このカテゴリの記事
『正論』2017年9月号『戦後72年/誰も金正恩を止めない・・・』―日本が同じように統治したのに戦後の反応が異なる韓国と台湾、他
『韓国新政権と東アジアの未来/住宅保障 貧困の拡大をくいとめるために(『世界』2017年7月号)』―びっくりするほど呑気なリベラル、他
『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他

お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

【中小企業診断士は独学で取れる】中小企業診断士に独学で合格するなら「資格スクエア」中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

タグクラウド

Top > 韓国 アーカイブ
2017年09月12日

『正論』2017年9月号『戦後72年/誰も金正恩を止めない・・・』―日本が同じように統治したのに戦後の反応が異なる韓国と台湾、他


正論2017年9月号正論2017年9月号

日本工業新聞社 2017-08-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)安倍政権が窮地に立たされている。NHKが公表している内閣支持率の推移を見ると、特定秘密保護法の公布(2013年12月)、集団的自衛権の憲法解釈の変更(2014年1月)、安保法制の公布(2015年9月)、共謀罪(テロ等準備罪)を新設した改正組織犯罪処罰法の公布(2017年6月)の際には、様々な批判があったにもかかわらず、内閣支持率はそれほど大きく変化していない。これに対して、森友学園問題、自衛隊のPKO日報問題、加計問題が発覚すると内閣支持率は急落し、7~8月は不支持が支持を上回った。私にはこの現象が不思議に見える。

 報道を詳しく追っているわけではないので私の認識が不正確な部分もあるかもしれないが、森友学園問題は財務省のチョンボにすぎない。安倍首相が籠池氏に100万円を渡したとされる点も、籠池氏が安倍首相に100万円を渡していたのならば問題になるだろうけれども、本件はお金の流れが逆である。自衛隊のPKO問題は、日報があった、なかったという問題であり、行政組織の透明性、政府の説明責任が問われた一件である。しかし、この手の不透明性や政府の説明の曖昧さは、安保法制や共謀罪をめぐる審議でも見られたことであり、何も防衛省が特別というわけではない(もちろん、だからと言って防衛省や政府が責任を免れられるわけでもない)。

 報道を見ていると、内閣支持率急落にとって致命的だったのは、どうやら加計学園問題のようである。国家戦略特区制度を利用して愛媛県に獣医学部を新設する際に、安倍首相への忖度が働いたのではないかということ、そしてそれを裏づけるかのように、自民党の下村幹事長代行が文部科学相であった2013~14年に、加計学園の当時の秘書室長から、後援会の政治資金パーティー券の購入代金として現金計200万円を受け取っていたことが問題視されている。

 こういうことを言うと関係者から怒られるかもしれないが、特定秘密保護法、集団的自衛権の憲法解釈の変更、安保法制、共謀罪に比べれば、獣医学部の新設というのは小さな問題にすぎない。そもそも、国家戦略特区制度とは、岩盤のような既存の規制にドリルで穴を開けて、国際競争力を持つ産業を育成するための制度である。それが、獣医学部の新設という、国際競争力の強化との関係が不明な取り組みのために矮小化されていることの方が問題である。確かに、日本のペット(犬と猫)の数は増加の一途にあり、現在では15歳以下の子どもの数より多い。それに伴って、獣医の需要が増えていることは想像に難くない。しかし、獣医を増やすのにわざわざ特区を利用する必要があったのかというこそが問われるべきである。

 それが、これほど大きな問題になって内閣支持率に打撃を与えているのは、結局のところ日本国民は「政治とカネ」の問題に対して異常に敏感である、ということなのだろう。思い返してみれば、第1次安倍政権が倒れたのは、当時の農水相であった松岡利勝に、事務所費の不透明な支出の問題、光熱水費の問題、100万円献金の使途不明という問題が覆いかぶさり、最終的に松岡が自殺したことが大きかった。国民は、政策の重要性の高低で内閣の支持・不支持を決めていない。本来、規制を強化または緩和してほしい、あるいは個人や特定の組織を庇護してほしい時には、その必要性とメリットを滔々と政治家に説いて政治家を説得するという努力を払うべきだと国民は考えている。それを不透明なカネの力で一気に片づけてしまおうとする姿勢に国民は反感を覚えるのであり、またその不透明なカネに乗る政治家にも強い不信感を抱くのである。

 この問題を解決するには、e政府が進んでいるエストニアのようにカネの流れを完全にオープンにするか、献金を完全に禁止するかのどちらかしかないだろう。ただ、前者の場合、結局はカネのある人が有利になるという問題は解決しないため、残るのは後者しかない。とりわけ、政治家の意思決定を歪めやすい企業団体献金は禁止するべきである。しかし、見方を変えると、企業団体献金というのは、選挙権を持たない企業や団体が政治的なニーズを政治家に伝達する手段であるとも言える。そこで、これは全くの私案であるが、献金を禁止する代わりに、法人にも選挙権を与えるというのはどうだろうか?もちろん、制度設計には様々な障害が想定される。

 ・法人の1票と個人の1票を同等に扱ってよいのか?
 ・外国人が代表者を務める法人にも選挙権を認めてよいのか?
 ・宗教法人にも選挙権を与えると、政教分離の原則に反するのではないか?
 ・権利能力なき社団には選挙権を与えなくてもよいのか?
 ・企業法人に選挙権を与えるなら、個人事業主にも選挙権を与えるべきではないか?ただしこの場合、事実上個人が2票持つことになり、他の国民との平等性が崩れるのではないか?

 (2)日本は日清戦争後の下関条約によって台湾を併合し、韓国併合に関する条約によって韓国を併合した。欧米列強がアジアやアフリカの諸国を植民地としたのに対し、日本は台湾や韓国を日本の一部にした。そして、欧米列強が植民地から食料や資源を略奪し、植民地に対して自国の製品を大量に輸出し、植民地の人々を過酷な労働環境の下に置いた、つまり一言で言えば植民地を搾取したのに対し、日本の場合は鉄道、道路、水道、ガス、電気などのインフラを整備し、工場を建設し、学校を設立し、教師を育成し、警察制度を確立するなど、当時の日本社会のコピーを台湾と韓国に実現しようとした。もちろん、日本のやり方には是非の議論が当然あるわけだが、注目すべきは戦後の台湾と韓国の反応がまるで違っていることである。

 台湾は、日本統治時代について概ね肯定的な見方をしているようである。事実、台湾に親日派が多いことは有名である。本号では、蔡焜燦の『台湾人と日本精神(リップンチェンシン)』(小学館、2001年)が紹介されている。以下、孫引きになることをご容赦いただきたい。
 台北の鉄筋コンクリート製下水道施設などは、東京市(当時)よりも早く整備され、劣悪な衛生状態を改善することによって伝染病が一掃された。そして、あらゆる身分の人が教育を受けられるよう、貧しい家庭には金を与えてまで就学が奨励された事実を忘れてはならない。

 戦後、台湾経済がこれほどまでに成長した秘密は、日本統治時代に整備された産業基盤と教育にあるといっても過言ではない。同様に、台北の近代化はこうした日本統治時代を抜きに語ることはできないのである。
台湾人と日本精神(リップンチェンシン)―日本人よ胸をはりなさい (小学館文庫)台湾人と日本精神(リップンチェンシン)―日本人よ胸をはりなさい (小学館文庫)
蔡 焜燦

小学館 2001-08-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 ところが、これが韓国となると評価が180度変わる。韓国は日帝による支配を何としてでも否定しようとしている。右派で知られる作家・百田尚樹氏は、最近『今こそ、韓国に謝ろう』(飛鳥新社、2017年)という著書を発表した。百田氏は、韓国に元々存在していた文化、風俗、社会制度などを無視して、日本式のやり方を強引に持ち込んだことを詫びている。ただ、本当に謝罪しなければならないのは、教育で韓国の精神を変えられなかったことだと言う。この点で、単に日帝=悪とし、韓国(や中国)に言われるがままに謝罪を続ける左派とは一線を画している。
 日本人は併合時代に朝鮮人に様々なものを教えました。もっともそれらは何度も言ってきたように、朝鮮人が望んだものではないので、彼らにしてみれば「有難迷惑なこと」以外の何ものでもありません。そのことは謝罪しなければならないのは当然ですが、それはひとまず置いておいて、日本人が朝鮮人にいろんなことを教えようと思った動機は、彼らが多くのことを知らなかったからです。文字を知らず、灌漑技術を知らず、近代的農業を知らず、護岸工事を知らず、植林の意義を知らず、ビジネスを知らず等々、だからこそ一所懸命に、それらを教えたのです。

 しかし日本人は一番大事なことに気付きませんでした。それはモラルです。もしかしたら日本人はそうしたものはわざわざ教えなくとも、自然に身に付くと考えていたのかもしれません。前に私は「衣食足りて礼節を知る」と書きましたが、衣食を与えれば礼節を知ることになるだろうと、安易に考えていたような気がしてなりません。
今こそ、韓国に謝ろう今こそ、韓国に謝ろう
百田尚樹

飛鳥新社 2017-06-15

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 明治維新後の日本が西洋の技術を取り入れて急速な近代化に成功したのは、佐久間象山の「東洋道徳、西洋芸術(東洋の精神の上に西洋の科学技術を移入させる)」という言葉の通り、日本人にはベースとなる精神があったからである。日帝時代の日本人は、韓国には儒教という精神的支柱があるから、日本と同じように近代化できると考えたのかもしれない。ところが、実際にはそんな精神的支柱はなかったのである。精神のないところに技術だけを持ち込んだことが、韓国統治の失敗の原因であり、同時に韓国の反発を買った原因なのかもしれない。もっとも、私の関心は、儒教国であるはずの韓国になぜ精神的な支柱が存在しなかったのかという点にある(この点は現在の中国も同じである)。これについては引き続き考察を続けたい。

 もう1つ、韓国がこれほどまでに日本に対して反発しているのは、実は裏に中国がいて、日韓を分断してアメリカの影響力の低下を狙っていることも考えられるが、それ以上に「『韓国オリジナル』というものがないことへの強烈なコンプレックス」の表れなのではないかと思う。朝鮮半島は長らく中国の属国であり、何もかもを中国に依存してきた。つまり、オリジナルのものを持つことを許されなかった。そこに、日帝がさらに様々なものを持ち込んだため、韓国の怒りは頂点に達してしまったというわけである。最近、韓国が自国に起源があると主張しているものは「ウリジナル」と呼ばれ、テコンドー、剣道、相撲、サッカー、茶道、端午の節句などが該当する。果てはメソポタミア文明やインカ文明、西洋文明も韓国が起源であり、孔子もイエスも韓国人だと言い出している。ウリジナルは、韓国オリジナルがないというコンプレックスの裏返しである。

 私は台湾の歴史のことはよく解らないのだが、日本に関して言えば、日本も外国に多くを依存しながら自国の文化を構築してきた国であり、その意味では韓国と同じく、オリジナルに乏しい。しかし、日本が韓国のようにヒステリックでないのは、日本が特定の国に属してその国に抑圧された歴史を持たないからであろう。だから、反動としてオリジナルなものに対する希求を抱くこともなかった。むしろ、日本はいつの時代にも外国に開かれていた。鎖国政策をとっていた江戸時代でさえも、近年の研究によれば外国に対して比較的オープンであったことが解っている。こうした背景が、日本人が日本オリジナルのものにそれほど執着しなかった要因と考えられる。先ほど、明治時代の日本には基盤となる精神があると書いたが、その精神も、諸外国の文化や価値観などの混合から醸成されたものである。それでよしとする寛容さが日本人にはあった。

 (3)高齢者の割合が増えてくると、いわゆる「シルバー・デモクラシー」に陥りがちである。そこで、若者、特に子ども向けの政策を充実させようという動きが見られる。その1つが「子ども保険」である。子ども保険とは、小泉進次郎・農林部会長ら自民党の若手議員による「2020年以降の経済財政構想小委員会」が提唱しているもので、保育や幼児教育を無償にすることを目的としている。財源としては1兆円ほどが必要と試算されている。その財源を確保するために、教育国債を発行する、現在の社会保険料に上乗せする、などの案が浮上している。

 子どもを持つことが「保険事故」に相当するのかという議論にはここでは立ち入らない。1兆円の財源確保の手段として、私は信用保証協会の代位弁済を大幅に減らすことを提唱したい。信用保証協会は、中小企業が金融機関から融資を受ける際、「信用保証」を与えることで、資金調達を支援する。仮に中小企業が債務を返済できなくなったら、信用保証協会が代わりに債務を返済する。これを代位弁済と呼ぶ。日本では代位弁済の額が年間約1兆円に上り、その財源は国民の税金である。これは、中小企業の数が日本の5倍近いアメリカの約10倍である。代位弁済とは、簡単に言えば、潰れかけの中小企業に税金を突っ込んで延命を図ることである。そんな形で市場競争を歪めるよりも、未来ある子どもに投資した方がよっぽど賢明であると思う。

 子どものためのもう1つの政策が「高等教育の無償化」である。本号には、日本維新の会・丸山穂高議員と、評論家・池田信夫氏の対談が掲載されている(「大学の無償化は是か非か」)。高等教育の無償化に必要な財源は、文部科学省の試算によると、大学の無償化だけで3.1兆円、他も合わせると5兆円になるそうだ。この規模の財源を確保するのは至難の業である。

 私はここで、大学で学び直す社会人を増やし、彼らに費用を負担してもらうことを提案したい。経営学者のピーター・ドラッカーは、これからますます増加する知識労働者は、自らの資本である知識を常に最新のものに保つために、継続学習に取り組まなければならないと様々な著書の中で繰り返し主張している。そして、継続学習の場として、大学が今後非常に重要な役割を果たすと述べている。『ポスト資本主義―科学・人間・社会の未来』(岩波新書、2015年)の中では、ドラッカーは日本の大学の問題点を次のように指摘している。
 他のいろいろな面で、日本は新しく生じてきたニーズに応える体制になっていない。例えば教育の分野では、高学歴者のための継続学習機関として大学を発展させる必要が十分認識されていない。日本の高等教育は、いまだに成人前かつ就職前の若者の教育に限定されている。そのような体制は、21世紀のものではない。19世紀のものである。
ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来 (岩波新書)ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来 (岩波新書)
広井 良典

岩波書店 2015-06-20

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 2013年の調査によると、25歳以上の大学への入学者の割合は、OECD加盟国の平均が20.6%であるのに対し、日本はたった2.7%と非常に低い。原因としては色々考えられるだろうが、日本企業の悪しき伝統である長時間労働が、社会人の学び直しの機会を阻害していることは容易に想像できる。現在、安倍政権が取り組んでいる働き方改革が功を奏し、残業の抑制や週休3日制などが定着すれば、働きながら大学で学ぶことを望む社会人は増えると思う。

 OECD並みの水準とまではいかなくとも、仮に25歳以上の大学への入学率が2.3%増えて5%になったと仮定しよう。日本の労働力人口は2016年時点で6,648万人であるから、大学に入学する社会人は約153万人増える。社会人が大学を卒業するまでに要する年数を、若者と同じく4年とすると、社会人学生は毎年約612万人存在することになる。彼らが負担する授業料を年間50万円に設定すれば、授業料収入は約3兆円となり、大学の無償化に必要な財源をカバーすることができる。丸山穂高議員は、社会人学生も無償にするべきだと記事の中で主張していたが、私はお金のある社会人からお金のない若者への再分配を推進するべきだと考える。社会人学生が増えれば、当然のことながら教える側の人間も増やさなければならない。これは、現在就職先がなくて困っているポスドクに相当数のポストを用意できることを意味する。


2017年07月17日

『韓国新政権と東アジアの未来/住宅保障 貧困の拡大をくいとめるために(『世界』2017年7月号)』―びっくりするほど呑気なリベラル、他


世界 2017年 07 月号 [雑誌]世界 2017年 07 月号 [雑誌]

岩波書店 2017-06-08

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 以前の記事「『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他」でも書いたが、アメリカにとっては、朝鮮半島が南北に分裂したままの方が都合がよい。アメリカと中国・ロシアという大国が直接対立せず、代理戦争を朝鮮半島という狭い領域に閉じ込めておくことができるからだ。だが、最近は、アメリカがどう動いても(あるいは動かなくても)、朝鮮半島が社会主義国家として統一されることは避けられないような気がしてきた。そして、アメリカもこのことに気がついているはずである。

 まず、アメリカが動かない場合であるが、北朝鮮は国際社会の警告を無視して核兵器の開発を進める。以前の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」でも書いたように、北朝鮮がアメリカ本土にまで届く核兵器を開発する目的は、北朝鮮が韓国を侵略して韓国を奪取する際に、アメリカに邪魔されないようにするためである。これにより朝鮮半島が北朝鮮主導で統一された場合、韓国の財閥が握っている大量の資金が北朝鮮の核兵器に流れ、日本の隣に巨大な核兵器保有国家が誕生する恐れがある。ただ、北朝鮮としても、この作戦で犠牲になる人々があまりにも多すぎるので、実行には慎重にならざるを得ない。

 現在、アメリカは中国と協力して北朝鮮に圧力をかけている。この場合に起こりうるシナリオを以前の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」で書いたが、最も可能性が高いのは、金正恩政権が倒れ、親中政権が誕生するというものである。中国のおかげで北朝鮮の核武装は解除されるであろう。しかし、北朝鮮に誕生するのは中国の傀儡政権である。そして、これで喜ぶのは韓国である。文在寅大統領は生粋の親北・親中派であり、現在の韓国の世論も親北に傾いている。韓国はいきなり南北統一とはいかなくとも、連邦制など統一の道を模索するに違いない。現に、文在寅は南北の文化交流から始めることを検討しており、早速、平昌オリンピックの一部を北朝鮮で開催するとか、南北合同チームを送るなどと言っている。

 では、トランプ大統領が金正恩党委員長と交渉する場合はどうであろうか?まず、トランプは北朝鮮に対し、アメリカの方を向いている核兵器の縮小を迫る。金正恩は、その条件を呑む代わりに、アメリカ国内で北朝鮮の方を向いている核兵器の縮小を求める。ただ、米朝間交渉では、北朝鮮の方がアメリカよりもパワーを持っているため、交渉はこれだけにとどまらない。金正恩はトランプに対し、金正恩体制の承認を要求する。これに対しアメリカは、金正恩体制を承認する代わりに、北朝鮮がアメリカの同盟国である韓国に手出しをしないことを約束させる。さらに金正恩は、在韓米軍の縮小もトランプに求めるだろう。トランプはその要求を受け入れる代わりに、現在北朝鮮国境付近でソウルの方を向いている何千もの大砲を削減することを要求する。

 これによって、北朝鮮は、アメリカから核兵器で攻撃されることを心配せず、韓国の在韓米軍を恐れることなく、南北統一に向かうに違いない。「北朝鮮は韓国に手出しをしない」という約束を金正恩が破り、さらに韓国もアメリカを裏切ったことになるが、アメリカは韓国の大統領が文在寅になった時点で、ある程度覚悟を決めたのではないかと思われる。ただ、この場合も、一気に南北統一が実現するというよりは、まずは連邦制から始まると予想される。というのも、統一後の国家において、北朝鮮と韓国の政権のどちらを正統とするかという問題があるからだ。

 社会主義政権としては金正恩に分があるが、韓国民が金一族による支配をどれだけ受け入れるかは未知数である。一方の韓国政権については、韓国憲法の前文に「大韓国民は3・1運動で成立した大韓民国臨時政府の法統」を継承するとあるものの、「大韓民国臨時政府」とは1919年の3・1運動後、海外で朝鮮の独立運動を進めていた活動家によって、上海で結成された亡命組織であり、実は国際的に正統性が認められた政権ではない。内紛が絶えなかったことから国際的な評価を下げ、枢軸国・連合国双方からいかなる地位も認められず、国際的承認は得られなかったのである。その亡命政権の理念を受け継いでいるという韓国憲法の前文には無理がある。となると、現存の南北政権とは異なる第三の政権を新たに創造するしかない。

 「韓国新政権と東アジアの未来」という特集タイトルから、今後の東アジアの動静について、リアリスティックな分析を期待していたのだが、左派は拍子抜けするほど呑気であるというのが正直な印象であった。自国の北部に猛スピードで核兵器開発をする国がある中で行われた韓国大統領選挙について、「変化への熱望を集中できる革新的議題がない」(李南周「新政権が時代転換に貢献する道」)と述べられていたのには驚いてしまった。

 朝鮮半島がこのような状況にある時、日本には何ができるであろうか?私の個人的な見解は「何もしない」ということに尽きる。大国同士の対立にどっぷりと巻き込まれている小国同士の対立に、日本のような小国が安易に近づくのは危険である。というのに、左派はアメリカがキューバと国交を回復したのに倣って、日本も北朝鮮と国交を回復せよと進言する。
 現状を基本的に維持したままということは、日本は経済制裁を維持したまま、北朝鮮は核兵器を保有したまま、拉致問題の従来の回答を維持したままで、国交を樹立して、その新しい基盤の上で、一切を国交のある国同士の交渉で前進をはかるということである。
(和田春樹「北朝鮮危機と平和国家日本の平和外交」)
 自国民を拉致して殺害したかもしれず、凶悪な核兵器を持つ国とまずは国交を樹立せよと言うわけだ。例えるなら、自分の家族を誘拐して殺害した疑いがあり、現在もなお凶器を振り回す隣人とまずは仲良くせよと言っているようなものであり、無茶苦茶である。よしんば南北統一が実現して、中国寄りの国家になったとしても、その新国家が日本のような二項混合的な発想によって国創りをする、あるいはしようとしているのであれば、日本は新国家に支援の手を差し伸べる準備がある。そうではなく、中国にべったりで反米・反日を掲げ、現状と変わらないなら、古田博司氏が唱える「助けない、教えない、関わらない」という非韓三原則に従うのが賢明である。

 本号では、NHKスペシャル『憲法70年 ”平和国家”はこうして生まれた』への言及もあった。憲法9条の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という文言はGHQ案にはなく、日本人が独自に入れた文言である。よって、平和憲法は日本人によって作られたものだ、というのが番組の趣旨であった。しかし、これは重大な事実誤認を含んでいる。

 終戦後、憲法改正に着手した日本政府は大日本帝国憲法の一部条項を修正し、陸海軍をまとめて「軍」とする、軍事行動には議会の賛成を必要とする、という規定のみを盛り込んで済ませるつもりであった。1946年(昭和21年)2月8日に憲法問題調査委員会(松本烝治委員長)がGHQに提出した「憲法改正要綱」(松本案)では、次のような条文となっている。
 憲法改正要綱
 五
  第十一条中ニ「陸海軍」トアルヲ「軍」ト改メ且第十二条ノ規定ヲ改メ軍ノ編制及常備兵額ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルモノトスルコト(要綱二十参照)
 六
  第十三条ノ規定ヲ改メ戦ヲ宣シ和ヲ講シ又ハ法律ヲ以テ定ムルヲ要スル事項ニ関ル条約若ハ国ニ重大ナル義務ヲ負ハシムル条約ヲ締結スルニハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要スルモノトスルコト但シ内外ノ情形ニ因リ帝国議会ノ召集ヲ待ツコト能ハサル緊急ノ必要アルトキハ帝国議会常置委員ノ諮詢ヲ経ルヲ以テ足ルモノトシ此ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ報告シ其ノ承諾ヲ求ムヘキモノトスルコト
 この草案には、平和主義の要素など全くない。これに対して、GHQでは戦争と軍備の放棄の継続が画策されていた。その意思は、憲法草案を起草するに際して守るべき三原則として、最高司令官ダグラス・マッカーサーがホイットニー民政局長(憲法草案起草の責任者)に示した「マッカーサー・ノート」に表れている。その第二原則には次のようにある。
 国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、紛争解決のための手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも、放棄する。日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる。日本が陸海空軍を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が日本軍に与えられることもない。
 9条の制定過程の紆余曲折はここでは省くが、9条の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という文言は、第90回帝国議会の衆議院帝国憲法改正小委員会での審議過程において、芦田均によって第9条に加えられた修正(いわゆる芦田修正)であり、マッカーサー・ノートにおける「日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる」が復活したものである。だから、9条は日本人の手によるものとは到底言い難い。
 小西豊治『憲法「押しつけ」論の幻』(講談社現代新書)のように、日本国憲法の「国民主権」の概念が、日本人憲法学者鈴木安蔵の発案であることを以て、日本国憲法は日本人によって作り上げた憲法だ、などと主張する向きもある。だが、これは、「憲法制定権力」の問題を無視した暴論であり、自身の主張そのものが「幻」である。日本国民から「憲法制定権力」が奪われ、全く日本国民の与り知らぬ間に憲法が強制されていた。これが歴史の真実であり、だからこそ、戦後一貫して保守派は、憲法の改正、あるいは自主憲法の制定を訴えてきたのである。
(岩田温「どうしてそうなるの?左曲がりの憲法改正論」)
月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-09-01
Amazonで詳しく見る by G-Tools

 上記引用文にあるように、日本国憲法は自主憲法とはとても呼べない。右派は国防をアメリカに依存しつつ、憲法はアメリカからの押しつけだと批判する。右派は基本的に現実的でいいところ取りのスタンスであるから、こうした矛盾、アメリカに対するあべこべな態度が成立する。ところが、左派は論理的に筋が通っていないと許せないタイプなのだろう。平和主義をうたった憲法は是が非でも守りたい。しかし、それがアメリカからの押しつけであるというのでは具合が悪い。そこで、どうにかして日本人の手によるものであると言おうとしているように見える。

 NHKは以前にも重大な誤報をしている。2016年8月6日に放送された『決断なき原爆投下』がそれである。詳細は『正論』2017年2月号の有馬哲夫「驚くべきNHK特番はここにも・・・ トルーマンは原爆投下を決断していない?」をご参照いただきたいが、NHKはトルーマン大統領が原爆投下の意思決定をしていないと放送した。だが、実際には、

 ①アメリカ、イギリス、カナダの間ではケベック協定が結ばれており、原爆の開発と使用について3か国が同意していた。
 ②原爆の使用について討議し、大統領に諮問する「暫定員会」が設置されていた。
 ③トルーマンの日記には「私ほど原爆の使用に心を痛めている人間はいません」とあるが、トルーマンの日記には偽善的・自己弁護的な言葉が多く、現に「けだものと接するときはそれをけだものとして扱わなければなりません」という記述もある。
 ④皇室維持条項の入ったポツダム宣言を出せば日本が降伏すると知っていたにもかかわらず、トルーマンは敢えて皇室維持条項を削除した。

というのが事実である。

正論2017年2月号正論2017年2月号

日本工業新聞社 2016-12-28

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 衆議院においては結果において429人のうち421人でありましたが、とにかく殆ど全員に近きものをもって可決せられ、まして貴族院においてももとより深い議論はありましたが、結局において300人のうち2人を除いて298人によって可決させられたのであります。
(桐山桂一「「文一道」でゆく 憲法大臣・金森徳次郎の議会答弁(中)」)
 本号の別の箇所では、憲法大臣として連日国会の答弁に立った金森徳次郎の日記への言及もあった。帝国議会では、衆議院、貴族院のいずれにおいても、圧倒的多数の賛成によって憲法が成立したことが記されている。この事実をもって、日本国憲法は、国民が選挙で選んだ代表者によって制定された国民の手による憲法であると言いたいのだろう。しかし、実際にはこの選挙はGHQによって操作されていたことを指摘しておかなければならない。
 国会で議論されたことが重要なことであるかのように池上氏は主張しているが、これも重要な事実を隠蔽したうえでの主張に過ぎない。確かに、国会で憲法について議論がなされたのは事実だが、この国会議員の選び方にもGHQは関与していた。すなわち「公職追放」という形で、自分たちに都合の悪い政治家の立候補を不可能にしたうえでの選挙であったことを指摘しておかねば、「真実」とは言えないであろう。
(岩田温「シリーズ第10回 日本虚人列伝「池上彰」 中立を装った左翼 底の浅さが目に余る」)
正論2017年7月号正論2017年7月号

日本工業新聞社 2017-06-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools



2017年04月15日

『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他


正論2017年5月号正論2017年5月号

日本工業新聞社 2017-04-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 『正論』2017年5月号の記事は5月にアップしようと思ったが、朝鮮半島の情勢が想像以上に緊迫してきたため、急遽4月にアップすることとした。

 (1)以前の記事「『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他」で、朝鮮半島で起こり得るシナリオのうち、最も可能性が高く、かつ日本にとって最悪なのは、今度の韓国の大統領選挙で文在寅氏などが当選して親北左派政権が誕生し、中国の支援を受けて北朝鮮あるいは韓国主導で、朝鮮半島に核兵器を持った単一の共産主義国家が誕生することだと書いた。だが、ここに来て事態は急変している。

 ①まず、アメリカは本当に北朝鮮を先制攻撃するのかという問題がある。シリアが化学兵器を使用したという理由でアメリカがシリアを空爆し、ロシアの軍事拠点を破壊したことで、親ロ路線を進んでいたトランプ政権は完全に方針転換を余儀なくされた。プーチン大統領は、現在の米ロ関係は史上最悪だとまで述べている。このタイミングで北朝鮮を攻撃すれば、次は中国をも敵に回すことになる。ロシアと中国に同時に対処できる力が今のアメリカにあるだろうか?

 ②仮にアメリカが北朝鮮を攻撃するとして、何を大義名分に掲げるのかも問題である。シリアの場合は、化学兵器禁止条約違反を理由に空爆を行った。北朝鮮の場合、核心は核兵器にあるわけだが、現在のところ、核兵器を完全に禁止する条約は存在しない。核拡散防止条約(NPT)はあるものの、北朝鮮は同条約から脱退している。よって、核兵器を保有しているという理由で攻撃するという論理は成り立たない。もっとも、北朝鮮がマレーシアで金正男氏をVXで殺害しており、化学兵器を大量に保有しているという報道もある。アメリカなら、それを口実に攻撃をして、ついでに核関連施設を破壊するということも考えそうだが、理屈としては苦しい。

 ③アメリカが攻撃をする場合は、アメリカに核兵器が飛んでくることを防ぐのはもちろんのこと、同盟国である日本や韓国に被害が及ばないようにするために、ICBM(大陸間弾道ミサイル)と短距離ミサイルの基地を集中的かつピンポイントで一斉に攻撃すると思われる。また、同時に、北朝鮮のミサイルシステムに対して、大量のサイバー攻撃を仕掛けるであろう。さらに、核のボタンを握っている金正恩氏の斬首計画も進行するはずである。これらの作戦は短期決戦で行われ、かつミスなく遂行することが要求される。

 ④トランプ大統領は、中国が北朝鮮問題のカギを握っていると述べている。先の米中首脳会談でトランプ氏は習近平氏との昵懇をアピールし、中国が北朝鮮にさらなる強力な圧力をかけてくれることを期待している。その裏では、トランプ氏が対中貿易赤字の面で中国に大幅に譲歩したと推測される。だが、中国がどのようにして協力するのかは、どの報道を見てもいまいちピンとこない。1つ言えるのは、アメリカが北朝鮮を攻撃するのを中国は黙って見ていろという約束ではないのは確かである。北朝鮮をアメリカに取られることは、中国にとってアメリカの脅威が北上することを意味するから、中国としては望ましい事態ではない。

 ここからはかなり大胆な予想であるが、アメリカは中国に対し、中国が庇護していた金正男氏を暗殺された報復として、中国が金正恩氏を斬首することを要求したのではないかと考えている。そして、中国共産党が新たに正統性を付与した政権を打ち立てる。そうすれば、中国としても、北朝鮮を従来通りアメリカとの間の緩衝地帯として活用することができる。ただし、中国と北朝鮮が今まで構築してきた深い関係は、アメリカとの貿易という金銭的な価値と天秤にかけられるような簡単なものではない。中国が約束を履行しない可能性は十分にある(そもそも、先の米中首脳会談では、共同声明すら発表されていない)。

 ⑤アメリカによる攻撃のタイミングはいつなのかも不透明である。①で述べたように、シリア問題が深刻化しているため、アメリカが今すぐに北朝鮮を攻撃する可能性は低いと見ている(と書いたそばからアメリカが攻撃するかもしれないが)。シリア問題はヨーロッパの難民問題と関係しており、世界的な問題であるという意識が共有されている。一方、北朝鮮の核問題に関しては、残念ながらそこまで至っていない。ヨーロッパ諸国は、極東の小国が好き勝手に暴れているというぐらいの認識しか持っていない。つまり、北朝鮮問題は世界的に見て優先順位が低い。それに、アメリカが北朝鮮を攻撃する場合、韓国の軍隊が投入されることになるが、韓国軍の最高指揮官である大統領は現在不在である。だから、大統領選の結果を待つ必要がある。

 ⑥北朝鮮は、アメリカが先制攻撃をしてきたら、在日米軍基地をミサイルで攻撃すると公言している。仮に日本にミサイルが飛んできた場合、日本の自衛隊はこれを迎撃できるのであろうか?これについては、私も日本の軍事情勢に詳しいわけではないため、よく解らない。ただ、本号によると、海上自衛隊は日本海に常時イージス艦を1隻警戒配置しているが、日本の迎撃技術では一度に2発しか撃てない。一方で、北朝鮮は4発以上のミサイルを同時に発射する技術を確立している。したがって、北朝鮮のミサイルのうち、一部は日本本土を直撃するリスクがある(加藤達也、古田博司「私を弾圧した朴政権の最期」より)。

 ⑦⑤で述べたように、韓国は現在大統領が不在であるから、5月の大統領選が終わって政権が落ち着いた頃でなければ、現実的には北朝鮮を攻撃できないと思われる。ただし、ここで問題なのは、冒頭でも書いたように次の政権が親北左派になった場合である。アメリカの北朝鮮攻撃に対し、韓国が寝返るかもしれない。つまり、米韓同盟を破棄し、北朝鮮とともにアメリカと戦うというシナリオである。さらに、ここに加えて、中国までもが裏切り、北朝鮮を支援するようになれば、アメリカは南北から挟撃され、非常に苦しくなる。朝鮮戦争は長期化する恐れがある。

 (2)以前の記事「山本七平『人間集団における人望の研究』―「先憂後楽」の日本、「先楽後憂」のアメリカ」などでも書いたが、日本人は基本的に利他的な人種である。他者から何かを得たければ、自分からまずは何かを他者に与える。他者から何かをしてほしくなければ、自分がまずはそれを放棄する。日本人には謙虚な姿勢で自己を犠牲にする精神が身についている。確かにこれは日本人の美徳であり、私も日本が世界に誇るべきことの1つであると思う。

 この利他的な精神、別の言い方をすればお人好しの精神は、国内だけでなく国際政治の舞台でも発揮される。以前の記事「守屋武昌『日本防衛秘録―自衛隊は日本を守れるか』―基地の必要性を国民に納得させることはできない」でも書いたように、通常は自国をどう防衛するかという議論が先にあって、その議論が成熟したのちに国際貢献を検討するものであるが、日本の場合はこの議論が逆になっている。PKO法が20世紀に成立したのに対し、安保法制はようやく2年前に成立したにすぎない。駆けつけ警護は可能であるのに、海外における邦人救出については依然としてハードルが高い(だから、北朝鮮の拉致問題が一向に解決しない)。日本の経済はもう20年ぐらいずっと横ばいで苦しい状態なのに、海外支援には熱心に資金を供給する。

 ただ、(1)でも見たように、国際政治の舞台では、日本の利他的精神が全く通用しない相手がいるという事実から目を背けることはできない。左派であれば、戦争が起きるのは各国が武器を持っているせいだから、武器を全廃しよう、日本の憲法のように平和主義を採用しようと言うだろう。だが、「日本人は相手を攻撃しないから、海外の人も同じように考えるべきだ」という主張は、利他的であるように見えて、実は自分の都合を相手に押しつけるエゴイスティックな論法である。国内の人間関係と、国家間の関係は性質が違うことを左派の人々は理解していない。

 国家間の関係は、不信、緊張が基本である。国家の主たる役割は、主権、領土、国民を守ることである。これら3要素が、いつ何時、諸外国から侵害されるか解らないという不信感を国家は抱いている。よって、国家は自ずと利己的、自己保存的にならざるを得ない。そのために、軍隊という暴力を持つ。その軍隊によって外国からの脅威を低減させることができているから、国内の人間は安心して利他的に振る舞うことができる。相手を信頼して取引をすることができる。

 ここで左派は次のように言うだろう。国家という機構があるから、軍隊という暴力が発生する。世界同時革命によって世界政府を作り、世界中の人々が平等になれば、世界中で信頼が醸成され、戦争はなくなるのではないかと言うわけである。ただし、世界中で完全なる平等を実現するには、世界中どの地域に行っても同じように作物が収穫できて食べるのに困らず、世界中どの地域に行っても同じように天然資源が入手できて産業に困らないといった状態が前提となる。ところが、現実の世界はそうはなっていない。世界各地は非常にバラエティに富んでいる。ということは、どうしても土地や資源の奪い合いが避けられない。つまり、国家が発生する。

 国家とは、領土内の資源(国民を含む)を最大限に活用して、国力を増強するためのルールを定める機構である。世界の地理は不釣り合いであるから、国家が生じる。そして、各国のルールが異なるから、国家には多様性が生まれる。世界政府を提唱したカントは、そういうルールには普遍的なルールがあると主張した。だが、実際にはそれぞれの国家が抱える資源の量や質が異なるので、各国の事情に応じたルールが策定される。さらに、それぞれの国家は、隙あらば他国との格差を埋めようと狙っている。相互不信を出発点として徐々に信頼関係を構築し、条約などを締結する。それが無理ならば暴力的な手段に出る。日本国内と同じやり方で、最初から相手を信頼して下手に出ることは命取りになりかねない。これが国際政治の現実なのである。

 (3)本号の本筋からは外れるのだが、「日本虚人列伝」という連載で内田樹氏のことが取り上げられていた。人生相談では非常に的確な助言をするのに、こと問題が政治となると、まるで頓珍漢な回答をしてしまうことを批判している記事であったが、その中にこんな記述があった。
 広告代理店に就職してみたいという学生が就職活動の準備として「何やっとけばいいんですか?」という質問をしている。(中略)

 しかし、内田氏の回答は見事だ。問題に対する「正解」を求ているこの学生は「クリエイター」に向かないから、広告代理店に就職するのは止めた方がいいというのだ。そして、「最低限これだけはやっておけばいい」という最低限の水準を求める行為そのものを「そんなことをやっていても何にもなりませんよ」と一蹴する。さらに、最低レベルだけをこなすような人間は「いくらでも換えが利く」人間であり、「ある日いなくなっても誰も困らないし、誰も気がつかない」とまで断じている。
(岩田温「日本虚人列伝 第8回「内田樹」 売れっ子思想家先生が、見当外れの政治談議をつづける理由」)
 この内容には私も同感である。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第25回)】「顧客から100を要求されたら101を提供すればよい」というマインド」で、顧客からの要求を少し上回る成果物を出せばよいと考えているマネジャーの話をしたが、目標を立てても往々にして結果はそれを下回ることをこのマネジャーは理解していない。顧客から100を要求されたら、130ぐらいを目指さなければならない。実際には8割程度の出来にしかならないから、130×0.8で104となり、ギリギリ顧客の要求を上回ることができる。元中日監督の落合博満氏は、3割バッターは3割を目標とするのではなく、3割3分ぐらいを目標とするから3割を達成できると語っていた。

采配采配
落合博満

ダイヤモンド社 2011-11-17

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 偏差値の高い学生の中には、試験で合格点ギリギリを狙うような勉強法をする人が少なからず存在する。確かに、試験に合格するためであれば、それでよいのかもしれない。しかし、それと同じ態度を人生全般に当てはめるのはよくないと私は思う。こういう人たちは、合格するのに必要最低限の知識を効率よく学習しようとする。しかし、新しいアイデアやイノベーションは、効率的な学習からは生まれない。むしろ、非効率な学習からこそイノベーションは生まれる。

 「こんなことを覚えて何の役に立つのか?」と思えるような知識でも、とにかく貪欲に吸収する。大量に知識を覚えると、既存の知識との間で齟齬が生じるようになる。自分の記憶の中で矛盾点が存在するのは非常に気持ちが悪い。そこで、脳はその非合理性を何とか論理的に説明しようと努力する。すると、そこから新たなアイデアが生まれることがある。また、しばしば言われるように、イノベーションというのは全くの無から生まれるのではなく、既存の知識の組み合わせによって生じるものである。ということは、脳に保管されている知識の量が多いほど、知識の組み合わせのパターンは多くなり、イノベーションの源泉が豊かになる。逆に、最低限の知識で済まそうとする人の脳内は、知識がスカスカであり、良質な知識のネットワークが形成されない。



  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like