2017年07月03日
【AGSコンサルティング】中国・アセアン進出動向セミナー(セミナーメモ書き)
「AGSコンサルティング」と「マイツグループ」共催のセミナーにご厚意で参加させていただいた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。
<中国>
・2016年3月に第13次5か年計画が採択された。小康社会の全面的完成に向け、政府は発展の不均衡、不調和、持続不可能といった突出した問題に狙いを定め、イノベーション発展、調和のとれた発展、グリーン発展、開放発展、ともに享受する発展という5つの発展理念の確固たる樹立と徹底した貫徹に取り組むとしている。これにより改革が深化され、公平性の確保された透明性の高いビジネス環境の整備が期待される。
・近年、中国から日系企業が相次いで撤退しているとしばしば報じられる。事実、外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、中国の日本企業拠点数(支店、駐在員事務所を含む)は、2017年には33,390拠点だったのが2018年には32,313拠点となり、1,077拠点減少している。しかし、中国全体で見た場合、中国への対内直接投資額は着実に増加しており、2014年には1,285億ドルを記録して2年連続過去最高となった。2015年は1,262億ドルであるが、この数字には金融分野(銀行、証券、保険)が含まれておらず、金融分野を含めると、3年連続過去最高となるのは確実である。なお、直接投資の中心は製造業から非製造業にシフトしている。
・中国に進出している日系企業のうち、製造業は内販比率59.4%、外販比率40.6%、非製造業は内販比率75.0%、外販比率25.0%となっている。経営上の課題を尋ねたアンケートでは、製造業、非製造業ともに、1位は「従業員の賃金上昇」であるが、2位は製造業の場合「限界に近づきつつあるコスト削減」、非製造業の場合「新規顧客の開拓が進まない」となっている。製造業においては、製造原価に占める材料費の比率が平均59.5%であり、製造コストの低下に向けては材料費の削減(現地調達割合を上げるなど)に向けた取り組みが必要である。
・内販比率が高い湖北省、重慶市、北京市、上海市では、今後事業を拡大すると回答した日系企業が多い。一方、外販比率が高い福建省、山東省、広東省、遼寧省では、今後事業を拡大すると回答した日系企業の割合が相対的に低い。業種別に内販/外販比率と今後の事業展開の意向を尋ねたところ、内販比率が高い食料品、化学・医薬、輸送機械器具、卸・小売業では事業の拡大志向が高い。一方、外販比率が高い繊維では、事業の拡大志向が低い。
<ASEAN>
・現在、海外拠点がある日系企業に対して、今後拡大を図る国を尋ねたアンケートによると、中国:56.5%(2014年)⇒52.3%(2016年)、タイ:44.0%(2014年)⇒38.6%(2016年)、インドネシア:34.4%(2014年)⇒26.8%(2016年)、ベトナム:28.7%(2014年)⇒34.1%(2016年)なっており、中国、タイ、インドネシアは減少傾向、ベトナムは増加傾向にある。中国が減少している理由は周知の通りである。タイは、近年経済成長が鈍化しており、投資が一服した感がある(タイのGDP成長率は、2013年2.73%、2014年0.92%、2015年2.94%、2016年3.23%。1人あたり名目GDPは、2013年6,157.36ドル、2014年5,921.09ドル、2015年5,799.39ドル、2016年5,899.42ドル)。インドネシアは人口の多さから市場として期待されてきたが、元々非常に複雑な多民族国家であり、簡単に事業化できないことが明らかになったことが原因と思われる。
・新興国の経済の発展は3段階に分けて考えることができる。①コストメリットを活かした生産拠点の受け入れ、②内需拡大による販売拠点の受け入れ、③研究開発などのさらなる高機能化、の3段階である。中国は2000年代半ばまで①のフェーズにあったが、2000年代後半は②のフェーズに入り、現在は③に移行しつつある。ASEAN諸国のうち、人件費が安いベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスは、現在①のフェーズにあり、中国から生産拠点が移管されている(チャイナプラスワン戦略)。他方、既に高度な経済成長を遂げたシンガポールやマレーシア、経済が成熟しつつあるタイは、①のフェーズを卒業し、②や③のフェーズに移っている(ただし、タイではR&D人材が不足していると言われる)。ベトナムは、人件費が安いため①のフェーズにあるものの、人口が多いことから②のフェーズもパラレルで進行している印象がある。
・海外に進出するにあたっては、進出の目的を明確にすることが非常に重要である。日本市場が成熟・縮小傾向にあるから海外に進出するという理由では弱い。自社の製品・サービスが海外においてどのような価値を創造することができるのか、進出先の地域においてどのような貢献ができるのかをはっきりさせる必要がある。また、海外進出にあたりフィージビリティスタディを実施する際に、経済産業省、JETRO、国連などのデータを用いて各国の市場の情報を入手することになるが、国別だけでなく、都市別にも分析を行うべきである。ASEAN諸国は、都市によって経済レベル、文化、生活習慣、インフラ、社会制度などがバラバラである(この点が、前述のように、インドネシアにおける事業展開を難しくしている1つの要因であろう)。
・中堅企業が海外進出する場合には、「小さく始めて大きく売る」ことを目指すとよい。特に、代理店を効率的に活用することが有効である。代理店は販売のリスクを低減してくれる。ただし、代理店を利用するにあたっては、代理店の信用調査を事前に入念に行うことが必要である。なお、海外事業を小さく始めるからと言って、本社が現地に任せっ放しにするのはよくない。ASEANの場合、英語でコミュニケーションが取れるとは限らないから、本社が現地にあまり触れたがらない傾向がある。しかし、現地は製造、購買、販売、人事労務管理、経理、行政への対応など、ありとあらゆることを少人数で行っている。本社のサポートは必要不可欠である。
・シンガポールに進出している日本企業拠点数は1,116拠点(2016年)である。このうち、シンガポールの商工会議所に登録している日経企業数は、2017年時点で836社である。商工会議所に登録している日系企業の内訳を見ると、製造業が10年前に比べて減少しているのに対し、金融・保険業は2007年の46社から2017年の64社へと1.4倍、観光・流通・サービス業は2007年の106社から2017年の249社へと2.5倍に増加している。
・シンガポールで就労するためには、EP(外国人就労ビザ)を取得する必要がある。シンガポールは多様な民族を受け入れることで急速に経済発展を遂げた国であるが、近年は自国民の雇用確保へと舵を切っている。そのため、EP取得の要件が2010年頃から厳格化されている。具体的には、2017年1月より、EP申請に必要となる最低月給が、3,300シンガポールドルから3,600シンガポールドルに増加した。また、実際に承認を受けるために必要な月給も上昇しているとの印象がある。EPを取得するために日本人駐在員の月給を上げると、人件費が増加してしまう。そのため、ローカル人材の活用を検討する必要がある。
・シンガポールでは、PIC優遇税制が2017年終了事業年度を最後に廃止されることが予定されている。PIC優遇税制とは、企業の自動化、効率化を促進する適格支出(パソコンの購入など)について、400%償却(つまり、10万円のパソコンを購入すると、40万円を減価償却費として計上できる)、または一定の条件の下で60%現金給付を与える(つまり、10万円のパソコンを購入すると、6万円戻ってくる)優遇制度である。これに代わるものとして、Automation Support Packageという優遇税制が創設されるが、現地出資が30%以上であることが条件であるなど、多くの日本企業は利用することができない見込みである。
・2015年1月にIRAS(シンガポール内国歳入庁)が公表した移転価格ガイドラインにより、シンガポールでも本格的に移転価格同時文書化が始まることとなった。法人税の確定申告期限(原則として、決算日の翌年11月末まで)に文書を作成する必要がある。ただし、棚卸資産購入取引が1,500万シンガポールドル以下、ロイヤルティ支払が100万シンガポールドル以下の場合など、少額の場合には文書化が免除されることがある。
・シンガポールや香港は、地域統括拠点として利用されることが多い。地域統括会社を利用すると、企業グループ全体の税負担を軽くすることができる。例えば、インドネシアとタイに子会社を持つ日本企業があり、インドネシア子会社で出た利益100をタイ子会社に再投資する場合を考えてみる。まず、インドネシアにおいて、源泉税10が引かれる(日インドネシア租税条約による)。次に、日本において100×5%×30%=1.5が引かれる(外国子会社配当金益金不算入制度による)。よって、タイ子会社に再投資できるのは、100-10-1.5=88.5となる。
ここで、香港に地域統括会社を置き、インドネシアとタイの子会社を香港の地域統括会社の下に置いたとする。この場合、まずインドネシアでは源泉税5が引かれる(香港-インドネシア租税条約による)。次に香港であるが、香港では配当は非課税である。よって、香港の地域統括会社は、100-5=95をタイ子会社に再投資することができる。ただし、企業グループ全体の規模が大きくないうちは、享受できるタックスメリットよりも、統括拠点の維持コストの方が高くなる恐れがある。タックスメリットを目的として地域統括会社の設置を検討するのは賢明ではない。あくまでも、ビジネス的なニーズ(個社から地域ごとの経営管理への移行、バックオフィス業務の集約と効率化など)に基づいて、地域統括会社を設置するかどうか決定するべきである。