2018年06月23日
平成30年度業務改善助成金について
神奈川県よろず支援拠点のセミナー「人が集まる会社の秘密~みんなが幸せになる職場の作り方教えます~助成金を有効利用して、社内環境の整備、社員がいきいきと働ける職場作りをしませんか!」に参加して、厚生労働省の「業務改善助成金」について話を聞いてきた。
【概要】
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度である。生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する。
【助成対象事業場】
事業場内最低賃金が1,000円未満の中小企業・小規模事業者が対象となる。
※引き上げる賃金額により、支給対象者が異なるため注意が必要。
【支給の要件】
(1)賃金引上計画を策定すること。
事業場内最低賃金を一定額 以上引き上げる(就業規則などに規定)。
(2)引上げ後の賃金額を支払うこと。
(3)生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと。
①単なる経費削減のための経費(例:LED照明の導入)、 ②職場環境を改善するための経費(例:冷暖房設備の導入)、 ③通常の事業活動に伴う 経費(例:PCの購入)は除く。
(4)解雇、賃金引下げなどの不交付事由がないこと。
①当該事業場の労働者を解雇した場合(天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇した場合を除く)、その者の非違によることなく勧奨を受けて労働者が退職した場合、または主として企業経営上の理由により退職を希望する労働者の募集を行い、労働者が退職した場合。
②当該事業場の労働者の時間あたりの賃金額を引き下げた場合。
③所定労働時間の短縮、所定労働日の減少(天災事変その他やむを得ない事由のために事業の正常な運営が不可能となった場合、または法定休暇の取得その他労働者の都合による場合を除く)を内容とする労働契約の変更を行い、月あたりの賃金額を引き下げた場合。
は不交付事由となる。
【助成額】
申請コースごとに定める引上げ額以上、事業場内最低賃金を引き上げた場合、生産性向上のための設備投資などにかかった費用に助成率を乗じて算出した額を助成する(千円未満端数切り捨て)。なお、申請コースごとに、助成対象事業場、引上げ額、助成率、引き上げる労働者数、助成の上限額が定められているため要注意。賃金引き上げの対象となる労働者は、6か月以上勤務している必要がある。ただし、雇用保険加入者以外であってもよい(同居親族は不可)。極端な話をすれば、1週間に1時間だけ働くパートの賃金引上げでも認められる。
【事業場内最低賃金の計算方法】
・時給制のパート・アルバイトの場合は、時給で見る。
・月給制の場合は、実際に支払われる賃金から以下を除外したものが最低賃金の対象。
(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4)所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6)精皆勤手当、通勤手当、家族手当
(※)「(6)精皆勤手当、通勤手当、家族手当」は除外するのを忘れがちであるため要注意。
《例①》基本給14万円、役職手当2万円、通勤手当1万円で、1日8時間、年間245日(年間休日120日)働く労働者の時給=(14万円+2万円)÷(8時間×245日÷12か月)=979.59円
⇒東京都の最低賃金958円(2017年10月以降)を満たすのでOK。
《例②》基本給14万円、役職手当1万円、通勤手当2万円で、1日8時間、年間245日(年間休日120日)働く労働者の時給=(14万円+1万円)÷(8時間×245日÷12か月)=918.37円
⇒東京都の最低賃金958円(2017年10月以降)を満たさないのでNG。
【生産性向上に資する設備・機器の導入例】
・POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
(※)通常の補助金や助成金では一般的な自動車は対象外であるが、業務改善助成金においては、車両に対して付与されるナンバープレートの「車種を表す数字」が8で始まるもの、およびこれに準ずると考えられる「特種用途自動車(福祉車両など)」は認められる。
・顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
・専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上 など。
>>>2017(平成29)年以前の助成事例はこちらを参照。
【助成対象】
機械装置等購入費・造作費をはじめ、謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、原材料費、人材育成・教育訓練費、経営コンサルティング経費、委託費が対象となる。
(※)人材育成・教育訓練費、経営コンサルティング経費(ただし、業務効率化のコンサルティングに限る)も助成対象となっているのがポイント。
(※)過去に業務改善助成金を受給したことのある事業場であっても助成対象となる。よって、2017(平成29)年以前に受給した企業が受給できることはもちろんのこと、2018(平成30)年に受給した企業が同一年度に2回以上受給することも可能である。
【生産性要件】
生産性を向上させた企業が業務改善助成金を利用する場合、その助成率を割増する。ここで言う「生産性」とは、企業などの決算書類から算出した、労働者1人あたりの付加価値を言う。助成金の支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性と、その3年前の決算書類に基づく生産性を比較し、伸び率が6%以上である場合に割増される。なお、金融機関から「事業性評価(所轄労働局長が、助成金を申請する事業所の承諾を得た上で、事業の見立て〔市場での成長性、競争優位性、事業特性、経営資源・強みなど)を与信取引のある金融機関に照会し、その回答を参考にして、割増支給の判断を行うもの)」を受けている場合には、1%以上の伸びで可。
一般企業の場合、
生産性指標=(営業利益+減価償却費+人件費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数で計算される。社会福祉法人、医療法人、公益法人、NPO法人、学校法人、個人事業主の生産性指標については、「業務改善助成金交付要領」p7以降を参照。
【業務改善助成金の手続き】
(1)助成金交付申請書の提出
業務改善計画(設備投資などの実施計画)と賃金引上計画(事業場内最低賃金の引上計画)を記載した交付申請書(様式第1号)を作成し、都道府県労働局に提出する。
(2)助成金交付決定通知
都道府県労働局において、交付申請書の審査を行い、内容が適正と認められれば助成金の交付決定通知を行う。
(3)業務改善計画と賃金引上計画の実施
・業務改善計画に基づき、設備投資などを行う。
・賃金引上計画に基づき、事業場内最低賃金の引上げを行う。
(※)交付決定前に設備投資を行ったり、事業場内最低賃金の引き上げを行ったりしてはならない。事業場内最低賃金の引上げは、交付申請書の提出後から事業完了期日までであれば、いつ実施しても構わない。
(4)事業実績報告書の提出
業務改善計画の実施結果と賃金引上げ状況を記載した事業実績報告書(様式第9号)を作成し、都道府県労働局に提出する。
(5)助成金の額の確定通知
都道府県労働局において、事業実績報告書の審査を行い、内容が適正と認められれば助成金額を確定し、事業主に通知する。
(6)助成金の支払い
助成金額の確定通知を受けた事業主は、支払請求書(様式第13号)を提出する。
【問い合わせ先・申請先】
・問い合わせ先は、各都道府県に設置されている「働き方改革推進支援センター」。
・申請先は、「各都道府県労働局」。
【講師からのアドバイス】
・厚生労働省の他の助成金に比べると、雇用保険への加入状況を詳しく調べられない。逆に、法人税や所得税、消費税を適切に納税していることを証明する必要がある。
・時間外労働が多いからといって不支給事由になるわけではない。
・最低賃金の改定は毎年10月に行われることが多いため、最低賃金が引き上げられるよりも前に(9月末までに)交付申請書を提出するとよい。
・事業場内最低賃金が1,000円未満の中小企業が対象であること、東京都の最低賃金は毎年25円前後引き上げられることを踏まえると、東京都の中小企業が業務改善助成金を活用できるのは、おそらく2018(平成30)~2019(平成31)年度までと思われる。
【私見】
厚生労働省の助成金は、賃金アップ、処遇改善を目的としたものが多い。賃金アップや処遇改善に対してなかなか前向きに取り組むことのできない中小企業に対して、多少のインセンティブを与えることでそれらを実現させ、ひいては国全体の雇用環境をよりよくしようというわけである。企業から見れば、助成金によって初期の費用は軽減されても、長い目で見れば実は負担は増えることになる。したがって、単に助成金がもらえるからという安易な理由で飛びつくと痛い目に遭う。業務改善助成金に関して言えば、機械設備の投資の大部分は助成金によって賄うことができるものの、事業場内最低賃金の引き上げによって人件費は増加する。その上昇分を補って余りあるほどの売上増の計画をあらかじめ立てておかなければならない。
例えば、正社員3人、パート7人の飲食料品小売業を考えてみよう。正社員の月給は30万円、パートは全員フルタイムで働くとして、その時給は970円だとすると、この企業の人件費は、(30万円×12か月×3人)+(970円×8時間×20日×12か月×7人)=23,836,800円となる。「平成27年業種別経営指標」の「飲食料品小売業」を見ると、2015年の売上高対人件費率は約12.7%であるから、この企業の売上高はおおよそ23,836,800円÷12.7%=187,691,339円となる。
ここで、パート7人の時給を30円アップして1,000円にしたとすると、人件費は(30万円×12か月×3人)+(1,000円×8時間×20日×12か月×7人)=24,240,000円となり、403,200円増加する。先ほどの売上高対人件費率を用いれば、この企業の売上高の目安は24,240,000円÷12.7%=190,866,142円になり、約317万円売上を増加させなければならない計算となる。この売上増の計画なくして助成金に飛びつくと、後々人件費の上昇に苦しめられることになる。