このカテゴリの記事
【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)
【日本アセアンセンター】ASEANの知的財産権事情(セミナーメモ書き)
ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』(セミナーメモ書き)

お問い合わせ
お問い合わせ
アンケート
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:


Top > ASEAN アーカイブ
2017年05月17日

【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)

このエントリーをはてなブックマークに追加
カンボジア・バイヨン遺跡

 (※)写真はカンボジアのバイヨン遺跡。アンコール遺跡を形成するヒンドゥー・仏教混交の寺院跡。クメール語の発音ではバヨンの方が近い。バは「美しい」、ヨンは「塔」の意味を持つ。

 日本アセアンセンターのセミナーに参加してきたので、その内容のメモ書き。2年前に同じタイトルのセミナーに参加して、その時の内容は「「カンボジア投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)」にまとめたが、今回の記事はその内容のアップデートという位置づけ。

 ・まずはカンボジアの基礎知識について。
 【よくある質問①】カンボジアは地雷や内戦があったりして、危険な国ではないのか?
 ⇒【回答】外国人が立ち入る場所に関しては、既に地雷が撤去されている。また、カンボジア国内の地雷の被害者数は二桁まで減少している(地雷で亡くなる人より落雷で亡くなる人の方が多い)。現在、地雷を除去した新たな土地を貧困層に配分する事業を実施中である。ただ、ポル・ポト派が最後に立てこもった山岳部には、まだ何百万個の地雷が残っている。しかし、地雷を除去しても土地としての使い道がなく、お金をかけてまでやる意義があるのか疑問視されている。

 内戦に関しては、1992年にカンボジア和平が成立した。最後の武力衝突は1998年であり、その後は1998年、2003年、2008年、2013年と民主的な総選挙が行われている。国内の治安も、アジアの中では「普通」レベルである。外国人が巻き込まれる凶悪犯罪はかなり減少している。ただし、ひったくりと交通事故には要注意である。カンボジアの人口は日本の約10分の1、国内を走る自動車の数は日本の約100分の1だが、交通事故の犠牲者数は2,000人を超えている。

 【よくある質問②】カンボジアは秘境とジャングルの国ではないのか?
 ⇒【回答】世界遺産アンコールワットは観光の目玉であり、カンボジアを訪れる外国人は年間500万人にも上る。カンボジアでは観光が一大産業であり、GDPの約15%を占めている。アンコールワットの周囲にはゴルフ場や高級ホテルも多数存在する。それから、おそらく戦争映画の影響でカンボジア=ジャングルというイメージがついていると思われるが、実際のカンボジアは真っ平の国である。山岳部は限られており、プノンペンからタイやベトナムの国境線まで車で走っても、峠は1つもない。水田が地平線まで広がっており、農業国としても発展が見込まれる。カンボジアの米の生産量は年間約900万トンであり、既に日本を上回っている。

 【よくある質問③】カンボジアは貧乏な国ではないか?
 ⇒【回答】2016年の1人あたりGDPは1,228ドルであり、アジアの「普通の国」になりつつある。アジア通貨危機直後の1998年から2007年の10年間の平均経済成長率は9.4%であり、ASEANの中で最高である。また、最近5年間(2012~2016年)でも、年間平均成長率は7.2%と高水準を保っている。確かに、農村部に人口の8割が存在しており、貧困層が多いのは事実である。ただ、貧困率はこの10年で5割から2割に減少しており、農村部でも購買力が向上しつつある。味の素の使用量の伸び率と1人あたりGDPの伸び率には相関関係があることが知られており、カンボジアにおける味の素の使用量の伸び率はASEANの平均よりも上だという。

 ・カンボジアのマクロ経済の状況であるが、一言で言えば絶好調である。IMF、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)ともに、カンボジアの経済を高く評価している。カンボジア経済のエンジンである縫製品輸出、観光は好調が続いている。不動産・建設セクターもバブルが懸念されるものの(2017年に大量にビルが完成するという「2017年問題」を抱えている)、高成長を続けている。2016年の経済成長率は7.0%であり、、IMFは2017年の経済成長率を6.9%と予測している。ADBはカンボジアを「アジアの新たな虎」と呼んでいる。

 物価上昇についても問題はない。物価上昇率は2015年が1.2%、2016年が3.0%であり、2017年は2.7%と予測されている。日銀がどんなに異次元緩和を行っても物価が一向に上昇しない日本から見るとうらやましい限りである。カンボジアの経常収支は赤字であるが、輸出競争力の向上と輸出先の多様化により、縮小傾向にある。この輸出競争力の向上には、日系の労働集約型部品製造業がカンボジアに多数進出したことも大きく貢献している。

 外貨準備高も新興国としては非常に豊富である。2016年末時点で、輸入の4.5か月分にあたる63億ドルの残高がある。通常、外貨準備高は輸入の3か月分あれば十分とされる。IMFは、2017年末には74億ドル(輸入の4.8か月分)にまで増加すると予想している。カンボジアのGDPは約200億ドルであるから、実にGDPの3分の1に相当する。ちなみに、日本の外貨準備高は2015年末時点で約150兆円であり、GDP約530兆円の約28%に相当する。また、2015年の輸入は約78兆円であったから、外貨準備高は輸入の約23か月分ある(150÷(78÷12))。

 実質実効為替レートも2008年以降は安定的に推移している。とはいえ、カンボジアでは現地通貨のリエルはほとんど流通しておらず、キャッシュの8割はドルである。流通しているリエルは10~20億ドルと言われており、いざとなれば先ほど触れた外貨準備高で全額買い取ることも可能である。財政赤字も対GDP比2.6%と非常に低い。公共工事は外国からの援助がついたもののみを優先的に実行するという堅実な財政運営の結果である。IMFと世界銀行は、カンボジアの対外債務の状況を「低リスク」に分類し、当面問題ないと見ている。また、2016年7月には、世界銀行の分類で「低所得国」を卒業し、「低中所得国」に格上げされた。

 ・経済が絶好調なカンボジアであるが、リスクがあるとすれば政治が挙げられる。カンボジアでは人民党のフン・セン首相が1992年から25年にわたって長期政権を敷いている。ところが、2013年の総選挙では野党が躍進し、与党対野党=68対55という結果になった。強気になった野党は国会をボイコットした。また、同年末には縫製労働者の大規模デモが発生し、最低賃金が80ドルから100ドルに引き上げられた。年明けの2014年1月3日には、政府がデモ隊に向かって発砲し、5名が死亡するという事件が起きた。この事件を受けて、デモは全面的に禁止された。その後、与野党は約半年間の話し合いを経て、7月22日に選挙改革などを含む与野党合意に達した。2015年3月には、与野党合意に基づいて選挙法が改正された。

 しかし、与野党の「対話の文化」は短命に終わる。親中派のフン・セン首相と、アメリカが支援している野党のサム・レンシー氏の間で対立が再燃したのである。サム・レンシー氏は国外退去を余儀なくされたが、その国外退去中に、国内では野党議員への暴行事件が起き、野党副党首にスキャンダルが発覚し、さらに著名な政治評論家が殺害されるなど、きな臭い状況が続いている。また、フン・セン首相が南シナ海問題で中国寄りの姿勢を見せ、国内で強硬姿勢を見せていることに対して、欧米からは圧力がかけられている。2017年6月には地方選挙、2018年8月には総選挙があるが、その行方は未知数である。与党が勝利しても、2013年のようなデモが発生する恐れがある。また、野党が勝利すれば、政権交代をめぐって混乱が予想される。

 ・「タイプラスワン戦略」の候補国として、カンボジアはミャンマーに比べると優位である。その理由としては、カンボジアからタイへのアクセスが大幅に改善されたことが大きい。これにより、タイからカンボジアの工業団地に移ってきた日系企業も多い。一方、ミャンマーのインフラは未だに不十分であり、整備にはあと5~10年ほどかかる見込みである。カンボジアはタイとの国境沿いにあるポイペトに工業団地を建設しており、今後ますますタイとの結びつきが強くなるだろう。カンボジアの工業団地の開発を進めている「プノンペン経済特区社(Phonom Penh SEZ Co., Ltd.)」がこのたび上場し、調達した資金でポイペトに工業団地を建設する予定である。

 ・プノンペンからホーチミンまでは約230km、バンコクまでは約600kmであり、バンコク~プノンペン~ホーチミンは太平洋ベルトと同じぐらいの距離である。カンボジア自体は人口も少ない小国であるが、タイ、ベトナムを含めて3か国で国際分業ができれば、競争力の向上が期待できる。長らく課題とされてきたインフラについても、道路や港の開発は一段落ついた。現在、プノンペンとタイを結ぶ国道5号線を片側2車線にする工事を円借款で実施している。また、通信に関しては、最初から光ケーブルとワイヤレスのネットワークを集中的に構築したため、世界で見ても最安のインフラが整っている(プノンペンから日本に国際電話をかけても、1分10円程度)。

 問題は電力である。人口が少ないがゆえに、電力需要が400~500MWぐらいしかない。そのため、必然的に小規模の発電所とならざるを得ず、その分コスト高になる。カンボジアの電力需要の小ささは、福島第一原発の発電量が8,000MWであることと比べてみるとよく解る。

2017年05月15日

【日本アセアンセンター】ASEANの知的財産権事情(セミナーメモ書き)

このエントリーをはてなブックマークに追加
アイデア

 ASEANにおける知的財産権協力の歴史は、1995年のASEAN知的財産協力枠組み条約(知財協力条約)の締結に始まる。同条約の起草過程では、ASEAN地域の中央特許庁、中央商標庁の設立というアイデアが示された。しかし、TRIPS協定の実施が優先課題である中で、一気にASEAN特許庁・同商標庁の設立に動くことへの警戒感が強く、条約ではASEAN特許制度・同商標制度設立の可能性を探求するという文言で決着した。

 1998年に策定されたハノイ行動計画では、2000年までにASEAN特許出願制度・同商標出願制度を導入することが合意され、特に商標については、ASEAN商標出願制度を実現するために、共通出願フォームを完成、実施させることとなった。1998年時点では、少なくとも出願段階において、地域独特の制度を設立するという点で、首脳レベルでの明確な合意があった。

 だが、次第にASEANの方針が変化していく。ASEAN知財行動計画2004-10では、ASEAN商標制度について、ASEANレベルの地域制度と国際出願制度との適切性を比較することが合意された。また、ASEAN特許制度についての言及がなくなった一方、新たにASEAN意匠制度の実現可能性を検討することとされた。さらに、新規加盟を促進するべき条約として、特許協力条約、マドリッド協定、ヘーグ協定が挙げられた。2007年のAECブループリントでは、ASEAN商標制度に代わり、マドリッド協定議定書への加盟を目指すこととされた。ASEAN意匠制度については、その設立を目指すとされたが、ASEAN特許制度への言及はなされなかった。

 ASEAN知財行動計画2011-15では、方針転換がより明確となった。すなわち、2015年までに、①全ASEAN諸国が特許協力条約、マドリッド協定議定書に加盟する、②ASEAN7か国がヘーグ条約に加盟するとの目標が設定された反面、ASEAN特許制度・同商標制度・同意匠制度といった文言が一切使われなくなった。ASEAN特許庁・同商標庁の文言も姿を消した。

 ASEANがASEAN特許制度構想、同商標制度構想を断念した理由は大きく3つある。1つ目は、ASEAN各国の知財制度の差異が挙げられる。ASEAN特許制度構想などが提示された1995年当時、強力な司法制度を有するWTO協定の一つとして、TRIPS協定が発効したばかりであった。ASEAN各国とも、最優先課題はTRIPS協定の実施であり、地域制度を議論する準備が十分にできていなかった。2つ目は、ASEAN企業にとって、ASEAN域内での知的財産権の保護よりも、世界レベルでの保護の方が重要であるという点が指摘できる。ASEAN諸国への出願のみが円滑化されるASEAN特許制度・同商標制度よりも、非ASEAN諸国への出願もカバーされる特許協力条約やマドリッドシステムのメリットの方が大きかった。

 3つ目としては、超国家的な組織に対するASEANの伝統的な警戒感がある。1967年に設立されたASEANが、組織的な根拠となるASEAN憲章を持ったのは2008年に入ってからであった。2015年12月31日には、ASEAN政治・安全保障共同体(ASC)、ASEAN経済共同体(AEC)、ASEAN社会・文化共同体(ASCC)の3つの共同体からなるASEAN共同体が発足したが、EU大統領、EU議会が存在し、ユーロという単一通貨があるEUとは異なり、ASEAN共同体はそこまで深い統合を目指しているわけではない(以上の内容は、石川幸一、助川成也、清水一史『ASEAN経済共同体と日本―巨大統合市場の誕生』〔文真堂、2013年〕より)。

ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生
石川 幸一 助川 成也 清水 一史

文眞堂 2013-12-13

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 ここからがセミナーの内容。まずは、ASEAN各国の知的財産権関連条約などの加盟状況について。その前に、主要な条約の内容を整理しておく。

 ○パリ条約
 1883年にパリにおいて、特許権、商標権などの工業所有権の保護を目的として、「万国工業所有権保護同盟条約」として作成された条約である。「内国民待遇の原則」、「優先権制度」、「各国工業所有権独立の原則」などについて定めており、これらをパリ条約の三大原則という。

 <内国民待遇の原則>
 パリ条約の同盟国は、工業所有権の保護に関して自国民に現在与えている、または将来与えることがある利益を他の同盟国民にも与えなければならない。また、同盟国民ではない者であっても、いずれかの同盟国に「住所または現実かつ真正の工業上もしくは商業上の営業所」を有する者(準同盟国民)に対しても、同盟国民と同様の保護を与えなければならない。

 <優先権制度>
 いずれかの同盟国において正規の特許、実用新案、意匠、商標の出願をした者は、特許・実用新案については12か月、意匠・商標については6か月間、優先権を有する。優先権期間中に他の同盟国に対して同一内容の出願を行った場合は、当該他の同盟国において新規性、進歩性の判断や先使用権の発生などにつき、第1国出願時に出願したものとして取り扱われる。

 <各国工業所有権独立の原則>
 特許権に関しては、特許権の発生や無効・消滅について各国が他の国に影響されない。商標権に関しては、同盟国の国民が、他の同盟国において登録出願をした商標について、本国で登録出願、登録、存続期間の更新がされていないことを理由として登録が拒絶、無効とされることはない。また、いずれかの同盟国において正規に登録された商標は、本国を含む他の同盟国において登録された商標から独立したものである。

 ○PCT(特許協力条約)
 複数の国において発明の保護(特許)が求められている場合に、各国での発明の保護の取得を簡易かつ一層経済的なものにするための条約である。本条約は、国際出願によって複数の国に特許を出願したのと同様の効果を提供するが、複数の国での特許権を一律に取得することを可能にするものではない。この条約などによって複数の国で特許権を取得したかのような「国際特許」、「世界特許」または「PCT特許」といった表現が使用されることがあるが、世界的規模で単一の手続によって複数の国で特許権を取得できるような制度は、現在のところ存在しない。

 ○ベルヌ条約
 著作権に関する基本条約である。著作権は、著作者による明示的な主張・宣言がなくとも自動的に発生する。条約の締結国においては、著作者は、著作権を享有するために、「登録」や「申し込み」の必要がない。作品が「完成する」、つまり作品が書かれる、記録される、あるいは他の物理的な形となると、著作者はその作品や、その作品から派生した作品について、著作者が明確に否定するか、著作権の保護期間が満了しない限り、直ちに著作権を得ることができる。

 ○マドリッドプロトコル(マドリッド協定議定書)
 商標について、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局が管理する国際登録簿に国際登録を受けることにより、指定締約国においてその保護を確保できることを内容とする条約である。締約国の官庁に商標出願をし、または商標登録がされた名義人は、その出願または登録を基礎に、保護を求める締約国を指定し、本国官庁を通じて国際事務局に国際出願をし、国際登録を受けることにより、指定国官庁が12か月(または、各国の宣言により18か月)以内に拒絶の通報をしない限り、その指定国において商標の保護を確保することができる。

 ◆ASEAN各国の知的財産権関連条約の加盟状況
ASEAN知的財産権関連条約加盟状況

 ASEAN各国の知的財産権法の整備状況は以下の通りである。ミャンマーは最も法整備が遅れている(以前の記事「「ミャンマー・エーヤワディー管区投資誘致セミナー」に行ってきた」を参照)。「△」は不十分ながら法律による一定の保護があることを示す。例えば、ミャンマーには商標法が存在しないが、別の法律で商標について一定の保護が与えられている。

 ◆ASEAN各国の知的財産権法の整備状況
ASEAN知的財産権法制度の状況

 ASEAN各国の知的財産権の出願件数は以下の通りである。

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数
ASEAN各国の知的財産権出願件数

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数(特許)
ASEAN各国の知的財産権出願件数(特許)

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数(商標)
ASEAN各国の知的財産権出願件数(商標)

 ◆ASEAN各国の知的財産権出願件数(意匠)
ASEAN各国の知的財産権出願件数(意匠)

 その他、セミナーで参考になった点をまとめておく。

 ・公報全文が公開されていない国が多い。また、大半の国において現地語でしかアクセスできず、英語での検索機能は限定的である。さらに、国外からはアクセスできないことがある。

 ・知的財産権の審査担当者の審査能力が低く、権利化までに時間がかかる。基本的には、他国の登録査定を提出しないと登録査定を得られない。先に日本やアメリカなどで登録査定を獲得し、その資料を提出するとようやく審査が進行するというのが現状である。

 ・商標については、冒認出願(ある国で有名な商標について、海外の第三者が勝手にその国で商標出願し、権利を取得すること、など)への対策が必要である。冒認出願に対しては、真の商標権者による取消請求を法定している国も多いものの、期間には制限がある(概ね、登録から5年が目安)。一度冒認出願が登録されてしまうと、取消手続きが煩雑な上、費用もかかる。先に出願するのと、冒認出願を取り消すのとでは、費用が2桁違う。中国で「クレヨンしんちゃん」が冒認出願され登録されているが、この取消には7,000万円ほどかかると言われている。

 ・営業秘密については、それを保護する法律がASEAN各国に存在する。しかし、現実的には、営業秘密の保護は非常に難しいと言わざるを得ない。何が営業秘密に該当するのか契約書に明記しなければならないのだが、どうしても抜け漏れが発生する。

 ちなみに、日本でも営業秘密を保護することは困難である。営業秘密として認められるには、秘密管理性、有用性、非公知性という3要件を満たす必要がある。だが、裁判で秘密管理性が認められるケースは非常に少ない。例えば、企業の顧客情報がサーバから抜き取られて漏洩した場合、サーバへのアクセス権限は厳重に管理されていたか、サーバへのアクセスログは管理されていたか、サーバの情報をローカルPCに落とすことができないようになっていたか、ローカルPCからUSBへのデータ転送が禁止されていたか、サーバルームへの入退室は必要最小限の人に限定されていたか、サーバルームへの入退室記録は存在したか、などが問われる。

 ・ASEANにおいては、まずは審査官にとって解りやすい権利を取得し、権利侵害があった場合には刑事事件により解決するのがベストである。民事事件は数年かかるのに対し、刑事事件が費用が安く、早期に解決することが多い。また、刑事手続きであっても、被害に対する経済的補償の請求が可能な場合がある。一方、長期的に技術保護を図る場合には、特許出願しかない。PCT出願を利用して他国で権利化した後、ASEAN各国で権利化を行うことになる。

2016年12月26日

ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』(セミナーメモ書き)

このエントリーをはてなブックマークに追加
バンコク・カオサンロード

 (※)バックパッカーの聖地、タイのカオサンロード。

 日本アセアンセンター主催のセミナー「ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』」に参加してきた。以下、セミナー内容のメモ書き。

ASEAN経済共同体の創設と日本ASEAN経済共同体の創設と日本
石川 幸一 清水 一史 助川 成也

文眞堂 2016-11-20

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 《Ⅰ.サービス》
 (1)まず、サービス貿易には4形態があることを押さえておく必要がある。
 <第1モード>
 【国境を越える取引】
 いずれかの加盟国の領域から他の加盟国の領域へのサービス提供。
 《例》A大学(日本)がB大学(タイ)に対してオンライン授業を実施し、B大学の学生がタイでそのオンライン授業を受講する。

 <第2モード>
 【海外における消費】
 いずれかの加盟国の領域内におけるサービスの提供であって、他の加盟国のサービス消費者に対して行われるもの。
 《例》A大学(日本)にB大学(タイ)の学生が訪問し、A大学の講義に参加する。

 <第3モード>
 【業務上の拠点を通じてのサービス提供】
 いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって、他の加盟国の領域内の業務上の拠点を通じて行われるもの。
 《例》A大学(日本)がタイにA大学分校を設立し、タイの学生に対して講義を実施する。

 <第4モード>
 【自然人の移動によるサービス提供】
 いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって、他の加盟国の領域内の加盟国の自然人の存在を通じて行われるもの。
 《例》A大学(日本)がB大学(タイ)に教師を派遣し、B大学で講義を実施する。

 各モードに関する規制緩和は以下の通り。
 ①第1モード、第2モードについては制限を撤廃。ただし、善意に基づく規制理由(公共の安全など)は例外とする。
 ②第3モード(外国(ASEAN)からの資本参加の容認)については次の通り。
 a)4優先サービス分野については、2008年までに51%以上、2010年までに70%の外資参加を容認。b)物流サービス分野については、2008年までに49%、2010年までに51%、2013年までに70%の外資参加を容認。c)その他のサービス分野については、2008年までに49%、2010年までに51%、2015年までに70%の外資参加を容認。その他の第3モード市場への参入制限を2015年までに段階的に撤廃。

 (2)第3モードの外資出資比率緩和スケジュールは、次のように進行した。
 <第7パッケージ(目標終了期限=2008年経済相会議)>
 優先統合分野(29)は51%、ロジスティクス分野(9)は49%、その他サービス(27)は49%(つまり、外資がマジョリティを獲得できるのは優先統合分野のみ)。

 <第8パッケージ(目標終了期限=2012年経済相会議)>
 優先統合分野(29)は70%、ロジスティクス分野(9)は51%、その他サービス(42)は51%(第3モードの全ての分野において、外資のマジョリティ獲得が可能となった)。

 <第9パッケージ(目標終了期限=2013年経済相会議)>
 ロジスティクス分野(9)は70%、その他サービス(66)は51%(ロジスティクス分野の外資出資比率の上限が70%まで引き上げられた。また、その他サービスの対象分野が増加した)。

 <第10パッケージ(目標終了期限=2015年経済相会議)>
 その他サービス(90)は70%(その他サービスの対象分野が増加し、かつ外資出資比率の上限が70%まで引き上げられた)。

 (3)ASEAN各国の第9パッケージの履行状況だが、自由化対象業種のうち、当該業種全てにおいて自由化が進んでいる業種の割合が約半数に及ぶ(=自由化が進んでいる)のはインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムである。一方、自由化が当該事業の一部にとどまる業種の割合が高い(=自由化が遅れている)のはタイ、フィリピンである。

 サービス種類別に第3モードの自由化の状況を見ると、比較的自由化が進んでいるのは、実務、通信、建設および関連エンジニアリング、流通、教育、環境、金融、観光・旅行サービスである。一方、健康関連・社会事業、娯楽・文化・スポーツ、運送サービスは自由化が遅れている。

 (4)ASEANのみに出資比率が緩和されている事業がある。例えば、インドネシアでは、「森林地域内でのエコツーリズム施設、活動、サービス事業の形態によるネイチャーツーリズム事業」について、外資の出資比率上限を51%としているが、ASEAN企業に限っては出資比率の上限を70%まで引き上げている。ただし、ASEAN企業の定義は明確になっていない。ASEANの法に基づく、ASEANで実質的にオペレーションをしている、ASEANで5年以上事業を継続しているなどの条件が想定されるが、最終的には各国政府の判断に委ねられると考えられる。

 《Ⅱ.金融》
 (5)ASEANの金融統合の中心分野としては、以下の3つが挙げられる。
 <①金融サービスの自由化>
 銀行、証券、保険など金融機関がASEAN域内での活動を自由にすることを目指す。具体的には「ASEAN銀行統合枠組(ABIF)」により、平等なアクセス、待遇、環境を確保する。ABIFに基づく「適格ASEAN銀行」の認定を進める。また、「ASEAN保険統合枠組(AIIF)」は保険業界の自由化を目指しており、消費者の選択肢の増加に資する。

 <②資本取引の自由化>
 域内各国間での規制緩和による経常取引、海外直接投資、証券投資などの資金フローの自由化を目指す。具体的な取り組みとしては「資本取引自由度ヒートマップ」の作成が挙げられる。証券投資および他項目の流入・流出資本フローや対内および対外の直接投資などの指標に基づいて、各国の目標達成度合いをモニタリングするツールである。

 <③資本市場の発展>
 ASEANの様々な資本市場間でのクロスボーダーの協力実現を目的とする。金融機関に関する監視の能力を含む能力開発とインフラ整備に主眼が置かれており、相互認証、ルール・規制の調和を目指している。具体的な取り組みとしては、「ACMF(ASEAN Capital Market Forum)」が挙げられる。③については、マレーシア、タイ、シンガポールの3か国が先行して進めている項目が多く、①②に比べると具体的な成果が多い。

 (6)(5)の取り組みに対して、外部機関は概ね肯定的な評価をしている。ERIA(東アジア・ASEAN研究センター)は、域内金融の安定化と2020年までの銀行セクターの多国間の自由化はゆっくりだが着実に進展していると述べている。しかし、ASEAN各国の金融市場の発展段階、経済構造、優先度は多様であり、金融・資本分野統合の前提条件を整えるのはチャレンジングであるとも指摘している(2014年)。また、IMFは、「物事をゆっくり、着実に進める」という「ASEAN WAY」にも理解を示しており、一連の取り組みはASEANの経済成長、1人あたりの所得増に寄与していると評価している(2015年)。

 (7)ASEANの今後の課題としては大きく2つある。1つ目は、「資本取引自由度ヒートマップ」の精緻化である。ASEAN各国が自己評価した結果によると、ラオス、ミャンマーを除き自由化が相応に進捗している印象を受ける。ところが、この結果は、ERIAやIMFの評価と差がある。ASEAN各国の自己評価に頼っていることが影響していると考えられる。ASEAN共通の評価基準を明示し、客観的なスコアリングを行う必要がある。

 2つ目の課題は、域内国通貨間の為替レートの安定化である。各国の独立した金融政策の維持を前提とする場合、域内通貨間の為替レートのより柔軟な変動を許容しなければならない。ここで、ASEAN各国の現状の経済発展段階の違いを踏まえると、現時点でEUのような共通通貨を想定するのは困難である。しかし、域内通貨間の為替レートの安定に向けた取り組みの整理・検討が将来的には必ず必要となる(必ずしも共通通貨である必要はない)。

 《Ⅲ.運輸・交通》
 (8)AEC2025ブループリントでは、交通・運輸に関して連結性を実現するとある。「物理的連結性」(=ハード。陸上、海上、航空運輸。内陸水運、島嶼間リンク、インターモーダル輸送)は比較的進んでいるが、「制度的連結性」(=ソフト。交通、運輸の円滑化。物品貿易の自由化。国境手続きの円滑化)はやや遅れている。ASEANの交通プロジェクトは、越境交通に注力しているという特徴がある。他方、日本からの支援は都市交通の整備を主眼としている。しかし、越境交通の需要はまだ比較的小さく、長距離鉄道はBtoBでほとんど使われていないことから、整備が長期間に渡って停滞している。

 (9)陸上交通のフラッグシッププロジェクトは、①ASEANハイウェイ(AHW)の完成と②シンガポール―昆明鉄道(SKRL)主線の建設と支線の建設完了の2つである。①に関しては、ミャンマーにミッシングリンクが存在しており(=ミャンマーに悪路が多い)、その解消が課題となっている。②に関しては、既存の鉄道をどのようにアップグレードするかが1990年代から続く課題である。ASEAN各国は、GMS越境交通協定(CBTA)には2007年に加盟しているが、交通円滑化協定(AFAFGIT・AFAMT・AFAFIST)の批准は進んでいない

 (10)海上交通の主なテーマは、①ASEAN海運単一市場(ASSM)と②RoRo船の優先航行ルートの実現である。ただし、①は難航しており、AEC2015ブループリント、AEC2025ブループリントともに記載がない。一方、RoRo船は短距離輸送に向いており、需要も高いことから、整備が進んでいる。航空交通は例外的に進捗している領域であり、航空協定(MAFLAPS、MAAS)は全てのASEAN加盟国が批准している。いわゆる「9つの自由」のうち、5つまでが実現している。


  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like