このカテゴリの記事
『正論』2018年5月号『策略の朝鮮半島/森友”改竄”の激震/新たなる皇帝の誕生・・・』―南北統一で「金氏朝鮮」が成立する可能性、他
『世界』2018年2月号『反貧困の政策論』―貧困を解決するには行政がもっと市場に介入して消費者にお金を使わせればよい、他
『正論』2017年12月号『核戦争勃発に備えろ/負け犬和式リベラルのウソ』―思い通りに動かない同盟国(日韓)に苛立っているであろうアメリカ

お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京から実家のある岐阜市にUターンした中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。たまにモノローグ。双極性障害Ⅱ型を公表しながら仕事をしているのは、「双極性障害(精神障害)の人=仕事ができない、そのくせ扱いが難しい」という世間の印象を覆したいため。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
Facebookページ

Top > 韓国 アーカイブ
2018年04月29日

『正論』2018年5月号『策略の朝鮮半島/森友”改竄”の激震/新たなる皇帝の誕生・・・』―南北統一で「金氏朝鮮」が成立する可能性、他


2018年5月号 (正論)2018年5月号 (正論)

日本工業新聞社 2018-03-31

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)
 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27日、軍事境界線のある板門店(パンムンジョム)の韓国側施設「平和の家」で会談し、「完全な非核化により、核のない朝鮮半島の実現という共通の目標を確認した」とする「板門店宣言」に署名した。宣言では1953年から休戦状態にある朝鮮戦争の「終戦」を今年中に目指すことや、両国に米国や中国を交えた多国間の枠組みで、平和体制の構築を協議する方針も示した。
(毎日新聞「南北首脳会談「朝鮮半島の完全な非核化」目標 共同宣言」〔2018年4月27日〕)
 以前の記事「『世界』2018年2月号『反貧困の政策論』―貧困を解決するには行政がもっと市場に介入して消費者にお金を使わせればよい、他」で、朝鮮半島で起こり得るシナリオとして、Ⅰ.北朝鮮が先制攻撃する場合、Ⅱ.アメリカが先制攻撃する場合、Ⅲ.米朝対話が成立する場合、Ⅳ.南北対話が成立する場合という4つを示し、最も可能性が高いのはⅢであり、次いでⅣではないか(ⅠとⅡは起こらないだろう)と書いたが、実際にはⅣが実現したわけだ。これによって、韓国と北朝鮮は将来的に統一に向かうと推測される。

 まず、経済面であるが、北朝鮮は中国と同様、表面的には社会主義を掲げながら、韓国に倣って徐々に市場経済を導入していくものと考えられる。既に、北朝鮮では相当程度まで市場経済が浸透しているという見方もある。1990年代に物資が極度に不足し、「苦難の行軍」を経験した際には、国営商店を介さずに自由に取引ができる闇市が発達した。21世紀に入って苦難の行軍を脱した後も闇市はなくならず、北朝鮮の人々は、市場レートよりもはるかに高い価格で取引がなされる闇市で、余った農作物などを売買した。政府は、国営商店と闇市の価格差を問題視し、2002年に7・1措置を出して国営商店の価格を大幅に引き上げたものの、それでも闇市はなくならなかった。市場の自由化の流れを止められないと感じた政府はついに、2003年に総合市場を公設した。現在、北朝鮮のGDPの4割程度は私経済によるものと推測されている。

 北朝鮮は経済特区を設置し、韓国企業の誘致に乗り出すであろう。現在、北朝鮮の経済特区と言うと、開城工業団地がある。2012年末時点の稼動企業数は123社、2012年時点の従業員数は5万4,234人、従業員の98.6パーセントは北朝鮮側の人員であった。2013年時点で、進出した韓国企業の投資総額は5,568億ウォン(482億円)で、生産額は月4,000万ドルに上った。これとは別に韓国側の公的企業が、造成や社会基盤整備に5.5兆ウォン(4,770億円)から6兆ウォン(5,200億円)を投資している。北朝鮮側は、労働者約5万3千人分の賃金として1年間に8,700万ドル(約86億円)の外貨収入を得ており、北朝鮮にとっては「ドル箱事業」であった。

 2016年2月10日、北朝鮮による弾道ミサイル発射実験を受け、韓国政府は、開城工業地区から北朝鮮へ流入する通貨が、兵器開発に流用されることを防ぐとして、開城工業地区の操業停止と韓国人の引き揚げの措置を行った。だが、2017年10月、北朝鮮が韓国との協議を経ず、秘密裏に工場を再稼働されていたことが明らかになり、再開してすでに6カ月経っていることが報じられた。まずは、この開城工業団地の操業を正式に認めるところから始められるに違いない。そして、北朝鮮は第2、第3の工業団地の造成に着手する可能性が高い。

 韓国企業はASEAN諸国に海外工場を持っているが、ASEAN主要国の製造業のワーカーの月額賃金は以下の通りである(JETRO「投資コスト比較」より)。

 ・バンコク(タイ)=378ドル
 ・ハノイ(ベトナム)=204ドル
 ・ジャカルタ(インドネシア)=324ドル
 ・マニラ(フィリピン)=237ドル
 ・プノンペン(カンボジア)=170ドル
 ・ビエンチャン(ラオス)=121ドル
 ・ヤンゴン(ミャンマー)=135ドル

 これに対して、北朝鮮の場合は、前述の通り5万3千人分の賃金が年間8,700万ドルであるから、1人あたりの月額賃金に直すと約137ドルである。ただし、開城工業団地の労働者は、他の北朝鮮の労働者よりも優遇されているはずであるから、北朝鮮のワーカーの平均月額賃金を求めると、ASEANのどの国よりも低くなると推定される。北朝鮮はこの労働コストの安さを武器に、韓国企業を大量に誘致し、自国の経済発展を目指す。韓国企業は、製品コストのより一層の引き下げというメリットが得られる。すると、日本企業にとっては非常に大きな脅威となる。

 現在、韓国と北朝鮮の経済格差は45倍であり、このままではとても統一できない。しかし、北朝鮮が今後10年の間に毎年10%の成長を続け、その後の10年間でさらに毎年7%の成長を達成すると仮定すると、北朝鮮の経済規模は約4.5倍になる。一方、韓国は今後20年の間毎年2%の成長が続くならば、韓国の経済規模は約1.5倍になる。したがって、20年後の経済格差は45×1.5÷4.5=15倍にまで縮小する。東西ドイツが統一した時の経済格差は、西ドイツ:東ドイツ=3:1であったことを踏まえると、これでもハードルは高いのだが、45倍に比べれば大幅に改善されたことになり、南北統一の可能性が見えてくる。

 政治に目を向けると、文在寅大統領はしばしば2国併存の連邦制を主張しているが、その具体的な政治機構ははっきりしない。北朝鮮の金政権と韓国の大統領制をそのまま残すのであれば、南北統一にはならない。かと言って、北朝鮮の金政権と韓国の大統領制の上に、何か新しい統一的な政治機構を作るのは現実的ではない。よって、北朝鮮の金政権と韓国の大統領制のどちらかを選択するしかない。北朝鮮と韓国はいずれも、自国が朝鮮半島を代表する国家であることを主張し合ってきた。北朝鮮の金政権と韓国の大統領制のどちらに正統性があると認めるのかという問題になるが、私は最終的に金政権が選択されるのではないかと予測する。

 と言うのも、韓国の歴代大統領の多くは、在任中の不祥事(身内の不祥事を含む)が原因で、その後に悲惨な末路をたどっているからである。その一部を挙げると次の通りである。

 ・李承晩(初代~第3代)=1960年の不正選挙で、副大統領に当選した李起鵬は四月革命で失脚し、長男の李康石の手によって、朴瑪利亜夫人や次男(李康旭)とともに射殺された。
 ・朴正煕(第5~9代)=妻(陸英修)は、文世光事件で銃弾が頭部に命中し、死亡。長男(朴志晩)は、麻薬法違反の容疑で繰り返し逮捕。本人は、側近の金載圭情報長官により暗殺。
 ・全斗煥(第11・12代)=退任後に、利権介入などが発覚し親族が逮捕された。後に、政権下の不正と親族の不正を国民に謝罪し、財産を国に返納した。その後も、光州事件や不正蓄財への追及が止まず、死刑判決を受けた(減刑の後、特赦)。
 ・盧泰愚(第13代)=退任後の1995年に政治資金の隠匿が発覚。さらに、粛軍クーデター、光州事件でも追及され、軍刑法違反として懲役17年の判決を受ける(1997年12月に特赦)。
 ・金大中(第15代)=長男の金弘一は、「李溶湖ゲート」、「陳承鉉ゲート」と呼ばれる不正事件で在宅起訴。次男の金弘業は、利権に便宜を図る見返りに25億ウォンを受け取り逮捕。 三男の金弘傑も、「崔圭善ゲート」と呼ばれる事件に関与し、逮捕。全部で親族5人が逮捕された。
 ・盧武鉉(第16代)=任期終了後の2009年に、6億円を超える不正資金疑惑について、事情聴取が実施され、逮捕も近いのではと思われていたが、自宅の裏山の岩崖から投身自殺。
 ・李明博(第17代)=2012年に入り、李明博が私邸として購入した土地の金額が、同地域の他の土地より安かったことや、土地の名義が別人だった事などから、購入資金を政府が不正に肩代わりしたとの疑惑がある。2018年3月、約10億円の収賄容疑などで逮捕。
 ・朴槿恵(第18代)=2016年10月末に発覚した友人崔順実の国政介入問題、いわゆる「崔順実ゲート事件」により、支持率が急落。12月9日、国会で弾劾訴追案が可決され、大統領としての職務が停止。2017年2月28日には特別検察官が国政介入疑惑における収賄を認定。3月10日、憲法裁判所により、罷免が決定。3月31日に逮捕。

 ブログ別館の記事「櫻井よしこ、呉善花『赤い韓国―危機を招く半島の真実』―全体主義的な韓国は「悪」を徹底的に叩くことでしか「善」を定義できない」で書いたような、「悪を徹底的に叩く」という韓国人の特質からすると、韓国にはおよそ正統性がある政権というものがほとんどなかったことになる。一方で、北朝鮮に目を向ければ、金日成―金正日―金正恩と続く政権がある。金正恩総書記によほどのことがない限り、20年後も金正恩体制が続いているだろう。

 もし今後の韓国大統領も同じように在任中の不正が続くならば、韓国人が自国の政権を見捨て、金政権に正統性を見出す可能性も決して低くない。最近左傾化が著しい韓国であれば十分あり得る。現在の韓国は50代の人口が多いが、彼らはいわゆる「386世代」である。386世代とは、1990年代に30代(3)であり、80年代(8)に大学生で、87年の民主化宣言まで民主化学生運動に参加していた者が多い60年代(6)の生まれを指す。彼らは進歩主義的傾向が強く、北朝鮮に強いシンパシーを抱いている。そして、20年後には彼らが韓国の政治の中心にいる。

 以上を総合すると、20年後ぐらいを目途に、朝鮮半島には「金氏朝鮮」とでも呼ぶべき国家が誕生すると予測する(北朝鮮が核兵器開発の目的としていた「体制の維持」も達成される)。政治的には共産党をトップとする社会主義であるが、経済的には部分的に自由市場を受け入れる。ちょうど、中国のミニチュア版が誕生するイメージである。金氏朝鮮は親中反日である。結局、朝鮮半島の国家というのは、中国に属することで生き延びる運命なのである。そういう意味では、朝鮮半島の歴史のメインストリームに戻ってきたということに他ならない。

 アメリカもこのことを見越した上で、トランプ大統領は米朝首脳会談に臨むだろう。北朝鮮が非核化を完了すれば、在韓米軍を韓国から撤退させる。だが、ここで気になるのは、南北首脳会談で、「年内の朝鮮戦争終結宣言を目指す」とされた点である。朝鮮戦争が終結すれば、韓国にアメリカ軍を駐留させる意味がなくなる。つまり、朝鮮戦争の終結とともに在韓米軍は撤退しなければならないのである。それまでに北朝鮮が非核化のプロセスを完了させられるとは到底思えない。北朝鮮は現在60発ほどの核兵器と、最大で150の核関連施設を保有していると言われている。これらの全てを、年内に撤廃するのはほとんど不可能だ。

 仮に米朝首脳会談で非核化の成果が得られて在韓米軍が撤退したとしても、それはまやかしの非核化(アメリカ向けのICBMのみ放棄)であり、将来的に誕生する金氏朝鮮は、隠しておいた残りの核兵器を今度は日本に向けてくるに違いない。その核兵器はもはやアメリカが対象ではないため、日本は朝鮮半島の非核化をアメリカに頼ることはできず、独力でこの問題に立ち向かわなければならない。拉致問題といい核問題といい、日本はずっとアメリカにおんぶにだっこの状態で、気がついてみたら交渉の蚊帳の外に置かれていた。そのような外交の愚策はもう許されない。日本がイニシアティブを発揮して朝鮮半島の反日国家と対峙する必要がある。

 (2)本号の井上和彦「シベリア出兵の美しき真実 ポーランド人を救った日本人」では、日本とポーランドの絆についての記事である。ポーランドが東欧一の親日国である理由が解る。

 ポーランドはウィーン会議(1814~15年)で形式上独立するも、事実上はロシア領であった。19世紀末、ポーランド人は真の独立を勝ち取るべく、2度にわたって帝政ロシアに独立戦争を挑んだ。しかし、蜂起は鎮圧され、さらに蜂起に立ち上がった多くのポーランド人が政治犯としてシベリアに強制移送された。その後、第1次世界大戦で戦場となったポーランドの人々がシベリアに逃れ、シベリアのポーランド人は15~20万人に膨れ上がった。そんな中、1917年にロシア革命が起き、1918年に第1次世界大戦が終結して、ようやくポーランドは独立を回復した。

 ところが、シベリアのポーランド人は、ロシア内戦で祖国への帰還が困難となり、それどころか生活は困窮を極め、餓死者が続出した。同胞の惨状を知ったウラジオストク在住のポーランド人は、彼らを救済するために「ポーランド救済委員会」を立ち上げた。彼らは、せめて子どもたちだけでも救って祖国へ帰してやりたいと願っていた。ちょうど同時期にシベリアに出兵していた日本人が彼らの存在を知り、日本政府が救済に動いた。日本陸軍は1920年7月20日に第1陣として、輸送船「筑前丸」に56名の児童とポーランド人の付き添い5名を乗せ、ウラジオストクの港を出発した。それ以降、1921年7月までに5回の救援便が合わせて375名の児童を救出した。さらに、1922年8月、輸送船「明石丸」と「臺北丸」が3回に分けて孤児390名を移送した。

 輸送船はウラジオストクを発ってから一度日本に立ち寄るのだが、そこで受けた日本の医療スタッフによる献身的な看病にポーランドの子どもは感激し、日本を出発する際には「日本を離れたくない」と泣きじゃくる子どももいたそうだ。そして、子どもたちの看病に奮闘した1人の日本人看護師のことが、ちょうど『致知』2018年4月号に紹介されていた。
 岡田:この第1回救済事業の時には、日本国内で腸チフスが流行し、20数名のポーランドの子供たちが腸チフスに罹ってしまいます。日赤の医師や看護師たちが「ここで死者を出したら申し訳ない」と、全力をあげて治療したことで全員元気にすることができたのですが、その時に看護をした23歳の松沢フミという女性が腸チフスに罹るんです。

 ところが、フミは腸チフスになっても、昼夜問わず献身的に子供たちを看護し続け、心配する同僚たちにこう言ったといいます。「人は誰でも自分の子や弟や妹が病に倒れたら、己が身を犠牲にしても助けようとします。けれどもこの子たちは両親も兄弟、姉妹もいないのです。誰かがその代わりにならなければなりません。私は決めたのです。この子たちの姉になると」 そしてフミは殉職。ポーランドの子供たちはその死を悼み、声が嗄れるほど泣いたといいます。
(岡田幹彦、服部剛「〔感動の日本史〕本気・本腰で生きた歴史の偉人たちに学ぶ」)
致知2018年4月号本気 本腰 本物 致知2018年4月号

致知出版社 2018-03


致知出版社HPで詳しく見る by G-Tools

 なお、『致知』の同記事では、他の偉人として、①太平洋戦争の沖縄戦で、県民の多くを疎開させた上で自決した沖縄県知事・島田叡、②義和団事件で日本の軍隊の優秀さを世界に証明した柴五郎、③第2次世界大戦中にドイツの反対を押し切ってユダヤ人難民を救った樋口季一郎、④硫黄島の戦いで目覚ましい統率力を発揮した栗林忠道の名前が挙げられている。


2018年02月16日

『世界』2018年2月号『反貧困の政策論』―貧困を解決するには行政がもっと市場に介入して消費者にお金を使わせればよい、他


世界 2018年 02 月号 [雑誌]世界 2018年 02 月号 [雑誌]

岩波書店 2018-01-06

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)
 アメリカの報復の意志は、なぜ確からしいのか。それは、「同盟国である日本が攻撃されて黙っているわけにはいかないはず」だからだ。ただし、報復が北朝鮮を滅亡させるような規模で行われるかどうかについては、状況次第というほかはない。まして、北朝鮮がアメリカ本土に到達する核能力を獲得したとすれば、アメリカが自国民への被害を甘受してまで「日本のために」報復すると考えるわけにはいかない。
(柳澤協二「米朝戦争の危機と日本の針路」)
 引用文最後の部分は、アメリカによる核の傘が破れたことを意味する。この手の主張は右派が展開することが多く、『世界』の論評記事で取り上げるのは不適切であるのだが、核戦略に対する私の無知ゆえに、この「核の傘が破れる」というのがどうも理解できない。

 現在、アメリカと中国が核兵器を保有している。中国がアメリカを核で攻撃すると、アメリカは核で中国に対して反撃してくる可能性がある。そうなれば、双方の国にとって甚大な被害が生じるから、実際には核兵器は使用されない。これを相互確証破壊戦略と言う。中国が日本などのアメリカの同盟国を核で攻撃する場合も同様で、アメリカに核で反撃されるかもしれないから、抑止力が働く。これが同盟国にとっての核の傘の意義である。ここで、中国の同盟国である北朝鮮が核を保有した場合はどうであろうか?北朝鮮がアメリカを攻撃する場合でも、日本などアメリカの同盟国を攻撃する場合でも、アメリカは北朝鮮に核で反撃する可能性がある。だから、北朝鮮は核を実際に使用することができない。つまり、核の傘は破れていないはずである。北朝鮮が核を保有するとなぜアメリカの核の傘が破れるのか、詳しい人に是非ご教示いただきたい。

 右派が「アメリカの核の傘が破れる」と指摘する時、その先には「だから日本も核武装をするべきだ」という主張が続く。核の傘の危機を叫ぶ右派には、日本にどうしても核武装をさせたい勢力と、その背後で日本に核兵器を売ろうとするアメリカの軍産複合体の存在が見え隠れする。確かに、力に対しては力で対抗するのが国際政治のセオリーである。だが、論理よりも情理が優先する日本は、以前の記事「『致知』2018年2月号『活機応変』―小国は国内を長期にわたって分裂させてはならない。特に日本の場合は。」でも書いたように、核を保有することはできない。

 ここで、改めて北朝鮮をめぐって想定されるシナリオを整理してみたいと思う。
 <Ⅰ.北朝鮮が先制攻撃する場合>
 ①北朝鮮がアメリカに向けてICBMを発射する場合
 ⇒アメリカが核で反撃してくる可能性があるため、実際には実行されない。
 ②北朝鮮がアメリカの同盟国である日本や韓国に向けて核ミサイルを発射する場合
 ⇒この場合もアメリカが核で反撃してくる可能性があるため、実際には実行されない。
 ③北朝鮮がアメリカに対して通常の武力攻撃をする場合
 ⇒北朝鮮はアメリカの付近に軍隊を保有していないので、このシナリオは成り立たない。
 ④北朝鮮がアメリカの同盟国である日本や韓国に対して通常の武力攻撃をする場合
 ⇒韓国がアメリカ側につくか、アメリカを裏切るかによって変わる。
  ⅰ)韓国がアメリカ側につく場合
  ⇒構図的には、アメリカ・韓国・日本VS北朝鮮・中国・ロシアとなるが、まず日本は戦争に参加できない。また、ロシアは北朝鮮との関係が中国のそれに比べると弱いので、実際に表舞台に出てくるかどうか不明である。アメリカ・韓国の軍事力は、北朝鮮・中国の軍事力を凌駕しているから、アメリカ・韓国が勝利し、北朝鮮は崩壊する。ただ、その跡地に親米親韓政権ができるかというと、そうとは限らない。資本主義のラインが北緯38度から中国国境まで北上することに中国が反発するであろうし、何よりもアメリカが新国家の建設に後ろ向きになるであろう。というのも、イラク戦争後の政権樹立と国家安定に相当苦労させられていることを知っているからだ。となると、アメリカは敗戦国の中国に親中の傀儡政権を作ることを容認することもあり得る。
  ⅱ)韓国がアメリカを裏切る場合
  ⇒構図的には、アメリカ・日本VS北朝鮮・韓国・中国・ロシアとなる。この戦いはアメリカにとって非常に不利である。アメリカが敗戦すると、北朝鮮と韓国は統一国家を樹立するであろう。この統一国家は、韓国の巨大な資金を北朝鮮の核に投資するから、朝鮮半島に凶悪な核保有国家が誕生することを意味する。日本にとってはまさに悪夢である。

 ただし、北朝鮮が先制攻撃をする可能性はそもそも限りなく低いと思われる。北朝鮮がアメリカを挑発する時、必ず、「アメリカが攻撃をしてくるならば北朝鮮も黙ってはいない」という言い方をする。逆に言えば、北朝鮮から先制攻撃をする意思はないと考えてよい。後述するように、北朝鮮が核開発をする目的は、何もアメリカと戦争をしたいからではなく、アメリカを対話のテーブルに引きずり出して、南北統一の障害となっている米韓同盟を放棄させることであるからだ。

 <Ⅱ.アメリカが先制攻撃をする場合>
 ①アメリカが北朝鮮に向けてICBMを発射する場合
 ⇒北朝鮮の核ミサイルは60ほどであると見積もられている。この程度であればアメリカが全ての核ミサイルを破壊できるかもしれないが、100%成功する確証はない。もし撃ち漏らしがあれば、北朝鮮が核で反撃してくる恐れがある。アメリカ本土を核で攻撃されることに極度の恐怖を感じているアメリカは、この作戦に踏み切ることができない。
 ②アメリカが北朝鮮に対して通常の武力攻撃をする場合
 ⇒これはⅠ④と同じシナリオになる。アメリカの勝利は、韓国の態度にかかっているが、私は韓国がアメリカを裏切ると思う。近年の韓国は左傾化が進んでおり、保守の朴槿恵前大統領を辞任に追いやったロウソク革命では、親北左派の活動家が多数関与していたと報告されている。その活動の成果が、ウルトラ左派の文在寅大統領の誕生として結実したわけだ。文大統領は、アメリカに要請されてTHAADミサイルを配備した時、中国の猛反発を受けてあっさりと譲歩してしまった。また、国連が北朝鮮に対する制裁を決議を下した際も、北朝鮮に資金的援助をするほど、筋金入りの親北派である。文大統領の本音は、早く南北統一を実現して民族の分断を解消し、今までそうであったように、中国に属するという形を作りたいということだろう。

 アメリカもこのことは当然知っているであろうから、北朝鮮を攻撃する動機が減退する。結局のところ、北朝鮮はアメリカに対して先制攻撃をする意思がなく、アメリカも北朝鮮を攻撃するメリットがないことから、実際には両者の軍事衝突が起きる可能性は限りなく低いと思われる。

 <Ⅲ.米朝対話が成立する場合>
 北朝鮮はまず、アメリカ本土に届くICBMの保有をアメリカに認めさせようとするだろう。もちろん、実際にこのICBMが使われる可能性は前述のように低いわけであるが、北朝鮮の非核化を目指すアメリカはこの要求を呑まない。ただし、アメリカ国内では北朝鮮の核容認論も持ち上がっており、アメリカ本土に届かない核ミサイルであれば保有を認めてもよいという意見がある。しかし、これでは今度は北朝鮮が納得しない。というのも、元々北朝鮮がICBMを開発したのは、北朝鮮がICBMでアメリカを牽制しながら韓国を武力併合するためであるからだ。

 アメリカの要求はあくまでも北朝鮮の核放棄である。当然、北朝鮮は見返りを求める。具体的には米韓合同軍事演習の中止、さらには在韓米軍の撤退である。つまり、事実上の米韓同盟の破棄である。韓国からアメリカの脅威が消えれば、北朝鮮は韓国の併合へと動き出すだろう。また、左傾化した韓国も喜んで北朝鮮と一緒になるに違いない。新しい朝鮮半島の国家は社会主義国となる。アメリカとしては、冷戦の遺産を朝鮮半島という小さな領域に閉じ込めておく方が都合がよいのだが、それよりも北朝鮮の非核化が優先度が高いとなれば、また、左傾化した韓国がアメリカの言うことを聞かなくなっている現状を踏まえれば、韓国を捨てる可能性は高い。

 <Ⅳ.南北対話が成立する場合>
 これは対話において韓国がアメリカを裏切り、アメリカを出し抜いて北朝鮮と交渉を進めてしまう場合である。韓国が北朝鮮の核の脅威から逃れるためには、北朝鮮と早く統一をしてしまえばよい。Ⅲで書いたように、左傾化した今の韓国であれば十分に考えられることである。当然のことながら、米韓同盟は破棄される。アメリカは激怒するに違いないが、長年夢見た南北統一を実現させるためであれば、アメリカを無視することぐらいたやすいことである。この結果、朝鮮半島には、凶悪な核兵器を保有した社会主義国家が誕生する。

 可能性としては、Ⅲが最も高く、その次にⅣが考えられる。いずれにしても、朝鮮半島には社会主義化した反日国家が誕生する。すると、冷戦の遺産は韓国対北朝鮮という構図から、日本対朝鮮半島の新国家という構図に引き継がれる。日本のような小国は、大国同士の代理戦争に巻き込まれないようにすることが存亡のカギを握る。日本は、朝鮮半島の新国家が強烈な反日でも、むやみに対立して米中の代理戦争を演じるのではなく、この国とどうにかしてつき合う方法を編み出さなければならない。本ブログでは、大国が二項対立的な発想をするのに対し、日本は二項混合的に対立を切り抜けることを得意とすると書いた。今、その真価が問われる。さらに、朝鮮半島の新国家が核保有国である場合、日本も反射的に核を保有するのではなく、唯一の被爆国としての矜持を保ちながらいかなる戦略を展開すべきか知恵を絞らなければならない。

 《参考記事》
 『正論』2017年10月号『日本は北朝鮮と戦わないのか/傲る中国』―朝鮮半島の北が資本主義国家、南が社会主義国家になる可能性?
 『致知』2017年11月号『一剣を持して起つ』―米朝対話が成立するとはアメリカが韓国を捨てることを意味する(ことを左派は解っていない)、他

 (2)今月号の特集は「反貧困の政策論」であるが、日本人が貧困になった理由は至極単純であり、消費者が「安くてよい製品・サービスを早く提供せよ」と企業に要求したからである。確かに、低価格戦略でも規模の経済をいかんなく発揮すれば労働生産性が大きくなり、労働分配率を高めることも可能であろう。しかし、大多数の企業にとって、市場からの低価格の要求は、人件費の抑制という形になって現れる。正社員の人件費をこれ以上下げることが難しいとなれば、今度は非正規社員を使うことで人件費を変動費化する。こうして、安い給料しかもらえない社員は、市場においてさらに安い製品・サービスを企業に要求する。それを受けて、企業はまた社員の給与を引き下げる。この負のスパイラルの繰り返しである。

 私は本ブログで日本の階層構造を「神⇒天皇⇒立法府⇒行政府⇒市場/社会⇒企業/NPO⇒学校⇒家庭」とラフスケッチしてきた。自由主義的な考え方の人から見れば、行政が市場に対して何か力を及ぼすというのは奇異に映るかもしれない。だが、行政は市場を作ることができる。例えば、道路や鉄道を通し、そこに住宅を供給すれば、商圏を形成することができる。また、補助金や規則によって、消費者が買うべき、あるいは買うべきではない製品・サービスを選別することもできる。私は、こうした行政の力を活用して、市場や消費者に対し、「少々高いけれどもよい製品・サービス」を購入するように動機づける政策が必要なのではないかと考える。

 やや文脈が異なるものの、ドイツは「社会的市場経済」という考え方を導入している。これは市場経済であるから、市場の調整メカニズムと自由競争を尊重し、市場の均衡化機能を重視する立場である。だが同時に、「市場経済」の前に置かれた「社会的」という形容詞は、市場参加者で構成する社会全体の動きに配慮するという倫理的概念である。したがって、必要となれば、政府の政策運用による市場介入も許される。言うなれば、企業や私有財産、自由貿易を擁護しつつ、労働組合の団体交渉や年金・健康保険などの社会保険といった社会政策とを組み合わせた形の資本主義である。このように、行政が市場に介入することは可能である。

 実は日本においても、消費者が安い製品を購入するように行政が介入していた時期がある。ダイエーの中内功が「流通革命」を唱えていた1960年代のことである。日本生産性本部の中に設置されていた消費者教育委員会を母体とする日本消費者協会(1961年設立)は、一般消費者に対して、「賢い主婦」とは「スーパーで安い商品を買う人」であるというキャンペーンを展開していた。高度経済成長期には物価高が深刻な問題となっており、流通革命の旗手たるスーパーは、流通の近代化を進めて、物価問題を解決する救世主と見られていたのである。当時、大規模小売店舗を規制する法律としては百貨店法があったが、通産省の官僚も、中内功に対して百貨店法の規制をかいくぐる方法を指南していたという(満薗勇『商店街はいま必要なのか―「日本型流通」の近現代史』〔講談社、2015年〕より)。

商店街はいま必要なのか 「日本型流通」の近現代史 (講談社現代新書)商店街はいま必要なのか 「日本型流通」の近現代史 (講談社現代新書)
満薗 勇

講談社 2015-07-16

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 経済産業省はこれと正反対のことをやればよい。現代において賢い消費者とは、品質を正しく評価し、高い品質に見合った対価を支払う消費者のことであると啓蒙する。すると、まず一部の金持ちの消費者が高いお金を払うようになる。そうすれば、企業は人件費を上げることができる。給料が増えた社員は、自分が消費者の立場に立った時に、今までよりも高いお金を払うようになる。これが続いていくと、業績が改善する企業が増加するとともに、高い給与を手にする社員も増えていく。こうした正のスパイラルを生み出すことが今求められている。

 ところで、「片山善博の「日本を診る」(99)「平成30年度与党税制改正大綱」から読み取れる政治の劣化」という記事で、サラリーマン(この表現が既に男尊女卑である)の給与所得控除の額を一律に減らすのは、フリーランスとの間で不公平を生むと書かれていた。だが、会社員は企業の収入からコストを引いた残りを給与として受け取っている。また、フリーランスも収入から必要経費を引いた残りを給与として受け取っている。この点では、会社員にもフリーランスにも違いはない。むしろ、給与所得控除が認められている会社員の方が優遇されていると言うこともできる。それに、フリーランスは一般の人がイメージするほど恵まれていない。フリーランス貧乏については、ブログ別館の記事「ダイアン・マルケイ『ギグ・エコノミー―人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方』―フリーランス中心の社会は理想とは思えない」でも書いた。

 (3)
 原発事故情報公開弁護士団は、七七一訴訟の初期段階から不開示部分と理由の対比を求め、政府側に対して、「ヴォーン・インデックス」を作成することを求めてきた。ヴォーン・インデックスとは、インカメラ審理(裁判所のみが文書等を見聞して非公開で行われる審理)の問題点に対処するためにアメリカ合衆国の裁判所にて考案された手法であり、具体的には、文書の様式や記載事項、細かな拒否の理由に分類・整理した文書のことをいう。これにより、どの文書のどの記載事項が、いかなる不開示情報に当たると判断したのかを整理できる。
(海渡双葉「吉田調書を超えて(第5回)公開されない情報」)
 福島原発事故をめぐっては、幅広い関係者にヒアリングが実施されており、ヒアリングの対象者数は772名、総聴取時間は概算で1,479時間に上るという。聴取結果書の原本は内閣官房に保管されている。政府事故調は、2011年12月26日に中間報告を、2012年7月23日に最終報告を提出して調査活動を終了した。しかし、その聴取結果は全く公開されず、調査報告書にも添付されなかった。原発事故情報公開弁護士団は、ヒアリング情報の開示を求めて、ヴォーン・インデックスの作成を政府に要求したというわけである。

 だが、今のネット社会の脅威に鑑みるに、各関係者のヒアリング内容が公開されれば、立ちどころに当該対象者がバッシングの対象となり、ヒアリングの内容から真実を究明するという本来の目的は達せられないのではないかと危惧する。自分より劣っているマヌケをあぶり出し、ホッと胸を撫で下ろす(Mr.Children「週末のコンフィデンスソング」)どころか、勢いそのマヌケを罵詈雑言で総攻撃するに違いない。これは、現代社会の閉塞感がそうさせているのだろう。こんなことを書くと、私がいきなりユートピア主義者になったのではないかと思われるかもしれないが、(2)で書いたことなどを通じて社会が豊かになり、人々の心にゆとりが生まれないと、国民がヒアリング内容を冷静に受け止めることは不可能なのではないかと感じる。


2017年12月05日

『正論』2017年12月号『核戦争勃発に備えろ/負け犬和式リベラルのウソ』―思い通りに動かない同盟国(日韓)に苛立っているであろうアメリカ


月刊正論 2017年 12月号 [雑誌]月刊正論 2017年 12月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2017-11-01

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 最近、『論語』や『孟子』を読んでいるのだが、その中では君主が仁政によって国家を統治するべきであることが繰り返し説かれている。そして、仁政が敷かれている国には、その君主を慕って周辺の国々から自然と人民が集まってくると言う。
 今、王政を発し仁を施さば、天下の仕うる者をして、皆王の朝に立たんと欲せしめ、耕す者をして皆王の野に耕さんと欲せしめ、商賈(あきうど)をして皆王の市に蔵(にをおさ)めんと欲せしめ、行旅(たびびと)をして皆王の塗(みち)に出でんと欲せしめ、天下の其の君を疾(にく)む者をして、皆王に赴(つ)げ愬(うった)えんと欲せしめん。

 【現代語訳】
 今、もし王様が政治を振るいおこし、仁政を施かれたなら、天下の役人はみな王様の朝廷に仕えたいとのぞみ、農夫はみな王様の田畑で耕したい、また商人はみな王様の市場に商品を蔵敷きをし〔て商売をし〕たいと願って移ってくることでしょう。旅人はみな王様のご領内を通行したがるようになり、かねてから自分の国の君主を快く思わぬものは、みな王様のもとへきて、うったえ相談したがるようになりましょう。
孟子〈上〉 (岩波文庫)孟子〈上〉 (岩波文庫)
小林 勝人

岩波書店 1968-02-16

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 だが、孔子や孟子が説いた仁や忠恕は、基本的に上下関係、つまり君主と臣下、君主と人民、親と子、夫と妻、長兄とその兄弟姉妹(当時は、現代のように夫婦や兄弟姉妹は平等ではなかった)において重要視されるものである。逆に言えば、例えば国家のように水平関係にある者や組織、機構がどのような振る舞いをすればよいのかという点については極めて弱い。仮に日本が仁政を敷いて、北朝鮮から人民を惹きつけることになっても、彼らは難民としてやって来るわけであり、難民受け入れの体制が全く整っていない日本としては困った事態になる(※1)。

 12月に入ってから再び北朝鮮がICBMを発射した。これによって、北朝鮮のICBMはアメリカ本土を射程圏にとらえたと言われている。ただ、北朝鮮は今回の実験に関して、「我々の国家核戦力の建設は、既に最終完成のための目標が全て達成された段階にある」と述べており、「目標が全て達成された」とは言い切っていない。おそらく、実戦配備に向けては、まだいくつかの技術的な問題が残っているのだろう。そして、その課題を解決するために、近いうちに北朝鮮はICBMを発射する可能性が高い。早ければ12月中にもその実験は敢行されるとも言われている。というのも、来年2018年は北朝鮮の建国70周年にあたる年であり、1月1日に金正恩委員長は恒例のテレビ演説を行う。この演説で、金正恩委員長が北朝鮮の核能力を国民にアピールし、国威を掲揚しようとすることは十分考えられるからだ。

 ブログ別館の記事「宮崎正弘『金正恩の核ミサイル―暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる』―北朝鮮がアメリカに届かない核兵器で妥協するとは思えない」でも書いたように、北朝鮮のICBMがアメリカ本土に届くようになってから、いよいよアメリカが本格的に動き出すと思われる。2018年は東アジア情勢が大きく動く年になりそうである。このような状況で、日本はどうするべきであろうか?通常であれば、近隣諸国が核兵器のような凶悪な力を手にした場合、それには力でもって対抗しようとするものである。
 興味深いのは、マイネッケ(※ドイツの歴史家フリードリッヒ・マイネッケ)はこの「国家理性」の発展の要素として、力と道徳とをあげていることである。つまり権力衝動による行動と道徳的責任による行動のあいだには、国益という価値によって、その高所に1つの橋がかけられているというのである(※2)。
 かつての大国フランスは、この点で非常に合理的な行動を選択してきた。
 国家として核武装という選択をしたドゴール仏大統領は、アメリカの提供する核の傘はフィクションにすぎないと考えていた。彼はNATO(北大西洋条約機構)の司令官やケネディ米大統領を相手に「核の傘」の有効性について議論をし、フランスがソ連から核攻撃を受けた場合にアメリカがフランス防衛のためにソ連と核戦争をする、という軍事シナリオを具体的に示してほしいと迫ったという。そのときNATO司令官も、ケネディも、ドゴールを納得させられるような回答はなかった。ドゴールは、アメリカの核の傘にフランスの安全は委ねられないと決断したのである(※3)。
 フランスの政治学者エマニュエル・トッドは、10年前に朝日新聞で次のように発言している。いかにもフランス人らしい、現実主義的な主張である。
 「核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい」(平成19年10月30日付)(※4)
 隣接し対立する双方の国が核を保有することで、かえって地域の安定が保たれ、さらには核軍縮に向けた対話が始まる。これが大国の思考回路の大きな特徴である。現在のヨーロッパの大国ドイツも、西ドイツ時代にこのような形で核軍縮に成功した経験がある。
 ソ連は欧州に照準を合わせた中距離弾道ミサイル「SS20」を配備した。SS20は米国までは届かないから、米欧の防衛を切り離す例のディカップリングの問題が生じ、欧州内には米国のICBMによる核の傘に対する疑念が出てきた。

 国家の危機に直面した西ドイツはシュミット首相、次いでコール首相がSS20に対抗する米国の「パーシングⅡ」と地上発射巡航ミサイル「GLCM」の導入を進めた。(中略)その結果、ソ連は財政負担の重荷もあり、パーシングⅡを欧州から撤去させるために、自国のSS20を全廃するINF(中距離核戦力全廃条約)締結に応ぜざるを得なくなった(※4)。
 だから、北朝鮮の核に対抗するには、日本も相応の核を保有するのが理論的には最も近道である。そして、インドとパキスタン、西ドイツとソ連の例に倣って日朝が交渉をし、地域の安定や核の軍縮に向けた取り組みを始めるのがよい。これは一見すると非常に危険な道に思えるが、日本がいつまでも日本オリジナルと勘違いしている平和主義に拘泥し、北朝鮮からのミサイルを食らって座して死を待つよりは、積極的な選択肢である。評論家の日下公人氏は、日本が核を保有することを堂々と宣言するべきだとはっきり主張している。
 アメリカに自国の安全を委ね続けた戦後の固定観念や発想、収縮思考から離れ、「日本は原子力潜水艦と原子爆弾を持つ」と宣言すれば日本を取り巻く環境は劇的に変わる。従来発想に凝り固まった空想的平和主義に耽溺している人たちは、一斉に「平和国家に逆行」「非現実的」「感情的強硬論」等々と大騒ぎするだろうが、日本が独立国として領土領海と自国民の安全を守るためにその選択をしたことで、どこかから非難を受ける謂れはないから、いろいろな前提を設けて宣言をすればよい(※5)。
 かつては日本の核武装を拒絶していたアメリカも、ここに来て日本の核武装を容認するような発言が見られるようになった。しかし、当の日本はと言うと、やはり「世界で唯一の被爆国であるという事実」、「非核三原則」などのようなものがどうしても頭から離れず、核保有に踏み切ることができない。評論家の西部邁氏でさえ次のように述べている。
 あえて「人倫」という古くさい言葉を使ったのには理由があります。予防先制核を禁じ、自衛核は厳密に「報復のためのセコンド・アタック」にのみ使用せよと規定することは、相手のファースト・アタックにかんしては、あたかもガンディがそうしたように、「瞬時に大量の」被害に耐えよ、ということなのです。その被害は、一瞬に、自国を「国家瓦解」に近づかせる類のものなのですから、その忍耐がどれほどの難事であるか、見当がつこうというものです。しかも、その国家瓦解の危機のなかで報復核の維持をしようとするわけですから、よほどに強固な危機管理体制を作り上げていなければ、この予防先制核の禁止は有名無実となってしまいます(※2)。
 まるで、核の先制攻撃を受けたことによる甚大な被害を免罪符として、日本の核攻撃を認めると言いたいような内容である。ちなみに、太平洋戦争で原爆が落とされた日本には復讐権があると東京裁判で述べたアメリカ人弁護士がいるそうだ。そして、その発言をウェッブ裁判長も否定はしなかった(※3)。日本がもし核武装をするならば、回りくどい論理を構成しなければならない。かくいう私も、以前の記事「『正論』2017年11月号『日米朝 開戦の時/政界・開戦の時』―ファイティングポーズは取ったが防衛の細部の詰めを怠っている日本」では、韓国に核武装させて、韓国と北朝鮮の間で交渉をさせればよいと、逃げ腰の主張を展開してしまった。北朝鮮の核に対して正攻法で対処できない日本には、アメリカも苛立っているに違いない。

 アメリカがさらに苛立っているのは、文在寅大統領になってから左傾化、親北化が激しい韓国に対してであろう。以前の記事「『致知』2017年11月号『一剣を持して起つ』―米朝対話が成立するとはアメリカが韓国を捨てることを意味する(ことを左派は解っていない)、他」で、アメリカが北朝鮮に軍事行動を仕掛けた際、韓国がアメリカ側につく場合とアメリカを裏切る場合の2通りがあると書いたが、どうやら後者の可能性が高そうだというのである。
 トランプ政権が対北攻撃を決断するとき、韓国の文在寅大統領は反対するだろう。米陸上部隊は作戦に参加せず、空軍と海軍による集中的な攻撃で北朝鮮軍が無力化した後、北朝鮮を平定する作戦は韓国軍が担当することになっている。文在寅政権が韓国陸軍の参戦を拒否することもありうる。その場合、トランプ政権は韓米同盟を破棄し在韓米軍を撤退させるだろう。

 (中略)となるとトランプ政権は中国共産党軍に北朝鮮地域の平定を任せ、戦後も同地域に親中政権をつくることを容認、志向する可能性が高い。韓米同盟を破綻させた韓国も親中に傾き、半島全体が中国共産党の支配下に入るだろう。その結果、日本は半島全体が反日勢力の手に落ちるという地政学上の危機に直面する(※6)。
 朝鮮半島におけるアメリカの目標は、①北朝鮮の非核化と②南北分裂の現状維持の2つである。ところが、アメリカがせっかく北朝鮮に勝利しても、肝心の韓国が裏切ることで②が達成されない恐れがある。しかし、アメリカにとっては①の方が優先度が高いため、①のために韓国を捨てることも考えうる。最悪なのは、①のために韓国を捨てた上で、アメリカが北朝鮮に敗れるケースである。本号ではアメリカが北朝鮮に敗れることを想定した論者は誰もいなかったし、よもやアメリカが北朝鮮に負けると考える人はごく少数にとどまるであろうが、ベトナム戦争のような誤算も十分にあり得る話である。仮にアメリカが敗れた場合は、韓国の豊富な資金が北朝鮮の核に投入され、朝鮮半島に凶悪な核保有国が誕生することになる。

(※1)吉田望「武装難民を『射殺するのか』 麻生発言のリアリティー」
(※2)富岡幸一郎「なぜ日本国民は核をタブー視してきたか」
(※3)渡部昇一「『非核』信仰が日本を滅ぼす」
(※4)湯浅博「悪魔は二度と地下に潜らず その歴史と日本のオプション」
(※5)日下公人「さらば、亡国の『非核信仰』よ」
(※6)西岡力、恵谷治、久保田るり子、島田洋一「どうなる半島有事 破局へのカウントダウン」



  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like