号)』―朝鮮半島の4つのシナリオ、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年04月15日

『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他

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正論2017年5月号正論2017年5月号

日本工業新聞社 2017-04-01

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 『正論』2017年5月号の記事は5月にアップしようと思ったが、朝鮮半島の情勢が想像以上に緊迫してきたため、急遽4月にアップすることとした。

 (1)以前の記事「『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他」で、朝鮮半島で起こり得るシナリオのうち、最も可能性が高く、かつ日本にとって最悪なのは、今度の韓国の大統領選挙で文在寅氏などが当選して親北左派政権が誕生し、中国の支援を受けて北朝鮮あるいは韓国主導で、朝鮮半島に核兵器を持った単一の共産主義国家が誕生することだと書いた。だが、ここに来て事態は急変している。

 ①まず、アメリカは本当に北朝鮮を先制攻撃するのかという問題がある。シリアが化学兵器を使用したという理由でアメリカがシリアを空爆し、ロシアの軍事拠点を破壊したことで、親ロ路線を進んでいたトランプ政権は完全に方針転換を余儀なくされた。プーチン大統領は、現在の米ロ関係は史上最悪だとまで述べている。このタイミングで北朝鮮を攻撃すれば、次は中国をも敵に回すことになる。ロシアと中国に同時に対処できる力が今のアメリカにあるだろうか?

 ②仮にアメリカが北朝鮮を攻撃するとして、何を大義名分に掲げるのかも問題である。シリアの場合は、化学兵器禁止条約違反を理由に空爆を行った。北朝鮮の場合、核心は核兵器にあるわけだが、現在のところ、核兵器を完全に禁止する条約は存在しない。核拡散防止条約(NPT)はあるものの、北朝鮮は同条約から脱退している。よって、核兵器を保有しているという理由で攻撃するという論理は成り立たない。もっとも、北朝鮮がマレーシアで金正男氏をVXで殺害しており、化学兵器を大量に保有しているという報道もある。アメリカなら、それを口実に攻撃をして、ついでに核関連施設を破壊するということも考えそうだが、理屈としては苦しい。

 ③アメリカが攻撃をする場合は、アメリカに核兵器が飛んでくることを防ぐのはもちろんのこと、同盟国である日本や韓国に被害が及ばないようにするために、ICBM(大陸間弾道ミサイル)と短距離ミサイルの基地を集中的かつピンポイントで一斉に攻撃すると思われる。また、同時に、北朝鮮のミサイルシステムに対して、大量のサイバー攻撃を仕掛けるであろう。さらに、核のボタンを握っている金正恩氏の斬首計画も進行するはずである。これらの作戦は短期決戦で行われ、かつミスなく遂行することが要求される。

 ④トランプ大統領は、中国が北朝鮮問題のカギを握っていると述べている。先の米中首脳会談でトランプ氏は習近平氏との昵懇をアピールし、中国が北朝鮮にさらなる強力な圧力をかけてくれることを期待している。その裏では、トランプ氏が対中貿易赤字の面で中国に大幅に譲歩したと推測される。だが、中国がどのようにして協力するのかは、どの報道を見てもいまいちピンとこない。1つ言えるのは、アメリカが北朝鮮を攻撃するのを中国は黙って見ていろという約束ではないのは確かである。北朝鮮をアメリカに取られることは、中国にとってアメリカの脅威が北上することを意味するから、中国としては望ましい事態ではない。

 ここからはかなり大胆な予想であるが、アメリカは中国に対し、中国が庇護していた金正男氏を暗殺された報復として、中国が金正恩氏を斬首することを要求したのではないかと考えている。そして、中国共産党が新たに正統性を付与した政権を打ち立てる。そうすれば、中国としても、北朝鮮を従来通りアメリカとの間の緩衝地帯として活用することができる。ただし、中国と北朝鮮が今まで構築してきた深い関係は、アメリカとの貿易という金銭的な価値と天秤にかけられるような簡単なものではない。中国が約束を履行しない可能性は十分にある(そもそも、先の米中首脳会談では、共同声明すら発表されていない)。

 ⑤アメリカによる攻撃のタイミングはいつなのかも不透明である。①で述べたように、シリア問題が深刻化しているため、アメリカが今すぐに北朝鮮を攻撃する可能性は低いと見ている(と書いたそばからアメリカが攻撃するかもしれないが)。シリア問題はヨーロッパの難民問題と関係しており、世界的な問題であるという意識が共有されている。一方、北朝鮮の核問題に関しては、残念ながらそこまで至っていない。ヨーロッパ諸国は、極東の小国が好き勝手に暴れているというぐらいの認識しか持っていない。つまり、北朝鮮問題は世界的に見て優先順位が低い。それに、アメリカが北朝鮮を攻撃する場合、韓国の軍隊が投入されることになるが、韓国軍の最高指揮官である大統領は現在不在である。だから、大統領選の結果を待つ必要がある。

 ⑥北朝鮮は、アメリカが先制攻撃をしてきたら、在日米軍基地をミサイルで攻撃すると公言している。仮に日本にミサイルが飛んできた場合、日本の自衛隊はこれを迎撃できるのであろうか?これについては、私も日本の軍事情勢に詳しいわけではないため、よく解らない。ただ、本号によると、海上自衛隊は日本海に常時イージス艦を1隻警戒配置しているが、日本の迎撃技術では一度に2発しか撃てない。一方で、北朝鮮は4発以上のミサイルを同時に発射する技術を確立している。したがって、北朝鮮のミサイルのうち、一部は日本本土を直撃するリスクがある(加藤達也、古田博司「私を弾圧した朴政権の最期」より)。

 ⑦⑤で述べたように、韓国は現在大統領が不在であるから、5月の大統領選が終わって政権が落ち着いた頃でなければ、現実的には北朝鮮を攻撃できないと思われる。ただし、ここで問題なのは、冒頭でも書いたように次の政権が親北左派になった場合である。アメリカの北朝鮮攻撃に対し、韓国が寝返るかもしれない。つまり、米韓同盟を破棄し、北朝鮮とともにアメリカと戦うというシナリオである。さらに、ここに加えて、中国までもが裏切り、北朝鮮を支援するようになれば、アメリカは南北から挟撃され、非常に苦しくなる。朝鮮戦争は長期化する恐れがある。

 (2)以前の記事「山本七平『人間集団における人望の研究』―「先憂後楽」の日本、「先楽後憂」のアメリカ」などでも書いたが、日本人は基本的に利他的な人種である。他者から何かを得たければ、自分からまずは何かを他者に与える。他者から何かをしてほしくなければ、自分がまずはそれを放棄する。日本人には謙虚な姿勢で自己を犠牲にする精神が身についている。確かにこれは日本人の美徳であり、私も日本が世界に誇るべきことの1つであると思う。

 この利他的な精神、別の言い方をすればお人好しの精神は、国内だけでなく国際政治の舞台でも発揮される。以前の記事「守屋武昌『日本防衛秘録―自衛隊は日本を守れるか』―基地の必要性を国民に納得させることはできない」でも書いたように、通常は自国をどう防衛するかという議論が先にあって、その議論が成熟したのちに国際貢献を検討するものであるが、日本の場合はこの議論が逆になっている。PKO法が20世紀に成立したのに対し、安保法制はようやく2年前に成立したにすぎない。駆けつけ警護は可能であるのに、海外における邦人救出については依然としてハードルが高い(だから、北朝鮮の拉致問題が一向に解決しない)。日本の経済はもう20年ぐらいずっと横ばいで苦しい状態なのに、海外支援には熱心に資金を供給する。

 ただ、(1)でも見たように、国際政治の舞台では、日本の利他的精神が全く通用しない相手がいるという事実から目を背けることはできない。左派であれば、戦争が起きるのは各国が武器を持っているせいだから、武器を全廃しよう、日本の憲法のように平和主義を採用しようと言うだろう。だが、「日本人は相手を攻撃しないから、海外の人も同じように考えるべきだ」という主張は、利他的であるように見えて、実は自分の都合を相手に押しつけるエゴイスティックな論法である。国内の人間関係と、国家間の関係は性質が違うことを左派の人々は理解していない。

 国家間の関係は、不信、緊張が基本である。国家の主たる役割は、主権、領土、国民を守ることである。これら3要素が、いつ何時、諸外国から侵害されるか解らないという不信感を国家は抱いている。よって、国家は自ずと利己的、自己保存的にならざるを得ない。そのために、軍隊という暴力を持つ。その軍隊によって外国からの脅威を低減させることができているから、国内の人間は安心して利他的に振る舞うことができる。相手を信頼して取引をすることができる。

 ここで左派は次のように言うだろう。国家という機構があるから、軍隊という暴力が発生する。世界同時革命によって世界政府を作り、世界中の人々が平等になれば、世界中で信頼が醸成され、戦争はなくなるのではないかと言うわけである。ただし、世界中で完全なる平等を実現するには、世界中どの地域に行っても同じように作物が収穫できて食べるのに困らず、世界中どの地域に行っても同じように天然資源が入手できて産業に困らないといった状態が前提となる。ところが、現実の世界はそうはなっていない。世界各地は非常にバラエティに富んでいる。ということは、どうしても土地や資源の奪い合いが避けられない。つまり、国家が発生する。

 国家とは、領土内の資源(国民を含む)を最大限に活用して、国力を増強するためのルールを定める機構である。世界の地理は不釣り合いであるから、国家が生じる。そして、各国のルールが異なるから、国家には多様性が生まれる。世界政府を提唱したカントは、そういうルールには普遍的なルールがあると主張した。だが、実際にはそれぞれの国家が抱える資源の量や質が異なるので、各国の事情に応じたルールが策定される。さらに、それぞれの国家は、隙あらば他国との格差を埋めようと狙っている。相互不信を出発点として徐々に信頼関係を構築し、条約などを締結する。それが無理ならば暴力的な手段に出る。日本国内と同じやり方で、最初から相手を信頼して下手に出ることは命取りになりかねない。これが国際政治の現実なのである。

 (3)本号の本筋からは外れるのだが、「日本虚人列伝」という連載で内田樹氏のことが取り上げられていた。人生相談では非常に的確な助言をするのに、こと問題が政治となると、まるで頓珍漢な回答をしてしまうことを批判している記事であったが、その中にこんな記述があった。
 広告代理店に就職してみたいという学生が就職活動の準備として「何やっとけばいいんですか?」という質問をしている。(中略)

 しかし、内田氏の回答は見事だ。問題に対する「正解」を求ているこの学生は「クリエイター」に向かないから、広告代理店に就職するのは止めた方がいいというのだ。そして、「最低限これだけはやっておけばいい」という最低限の水準を求める行為そのものを「そんなことをやっていても何にもなりませんよ」と一蹴する。さらに、最低レベルだけをこなすような人間は「いくらでも換えが利く」人間であり、「ある日いなくなっても誰も困らないし、誰も気がつかない」とまで断じている。
(岩田温「日本虚人列伝 第8回「内田樹」 売れっ子思想家先生が、見当外れの政治談議をつづける理由」)
 この内容には私も同感である。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第25回)】「顧客から100を要求されたら101を提供すればよい」というマインド」で、顧客からの要求を少し上回る成果物を出せばよいと考えているマネジャーの話をしたが、目標を立てても往々にして結果はそれを下回ることをこのマネジャーは理解していない。顧客から100を要求されたら、130ぐらいを目指さなければならない。実際には8割程度の出来にしかならないから、130×0.8で104となり、ギリギリ顧客の要求を上回ることができる。元中日監督の落合博満氏は、3割バッターは3割を目標とするのではなく、3割3分ぐらいを目標とするから3割を達成できると語っていた。

采配采配
落合博満

ダイヤモンド社 2011-11-17

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 偏差値の高い学生の中には、試験で合格点ギリギリを狙うような勉強法をする人が少なからず存在する。確かに、試験に合格するためであれば、それでよいのかもしれない。しかし、それと同じ態度を人生全般に当てはめるのはよくないと私は思う。こういう人たちは、合格するのに必要最低限の知識を効率よく学習しようとする。しかし、新しいアイデアやイノベーションは、効率的な学習からは生まれない。むしろ、非効率な学習からこそイノベーションは生まれる。

 「こんなことを覚えて何の役に立つのか?」と思えるような知識でも、とにかく貪欲に吸収する。大量に知識を覚えると、既存の知識との間で齟齬が生じるようになる。自分の記憶の中で矛盾点が存在するのは非常に気持ちが悪い。そこで、脳はその非合理性を何とか論理的に説明しようと努力する。すると、そこから新たなアイデアが生まれることがある。また、しばしば言われるように、イノベーションというのは全くの無から生まれるのではなく、既存の知識の組み合わせによって生じるものである。ということは、脳に保管されている知識の量が多いほど、知識の組み合わせのパターンは多くなり、イノベーションの源泉が豊かになる。逆に、最低限の知識で済まそうとする人の脳内は、知識がスカスカであり、良質な知識のネットワークが形成されない。

2017年01月04日

『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他

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正論2017年1月号正論2017年1月号

日本工業新聞社 2016-12-01

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 (1)以前の記事「『「慰安婦」戦、いまだ止まず/台湾は独立へ向かうのか/家族の「逆襲」(『正論』2016年3月号)』―朝鮮半島の4つのシナリオ、他」で、未だ戦争状態にある朝鮮半島(忘れがちだが、両国は休戦状態にあるにすぎない)で今後起こり得る4つのシナリオを想定してみたが、あれからまた状況が少し変わったので、シナリオを改めて整理してみたいと思う。1つ目は韓国と北朝鮮が平和裏に併合し、1つの国家となることである。これが双方の国にとっても、また日本にとっても最も望ましいのだが、難易度が高くすぐに実現するものではない。

 2つ目は、北朝鮮の体制が崩壊し、韓国が主導で朝鮮半島に資本主義国家を誕生させるというものである。日本からすれば、資本主義対社会主義のラインが北緯38度から中国国境まで後退するため望ましい。ところが、朝鮮半島に新たに誕生した資本主義国家は、巨大な共産主義国である中国と直接対峙する恰好となる。そうすると、アメリカは今以上に深く朝鮮半島にコミットしなければならない。だが、トランプ次期大統領は、基本的に「自国のことは自国で守れ」というスタンスであるから、アメリカが力を貸さない可能性が大きく、新たな資本主義国家は中国との関係で苦労することが予想される。したがって、このシナリオも実現可能性が低い。

 3つ目は、北朝鮮が一か八かで”革命”を起こし、朝鮮半島を共産主義化することである(おそらく、北朝鮮は核兵器を使ってくるだろう)。朝鮮半島に新しくできた共産主義国家は、今度は日本と直接対峙する。朝鮮半島の共産主義国と日本の対立は、中国とアメリカの代理戦争の場となる。その対立は、北朝鮮と韓国の対立よりもはるかに大きくなる。以前の記事では、いくら中国が軍事力を急速につけてきているからと言っても、アメリカと大々的に対立することは望まないから、このシナリオは中国が嫌がるだろうと予想した。しかし、トランプ次期大統領がアジアから後退すれば、中国が隙をついて手を出してくる恐れがある。

 現在の韓国は左傾化が進んでいる。朴槿恵大統領の退陣を求める大規模なデモが発生したが、そのデモを仕切っているのは左翼系団体であったという。
 つまり、朴槿恵対人野外集会とデモを主催している団体は前年に激しい暴力デモを起こして国民から孤立していた過激な左派労組などが中心だったのだ。そのなかには北朝鮮とつながる「利敵団体」さえ含まれていた。
(西岡力「次は過激な親北政権?手が付けられない韓国の政治事情」)
 論文では具体的な団体名が列挙されている。これらの団体が北朝鮮の革命に乗じる可能性はゼロではないだろう。さて、朴槿恵大統領は今年4月に大統領を辞任することとなった。私は、この辞任のタイミングを間違えていたら、北朝鮮が革命に着手したのではないかと考える。
 金日成は「4・19革命(4月革命)の失敗を繰り返してはいけない」と繰り返し述べていたという。4月革命は1960年、長期政権で腐敗した李承晩政権の不正選挙に学生らが決起、大規模デモで衝突、李承晩を辞任に追い込んだ事件だが、金日成はこの混乱に乗じて「革命」を起こせなかったことを長年、悔やんだという。
(久保田るり子「朝鮮半島薮睨み」)
 仮に、朴槿恵大統領が即時に辞任していれば、60日以内に大統領選挙を実施する運びとなり、その間、韓国では政治の空白が生まれる。一方、アメリカはオバマ政権の末期にあたり、積極的なアクションを起こすことができない。この一瞬のどさくさに紛れて、北朝鮮が革命を企図したとしても何ら不思議ではない。結局、朴槿恵大統領の自己保身のおかげで辞任が今年4月にずれ込んだために、北朝鮮は革命のタイミングを失った。もっとも、トランプ次期大統領はアジアからできるだけ手を引こうと考えているわけだから、引き続き北朝鮮が革命に乗り出す可能性については注意深くモニタリングを続ける必要がある。

 4つ目のシナリオは現状維持である。これが、少なくとも日本にとっては最も望ましい。資本主義と共産主義の対立を朝鮮半島に押し込めて、日本は一定の距離を保つことができる。それが、北朝鮮と韓国の両国にとって望ましいかどうかは私にはよく解らない。国際協調路線とか、平和路線とか、きれいごとはいくらでも口にすることができるが、国際政治の世界では所詮、自国の国益が最優先されるのが現実である。事実、アメリカ・ファーストを公言してはばからない人物が、何も問題がなければ少なくとも4年間はアメリカのトップに座るわけである。

 (2)冷戦終結後のアメリカには、基本戦略として2つの選択肢があったという。
 1つは、「冷戦に勝利してソ連帝国を滅亡させたアメリカは、唯一の超大国として世界に君臨することになった。現在の世界に、アメリカに対抗できる国など存在しない。今後は国際構造を一極化して、『アメリカだけが世界諸国を支配する』という国際新秩序を創るのだ」という野心的な戦略案である。

 もう1つの戦略構想は、「過去5世紀間、世界を一極構造にしようと試みた大国はすべて失敗してきた。(中略)『ある特定国が世界を支配する威圧的な覇権を獲得しようとすると、必ず他の諸大国がその動きをカウンター・バランス(牽制)する』というのが、過去五百年の国際政治史で何度も繰り返されてきたパターンだ。アメリカはソ連を崩壊させたことに驕って、世界支配の野望を抱くべきではない。我々が世界中を支配しようとすれば、必ず多数の反米勢力を作り出して、世界各地で不必要な紛争に巻き込まれることになる。米政府はむやみに勢力圏を拡大しようとする覇権主義を避けるべきだ」という抑制的な戦略である。
(伊藤貫「アメリカ覇権戦略の失敗が、孤立主義を生んだ」)
 アメリカは前者を選んだわけだが、その結果が、
 米露対立の再現、イスラム諸国との長期間の不毛な戦争、中国封じ込めの失敗、北朝鮮核兵器増産の黙認、腐敗した米金融界が惹き起こした2008年の世界金融恐慌、冷戦後の米社会のグロテスクな貧富の差、米大衆の反政府感情、そして「暴言王」トランプ大統領の出現(同上)
だという。私は、アメリカがどちらの基本戦略をとったとしても、結果は同じだったと思う。本ブログでも何度か書いているように、大国アメリカは「二項対立」的な発想をする国である(これは大国に共通して見られる傾向であり、現代の大国であるドイツ、ロシア、中国にも共通する。以前の記事「岡本隆司『中国の論理―歴史から解き明かす』―大国中国は昔から変わらず二項対立を抱えている」を参照)。対立項の存在によって、自国のアイデンティティを保とうとする。このように書くと聞こえはよいが、要するに、常に誰か/何かと対立していなければ気が済まないのである。冷戦後にアメリカの敵がいなくなったとしても、アメリカは味方に過度に肩入れして敵を作り出すという技を持っている(以前の記事「アメリカの「二項対立」的発想に関する整理(試論)」を参照)。だから、米露対立の再現などは、アメリカの思惑通りなのである。

 逆に、後者の抑制的な戦略をとっても、結果に変わりはなかっただろう。アメリカの後退によって生まれた空白地帯を埋めるようにして、アメリカと対立する勢力が現れたに違いないからだ。元々アメリカは、歴史的に見ると孤立主義をとっていた期間が長い。第2次世界大戦に対しても、ヨーロッパ諸国の戦争だと言ってなかなか参戦しなかった。ところが、アメリカが孤立主義のスタンスを保っていた間に共産主義国・ソ連が力をつけ、戦後の冷戦へとつながった。だから、アメリカがどんな戦略をとるにしても、対立を引き起こすのは一種の宿命である。そして、その対立が軍需産業を潤し、軍需産業から生まれたイノベーションが民生に転じて世界を席巻し、一部の企業が世界中から富をかき集めているのも(不都合な)事実である。

 (3)《参考記事》
 『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他
 『「3分の2」後の政治課題/EUとユーロの行方―イギリス・ショックのあとで(『世界』2016年9月号)』―前原誠司氏はセンターライトと社会民主主義で混乱している、他
 『混迷するアメリカ―大統領選の深層(『世界』2016年12月号)』―天皇のご公務が増えたのは我々国民の統合が足りないから、他

 天皇の生前退位問題については上記の記事でも触れたが、この問題に関する記事を読めば読むほど、生前退位を法制化するのは厳しいと思うようになった。特措法は日本人お得意の”その場しのぎ”の策なので論外だとして(今上天皇だけが特別扱いされる正統性がない)、当初は恒久法で対処できないものかと考えていた。つまり、皇室典範の改正である。しかし、皇室典範の条文を変更すると多方面への影響が大きく、対処が難しい。ただ、単に対処が難しいだけであれば、法技術的な問題であるから、時間と知恵を絞り出せば解決できる。それよりも大きな問題なのは、皇室典範を改正する正当な根拠がない、ということである。

 天皇がどれだけお忙しいかを、2016年7月15日の毎日新聞が次のようにまとめているという。以下は2014年の公務の一部である。
 内閣から報告された書類の署名、1060件。ご静養を除く地方訪問、15県29市11町。国務大臣らの認証官任命式、136人。新任外国大使の信任状奉呈式、26人。各省庁の事務次官からの進講、13回。地方訪問や行事に対する説明、49回。勤労奉仕団などとの面会、63回(延べ8980人)、宮中祭祀、19回。
(新田均「今、改めて考えたい―「皇室」の論点」〔『正論』2016年9月号〕)
月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-08-01

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 これらの公務の合間を縫って、天皇は慰問・慰霊の公務を続けておられる。しかし本来、天皇の行為は、憲法第4条「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」にある通り、国事行為に限定されている。それ以外の慰問・慰霊などは、公務と称しているが国事行為ではない。だから、公務が難しくなれば、憲法に従って国事行為のみに集中されるのが筋である。そもそも、天皇が国事行為を超えて公務に勤しまなければならないのは、我々国民が国民統合のための働きを十分に行っていないためであると以前の記事で書いた。つまり、国民側が反省し、天皇が国事行為に集中できるようにしなければならない。

 その国事行為も難しくなれば、皇室典範第16条「天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。また、天皇が、精神・身体の重患か重大な事故により、国事行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く」に従って摂政を置けばよい。摂政は、天皇と同じく国事行為を行うことができる。天皇は2016年8月の「お言葉」の中で摂政の設置に否定的であったが、皇室典範に規定されていることを特段の理由もなく否定されるのはどうしても無理がある。仮に、天皇のご意向で皇室典範の規定を無視することができるのであれば、皇室典範に言及している憲法を空文化することになり、君主の権限を憲法で縛るという立憲君主制の根幹が崩れる。まして、譲位の条文を追加することは難しいだろう。

 (結局、私の見解は以前の記事で言及したリベラル論者の結論と同じになるのだが、私は天皇の公務を「おまけ」と表現されたことには憤りを感じている。公務が増えたのは、決して天皇の趣味などではない。天皇が国民統合の象徴として国民を見渡した時、国民の統合が足りないとお感じになったから、天皇が進んでご活動されたのである。国民の怠惰を補うべくされた天皇の公務を「おまけ」という軽々しい言葉で片づけるのはあまりにも無責任であり、かつ傲慢である。責任を痛感し、反省すべきは我々国民である)

2016年03月11日

『「慰安婦」戦、いまだ止まず/台湾は独立へ向かうのか/家族の「逆襲」(『正論』2016年3月号)』―朝鮮半島の4つのシナリオ、他

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正論2016年3月号正論2016年3月号

日本工業新聞社 2016-02-01

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 (1)
 その呉さんとの対談で何度も議論になったのは、韓国人は自己相対化ができないということである。一方、日本人は自己を相対化する。たとえば何かで他と対立したとき、いったんは自分を捨てて、違う見方があるのではないか、自分が間違ってはいないかと多角的に考える訓練を積んでいる。自分を小さくして外の物事を相対化して見る。それが、宇宙の中の個としての人間の在り方だと考えるのが日本人である。
(西尾幹二「日韓合意、早くも到来した悪夢」)
 日本人には、以前の記事「山本七平『「空気」の研究』―他者との距離感が解らなくなっている日本人」で書いたように、「臨在感的把握」という悪癖があるので、日本人の方が韓国人よりも相対的な見方が上手いかどうかはよく解らない。ただ、日本や韓国のような小国(経済的には大国かもしれないが、国際政治におけるプレゼンスや地政学的な位置から見れば小国である)は、相対的な見方を身につけなければ、大国同士の対立に飲み込まれてしまう危険がある。

 以前の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」でも書いたが、現在の世界の大国はアメリカ、ロシア、ドイツ、中国の4か国である。大国は、自国の価値観を絶対化し、それを他国にも強要することで、自らに有利な世界を構築しようとする。アメリカは自由主義、民主主義、資本主義の教祖であるし、中国は未だ共産主義は死んでいないと言って権威主義を振りかざす。とりわけ自国と正反対の価値観を持つ国とは激しく対立する。これを二項対立的発想と呼ぶ。

 だが、大国は実に狡猾なところがあって、表面上は対立しながら、裏でこっそり相手を利するという複雑な外交を展開する。すると、対立がより激化するので、軍事産業などは恩恵を享受して国家が成長する。こういうのをマッチポンプと言う。アメリカは中東の盟友サウジアラビアに武器を輸出しているが、同国内のスンニ派過激派組織にその武器が渡るのを知っていた。その結果、ISの台頭を許した。アメリカがアルカイダ系組織から押収した文書には、ISがアラブの春を利用して勢力を拡大する戦略が書かれていた。それなのに、アメリカはアラブの春を支援した。大国は、対立する双方に賭けることで、結果的にどちらに転んでも有利になるよう仕組んでいる。

 日本や韓国のような小国は、そういう複雑な外交を展開するだけの十分な資源がない。だから、何もしなければ、支持基盤の拡大を目指す大国に従って、二項対立の一方に強く肩入れすることになる。しかし、仮に自国の陣営が破れたら、その国は死亡する。これに対して、大国は両方に賭けているため、簡単には倒れない。ソ連崩壊後、周辺の小国は大変な道をたどったが、ロシアは今や再び大国に返り咲くまでになっていることは、これによってある程度説明できる。

 二項対立の双方に賭けることで一定の相対化を図っている大国とは異なり、二項対立の一方に肩入れしている小国は、自国の立場が国家アイデンティティの全てであるから、国を挙げて対立項の小国と血みどろの抗争を繰り広げる。中東では、イスラエルとアラブ諸国、シーア派とスンニ派の戦闘が止まらない(山本七平は、二項対立的な相対化は、もともとセム系民族が得意とすることだと指摘した。セム系民族とはアラブ人やユダヤ人のことである。それなのに、彼らが自己を絶対化してなぜ激しい二項対立に陥ってしまうのかについては、引き続き探ってみたい)。


 《2016年5月5日追記》
 筑波大学教授の古田博司氏は、『正論』2016年6月号の中で、韓国と北朝鮮について次のように述べていた。二項対立の一方に過度に肩入れした小国の運命について示唆的である。
 元々この国々の意味は何だったのだろうか。バッファー(緩衝国)として生きることを周辺の諸大国から期待され促された存在ではなかったか。大国が直接ぶつかり合わないようにバッファーとしてあった。ところがその意味を両者ともに急速に失いつつある。バッファー自体があまりにも騒ぎまくっているからである。泥仕合でなく、もし本当の合戦をするならば、多連装ロケット・ランチャーを十台も集めて撃ち合いをすれば、数分でソウルと平壌は壊滅してしまうことだろう。
(古田博司「南北の泥仕合こそ黙戦の象徴」〔『正論』2016年6月号〕)
正論2016年6月号正論2016年6月号

日本工業新聞社 2016-04-28

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 だから、小国が生き残る道は、対立する大国の双方に解りやすくいい顔をし(一方にいい顔をして、裏でもう一方にもいい顔をするという策略的なことはできない)、大国の表面から観察される双方の優れた点を上手に摂取して、「ちゃんぽん」にすることである。ASEAN諸国、特にベトナムはこの戦略に長けていると思う。日本も、一応日米同盟によってアメリカ陣営に属するが、歴史的には中国に負うところが非常に大きいことから、中国との関係も無碍にしない。そういう意味では、冒頭の引用文にあるように、韓国に比べて相対化ができているのかもしれない。

 では、韓国はどうだろうか?韓国は、経済的には1997年のアジア通貨危機の後、IMFの管理下に入って経済再生が図られた結果、アメリカ的な資本主義体制となっている。すなわち、非常に限られた大企業だけが業績を伸ばし、格差の拡大が深刻化しているという点でアメリカと共通する。一方、政治に目を向けると、386世代(1990年代に30代(3)で、1980年代(8)に大学生で学生運動に参加した、1960年代(6)生まれの世代)の影響で左傾化が進んでいる。近年の韓国政府が急速に中国にすり寄っているのはそのためである。

 この点だけを見れば、韓国も資本主義と社会主義のちゃんぽんができているように映る。だが、経済はアメリカ、政治は中国という解りやすい図式は、逆に社会を分裂させるリスクをはらんでいるように思える。私が考えるちゃんぽんとは、日本が資本主義と社会主義の間を取って「日本株式会社」や「護送船団方式」なるものを生み出し、一党独裁と多党制(二大政党制を含む)の間を取って「自民党の派閥政治」なるものを生み出すことである(以前の記事「『願いに生きる(『致知』2016年3月号)』―私のブレブレの人材マネジメント論を反省した、他」を参照)。

 つまり、元々の対立項のどちらでもない何かを、日本の社会的文脈に合わせて構築することである。それを社会のあらゆる分野で蓄積することが、大国に対する防御壁となる。大国から見れば、自国の価値観と共通するようでありながら、異質な部分も多く、強引に味方に引っ張り込みにくい。端的に言えば、「何を考えているのか解らない」。これは、日本の外交姿勢が曖昧であることを批判する言葉とされるが、私は日本の外交に対する称賛の言葉だと解釈している。

 (2)大高未貴「挺対協の背信、そして旧社会党との関係」では、女優の東丘いずひ氏が挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)の尹貞玉氏と意気投合し、韓国での慰安婦慰霊碑建立に向けて日本国内で署名・募金活動を行ったにもかかわらず、ある日を境に突然尹貞玉氏が豹変し、署名や募金の受け取りを拒否したというエピソードが紹介されている。
 あれは確か1991年、衆議院議員会館の1階の応接室で尹氏と私、大杉実生氏(元政治家の秘書で東丘さんの署名活動に協力していた)と3人で、打ち合わせをしていた時のことです。いきなり土井たか子氏の秘書の女性が現れ、我々の目の前で尹氏に”いつものです。活動費に使ってください”と封筒に入った札束を渡したのです。5万や10万の薄っぺらいものではなく、厚みがあったのでおそらく数十万から数百万単位だったと思います。
 ちなみに社会党はソ連時代の共産党から多額の政治資金援助を受けたことが判明している。挺対協と社会党の異様な動きが活発化した91年前後は共産陣営が大きく揺らいでいた時期だった。(中略)ソ連という大スポンサーの崩壊で、新たな金づるとして日本にターゲット絞った(ママ)のではないか?
 彼ら(挺対協)のミッションは日韓分断工作であろう。慰安婦問題が解決してしまったら困るのだ。いずれ南北統一の暁には、日本から数兆円に及ぶ賠償金をスムーズに引き出すため、日本人の朝鮮半島に対する贖罪意識を醸成させておく必要がある。
 これらの文章をつなぎ合わせて考えてみると、まず大きな流れとして戦後のソ連による赤化(共産主義化)がある。ソ連は中国、朝鮮半島、そして日本を共産主義化して、アジアを真っ赤にすることを狙っていた(当然、アメリカはそれを非常に恐れたので朝鮮戦争を戦ったし、何十年もの冷戦を経験しなければならなかった)。GHQにはソ連のスパイがいたし(どうやらアメリカは気づいていたらしい)、北海道に共産主義組織を作っていたことも知られている。

 ソ連共産党は、各国の共産党に活動費を出し、各国での革命を期待した。革命には大義名分が必要である。社会主義は理論的には労働者階級が資本家階級を打倒することを理想としているが、現実的にはファシズムという悪に対する勝利を建国の物語に織り込んでいる。ソ連の建国はナチス・ドイツよりも前だが、ナチスに勝利したことが社会主義の正統性を証明したとされている。中国や朝鮮など、日本のファシズムの犠牲となった国も、そうした正統化を行うのは容易だ。では、ファシズムの震源地である日本に自己否定させるにはどうすればよいか?

 そこで目をつけたのが慰安婦問題である。ナチスが殺害したユダヤ人600万人という数字には遠く及ばないものの、日本が20万人の女性の人権を蹂躙したというストーリーは相当のインパクトがある。ソ連からの活動費で影響力を増した日本社会党は、日本を共産主義化するために、韓国の挺対協に注目した。単なる民間組織にすぎなかった挺対協を、韓国政府とパイプを持つ政治的組織とし、日本への圧力をかけさせた。折しも、ソ連が崩壊して各国共産党の資金が苦しくなったため、日本からの賠償金を新たな財源にしようという目論見も生じたに違いない。

 左派にとって誤算だったのは、(1)とも関連するが、日本が不完全ながらも「ちゃんぽん戦略」の国家であったことだろう。すなわち、慰安婦問題は全く存在しないとも、慰安婦問題でアジアに多大なる迷惑をかけたとも言わず、「20万人という数字は大げさだが、慰安婦に関する資料・証言は一応存在するし、慰安婦として苦痛を味わった女性は一定数いるのだろう」ということで大多数の国民が納得している(『正論』と『世界』を購読している私は両極端の主張を目にするものの、右であれ左であれそれを真面目に信じる日本人は少数派ではないかと考える)。慰安婦問題のみならず、日本は万事こんな具合なので、完全に共産主義化することはなかった。

 朝鮮半島が今後どうなるかに関して、私のような一介のブロガーの意見など取るに足りないものだが、大きく分けると4つのシナリオが考えられる。1つは、韓国も北朝鮮も小国としての「ちゃんぽん戦略」を発揮して、資本主義と社会主義のどちらにも完全にはなびかない、新しい統一国家を形成する、というものである。ただこれは、時折左派が掲げるピュアな理想よりもはるかに遠い理想郷かもしれない。現実問題として、朝鮮半島が統一されるとすれば、資本主義国として統一されるか、社会主義国として統一されるかのどちらかである。

 朝鮮半島が資本主義国として独立した場合、日本から見れば共産主義のラインが北緯38度よりも北に後退するので、望ましいように思える。だが、アメリカがこれを嫌うだろう。なぜならば、朝鮮半島の新しい資本主義国家は中国とまともに対峙せざるを得ず、アメリカの負担が著しく増すことを意味するからだ。アメリカは日本にも、相応の負担増を迫るに違いない。

 逆に、朝鮮半島が社会主義国として独立した場合、日本にとっては最悪である。日本に対しては、中国大陸と朝鮮半島の双方から、共産主義化の波が迫ることになる(そうなればおそらく、沖縄は独立して中国の傘下に入るだろう。また、台湾も中国に統合されるに違いない)。さらに、万が一韓国の資本が北朝鮮の核に流れ込むようなことがあれば、朝鮮半島に巨大な核保有国が誕生する。現在の北朝鮮の核実験やミサイル発射に手をこまねいている中国が、こんな巨大な核保有国をコントロールできるのか?という問題はあるが、ここでは省く。

 だから、日本とアメリカにとって望ましいのは、現状維持という最後のシナリオである。朝鮮半島が南北に分かれている間は、アメリカ対中国という大国間の対立を、韓国対北朝鮮という小国同士の対立に希薄することができる。もっとも、これは日本とアメリカの視点に立った見方であり、韓国や北朝鮮の人たちの利害を全く考慮しない乱暴な話であることは否定できない。両国の視点から見て最も望ましいのは、南北宥和によって、かつて統一されていた頃の歴史の上に新たな国家を再構築するという最初のシナリオ以外にないのだが、相当ないばらの道である。


 《2016年5月5日追記》
 東京基督教大学教授で救う会会長の西岡力氏は、『正論』2016年6月号の中で、朝鮮半島のシナリオについて次のように予想している。
 我が国と東アジア全体の自由民主主義勢力にとって最善のシナリオは、韓国と北朝鮮住民たちが主導する自由統一だ。最悪のシナリオは、金正恩が戦争やテロをしかけて大きな被害が出ることだ。次悪、あるいは長期的に見ると最悪とも言えるシナリオは、中国主導で金正恩政権が倒され、親中政権が北朝鮮地域にでき、韓国でも米国との同盟を破棄して中国と結ぼうという勢力が政権をとり、中国の影響下に入った半島全体が「核を持つ反日国家」となることだ。
(西岡力「北の崩壊はもはや秒読みだが・・・ 「反日核武装国家」出現という半島危機備えよ」)
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