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ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』(セミナーメモ書き)
千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる
シンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2016年12月26日

ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』(セミナーメモ書き)


バンコク・カオサンロード

 (※)バックパッカーの聖地、タイのカオサンロード。

 日本アセアンセンター主催のセミナー「ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』」に参加してきた。以下、セミナー内容のメモ書き。

ASEAN経済共同体の創設と日本ASEAN経済共同体の創設と日本
石川 幸一 清水 一史 助川 成也

文眞堂 2016-11-20

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 《Ⅰ.サービス》
 (1)まず、サービス貿易には4形態があることを押さえておく必要がある。
 <第1モード>
 【国境を越える取引】
 いずれかの加盟国の領域から他の加盟国の領域へのサービス提供。
 《例》A大学(日本)がB大学(タイ)に対してオンライン授業を実施し、B大学の学生がタイでそのオンライン授業を受講する。

 <第2モード>
 【海外における消費】
 いずれかの加盟国の領域内におけるサービスの提供であって、他の加盟国のサービス消費者に対して行われるもの。
 《例》A大学(日本)にB大学(タイ)の学生が訪問し、A大学の講義に参加する。

 <第3モード>
 【業務上の拠点を通じてのサービス提供】
 いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって、他の加盟国の領域内の業務上の拠点を通じて行われるもの。
 《例》A大学(日本)がタイにA大学分校を設立し、タイの学生に対して講義を実施する。

 <第4モード>
 【自然人の移動によるサービス提供】
 いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって、他の加盟国の領域内の加盟国の自然人の存在を通じて行われるもの。
 《例》A大学(日本)がB大学(タイ)に教師を派遣し、B大学で講義を実施する。

 各モードに関する規制緩和は以下の通り。
 ①第1モード、第2モードについては制限を撤廃。ただし、善意に基づく規制理由(公共の安全など)は例外とする。
 ②第3モード(外国(ASEAN)からの資本参加の容認)については次の通り。
 a)4優先サービス分野については、2008年までに51%以上、2010年までに70%の外資参加を容認。b)物流サービス分野については、2008年までに49%、2010年までに51%、2013年までに70%の外資参加を容認。c)その他のサービス分野については、2008年までに49%、2010年までに51%、2015年までに70%の外資参加を容認。その他の第3モード市場への参入制限を2015年までに段階的に撤廃。

 (2)第3モードの外資出資比率緩和スケジュールは、次のように進行した。
 <第7パッケージ(目標終了期限=2008年経済相会議)>
 優先統合分野(29)は51%、ロジスティクス分野(9)は49%、その他サービス(27)は49%(つまり、外資がマジョリティを獲得できるのは優先統合分野のみ)。

 <第8パッケージ(目標終了期限=2012年経済相会議)>
 優先統合分野(29)は70%、ロジスティクス分野(9)は51%、その他サービス(42)は51%(第3モードの全ての分野において、外資のマジョリティ獲得が可能となった)。

 <第9パッケージ(目標終了期限=2013年経済相会議)>
 ロジスティクス分野(9)は70%、その他サービス(66)は51%(ロジスティクス分野の外資出資比率の上限が70%まで引き上げられた。また、その他サービスの対象分野が増加した)。

 <第10パッケージ(目標終了期限=2015年経済相会議)>
 その他サービス(90)は70%(その他サービスの対象分野が増加し、かつ外資出資比率の上限が70%まで引き上げられた)。

 (3)ASEAN各国の第9パッケージの履行状況だが、自由化対象業種のうち、当該業種全てにおいて自由化が進んでいる業種の割合が約半数に及ぶ(=自由化が進んでいる)のはインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムである。一方、自由化が当該事業の一部にとどまる業種の割合が高い(=自由化が遅れている)のはタイ、フィリピンである。

 サービス種類別に第3モードの自由化の状況を見ると、比較的自由化が進んでいるのは、実務、通信、建設および関連エンジニアリング、流通、教育、環境、金融、観光・旅行サービスである。一方、健康関連・社会事業、娯楽・文化・スポーツ、運送サービスは自由化が遅れている。

 (4)ASEANのみに出資比率が緩和されている事業がある。例えば、インドネシアでは、「森林地域内でのエコツーリズム施設、活動、サービス事業の形態によるネイチャーツーリズム事業」について、外資の出資比率上限を51%としているが、ASEAN企業に限っては出資比率の上限を70%まで引き上げている。ただし、ASEAN企業の定義は明確になっていない。ASEANの法に基づく、ASEANで実質的にオペレーションをしている、ASEANで5年以上事業を継続しているなどの条件が想定されるが、最終的には各国政府の判断に委ねられると考えられる。

 《Ⅱ.金融》
 (5)ASEANの金融統合の中心分野としては、以下の3つが挙げられる。
 <①金融サービスの自由化>
 銀行、証券、保険など金融機関がASEAN域内での活動を自由にすることを目指す。具体的には「ASEAN銀行統合枠組(ABIF)」により、平等なアクセス、待遇、環境を確保する。ABIFに基づく「適格ASEAN銀行」の認定を進める。また、「ASEAN保険統合枠組(AIIF)」は保険業界の自由化を目指しており、消費者の選択肢の増加に資する。

 <②資本取引の自由化>
 域内各国間での規制緩和による経常取引、海外直接投資、証券投資などの資金フローの自由化を目指す。具体的な取り組みとしては「資本取引自由度ヒートマップ」の作成が挙げられる。証券投資および他項目の流入・流出資本フローや対内および対外の直接投資などの指標に基づいて、各国の目標達成度合いをモニタリングするツールである。

 <③資本市場の発展>
 ASEANの様々な資本市場間でのクロスボーダーの協力実現を目的とする。金融機関に関する監視の能力を含む能力開発とインフラ整備に主眼が置かれており、相互認証、ルール・規制の調和を目指している。具体的な取り組みとしては、「ACMF(ASEAN Capital Market Forum)」が挙げられる。③については、マレーシア、タイ、シンガポールの3か国が先行して進めている項目が多く、①②に比べると具体的な成果が多い。

 (6)(5)の取り組みに対して、外部機関は概ね肯定的な評価をしている。ERIA(東アジア・ASEAN研究センター)は、域内金融の安定化と2020年までの銀行セクターの多国間の自由化はゆっくりだが着実に進展していると述べている。しかし、ASEAN各国の金融市場の発展段階、経済構造、優先度は多様であり、金融・資本分野統合の前提条件を整えるのはチャレンジングであるとも指摘している(2014年)。また、IMFは、「物事をゆっくり、着実に進める」という「ASEAN WAY」にも理解を示しており、一連の取り組みはASEANの経済成長、1人あたりの所得増に寄与していると評価している(2015年)。

 (7)ASEANの今後の課題としては大きく2つある。1つ目は、「資本取引自由度ヒートマップ」の精緻化である。ASEAN各国が自己評価した結果によると、ラオス、ミャンマーを除き自由化が相応に進捗している印象を受ける。ところが、この結果は、ERIAやIMFの評価と差がある。ASEAN各国の自己評価に頼っていることが影響していると考えられる。ASEAN共通の評価基準を明示し、客観的なスコアリングを行う必要がある。

 2つ目の課題は、域内国通貨間の為替レートの安定化である。各国の独立した金融政策の維持を前提とする場合、域内通貨間の為替レートのより柔軟な変動を許容しなければならない。ここで、ASEAN各国の現状の経済発展段階の違いを踏まえると、現時点でEUのような共通通貨を想定するのは困難である。しかし、域内通貨間の為替レートの安定に向けた取り組みの整理・検討が将来的には必ず必要となる(必ずしも共通通貨である必要はない)。

 《Ⅲ.運輸・交通》
 (8)AEC2025ブループリントでは、交通・運輸に関して連結性を実現するとある。「物理的連結性」(=ハード。陸上、海上、航空運輸。内陸水運、島嶼間リンク、インターモーダル輸送)は比較的進んでいるが、「制度的連結性」(=ソフト。交通、運輸の円滑化。物品貿易の自由化。国境手続きの円滑化)はやや遅れている。ASEANの交通プロジェクトは、越境交通に注力しているという特徴がある。他方、日本からの支援は都市交通の整備を主眼としている。しかし、越境交通の需要はまだ比較的小さく、長距離鉄道はBtoBでほとんど使われていないことから、整備が長期間に渡って停滞している。

 (9)陸上交通のフラッグシッププロジェクトは、①ASEANハイウェイ(AHW)の完成と②シンガポール―昆明鉄道(SKRL)主線の建設と支線の建設完了の2つである。①に関しては、ミャンマーにミッシングリンクが存在しており(=ミャンマーに悪路が多い)、その解消が課題となっている。②に関しては、既存の鉄道をどのようにアップグレードするかが1990年代から続く課題である。ASEAN各国は、GMS越境交通協定(CBTA)には2007年に加盟しているが、交通円滑化協定(AFAFGIT・AFAMT・AFAFIST)の批准は進んでいない

 (10)海上交通の主なテーマは、①ASEAN海運単一市場(ASSM)と②RoRo船の優先航行ルートの実現である。ただし、①は難航しており、AEC2015ブループリント、AEC2025ブループリントともに記載がない。一方、RoRo船は短距離輸送に向いており、需要も高いことから、整備が進んでいる。航空交通は例外的に進捗している領域であり、航空協定(MAFLAPS、MAAS)は全てのASEAN加盟国が批准している。いわゆる「9つの自由」のうち、5つまでが実現している。


2016年02月15日

千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる


日本はASEANとどう付き合うか: 米中攻防時代の新戦略日本はASEANとどう付き合うか: 米中攻防時代の新戦略
千野 境子

草思社 2015-09-17

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 東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する10カ国が域内の貿易自由化や市場統合などを通じて成長加速を目指す広域経済連携の枠組み「ASEAN経済共同体(AEC)」が31日、発足する。域内人口は欧州連合(EU)を上回る計6億2000万人で、域内総生産が2兆5000億ドル(約300兆円)に達する巨大な経済圏が本格始動する。
(日本経済新聞「ASEAN経済共同体、31日発足 域内総生産300兆円」2015年12月30日)
 2015年12月31日、ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足した。引用文にある通り、人口6億人超のASEANを単一市場・単一生産地と見なして、人・モノ・カネ・サービスの自由化を目指すものである。そういう意味では、広域FTA/EPAのようなものと考えてよいだろう。ただ、AECが発足したと言っても、10か国の首脳による発足式のようなイベントがあったわけではなく、実にひっそりとした船出であった。

 実際のところ、ASEANはAECの発足に先立ち、1993年からAFTAによって域内関税の引き下げを行ってきた。2010年1月には、先行6か国で関税が全撤廃された。新規加盟4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でも全品目の98.96%の関税が5%以下となった。2015年1月1日時点で、全加盟国の関税撤廃割合は95.99%である。日本が諸外国と締結するFTA/EPAでは、関税撤廃率が80~90%台にすぎないことから、AFTAの水準がいかに高いかが解る。

 新規加盟4か国は、品目の7%までは2018年1月1日まで撤廃が猶予される。AEC発足後の2016年1月1日以降、新規加盟4か国の7%の品目について、段階的に関税が引き下げられる見込みである(例えば、ベトナムが猶予されているのは、鉄鋼、紙、医療用織布、自動車および二輪車、自動車および二輪車部品、設備機械、建設資材などである)。だから、AECが発足したからと言って、ASEAN諸国の関税が劇的に下がるわけではない。

 それよりも、AECが力を入れていたのは、人・カネ・サービスの自由化であった。ところが、人に関しては、熟練労働者の移動の自由化でさえ、技術者に限定されている。また、金融機関の相互進出や小売・サービス業への外資出資規制の緩和については、ほとんど話が進んでいない。金融機関はその国の経済を動かす重要なインフラである。ASEANでは未だに個人商店レベルの小売・サービス業が多く、雇用を下支えしている。つまり、金融機関や小売・サービス業に外資が参入すれば、その国の経済・雇用を脅かす危険性があり、各国とも簡単には容認できないのである(日本でさえ、長らく外資参入が厳しく規制されていたことを思い出す必要がある)。

 元々AECは、2003年の時点で、2020年までに設立することで合意されていた。2006年には、AECの実現を5年前倒しすることが決まった。本来は、2015年1月1日にAECが発足するはずだったのだが、前述のように人・カネ・サービスの自由化が思うように進まず、AECの発足が危ぶまれる状況であった。とはいえ、一度「2015年に設立する」と宣言してしまった手前、それを延期するわけにはいかないから、苦肉の策で2015年12月31日に設立することにしたと聞いている。

 冒頭の引用文にあるように、ASEANは人口が6億人超で、EUの5億人を上回る。ASEANとEUは地理的範囲も似ている。ASEANは東西約5,300km、南北約4,600kmの範囲に10か国が存在する。一方のEUは、東西約4,500㎞、南北約5,300kmの範囲に28か国が存在する。だが、経済規模を比較すると、EUの名目GDPは18兆ドルを超えるのに対し、ASEANは2兆5,000億ドルと日本よりも小さい。ASEANは小国同士が手を取り合って何とか大国に対抗できるようにと形成されたのだが、連携してもなお小国にとどまるという事実は動かせないようだ。

 ただ、ASEANはその点を非常によく自覚していると思う。小国の戦略については、以前の記事「ジョセフ・S・ナイ『アメリカの世紀は終わらない』―二項対立から二項混合へすり寄る米中?」などでも書いたが、世界レベルで対立する大国を眺めながら、どちらか一方に深く取り入るのではなく、双方のいいところ取りをちゃんぽんにしてのらりくらりと振る舞うことである。対立する大国とその間に挟まれた小国の関係は、ちょうど親子に例えられる。子どもは、両親のどちらか一方のみを味方するわけにはいかない。そんなことをすれば、家族関係が崩壊してしまう。父親と母親の双方から血を受け継いでいる以上、どちらとの関係も重視する必要がある。

 (父親と母親の関係は、対立する大国の関係といくらか似ている部分がある。いくら結婚しているとはいえ、所詮は他人同士が結びついたにすぎない夫婦の間では、価値観の相違をめぐってしばしば対立が起きる。とはいえ、お互いに相手を完膚なきまでに叩きのめそうとは考えない。仮にそれが起きた時は、夫婦関係の完全な終了を意味する。だから、対立しつつも、裏では相手をケアすることも忘れないのである。大国が表向きは激しく対立しながら、裏では相手に賭けてリスクヘッジしている可能性については、以前の記事「『安保法制、次は核と憲法だ!/「南京」と堕ちたユネスコ・国連/家族の復権(『正論』2015年12月号)』」で書いた)。

 ベトナムとフィリピンは、南シナ海において中国と領有権争いの真っ只中にある。フィリピンは、2014年にアメリカ軍の再駐留を認めた。そして驚くべきことに、ベトナムはかつてアメリカとベトナム戦争を戦ったにもかかわらず、アメリカとの合同軍事演習を実現させている。フィリピンとベトナムがアメリカに接近したかと思いきや、中国が主導するAIIBには両国とも参加を決定している(ASEANは10か国ともAIIBに参加した)。両国とも国内のインフラ整備が課題であり、そのための資金をAIIBに期待しているものと思われる。

 マレーシアも、南沙諸島の領有権を守るためにアメリカとの協力を進めている。だが。ASEANの中で最初に中国を国家として承認した国は、実はマレーシアである。インドネシアは領有権問題で直接の利害を持たないが、ASEAN諸国が対中戦略で空中分解しそうになった時、ASEANとしての声明をまとめてASEANの面子を守ったという過去がある。だからと言って中国と対決姿勢を強めているわけではなく、高速鉄道は中国に発注した。発注手続きが不透明だと批判されても、あくまでもインドネシアは実利を優先した。

 ASEANは米中対立の狭間にありながら、対立を何となく鎮める方向へと持っていく何かを持っているようである(それが具体的にどういうメカニズムなのかよく解らないので、こんな曖昧な書き方しかできないが)。対立をしないという精神は、ASEANの発足当初からの理念である。
 ASEANがインドネシアとマレーシアの「対決政策(コンフロンタシ)」が終わった結果、生まれたこと、従ってそれは東南アジア諸国同士が二度と仲たがいしない、つまり衝突しないための仕掛けでもあること、そのことが大事であるのは東南アジア諸国が二度といかなる外国の支配も受けないためであること、さらに、ASEANは東南アジアだけでなく、アジア太平洋の繁栄と平和のために必要不可欠なものであることなどである。
 最近のASEANは、アメリカと中国だけでなく、アメリカとロシアの対立も引き込もうとしている。
 このようにASEANは悪く言えばタコ足的に、よく言えば重層的に、地域と国際情勢の変遷のなかで、機構を作り上げてきた。最初に明白な規範やゴールを設定して事を進めるEU(欧州連合)とASEAN方式の違いがよく分かる。アメリカが東アジアかと言えば、地理的概念では怪しい。しかし今やどこもそんなことは言わない。東アジアはアメリカを必要としているし、アメリカも東アジアを必要としている。アメリカが入ればロシアも黙っていない。それが21世紀のアジア太平洋の国際環境である。
 本書のタイトルは「日本はASEANとどう付き合うか」であるが、日本がASEANと上手につき合う方法は、ASEANの「ちゃんぽん戦略」を真似ることではないかと思う。日本は経済的には大国であるかもしれない。しかし、地政学的に見れば東アジアの辺境の小国である。また、今後人口が減少すれば、経済的にも小国になるかもしれない。そもそも、日本が2000年以上の歴史の中で、世界の大国になったことなど一度もないと思う。たまたま20世紀の間だけ経済が順調だったので、大国になったように錯覚してしまった。21世紀の日本は、定位置に戻るだけだと言える。

 ちゃんぽん戦略は、看板だけを見て性急に善悪を判断しない。この国は資本主義だから味方する、あの国は共産主義だから敵視する、と単純にはとらえない。どちらの国にも、自国にとって役に立ちそうな政治・経済・社会制度があると考えて、対立する双方から上手に学習する。そして、学習したパーツを自国の文化・歴史的文脈に照らし合わせて解釈し、自国にフィットした形へと変容させ、他のパーツと組み合わせる。でき上がった制度は、資本主義的とも言えないし、共産主義的とも言えないような、奇妙なものになる。だが、自国にとってはそれが最適なのだ。

 安直な発想だが、日本は明治時代にこういうちゃんぽん戦略ができていたように思える。では、現代の日本はそれができなくなってしまったのかと言えば、必ずしもそうではなさそうだ。本書を読むと、第2次世界大戦後の賠償問題について、当時の首相・岸信介がインドネシアと交渉した際には、ちゃんぽん戦略が発揮されていた。
 賠償協定と経済協力協定が調印された直後の1958年2月、スマトラ島で一部軍人を含む反政府戦力の反乱が起き、インドネシア共和国革命政府(PRRI)が樹立宣言をする。この時、親共産党に次第に傾いていくスカルノに懸念を深めていたアメリカは、イギリスとともに反政府勢力に肩入れし、スカルノ体制を外から揺さぶった。

 一方、日本はアメリカに追随せず、大使館などからの情報を基にスカルノ体制支持を打ち出した。日本は反乱軍の実態がかなり杜撰なもので、インドネシアの統一と安定はスカルノに委ねるしかないと見極めていた。インドネシアの混乱は共産党の思う壺だからである。(中略)

 岸外交の柱が「自由主義諸国との協調」、とりわけアメリカと歩調を合わせることであったのは確かだが、このように岸は東南アジア外交における基軸と考えるインドネシアでは自主外交を展開した。
 政権が親米か反米か、資本主義的か共産主義的かを表面的に判断して、親米的なら徹底的に支援し、反米的なら徹底的に叩くのがアメリカのやり方である。これは他の大国にも共通しており、かなり極端な戦略だ(現在の中東情勢を見ていると、アメリカやロシアのやり方は全く変わっていないと感じる)。一方、日本の岸は、アメリカのように自由主義を教条的に押し通すのではなく、インドネシアとの交渉を結実させるために、左傾化していたスカルノ政権を敢えて支持した。これが岸のちゃんぽん戦略である。昨年は、安保法制の議論を通じて、悪い意味で岸の名前が思い起こされた年であったが、岸の外交からは重要な示唆が得られると思う。


 《2016年2月22日追記》
 本ブログでは何度か、二項対立的に振る舞う大国に挟まれた小国は二項混合的な発想をすべきだとか、上記のようにちゃんぽん戦略を採用すべきだと書いてきた(ベトナムについては、ブログ別館の記事「福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』」を参照)。だが、書いた張本人がその具体像を的確にとらえられずにいる(苦笑)。

 経済に関しては、対立する大国の双方と貿易量を増やすことで、両国との関係を深化させることができる。近年増えているFTAやEPAは、第2次世界大戦前の経済同盟と類似しており、経済のブロック化を進めるリスクがあると言われる。ところが、経済同盟は排他的であったのに対し、FTA/EPAは世界中で網の目のように張りめぐらされており、特定の国が著しく不利益を受けることが少ない。そもそも、現代の関税は、20世紀前半に比べるとはるかに下がっている。

 問題は軍事関係だが、通常は一方の大国と軍事同盟を結べば、対立するもう一方の大国と軍事同盟を結ぶことは不可能である。日本が米中と同時に同盟を結ぶなど考えられない。最近、韓国は韓中同盟を模索しているようで、仮にそれが成立した場合、韓国は韓米同盟を破棄するのか、何らかの形で併存させるのかは興味深い(おそらく、韓米同盟を破棄するのだろう)。

 では、軍事関係におけるちゃんぽん戦略とは一体何なのか?日本を例に取れば、今のところ考えられるのは、日米同盟は維持する一方で、中国を含む形で安全保障の対話を促進することぐらいである(防衛省・自衛隊「より安定した安全保障環境の構築のために、防衛庁・自衛隊に期待すること」を参照)。憲法9条こそ最高なのだという教育を受けて育った私の頭は完全な軍事音痴なので、それ以上議論を前に進めることができない・・・。


 《2016年4月28日追記》
 上記のように、軍事戦略におけるちゃんぽんのことを上手く考えられずにいたのだが、日高義樹『戦わない軍事大国アメリカ』(PHP研究所、2016年)を読んでいたら、アメリカの傘がなくなった場合の選択肢の1つとして、次のようなことが書かれていた。
 二番目の選択は、ロシアの軍門に下ることである。つまり、ロシアの原子力攻撃潜水艦や核兵器の基地を日本国内に認めることによって日本の安全を図る。(中略)

 日本がロシアの核の傘に入るという選択はきわめて非現実的である。日本が独立したとき以来のアメリカの基本政策に違反するもので、アメリカに真っ向から挑戦することである。だがアメリカが、ニューヨークやワシントンを核攻撃されることを懸念して日本に核の傘を供与するのをやめるのであれば、日本は対応策として、これまでまったく無視してきたこの戦略を考えなくてはならなくなる。
戦わない軍事大国アメリカ戦わない軍事大国アメリカ
日高 義樹

PHP研究所 2016-01-21

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 《2016年5月5日追記》
 東京大学講師の三浦瑠麗氏は、『正論』2016年6月号の中で、今後の日本のポジションについて予想している。これが小国の取り得る現実的な選択肢なのだろうと思う。
 この国について言うと、ひょっとしたらかなり小規模な国に落ち着く可能性が高いと思うようになりました。そうすると、大国からは無体な要求をされたときには、それを呑まざるを得ないというコストはあるのだけれど、ただ、魅力的な市場があったり先端的な文化があったり、「この国は結構居心地いいよね」と思わせる存在になっていくんだろうと。それが国民の選択ならばあり得るんだろうと思っています。
(潮匡人、三浦瑠麗「【徹底討論】トランプ旋風という超大国の退潮現象 日本に残された道は核武装しかないのか」)
正論2016年6月号正論2016年6月号

日本工業新聞社 2016-04-28

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 《2016年10月13日追記》
 佐藤考一『ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題』(勁草書房、2003年)によると、ASEAN諸国は域外で西側諸国との合同軍事演習を行っているが、今後は中国との演習も視野に入れなければならないと書かれている。これが実現すれば、軍事面でのちゃんぽん戦略が1つ完成したことになるだろう。
 むしろ、これらの(ASEAN)諸国にとって、今後の課題は域内ではベトナム等のインドシナ諸国やミャンマーを、また域外ではスプラトリー諸島の主権問題で緊張関係にある中国を、相互の信頼感と軍事透明性を高めるための合同軍事演習の輪に引き込むことであろう。
ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題
佐藤 考一

勁草書房 2003-03

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2015年12月23日

シンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた


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 (※写真はシンガポールの夜景)

 日本アセアンセンターが主催するシンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた。2015年末には、ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足する(以前の記事「「ASEAN社会文化共同体:2015年とその後の展望セミナー」に行ってきた」を参照)。

 (1)1985年9月のプラザ合意以降、日本企業はASEANへの直接投資を増加し、ASEAN各国の輸出指向の工業化を支援してきた。1988年には「BBCスキーム」(ブランド別自動車部品保管流通計画)が始まり、さらに1996年からは「AICO」(ASEAN産業協力)が展開されている。

 BBCスキームとは、自動車産業を対象とした制度である。ASEAN域内における企業の部品相互補完流通計画がASEAN上級経済関係者会議で認可されることを条件に、自動車部品がASEAN国内で生産されたものであると認定され、さらに認定部品をASEANの他国へ輸出する際の関税が減免されるといった恩典が受けられる。BBCスキームは、三菱、トヨタ、日産など日本の自動車メーカーが主導し、部品の域内調達や生産拠点の展開・強化へとつながった。また、AICOは、BBCスキームを製造業全般に拡張した制度である。

 近年、中国・インドが高い経済成長を背景に、直接投資受け入れ先として急激に台頭している。危機感を抱くASEANは、AECを外国投資を呼び込むための基盤としたい考えである。

 (2)ASEANはAECの発足に先立ち、1993年からAFTAによって域内関税の引き下げを行ってきた。2010年1月には、先行6か国で関税が全撤廃された。新規加盟4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でも全品目の98.96%の関税が5%以下となった。2015年1月1日時点で、全加盟国の関税撤廃割合は95.99%となっている(新規加盟4か国は、品目の7%までは2018年1月1日まで撤廃が猶予される)。日本が諸外国と締結しているFTA/EPAでは、関税撤廃率が80~90%台にとどまることから、AFTAの水準がいかに高いかが解る。

 2015年末にAECが発足することになっているが、実は発足に伴って何かが変わるわけではない。前述の通り、先行6か国の関税は2010年1月に撤廃されている。2016年1月1日以降、関税撤廃が猶予されている新規加盟4か国の7%の品目について、段階的に関税が引き下げられる見込みである(ちなみに、ベトナムが猶予されているのは、鉄鋼、紙、医療用織布、自動車および二輪車、自動車および二輪車部品、設備機械、建設資材などである)。

 (3)AFTAは他のFTAに比べて利用率が低いと言われる。確かに、2014年のASEAN域内貿易比率は24.2%であり、EUの60.8%よりもはるかに低く、ASEAN域内貿易が不活性であるようにも映る(なお、ASEAN+3(日中韓)で見ると38.7%で、NAFTA(41.4%)とほぼ同じになる)。

 だが、例えばタイのASEAN向け輸出のうち、AFTAを利用している割合(シンガポールを除く)は、2000年には約10%だったのが、2003年には約20%、2010年には38.4%となっており、AFTAの利用率は着実に伸びている。特に、2010年のタイのインドネシア向け輸出では61.3%、フィリピン向け輸出では55.9%がAFTAを利用している。

 ただし、AFTA利用には課題もある。AFTAに限らず、FTAを利用するには各国の指定機関から「原産地証明」を取得する必要がある。その手続きが煩雑でコストがかかるため、企業が自ら証明書を作成する「自己証明制度」の導入を検討していることがある。ASEANの場合は、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)が自己証明制度を定めている。

 ASEANでは「第1認定輸出者自己証明制度」(輸入事業者全般)と「第2PP認定輸出者自己証明制度」(製造業者のみ)という2つのパイロットプロジェクトが実施されている。当初、2015年末に双方を比較して優れた方を選択する予定だったが、一部の国が参加していないこと、十分な実施事例が収集できていないことなどから、全面実施は2016年以降に先延ばしとなった。

 (4)2015年10月にTPPが大筋合意に至ったことを受けて、ASEAN諸国もTPP参加を検討し始めている。インドネシアのジョコ大統領は、10月下旬にTPP参加を表明した。タイは、今後2年間でTPPに参加するか否かを判断することを発表した。フィリピンもTPPへの参加意欲を持っている。ただし、フィリピンがTPPに参加する場合には、サービスの自由化を実現するために、外資上限などを定めた憲法を改正する必要がある。アキノ大統領の任期は2016年6月までであり、憲法改正は絶望的である。また、次期大統領が憲法を改正するかどうかも不透明な状況だ。

 フィリピンは同様の理由で、ASEANのサービス貿易自由化、外資出資比率緩和を定めたAFAS(ASEAN Framework Agreement on Services)にも合意できていない。AFASは、金融、航空輸送、農水鉱製造関連サービスを除く128のサブセクターについて、2015年までに外資容認比率を70%まで引き上げることを目指している。だが、これにもからくりがある。タイとベトナムは、ともに現時点で81のサブセクターを自由化している。ところが、ベトナムは62のサブセクター全体で自由化を実現しているのに対し、タイはサブセクター全体の自由化が12にとどまり、残りは一部しか自由化していない

 (5)ASEANではシンガポール、マレーシアを筆頭に多国籍企業が生まれており、日本企業もそれらの企業への投資を進めている。従来は現地企業に出資してその国の市場を攻めるのが主流であったが、昨今は出資した現地企業を拠点として第三国に進出する動きが見られる。
 -三井物産・・・マレーシアのIHH Healthcare(12か国に39病院を展開。社員数2万5,000人超。上場している病院経営会社の中では時価総額世界2位。1位はアメリカ企業だが国内病院のみが対象であるため、グローバル規模の病院経営会社としては世界1位)に約900億円を出資、アジア地域を中心に病院経営を拡大。
 -サンヨー食品・・・シンガポールのOlam International(世界有数の農産物商社。65か国に事業拠点。社員数2万3,000人)と合弁会社を新設、アフリカ市場開拓を強化。
 -三菱商事・・・シンガポールのOlam Internationalの発行済株式20%を取得(出資額1,300億円)。タイのIchitan Group(飲料大手)と合弁会社を新設、インドネシア市場に進出。
 -伊藤忠商事・・・タイの最大財閥Charoen Pokphand(CP)Groupと資本・業務提携。中国を中心にアジア全域で競争力強化を狙う。

 (6)ASEAN域内の経済的結びつきが強まるにつれて、人の移動も活発になっている。人の移動が増えているのは、
 -インドネシア⇒マレーシア、タイ
 -マレーシア⇒シンガポール
 -ラオス⇒タイ
 -カンボジア⇒タイ
 -ミャンマー⇒マレーシア、タイ
である。インドネシア、ラオス、カンボジア、ミャンマーは送出国、タイは受入国、マレーシアは受入国であると同時に送出国である、という構図が浮かび上がってくる。タイが周辺3か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)から正式な手続きに従って受け入れた労働者の数は約25万人であるが、実際にはその10倍以上の約280万人の労働者がタイに流れ込んでいると推計される。

 送出国と受入国は対立が続いている。送出国は、国内の雇用不足の解消や、海外送金による国際収支の改善を期待する。一方で、受入国は、低賃金労働者の流入による国内労働市場の逼迫、不法労働者・不法滞在者の増加による社会的不安に頭を悩ませている。

 2007年には「移民労働者の権利の保護と促進に関するASEAN宣言」が採択され、2009年には同宣言がASEAN社会文化共同体(ASSC)のブループリントに明記された。しかし、2007年宣言には法的拘束力がない。送出国であるインドネシア、フィリピンは法的拘束力を求めているのに対し、受入国であるシンガポール、マレーシアが難色を示している。



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