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DHBR2018年8月号『従業員満足は戦略である』―社員満足度を上げるには本社が現場の邪魔をしないこと
『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない
中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由(1)【独立5周年企画】

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年07月20日

DHBR2018年8月号『従業員満足は戦略である』―社員満足度を上げるには本社が現場の邪魔をしないこと


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年08月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年08月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-07-10

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 社員満足度(ES)の向上が企業の業績アップにつながるというプアな内容だったらどうしようかと思ったが、杞憂に終わった。何年も前の私なら、ESの向上がCSの向上につながり、高業績をもたらすという言説を無批判に受け入れていたものの、現在では考え方を改めている。

 企業は顧客からお金をいただいている。しかし、お金を払う側の顧客がお金をもらう側の企業のモチベーションを上げようとは考えない。同様に、社員は企業からお金(給料)をいただいている。お金を払う側の企業がお金をもらう側の社員のモチベーションを上げる必要は原則としてない。社員のモチベーションは、社員自身の問題である。LINEのとある執行役員が言っていたが、「会社にモチベーションを上げてもらおうと考える社員は、プロとして失格」である。それでもなお、企業が社員のモチベーションに気を配っている理由を挙げるとすれば、顧客は企業が気に入らなければ他の企業に簡単にスイッチできるのに対し、企業は社員が気に入らなくても簡単に解雇できないからである。企業は、今いる社員に頑張ってもらうしかない。だから、企業は社員に気を遣い、何とかモチベーションを上げようとするわけだ。

 ここでは意図的に、モチベーションと社員満足度を使い分けている。モチベーションは「将来、仕事をやってやろうと思う気持ち」であるのに対し、社員満足度は「現状、どれだけ気持ちが充足されているか」を表す指標である。企業が将来的に業績向上を目指すのであれば、重要なのはモチベーションである。なぜなら、いくら社員満足度が高くても、必ずしもモチベーションアップにつながるとは限らず、現状に満足してしまい進歩が止まる恐れがあるからだ。

 本号の特集は、例えば都心に本社があって、地方に多くの直営店、営業所、販社、サービス拠点が分散しているような組織構造の企業を想定している。こういうタイプの企業の場合、現場の営業・サービス担当者に気持ちよく仕事をしてもらうために最も重要なことは、「本社が余計な邪魔をしない」ことである。昔、先輩のコンサルタントに教えてもらった話なのだが、ある顧客企業は「本社から販売店に対して、製品情報や販売マニュアル、キャンペーン情報、システム登録手続きに関する情報などが五月雨式に送られてくるので現場が混乱している」という問題を抱えていた。先輩は当初、本社と販売店の間を結ぶ情報システムを強化すればよいと考えた。

 だが、この顧客企業の事業を分析するにしたがって、もっと構造的な課題が見えてきた。この顧客企業は、主に3つのカテゴリーの製品を扱っていた。カテゴリーAは業界内でも非常にユニークなもので、競争力があり、顧客企業の収益源となっていた。カテゴリーBは並みの製品、カテゴリーCは激しい競争についていけなくなっていた製品であった。販売店は、A~Cの製品を全て取り扱っており、本社から全製品に関する情報を受け取っていた。

 ここで先輩は、製品カテゴリー別に販売店網を再構築することを提案した。つまり、カテゴリーAのみを扱う販売店を販売チャネルの中心に位置づける一方で、カテゴリーBを扱う販売店を一定数に抑え、カテゴリーCを扱う販売店は将来的な撤退も視野に入れて縮小するというものである。さらに、本社の役割にもメスを入れた。本社が発信する各種情報のうち、販売店でも作成可能なものは販売店に権限移譲することにした。

 もちろん、本社と販売チャネルの大規模な改革であり、本社のマネジャーや各販売店の店長の権限、さらには現場社員の役割を大きく見直す必要があったため、改革は一筋縄ではいかなかったようだ(特に、権限を剥奪される本社のマネジャーは相当抵抗したらしい)。だが、改革が無事に完了すると、本社と販売店の関係は極めてシンプルなものになった。カテゴリーAのみを扱う販売店は、本社からカテゴリーAに関する情報しか受け取らない。しかも、一部の情報作成の権限は販売店に委譲されているので、以前に比べて本社からの情報量は圧倒的に減少した。同じことは、カテゴリーBのみを扱う販売店、カテゴリーCのみを扱う販売店にも言えた。

 本社が現場社員の邪魔をせず、彼らに生き生きと働いてもらうためのポイントは3つある。

 (1)本社が作った無用な社内ルールを撤廃する。
 企業は規模が大きくなるにつれて、官僚組織的になる。官僚組織の特徴は、マックス・ウェーバーが指摘したように文書化とルールである。そのルールが顧客価値の創造につながるものであればよいのだが、中には単に社員を管理するためのもの、あるいは経営幹部のシンボルやステータスを守ることが目的になっているものもある。

 ある企業では、工場の倉庫の管理者がつけている手袋がボロボロになっていた。それを見た新米のCEOは、「なぜ手袋を変えないのか?」と聞いた。すると、「当社の規定では、手袋が完全に使えなくなるまで買い替えることができないことになっています。しかも、買い替えの申請を出してから、新しい手袋が届くまでに2週間かかります」と言われた。CEOは、このルールがあまりにもくだらないと思い、工場の倉庫に新品の手袋のストックを置いておくことができるように社内ルールを変更したそうだ(おそらく、工場に手袋のストックを置いておくようなルールを作らなかった本社は、社員が手袋を盗むことを恐れたのだろう)。

 IBMを復活させたルイス・ガースナーは、IBMに入社した当初、秘書から分厚い社内規定集を手渡されてびっくりしたそうだ。服務規定はもちろんのこと、経営幹部に提供するガムの置き方までこと細かく規定されていた。ガースナーはある時、服務規定に反するスーツを着ていた。秘書に「経営幹部らしくない服装なのでルール違反です」と指摘されたので、ガースナーが「ルールを変えるにはどうすればよいか?」と尋ねたところ、「社長が変えると言えば変えられます」との返答だった。それを聞いて、早速ガースナーは社内規定の大幅な削減に着手した。

 (2)現場の業務プロセスの基本を整備するのを支援する。
 本社のスタッフ部門の役割は、単に経営資源を管理するのではなく、顧客価値の創造と経営資源の最適配分のバランスを取りつつ、さらに自社が重視する価値観を反映させることで現場の業務プロセス整備を支援し、適切なタイミングで適切な経営資源を投入することである。

 例えば、人事部門は、事業部から言われるがままに新人を採用したり、人事評価の結果を取りまとめたり、研修を運営したり、給与を計算したりすることだけが仕事ではない。まずは、現場が実現しようとしている顧客価値を最もストレートに実現する業務プロセスを描く。次に、現場に配属されている社員の特徴を踏まえて、業務プロセスを調整する。さらに、自社のミッションに含まれる価値観(経営・業務における意思決定のよりどころとなる重要な判断基準)を随所に埋め込んで、最適な業務プロセスを現場と一緒に検討する。こうしてでき上がった業務プロセスが要求する人材要件と、現在の社員の能力・価値観との間にギャップがある場合には、社員をトレーニングしたり、他部門からの異動や外部からの採用によって人員を補ったりする。

 モノを扱う購買部門、カネを扱う経理部門、情報を扱う情報システム部門についても同様である。現場が実現を目指す顧客価値と、自社が調達する原材料・機械装置などの特性、自社の資金の状況、自社が取り扱う情報の量や質のバランスを取り、さらに自社の価値観を反映させた形で、最適な業務プロセスを現場とともに構築する。そして、必要に応じてモノ、カネ、情報をすぐさま現場に対して提供することができるようにする。

 ここで注意すべきなのは、本社が業務プロセスの構築に関与するからと言って、あまりにも細かい業務プロセスを定義してはならないということである。あくまでも基本的な業務プロセスを定めるにとどめる。プロセスまでいかず、方針レベルでも構わないと思う。詳細すぎる業務プロセスを渡された現場は、本社から過剰に介入されていると抵抗するに違いない。

 それから、本社はよかれと思って新製品・サービスやITツールを次々と現場に導入したり、各種販促活動を実施するように現場に命じたりするが、これも要注意である。先ほど紹介した事例のように、本社から五月雨式に情報が降ってくることになり、現場にとっては迷惑この上ない。さらに言うと、本社が引き起こす重大な問題は、例えば新製品・サービスを導入した際、その製品・サービスの販売・アフターサービスや売上・粗利管理、請求・債権回収プロセスについてはマニュアルを作成するものの、既存の製品・サービスのマニュアルとの整合性にあまり気を配っていないことである。本社は製品・サービスを順番に開発するが、現場はどの製品・サービスも同時に販売しなければならない。現場が複数の製品・サービスを担当した場合、複合的な業務プロセスはどのようなものになるのかを本社は現場と一緒になって考える必要がある。

 本号の論文「やみくもな製品開発が経営資源を浪費する “イノベーション中毒”を回避する3つの原則」(マルティン・モーカー、ジャンヌ・W・ロス)がこの問題を扱っている。イノベーションに取りつかれた本社が、現場のことを顧みずに、次々と新製品・サービスを投入して、現場を疲弊させてしまうという問題である。この問題を解決する方法として、同論文では、①バラエティよりも統合を重視する、②イノベーションの担当者と複雑性に対処する担当者を分けない、③イノベーションを導くビジョンに向かって全力を尽くす、という3つが挙げられている。

 言い換えれば、①互いに無関係な新製品・サービスをバラバラと投入するのではなく、既存製品・サービスと関係性の高い新製品・サービスを投入する。できれば、クロスセルが可能なものを開発する、②本社側の新製品・サービス開発担当者は、開発プロジェクトの初期段階で現場社員を巻き込み、新製品・サービスを展開する上での問題を早期に解決する、③ビジョンの焦点を絞り、ビジョンから外れた新製品・サービスを開発しないようにする、ということである。

 (3)現場が顧客に個別対応できるよう、権限委譲を進める。
 (2)と矛盾するようだが、(2)で標準的で基本的な業務プロセスを定めた後、現場社員にはそこからはみ出す個別の顧客対応を認めることも重要である。社員は、指示された仕事をそのまま行う時よりも、自分でやり方を考えて仕事をした時の方がモチベーションが上がる。日本人の場合、どちらかというと一から物事を考えるのは苦手であるから、まずは本社と一緒になって作成した業務プロセスをベースとして、そこに自分なりに手を加えていく方がやりやすいだろう。

 ここで問題になるのは、本社として現場に対しどこまで権限移譲を認めるかということである。最も簡単なのは、顧客に対する無償サービスの権限を与えることである。無償であるから、企業の財布が痛むこともない。その次は、顧客に対して有償サービスを提供することである。この場合は、現場が自由に使える一定の予算を与えなければならない。

 個別顧客のニーズに深く入り込むと、製品・サービスのカスタマイズを求められる。すると、カスタマイズに伴う原材料や加工用の機械装置を独自で調達することになる。生産ラインも変更になるだろう。ここまで来れば、予算の権限をもっと増やさなければならない。さらに、個別対応に長けた特殊能力を持つ人材を確保するための人事権も必要になる。個別の顧客に対し、個別の製品・サービスを提供し、個別の生産ラインで生産し、個別の社員を活用するということは、それらの情報を管理する独自ITの開発も欠かせないことを意味する。そして、究極的な権限移譲は、現場をターゲット顧客に密着させて、新製品・サービスの開発を任せることである。

 どこまで権限移譲させるかは、企業の戦略による。巣鴨信用金庫の行員は、高齢者の顧客に対して、無料の送迎サービスなどを提供する権限が与えられている。リッツカールトンの社員は、顧客のために2,000ドルまで自由に使える権限を持っている。完全な権限移譲ではないが、餃子の王将は、全店舗共通メニューの他に、各店舗がオリジナルのメニューを用意している。逆に、良品計画は店舗にほとんど権限移譲を行っていない。有名なMUJIGRAMは本社主導で作られたものであるし、店舗には商品開発の権限はおろか、仕入れの権限も与えられていない。良品計画の場合、海外においても、商品開発は日本本社で行うという徹底ぶりである。

 権限移譲の度合いは、提供したい顧客価値、競合他社との差別化要因、企業の価値観、社員の能力や特性、組織内のコミュニケーションの構造、企業風土など様々な戦略的要因によって決まるだろう。社員が本社から締めつけられていると感じず、逆に任されすぎて負担になっていると感じない程度の、ちょうどよいコンフォートゾーンを見つけなければならない。この意味では、確かに本号の特集タイトルにあるように、「従業員満足は戦略である」。

 最近、フレデリック・ラルー『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)を読んだのだが、ティール(進化型)組織は、現場がほとんど完全に権限を握っており、それぞれの社員が経営者として働くことを期待されている(ティール組織では、最初に本社が権限を持っており、それを現場に委譲するというのではなく、初めから現場に権限があるという考えに立っているため、権限移譲という言葉を使わない)。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 嘉村賢州

英治出版 2018-01-24

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 例えば、アメリカのモーニング・スターというトマト加工食品製造会社では、製造に携わるそれぞれのチームがどのように結成され、チーム間でどのように作業分担をし、どういうふうにして製造ラインを調整し、製造目標をどの程度に設定し、それぞれのチームの予算をいくらにするのか、といったことを完全にチーム間の話し合いに委ねている。原材料の調達はチームに任されているし、もし製造ラインの調整に伴って新しい機械装置の購入が必要になった場合は、他のチームと相談して購入を決定する。現場で起こる様々な問題の解決は、マネジャーによってではなく、チーム間の紛争処理プロセスに従って行われる。

 それぞれのチームが誰を採用し、どのようにトレーニングを行い、どのような評価・フィードバックを与え、最終的に報酬をいくらにするのかを決めるのもチームの権限である。また、社員は採用されたからと言ってすぐに仕事が与えられるわけではない。「自分はチームに対してこういう貢献ができる」ということを文書をまとめ、社内で営業をかけて、自分で仕事を取ってこなければならない。さすがに、どういうトマト加工食品を作るかまではチームで決めることができないようだが、同社では1人1人の社員がまるで経営者であるかのように振る舞っている。

 現場の権限が非常に強いので、逆に本社の規模は極めて小さい。CEOの権限も少ない。本社は「戦略を立てない」。CEOや本社は、明確な「存在目的」を掲げて企業全体をリードすることに腐心する。この点については、同書には明確に書かれていないのだが、複雑系の理論の影響を受けているものと推測される。同書に関する記事は後日改めて書く予定である。

2017年12月12日

『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない


致知2017年12月号遊 致知2017年12月号

致知出版社 2017-12


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 最近、英語の速読力を上げるために、受験生時代に慣れ親しんだ『英語長文問題精講』(中原道喜編)を読み返しているのだが(何となく、目的と手段が一貫していないような気もするのだが、汗)、その中に次のような文章があった。
 Which (* a worker or a laborer) a man is can be seen from his attitude towards his leisure. To a worker, leisure means simply the hours he needs to relax and rest in order to work efficiently. He is therefore more likely to take too little leisure than too much; workers die of heart diseases and forget their wives' birthday. To the laborer, on the other hand, leisure means freedom from compulsion, so that it is natural for him to imagine that the fewer hours he has to spend laboring, and the more hours he is free to play, the better.
英語長文問題精講 新装版英語長文問題精講 新装版
中原 道喜

旺文社 2000-01-01

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 「仕事をする人」にとっては、余暇は仕事のために充電する時間であって、短ければ短いほどよいのに対し、「労働をする人」にとっては、余暇は苦役からの解放の時間であるから、長ければ長いほどよい、といった趣旨の文章である。『致知』2017年12月号の特集は「遊」であり、この「仕事をする人」に関する記事が多かったように思う。彼らにとっては、仕事が遊びのようなものである。だから、どれだけ長い時間働いても苦痛ではない。

 「仕事」と「遊び」が二項対立の関係にあるならば、本ブログでしばしば日本流の「二項混合」の重要性を説いている私などは、「仕事をする人」のような態度を支持するのではないかと思われるかもしれない。しかし、こと「仕事」と「遊び」に関しては、私はきっちりと分けた方がよいと考える。仕事と遊びが混合すると、結局のところ遊びが仕事によって浸食されてしまう。この傾向は、ITの発達によってより加速している。せっかく長期休暇を取得したのに、旅行先に会社のPCと携帯電話を持っていかなければならず、休暇中も電話やメールに対応しているビジネスパーソンが増加していることは、早くも2000年代初頭のアメリカで指摘されていた(ジル・A・フレイザー『窒息するオフィス―仕事に強迫されるアメリカ人』〔岩波書店、2003年〕)。最近、JALが「ワーケーション」を提唱しているが、アメリカと同じような状態になるであろうことは容易に予想がつく。

窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人
ジル・A・フレイザー 森岡 孝二

岩波書店 2003-05-28

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シリコンバレー式 よい休息シリコンバレー式 よい休息
アレックス・スジョン-キム・パン 野中 香方子

日経BP社 2017-05-25

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 アレックス・スジョン-キム・パンの『シリコンバレー式 よい休息』(日経BP社、2017年)では、仕事と遊び、休暇をはっきりと分けた人物の例として、ドワイト・アイゼンハワーとウィンストン・チャーチルが紹介されている。アイゼンハワーは、1942年6月に欧州戦域連合国最高司令官に任命されると、1日に15~18時間働き、様々な問題のせいで夜中もずっと起きていることが珍しくなかった。彼はホテル暮らしをしていたが、息抜きをするための”隠れ家”を探すように側近に命じた。側近はロンドン各地を探した末に、森の中にある小ぢんまりとした目立たない家を見つけた。彼は夏と秋、暇さえあればこの隠れ家でゴルフをし、西部劇小説を読み、時にはただ田舎暮らしを楽しんだ。このような息抜きを社会学者は「分離(デタッチメント)」と呼ぶ。

 また、ただ楽しいだけでなく、幾重もの意味と個人的な重要性を持つ遊びのことを「ディープ・プレイ」と言う。チャーチルにとっては、絵を描くことがディープ・プレイであった。1915年、ガリポリの戦いに敗れ、責任を問われて海軍大臣を辞した後、彼は絵を描き始めた。彼は『娯楽としての絵画』という本で、忙しい人は十分な休息を取る必要があるが、そういう人は性格的に何かをしないではいられないものだと書いている。そして、「いつも関心を向けている領域を照らすライトのスイッチを切るだけでは不十分だ」と続ける。「興味をそそる新たな領域の明かりをともさなければならない」。幸いなことに「心の疲れた部分は、単に休むことによってではなく、他の部分を使うことによって休まり、強化され得る」とも述べている。

 ディープ・プレイとは、言わば”真面目に遊ぶ”ことである。普段使わない心の部分を使うことによって、かえって普段使っている心の部分が刺激され、創造的になることができる。アーティストはしばしば、独創的なアイデアは作品作りに真剣に向き合っている時ではなく、ふと息を抜いた瞬間に突然降りてくると証言している(私が好きなMr.Childrenの桜井和寿氏は、趣味のサッカーをしている時に、歌詞やメロディーが突然浮かぶことがあるとインタビューで答えている)。仮に仕事と遊びに二項混合が成り立つとしたら、私はこのことを指して言うだろう。

 一般に、仕事と遊びが一緒になっているような人は、満足度やモチベーションが高く、その結果高い成果につながると考えられている。ここで思い出すのが、インターナル・マーケティングの分野で取り上げられる、「社員満足度を上げると顧客満足度が上がり、企業の収益が上がる」という説である。私も昔は無批判的にこの説を信じており、旧ブログでは「「ES向上⇒CS向上⇒利益向上」の自己強化システムについての考察-『バリュー・プロフィット・チェーン』」という記事を書いてしまった。だが、この説では、社員満足度とモチベーションが混同されている。

 社員満足度は「過去に対する評価」であるのに対し、モチベーションは「これから仕事をしようとする意欲」のことであり、時間軸が異なっている。「これまでがよかったから、これからも頑張ろう」という因果関係、さらに「これからも頑張ろうという社員が実際に頑張った結果、顧客が満足する」という因果関係が成り立つならば、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上⇒顧客満足度の向上」という図式を認めてもよいだろう。

 「顧客満足度が上がると企業の収益が上がる」という部分も注意が必要である。顧客が満足してしまうと、もう次の製品・サービスを購入しないケースもあるからである。ソーシャルゲームに飽きてしまったユーザーが課金しなくなるのが解りやすい例であろう。企業の収益につなげるためには、顧客に対して「これまでの製品・サービスに満足しているから、これからも製品・サービスを購入しよう」と思わせなければならない。つまり、顧客に再購入の意欲(モチベーション)を持たせなければならない。だから、「顧客満足度が上がると企業の収益が上がる」という説は、正確には「顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」と記述するべきである。これを先ほどの図式とつなげると、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上⇒顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」となる。

 「顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」の部分に関しては、今回の記事ではこれ以上踏み込まない(これはこれで非常に興味深いテーマであり、今後も追求していきたいと思う)。個人的には、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上」という関係について疑問を抱いている。社員満足度とモチベーションの関係はこんなに単純ではない。我々は、仕事に不満足でもモチベーションが上がることがあることを知っている。ライバルである同僚に負ければ「なにくそ」と思うし、上司に叱られれば「あの上司を見返してやろう」と思う。

 極端な話をすれば、「仕事内容」に関しては不満足であった方が、モチベーション向上につながりやすいのではないかというのが私の考えである。ただし、いたずらに社員を不満足に追い込めばよいというわけではない。社員を取り巻く「職場環境」については、社員を十分に満足させる必要がある。職場環境は社員個人の力ではどうにもできないから、企業が責任を持つのである。他方で、社員が自分の能力で何とかしなければならないことについては不満足を感じさせる。つまり、「会社がこれだけお膳立てをしてくれているのに、なぜ自分は仕事ができないのだろう?会社がこれだけお膳立てをしてくれているのだから、もっといい仕事ができるはずだ」と思わせることが、社員のモチベーション向上につながる。「職場環境に対する満足&仕事内容に対する不満足⇒モチベーションの向上」というのが私の仮説である。

 ここで、「職場環境に対する満足」と「仕事内容に対する不満足」を構成する代表的な要素として、私は以下を想定している。

 <職場環境に対する満足>
 ①仕事に対する裁量や権限が与えられている。
 ②仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などが整っている。
 ③十分な研修、トレーニングを受けられる機会がある。
 ④必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられる。
 ⑤福利厚生制度が充実している。

 <仕事内容に対する不満足>
 ①仕事の量が多くて忙しい。
 ②企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップがある。
 ③部下や後輩を十分に育成できない。
 ④顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを受けている。
 ⑤今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描けない。

 これでアンケートを作成して、モチベーションとの因果関係を調べたら、面白い結果が得られるのではないかと思う。「職場環境に対する満足/不満足」と「仕事内容に対する不満足/満足」の2軸でマトリクスを作成すると、以下の4パターンが考えられる。

社員満足度とモチベーションの関係

 「職場環境には満足しているが仕事内容には不満足である」という右上の象限が、最も健全なモチベーション向上につながる。逆に、「職場環境には不満足だが仕事内容には満足である」という左下の象限は、職場環境が未熟な中で自分だけがそれなりに仕事をこなしている状態であり、孤立や忠誠心の低下を招く。左上の「職場環境にも仕事内容にも満足している」という象限に該当する社員は、ややもすると現状肯定に流れがちであり、さしたるモチベーションもなく会社にぶら下がる恐れがある。右下の「職場環境にも仕事内容にも不満足である」という象限では、最もモチベーションが失われている。中にはこれだけ不利な状況でも一生懸命頑張るという特異な社員もいるだろうが、そう遠くない将来に燃え尽き症候群に陥るであろう。

 企業が社員のモチベーションを上げるには、職場環境を整えることを前提として、社員に仕事面で不満足を感じさせるように、以下の施策を打つことが有効である。①敢えて本人のキャパシティを超える仕事量を与える、②本人にとってチャレンジングな仕事を与える、③本人にとって扱いづらい部下や後輩を担当させる(これは決して扱いづらい社員を積極的に採用せよということではない。どんな人でも、性格や価値観が合わない人というのはいる。その人にとって相性があまりよくない部下や後輩を敢えてつけるという意味である)、④顧客や上司が厳しい評価を伝える(決して理不尽であってはならない。公正な目で見た評価でなければならない)、⑤企業が社員に示すキャリアパスに敢えて余白を残す、社員にキャリアを自分で考えさせる。

 先日の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で、伝統的な外部環境アプローチ(以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)に対して、内部環境アプローチによるビジネスプロセスの設計方法の一端を示してみたが、上記の5つの施策も踏まえて組織やプロセスを作り込むとなおよいのではないかと思う。

2016年07月01日

中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由(1)【独立5周年企画】


コンサルタント

 【シリーズ】中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由
  1.中小企業診断士という資格を知ったきっかけ(7月1日公開)
  2.中小企業診断士を勉強しようと思ったきっかけ(7月2日公開)
  3.ベンチャー企業での苦労(7月3日公開)
  4.長い長い病気との闘いの始まり(7月4日公開)
  5.増え続ける薬、失った仕事(7月5日公開)
  6.点と点が線でつながっていく(7月6日公開)
  7.これから独立を目指す方へのメッセージ(7月7日公開)
 2016年7月1日で、私が中小企業診断士・コンサルタントとして独立してちょうど5年になった。帝国データバンクが調べた「企業の生存率」によると、5年後の生存率は82%である。とりあえず、私は8割の仲間に入ることができたようだ(もっとも、この数字には諸説あり、実際のところどれが本当なのかよく解らない)。私は元々自前主義が強い方で、何でもかんでも自分でやってしまい、それで上手くいけば自分が頑張ったからだとうぬぼれる傾向が強かった。しかし、ここ数年は、周りにいる本当にたくさんの皆様に支えられて生きていると実感することが増えた。私もようやく人間らしくなってきたと思う。この場を借りて、皆様には心の底から御礼を申し上げたい。

 さて、独立診断士として活動していると、「なぜ診断士の資格を取ろうと思ったのか?」、「なぜ診断士として独立したのか?」とよく聞かれる。私は29歳で独立したためか、「企業勤めの方がよかったのではないか?」とも言われる。そこで、独立5周年というこの節目に、これらの質問に答えてみたいと思う。なお、今回のシリーズは非常に長文の「自分語り」である。そういうのがお好みではない方は、読み飛ばしていただいて結構である。また、途中で色々な失敗談などが出てきて、「それはお前のせいではないのか?」、「単なる甘えではないのか?」と思われる箇所があるかもしれないが、私も決して完全な人間ではないということでお許しいただきたい。

 1.中小企業診断士という資格を知ったきっかけ
 私が最初に中小企業診断士という資格を知ったのは、大学生の頃である。当時の私は、京都の大学らしく、能楽サークルに入っていた(本ブログのプロフィール写真はその時のもの)。それと同時に、ビジネスや経営のことを勉強するサークルでも活動していた。今で言えば、意識高い系のサークルだったかもしれない。主たる活動は、大企業の最前線で活躍中の方をお呼びして、勉強会や講演会を行うことであった。ただ、勉強だけでは面白くないということで、生協食堂の協力を得て、生協食堂に対してコンサルティングを行う実践の場を提供してもらったりもした。

 私がサークルに入った直後、右も左も解らない状態で、このコンサルティングチームに入ることになった。私が「コンサルティング」、「マーケティング」、「ロジカルシンキング」などの言葉を知ったのは、この時が初めてである。メンバーは非常に頭が切れる先輩たちばかりで、毎回議論が白熱した。ところが、いかんせん私の頭が全くついて行けず、私だけ黙り込んだまま時間が過ぎることが非常に多かった。悔しいという感情も湧かず、ただ純粋に、どうすればよいのかが全く解らなかった。この切れ者の先輩は、後に大手コンサルティングファームや外資系金融機関の投資部門に就職していった。やはりすごい人たちばかりであった。

 私を含め残ったメンバーでコンサルティングを続けることになったのだが、ブレーン的な存在を失ったこともあり、チームとしての方向性を見失いつつあった。そんな時、チームメンバーではなかったサークルの先輩が、「生協食堂は中小企業のようなものだから、中小企業の経営を理解するには中小企業診断士を勉強した方がいいのではないか?」とアドバイスしてくれた。この時、初めて中小企業診断士という資格があることを知った。ただ、結局その時は診断士の資格を勉強するまでには至らず、頭の隅にそういう資格があるということだけが残っていた。

 私は相変わらずマイペースでコンサルティングの資料を作っていた。ある時、その資料をチーム外のサークルメンバーに発表する機会があった。私は自分なりに筋の通った資料を作ったつもりだったのだが、メンバーからはボロカスに批判された。同学年のメンバーに「グロービスの本でも読んでもっと真剣に勉強しろ」と、あまりにも基本的なことで怒られた時は、さすがに骨身にこたえた。正直な話をすると、当時の私は、講義で指定された教科書以外で、自発的に本を買って読むという習慣が全くなかった。その私を、今のような多読家(もちろん、私の上にはもっとすごい多読家がたくさんいる)に変えたのは、他ならぬ彼である。

 私はいつまでも個人的な成果が出せないままコンサルティングチームに居続けたのだが、そんな私でも最後の方で2つだけ小さな成果を上げることができた。1つは営業時間の延長による売上増である。私が通っていた大学には3つの生協食堂があった。そのうち最も業績がよかった店舗の閉店時間が20時であった。この店舗の特徴は、周りにはサークルの部室が数多く存在したことである。そして、どのサークルも、たいていは夜遅くまで活動をしていた(私がいた能楽サークルも、21時頃まで活動して、その後皆で晩御飯を食べに行くのが慣例になっていた)。

 そこで、営業時間を21時に延長すれば、周辺の飲食店に流れていた学生を取り込めるのではないかと考えた。この仮説を検証するため、店舗でアンケートを実施し、学生の夕食の実態と、生協食堂が営業時間を延長したら利用したいと思うかという意向を調べた。そして、統計学に強い理系のメンバーの協力を得て、営業時間を1時間延長した場合の期待効果を試算した(これは私にはできないことだったので、当時の理系のメンバーには感謝している)。店長は我々の提案を受けて、営業時間の延長を決断した。その結果、月の売上高が200万円ほど増加した。

 今振り返ると、当時のシミュレーションは非常に精度が粗い。それに、売上増しか試算しておらず、コスト面を無視している。21時まで営業時間を延長すると、店舗スタッフのシフトが変わり、それに伴い人員を増やす必要があったかもしれない。また、21時の閉店後、後片づけに入るわけだが、学生は大体21時半頃まで普通にだらだらとご飯を食べているから、後片づけはその後になる。すると、スタッフの中には勤務時間が22時を超える人が出て、深夜手当の支払いも生じる。そういうコストアップ要因を全く考慮していないという点で、今の私から見れば非常にプアな提案であった。しかし、月の売上高が実際に増えたという結果が、当時の私には嬉しかった。

 もう1つの成果は、大規模な顧客満足度調査の実施である。3つの店舗の中で、一番席数は多いが、一番学生からの評判が悪い店舗があった。店長も万策尽きたかのように困り果てていた。我々のチームが提案したのは、学生は食堂に対して具体的に何を期待しており、半面何に不満を抱いているのか、ウェイトづけをしようということであった。当時は「真実の瞬間」という言葉など知らなかったが、学生が店舗に入って注文し、席で食事をし、食器を返却して店舗を出るという一連の行動の中で、学生の満足度を左右すると思われるポイントを洗い出した。そして、それぞれのポイントについて、重要度と満足度を尋ねる顧客満足度調査を設計した。

 もちろん、この店舗でも従来から学生の声を聞くアンケートは実施していた。随分前に「生協の白石さん」がブームになったが、学生が店舗内に置いてあるカードに意見を書くと、店長がそれにコメントを書いて店舗内に掲示するというものである。だが、この店舗では、最も利用する学生の数が多いにもかかわらず、月に10件前後のカードしか集まっていなかった。

 我々のチームは、食堂の全てのテーブルにアンケート用紙を設置し、アンケートへの協力を呼びかけた。このアンケートはA4両面で30問ぐらいある面倒なものだったので、学生から敬遠される恐れがあった。ただでさえ満足度が低いこの店舗が、厄介な調査をやっているという理由でさらに不評を買うリスクもあった。ところが、いざふたを開けてみると、2週間で150枚ぐらいの回答が集まった。回収したアンケートを集計すると、「学生が重視しているのに、満足度が低いポイント」が明らかになった(もう10年以上前のことなので、具体的にどんなポイントだったかは忘れてしまったが)。集計結果を見た店長は、改善点の優先順位が解ったと喜んでくれた。

 その後、問題点をどのように改善するか、施策を立案して実行をフォローするのが本来のコンサルタントの役割である。しかし、学生の甘さゆえ、当時はそこまでできなかったのが心残りであった。ただ、どちらの件も反省点はあるものの、チームに入ったばかりの頃は全く使い物にならなかった自分が、小さな成果ではあるとはいえ2つの点で生協食堂に貢献できたことで、少しだけ自信を持つことができた。私のコンサルタントとしてのキャリアの原点はここにある。




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