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シンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年12月23日

シンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた


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 (※写真はシンガポールの夜景)

 日本アセアンセンターが主催するシンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた。2015年末には、ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足する(以前の記事「「ASEAN社会文化共同体:2015年とその後の展望セミナー」に行ってきた」を参照)。

 (1)1985年9月のプラザ合意以降、日本企業はASEANへの直接投資を増加し、ASEAN各国の輸出指向の工業化を支援してきた。1988年には「BBCスキーム」(ブランド別自動車部品保管流通計画)が始まり、さらに1996年からは「AICO」(ASEAN産業協力)が展開されている。

 BBCスキームとは、自動車産業を対象とした制度である。ASEAN域内における企業の部品相互補完流通計画がASEAN上級経済関係者会議で認可されることを条件に、自動車部品がASEAN国内で生産されたものであると認定され、さらに認定部品をASEANの他国へ輸出する際の関税が減免されるといった恩典が受けられる。BBCスキームは、三菱、トヨタ、日産など日本の自動車メーカーが主導し、部品の域内調達や生産拠点の展開・強化へとつながった。また、AICOは、BBCスキームを製造業全般に拡張した制度である。

 近年、中国・インドが高い経済成長を背景に、直接投資受け入れ先として急激に台頭している。危機感を抱くASEANは、AECを外国投資を呼び込むための基盤としたい考えである。

 (2)ASEANはAECの発足に先立ち、1993年からAFTAによって域内関税の引き下げを行ってきた。2010年1月には、先行6か国で関税が全撤廃された。新規加盟4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でも全品目の98.96%の関税が5%以下となった。2015年1月1日時点で、全加盟国の関税撤廃割合は95.99%となっている(新規加盟4か国は、品目の7%までは2018年1月1日まで撤廃が猶予される)。日本が諸外国と締結しているFTA/EPAでは、関税撤廃率が80~90%台にとどまることから、AFTAの水準がいかに高いかが解る。

 2015年末にAECが発足することになっているが、実は発足に伴って何かが変わるわけではない。前述の通り、先行6か国の関税は2010年1月に撤廃されている。2016年1月1日以降、関税撤廃が猶予されている新規加盟4か国の7%の品目について、段階的に関税が引き下げられる見込みである(ちなみに、ベトナムが猶予されているのは、鉄鋼、紙、医療用織布、自動車および二輪車、自動車および二輪車部品、設備機械、建設資材などである)。

 (3)AFTAは他のFTAに比べて利用率が低いと言われる。確かに、2014年のASEAN域内貿易比率は24.2%であり、EUの60.8%よりもはるかに低く、ASEAN域内貿易が不活性であるようにも映る(なお、ASEAN+3(日中韓)で見ると38.7%で、NAFTA(41.4%)とほぼ同じになる)。

 だが、例えばタイのASEAN向け輸出のうち、AFTAを利用している割合(シンガポールを除く)は、2000年には約10%だったのが、2003年には約20%、2010年には38.4%となっており、AFTAの利用率は着実に伸びている。特に、2010年のタイのインドネシア向け輸出では61.3%、フィリピン向け輸出では55.9%がAFTAを利用している。

 ただし、AFTA利用には課題もある。AFTAに限らず、FTAを利用するには各国の指定機関から「原産地証明」を取得する必要がある。その手続きが煩雑でコストがかかるため、企業が自ら証明書を作成する「自己証明制度」の導入を検討していることがある。ASEANの場合は、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)が自己証明制度を定めている。

 ASEANでは「第1認定輸出者自己証明制度」(輸入事業者全般)と「第2PP認定輸出者自己証明制度」(製造業者のみ)という2つのパイロットプロジェクトが実施されている。当初、2015年末に双方を比較して優れた方を選択する予定だったが、一部の国が参加していないこと、十分な実施事例が収集できていないことなどから、全面実施は2016年以降に先延ばしとなった。

 (4)2015年10月にTPPが大筋合意に至ったことを受けて、ASEAN諸国もTPP参加を検討し始めている。インドネシアのジョコ大統領は、10月下旬にTPP参加を表明した。タイは、今後2年間でTPPに参加するか否かを判断することを発表した。フィリピンもTPPへの参加意欲を持っている。ただし、フィリピンがTPPに参加する場合には、サービスの自由化を実現するために、外資上限などを定めた憲法を改正する必要がある。アキノ大統領の任期は2016年6月までであり、憲法改正は絶望的である。また、次期大統領が憲法を改正するかどうかも不透明な状況だ。

 フィリピンは同様の理由で、ASEANのサービス貿易自由化、外資出資比率緩和を定めたAFAS(ASEAN Framework Agreement on Services)にも合意できていない。AFASは、金融、航空輸送、農水鉱製造関連サービスを除く128のサブセクターについて、2015年までに外資容認比率を70%まで引き上げることを目指している。だが、これにもからくりがある。タイとベトナムは、ともに現時点で81のサブセクターを自由化している。ところが、ベトナムは62のサブセクター全体で自由化を実現しているのに対し、タイはサブセクター全体の自由化が12にとどまり、残りは一部しか自由化していない

 (5)ASEANではシンガポール、マレーシアを筆頭に多国籍企業が生まれており、日本企業もそれらの企業への投資を進めている。従来は現地企業に出資してその国の市場を攻めるのが主流であったが、昨今は出資した現地企業を拠点として第三国に進出する動きが見られる。
 -三井物産・・・マレーシアのIHH Healthcare(12か国に39病院を展開。社員数2万5,000人超。上場している病院経営会社の中では時価総額世界2位。1位はアメリカ企業だが国内病院のみが対象であるため、グローバル規模の病院経営会社としては世界1位)に約900億円を出資、アジア地域を中心に病院経営を拡大。
 -サンヨー食品・・・シンガポールのOlam International(世界有数の農産物商社。65か国に事業拠点。社員数2万3,000人)と合弁会社を新設、アフリカ市場開拓を強化。
 -三菱商事・・・シンガポールのOlam Internationalの発行済株式20%を取得(出資額1,300億円)。タイのIchitan Group(飲料大手)と合弁会社を新設、インドネシア市場に進出。
 -伊藤忠商事・・・タイの最大財閥Charoen Pokphand(CP)Groupと資本・業務提携。中国を中心にアジア全域で競争力強化を狙う。

 (6)ASEAN域内の経済的結びつきが強まるにつれて、人の移動も活発になっている。人の移動が増えているのは、
 -インドネシア⇒マレーシア、タイ
 -マレーシア⇒シンガポール
 -ラオス⇒タイ
 -カンボジア⇒タイ
 -ミャンマー⇒マレーシア、タイ
である。インドネシア、ラオス、カンボジア、ミャンマーは送出国、タイは受入国、マレーシアは受入国であると同時に送出国である、という構図が浮かび上がってくる。タイが周辺3か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)から正式な手続きに従って受け入れた労働者の数は約25万人であるが、実際にはその10倍以上の約280万人の労働者がタイに流れ込んでいると推計される。

 送出国と受入国は対立が続いている。送出国は、国内の雇用不足の解消や、海外送金による国際収支の改善を期待する。一方で、受入国は、低賃金労働者の流入による国内労働市場の逼迫、不法労働者・不法滞在者の増加による社会的不安に頭を悩ませている。

 2007年には「移民労働者の権利の保護と促進に関するASEAN宣言」が採択され、2009年には同宣言がASEAN社会文化共同体(ASSC)のブループリントに明記された。しかし、2007年宣言には法的拘束力がない。送出国であるインドネシア、フィリピンは法的拘束力を求めているのに対し、受入国であるシンガポール、マレーシアが難色を示している。




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