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【AGSコンサルティング】中国・アセアン進出動向セミナー(セミナーメモ書き)
【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)
【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年07月03日

【AGSコンサルティング】中国・アセアン進出動向セミナー(セミナーメモ書き)


海外ビジネス

 「AGSコンサルティング」と「マイツグループ」共催のセミナーにご厚意で参加させていただいた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 <中国>
 ・2016年3月に第13次5か年計画が採択された。小康社会の全面的完成に向け、政府は発展の不均衡、不調和、持続不可能といった突出した問題に狙いを定め、イノベーション発展、調和のとれた発展、グリーン発展、開放発展、ともに享受する発展という5つの発展理念の確固たる樹立と徹底した貫徹に取り組むとしている。これにより改革が深化され、公平性の確保された透明性の高いビジネス環境の整備が期待される。

 ・近年、中国から日系企業が相次いで撤退しているとしばしば報じられる。事実、外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、中国の日本企業拠点数(支店、駐在員事務所を含む)は、2017年には33,390拠点だったのが2018年には32,313拠点となり、1,077拠点減少している。しかし、中国全体で見た場合、中国への対内直接投資額は着実に増加しており、2014年には1,285億ドルを記録して2年連続過去最高となった。2015年は1,262億ドルであるが、この数字には金融分野(銀行、証券、保険)が含まれておらず、金融分野を含めると、3年連続過去最高となるのは確実である。なお、直接投資の中心は製造業から非製造業にシフトしている。

 ・中国に進出している日系企業のうち、製造業は内販比率59.4%、外販比率40.6%、非製造業は内販比率75.0%、外販比率25.0%となっている。経営上の課題を尋ねたアンケートでは、製造業、非製造業ともに、1位は「従業員の賃金上昇」であるが、2位は製造業の場合「限界に近づきつつあるコスト削減」、非製造業の場合「新規顧客の開拓が進まない」となっている。製造業においては、製造原価に占める材料費の比率が平均59.5%であり、製造コストの低下に向けては材料費の削減(現地調達割合を上げるなど)に向けた取り組みが必要である。

 ・内販比率が高い湖北省、重慶市、北京市、上海市では、今後事業を拡大すると回答した日系企業が多い。一方、外販比率が高い福建省、山東省、広東省、遼寧省では、今後事業を拡大すると回答した日系企業の割合が相対的に低い。業種別に内販/外販比率と今後の事業展開の意向を尋ねたところ、内販比率が高い食料品、化学・医薬、輸送機械器具、卸・小売業では事業の拡大志向が高い。一方、外販比率が高い繊維では、事業の拡大志向が低い。

 <ASEAN>
 ・現在、海外拠点がある日系企業に対して、今後拡大を図る国を尋ねたアンケートによると、中国:56.5%(2014年)⇒52.3%(2016年)、タイ:44.0%(2014年)⇒38.6%(2016年)、インドネシア:34.4%(2014年)⇒26.8%(2016年)、ベトナム:28.7%(2014年)⇒34.1%(2016年)なっており、中国、タイ、インドネシアは減少傾向、ベトナムは増加傾向にある。中国が減少している理由は周知の通りである。タイは、近年経済成長が鈍化しており、投資が一服した感がある(タイのGDP成長率は、2013年2.73%、2014年0.92%、2015年2.94%、2016年3.23%。1人あたり名目GDPは、2013年6,157.36ドル、2014年5,921.09ドル、2015年5,799.39ドル、2016年5,899.42ドル)。インドネシアは人口の多さから市場として期待されてきたが、元々非常に複雑な多民族国家であり、簡単に事業化できないことが明らかになったことが原因と思われる。

 ・新興国の経済の発展は3段階に分けて考えることができる。①コストメリットを活かした生産拠点の受け入れ、②内需拡大による販売拠点の受け入れ、③研究開発などのさらなる高機能化、の3段階である。中国は2000年代半ばまで①のフェーズにあったが、2000年代後半は②のフェーズに入り、現在は③に移行しつつある。ASEAN諸国のうち、人件費が安いベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスは、現在①のフェーズにあり、中国から生産拠点が移管されている(チャイナプラスワン戦略)。他方、既に高度な経済成長を遂げたシンガポールやマレーシア、経済が成熟しつつあるタイは、①のフェーズを卒業し、②や③のフェーズに移っている(ただし、タイではR&D人材が不足していると言われる)。ベトナムは、人件費が安いため①のフェーズにあるものの、人口が多いことから②のフェーズもパラレルで進行している印象がある。

 ・海外に進出するにあたっては、進出の目的を明確にすることが非常に重要である。日本市場が成熟・縮小傾向にあるから海外に進出するという理由では弱い。自社の製品・サービスが海外においてどのような価値を創造することができるのか、進出先の地域においてどのような貢献ができるのかをはっきりさせる必要がある。また、海外進出にあたりフィージビリティスタディを実施する際に、経済産業省、JETRO、国連などのデータを用いて各国の市場の情報を入手することになるが、国別だけでなく、都市別にも分析を行うべきである。ASEAN諸国は、都市によって経済レベル、文化、生活習慣、インフラ、社会制度などがバラバラである(この点が、前述のように、インドネシアにおける事業展開を難しくしている1つの要因であろう)。

 ・中堅企業が海外進出する場合には、「小さく始めて大きく売る」ことを目指すとよい。特に、代理店を効率的に活用することが有効である。代理店は販売のリスクを低減してくれる。ただし、代理店を利用するにあたっては、代理店の信用調査を事前に入念に行うことが必要である。なお、海外事業を小さく始めるからと言って、本社が現地に任せっ放しにするのはよくない。ASEANの場合、英語でコミュニケーションが取れるとは限らないから、本社が現地にあまり触れたがらない傾向がある。しかし、現地は製造、購買、販売、人事労務管理、経理、行政への対応など、ありとあらゆることを少人数で行っている。本社のサポートは必要不可欠である。

 ・シンガポールに進出している日本企業拠点数は1,116拠点(2016年)である。このうち、シンガポールの商工会議所に登録している日経企業数は、2017年時点で836社である。商工会議所に登録している日系企業の内訳を見ると、製造業が10年前に比べて減少しているのに対し、金融・保険業は2007年の46社から2017年の64社へと1.4倍、観光・流通・サービス業は2007年の106社から2017年の249社へと2.5倍に増加している。

 ・シンガポールで就労するためには、EP(外国人就労ビザ)を取得する必要がある。シンガポールは多様な民族を受け入れることで急速に経済発展を遂げた国であるが、近年は自国民の雇用確保へと舵を切っている。そのため、EP取得の要件が2010年頃から厳格化されている。具体的には、2017年1月より、EP申請に必要となる最低月給が、3,300シンガポールドルから3,600シンガポールドルに増加した。また、実際に承認を受けるために必要な月給も上昇しているとの印象がある。EPを取得するために日本人駐在員の月給を上げると、人件費が増加してしまう。そのため、ローカル人材の活用を検討する必要がある。

 ・シンガポールでは、PIC優遇税制が2017年終了事業年度を最後に廃止されることが予定されている。PIC優遇税制とは、企業の自動化、効率化を促進する適格支出(パソコンの購入など)について、400%償却(つまり、10万円のパソコンを購入すると、40万円を減価償却費として計上できる)、または一定の条件の下で60%現金給付を与える(つまり、10万円のパソコンを購入すると、6万円戻ってくる)優遇制度である。これに代わるものとして、Automation Support Packageという優遇税制が創設されるが、現地出資が30%以上であることが条件であるなど、多くの日本企業は利用することができない見込みである。

 ・2015年1月にIRAS(シンガポール内国歳入庁)が公表した移転価格ガイドラインにより、シンガポールでも本格的に移転価格同時文書化が始まることとなった。法人税の確定申告期限(原則として、決算日の翌年11月末まで)に文書を作成する必要がある。ただし、棚卸資産購入取引が1,500万シンガポールドル以下、ロイヤルティ支払が100万シンガポールドル以下の場合など、少額の場合には文書化が免除されることがある。

 ・シンガポールや香港は、地域統括拠点として利用されることが多い。地域統括会社を利用すると、企業グループ全体の税負担を軽くすることができる。例えば、インドネシアとタイに子会社を持つ日本企業があり、インドネシア子会社で出た利益100をタイ子会社に再投資する場合を考えてみる。まず、インドネシアにおいて、源泉税10が引かれる(日インドネシア租税条約による)。次に、日本において100×5%×30%=1.5が引かれる(外国子会社配当金益金不算入制度による)。よって、タイ子会社に再投資できるのは、100-10-1.5=88.5となる。

 ここで、香港に地域統括会社を置き、インドネシアとタイの子会社を香港の地域統括会社の下に置いたとする。この場合、まずインドネシアでは源泉税5が引かれる(香港-インドネシア租税条約による)。次に香港であるが、香港では配当は非課税である。よって、香港の地域統括会社は、100-5=95をタイ子会社に再投資することができる。ただし、企業グループ全体の規模が大きくないうちは、享受できるタックスメリットよりも、統括拠点の維持コストの方が高くなる恐れがある。タックスメリットを目的として地域統括会社の設置を検討するのは賢明ではない。あくまでも、ビジネス的なニーズ(個社から地域ごとの経営管理への移行、バックオフィス業務の集約と効率化など)に基づいて、地域統括会社を設置するかどうか決定するべきである。


2017年06月02日

【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)


ASEAN-JAPAN Open-Innovation Forum(1)

 4月7日、"ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum"がベルサール渋谷ガーデンホールで開催された。主催は経済産業省、一般財団法人海外産業人材育成協会、日アセアン経済産業協力委員会、日本貿易振興機構(ジェトロ)。日ASEAN両地域の主要ビジネス団体による「日ASEANイノベーションネットワーク」形成に向けた協力覚書(MOC)の署名式が行われた(写真)他、日本企業とASEAN連携深化のための、オープンイノベーション促進セミナーが講演された。今さらながら、その時のセミナーの内容をまとめておく。

 まずは、ASEANなどアジア新興国で現在注目を集めているスタートアップ企業、イノベーション企業の紹介があった。新興国では、先進国が歩んできた経済発展のプロセスを順番にたどることなしに、先進国の最新の製品・サービスがいきなり市場で受け入れられることがある。これを"Leap Flog"と呼ぶ。紹介された主な企業は以下の通り。

 ①Go-Jek
 バイクタクシー配車アプリを提供するインドネシア企業。2011年にサービスを開始し、これまでに2,500万人がダウンロードしている。登録されている運転手は約24万人、決済は全体で1億件に上る。楽天やKKRなどが出資をしている。バリュエーションは約13億ドル。

 ②Grab
 「東南アジアのUber」と呼ばれるインドネシア企業。サービス開始は2012年だが、アプリのダウンロードは既に3,300万件を記録している。登録されている運転手は約35万人。インドネシアだけでなく、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムで事業を展開している。ソフトバンクやホンダなどが出資をしている。バリュエーションは3,000億円以上。

 ③Paytm
 インド最大級のE-ウォレットサービス企業である。新興国では後述するように銀行口座を持たない人が多数存在するため、代わりにE-ウォレットサービスが発達している。2016年11月にインドで高額紙幣の廃止が発表されたのを機に、急激にユーザが増加した。現在、2億人のユーザがおり、1日のトランザクションは約700万件に上る。

 ④Garena
 シンガポールに本社を置く企業で、メルカリとDeNAを合わせたようなサービスを提供している。サービス開始は2009年で、中国のテンセントなどが株主となっている。メルカリの月間流通額は約100億円だが、Garenaの月間流通額は約18億ドルである。

 ⑤Ookbee
 「ユーザー生成コンテンツのNetflix」とも言うべきタイの企業。タイの他にマレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシアで事業展開をしており、約800万人の会員がいる。サービス開始は2010年。日本のトランスコスモス、中国のテンセントなどが出資している。

 ⑥iFlix
 映像ストリーミングサービスを提供しているマレーシア企業。東南アジアの他にアフリカ、中東でもサービスを提供している。サービス開始は2015年であるが、月額利用料金が約300円という安さが受けて、利用者数は約400万人に上っている。

 ASEANでは、社会的課題を解決するためのイノベーションも生まれている。その1つとして、日本の「ドレミング株式会社」からのプレゼンテーションがあった。世界には、銀行口座を持たない成人が約20億人いるという。同社のミッションは、「貧困層に正規の金融取引を提供すること」である。同社の「リアルタイム給与計算プラットフォーム」を使用すると、退勤した瞬間にその日の給与(税金、社会保険控除後)を算出することができる。「Doreming-Pay」というアプリをインストールしていれば、銀行口座がなくても買い物ができる。加盟店が支払う決済手数料は約2%であり、日本の半分の水準に抑えられている。このようなデジタル通貨が普及すれば、現金の盗難防止、強盗被害の削減やブラックマネーの撲滅が期待できる。

 ここまでがイノベーションの話。本セミナーの主題は「オープン・イノベーション」である。オープン・イノベーションとは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、ソーシャルイノベーションなどにつなげるイノベーションの方法論である。オープン・イノベーションのよいところは、中小企業、スタートアップ企業、ベンチャー企業であっても、大企業と対等に研究開発やイノベーションに取り組むことができるという点である。

 日本とASEANにおけるオープン・イノベーションというものを考えた場合、想定されるのは、日本の中小企業などがASEANの大企業と協業する、ASEANの中小企業などが日本の大企業と協業するという2パターンになるであろう(日本の中小企業などが日本の大企業と協業する、ASEANの中小企業などがASEANの大企業と協業するのは、それぞれ日本、ASEANの課題である)。こういう取り組みは自然発生的に進展するのを期待することが難しい。講演者の1人が指摘していたが、政府によるバックアップが必要である。タイとの間では、JTIS(Japan Thai Innovation Support Network)という団体が、世耕経済産業大臣(当時)の立会いの下、2016年9月9日に発足した。両国のスタートアップ企業10社が参画するとともに、タイトヨタやタイの素材最大手Siam Cement Group(SCG)など両国の大手企業20社以上が名を連ねている。

 一般的にオープン・イノベーションは、主に大企業がNIH(Not Invented Here)症候群を克服し、新しい製品・サービスの開発やビジネスモデルの構築に必要な技術を広く社外に求めることで、イノベーションに要する時間を短縮することを狙いとしている。ただ、個人的にはそんなに簡単にオープン・イノベーションは成功しないように感じている。そもそも、自社に足りない技術が初めから明らかで、その技術を持つ中小企業などから技術の提供を受けるのは、従来の取引関係、主従関係と何ら変わるところがない。オープン・イノベーションが従来の関係と異なるのは、ネットワークに参加するメンバーの立場が対等であり、かつ、メンバーが当初想定していた成果とは異なる予期せぬ成果が創発される点にあると思う。

 オープン・イノベーションに参加する企業は、①自社がやりたいこと、②自社が強みとすること、③自社に足りていないことに関する情報をネットワーク上に公開する。協業の可能性としては3つ考えられる。1つ目は、ある企業がやりたいと思っていることと別の企業がやりたいと思っていることが類似しており、各々が単独で事業を行うよりも協業した方が、より革新的な戦略の下での事業化が見込める場合である。2つ目は、ある企業が強みとすることと別の企業が強みとすることを上手に掛け合わせれば、新たな事業機会が期待できる場合である。いずれも、予期せぬ成功を狙っているという点がポイントである。3つ目は、ある企業に足りていないことを別の企業が補完することで事業化に結びつける場合である。この場合であっても、単なる取引関係にとどまらず、両社が協業することで事業や技術の新たな可能性に気づくことが重要である。

 では、オープン・イノベーションに参加する企業をインターネットでつないで、上記の①~③の情報を流せば、協業が成立するだろうか?欧米の企業はインテリジェンスに長けていて、インターネットの情報やその他の公知情報から相手の素性を見抜く術を身につけている。これはおそらく、植民地時代に本国から遠く離れた植民地を本国からコントロールするために、入手可能な情報だけで植民地経営のよしあしを判断してきた歴史も影響しているのだろう。だから、P&GのConnect & Developmentのように、世界中の研究機関をインターネットでつなげば、オープン・イノベーションの実現をある程度期待することができる。

 ところが、そういう歴史を持たない日本は、相手に直接会って話をしないと、相手のことを信頼し、理解することができない。だから、前述の政府主導組織などが、積極的にリアルの「場」を設けなければならない。そしてこの点は、おそらく日本に限らず、ASEAN諸国も変わらないのではないかと思う。しかも、1回会えば話がまとまるといった簡単な話ではなく、何度か顔を合わせるうちに、前述の①~③に関する情報を徐々にオープンにしていくという関係になるに違いない。

 星野達也『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社、2015年)には、「運転手の眠気検知技術」について、技術を探している企業が技術を深掘りし、提供者も自社技術を明確に提示することですんなりと協業が実現するという話が登場する。同書の著者は株式会社ナインシグマ・ジャパンという、オープン・イノベーションの仲介役を担う企業に勤めているため、技術の探索者と提供者があらかじめ自社のニーズとシーズを明確にしておいてくれると、自社の業務が進めやすいという願いが込められているように思える。しかし、実際には、コンソーシアムなど大勢が集まる会合で短時間の会話を重ねることで、協業の道が開けるのではないかと考える。

オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップオープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
星野 達也

ダイヤモンド社 2015-02-27

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 <1回目>
 探索者「我が社は眠気を検知する技術を探しています。よろしければ、御社がどういった事業をされているか教えていただけませんか?」
 提供者「我が社は脳波を測定する技術の開発を行っています。眠気は脳波の変化でとらえることが可能です」

 <2回目>
 探索者「以前お会いした後、眠気を検知する技術について社内で調査をしてみました。おっしゃる通り、眠気を検知するには脳波を測定するのが有効であるようですね。ただ、他にも、目の動きをとらえる、皮膚電位から脈拍をとらえる、という方法があることが解りました。この2つの方法に比べて、脳波を測定する方法はどういった点で優位性がありますか?」
 提供者「脳波を測定する場合は、○○という点でメリットがあります。ただし、測定の際には○○という点に気をつけなければなりません」

 <3回目>
 探索者「前回教えていただいた話を社内で検討した結果、脳波を測定するという方法で開発を進めようという話になりました。御社は今までどのような分野で実績がありますか?」
 提供者「我が社は、子どもが学習をした際の脳波の変化をとらえる装置を開発しています。主に研究機関向けです」
 探索者「子どもの脳波を測定する技術は、眠気を測定する技術に応用することができそうですか?」
 提供者「測定する脳の部分、とらえる脳波の種類が違うため、すぐには応用することは難しいのが正直なところです。ただし、新たに○○という技術を開発すれば、実現可能かもしれません」

 <4回目>
 提供者「今回お考えの技術は、具体的に誰をターゲットとしていますか?」
 探索者「バスやトラックの運転手をターゲットとしています。彼らの事故防止に役立てばと考えています。先日、御社の製品は研究機関向けとおっしゃいましたが、そうするとかなり大がかりな装置ですよね?」
 提供者「そうです。一般ユーザ向けの製品にするためには、小型化しなければなりませんね。率直に言って、小型化は我が社ではあまり実績がありません」
 探索者「我が社は製品の小型化を強みの1つとしていますので、もしかしたらお役に立てるかもしれません。一緒にプロジェクトをすると、いいものができそうな気がします。是非一度、我が社で具体的な打ち合わせをしませんか?」
 提供者「ありがとうございます」

 上記の例はかなりまどろっこしく書いたが、要するに日本とASEANの間でオープン・イノベーションが成立するかどうかは、手間のかかるリアルのコミュニケーションを惜しまないかどうかにかかっているというのが私の見解である。この点で、オープン・イノベーションはイノベーションに要する時間を短縮するという、欧米企業が考えるメリットは減殺される。だが、日本とASEANの企業は、協業を通じて、それぞれが単独では思いもよらなかった画期的な価値に到達することができるという点に、オープン・イノベーションのメリットを見出すべきであろう。

 最後に、オープン・イノベーションのマネジメントについても触れておく。オープン・イノベーションは2社以上の協業であるから、当然のことながら共通の目標を追求することになる。ただし、共通の目標だけを追求するのであれば、合併して1つの企業になった方がマネジメントしやすい。その道をとらずに、協業というやり方を選択するからには、マネジメントに一工夫が必要である。つまり、両社が共通の目標を追求すると同時に、両社が共通の目標を追求することによって、双方に固有の目標の達成も支援されるという関係を構築することである。バランス・スコア・カード(BSC)で説明すると下図のようになる。

オープン・イノベーションにおけるBSC

 まず、協業によって達成すべき財務の目標をブレイクダウンする形で、協業におけるBSCを作成する。一方で、双方の企業は、自社に固有のBSCの体系を持っているはずである。ここで、例えば、協業のBSCにおける学習と成長の視点の目標を追求すると、A社の業務プロセスの視点の目標にプラスの影響が出る、協業のBSCにおける業務プロセスの視点の目標を追求すると、B社の顧客の視点の目標にプラスの影響が出る、などといった因果関係を描くのである。そうすれば、まさにWin-Winの関係が構築できる。本ブログで私はしばしば、日本企業は水平連携、時に異業種との連携を得意としていると書いてきたが、水平連携に成功している企業はこういったマネジメントを普段から自然に実践していると思う。


2017年05月17日

【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)


カンボジア・バイヨン遺跡

 (※)写真はカンボジアのバイヨン遺跡。アンコール遺跡を形成するヒンドゥー・仏教混交の寺院跡。クメール語の発音ではバヨンの方が近い。バは「美しい」、ヨンは「塔」の意味を持つ。

 日本アセアンセンターのセミナーに参加してきたので、その内容のメモ書き。2年前に同じタイトルのセミナーに参加して、その時の内容は「「カンボジア投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)」にまとめたが、今回の記事はその内容のアップデートという位置づけ。

 ・まずはカンボジアの基礎知識について。
 【よくある質問①】カンボジアは地雷や内戦があったりして、危険な国ではないのか?
 ⇒【回答】外国人が立ち入る場所に関しては、既に地雷が撤去されている。また、カンボジア国内の地雷の被害者数は二桁まで減少している(地雷で亡くなる人より落雷で亡くなる人の方が多い)。現在、地雷を除去した新たな土地を貧困層に配分する事業を実施中である。ただ、ポル・ポト派が最後に立てこもった山岳部には、まだ何百万個の地雷が残っている。しかし、地雷を除去しても土地としての使い道がなく、お金をかけてまでやる意義があるのか疑問視されている。

 内戦に関しては、1992年にカンボジア和平が成立した。最後の武力衝突は1998年であり、その後は1998年、2003年、2008年、2013年と民主的な総選挙が行われている。国内の治安も、アジアの中では「普通」レベルである。外国人が巻き込まれる凶悪犯罪はかなり減少している。ただし、ひったくりと交通事故には要注意である。カンボジアの人口は日本の約10分の1、国内を走る自動車の数は日本の約100分の1だが、交通事故の犠牲者数は2,000人を超えている。

 【よくある質問②】カンボジアは秘境とジャングルの国ではないのか?
 ⇒【回答】世界遺産アンコールワットは観光の目玉であり、カンボジアを訪れる外国人は年間500万人にも上る。カンボジアでは観光が一大産業であり、GDPの約15%を占めている。アンコールワットの周囲にはゴルフ場や高級ホテルも多数存在する。それから、おそらく戦争映画の影響でカンボジア=ジャングルというイメージがついていると思われるが、実際のカンボジアは真っ平の国である。山岳部は限られており、プノンペンからタイやベトナムの国境線まで車で走っても、峠は1つもない。水田が地平線まで広がっており、農業国としても発展が見込まれる。カンボジアの米の生産量は年間約900万トンであり、既に日本を上回っている。

 【よくある質問③】カンボジアは貧乏な国ではないか?
 ⇒【回答】2016年の1人あたりGDPは1,228ドルであり、アジアの「普通の国」になりつつある。アジア通貨危機直後の1998年から2007年の10年間の平均経済成長率は9.4%であり、ASEANの中で最高である。また、最近5年間(2012~2016年)でも、年間平均成長率は7.2%と高水準を保っている。確かに、農村部に人口の8割が存在しており、貧困層が多いのは事実である。ただ、貧困率はこの10年で5割から2割に減少しており、農村部でも購買力が向上しつつある。味の素の使用量の伸び率と1人あたりGDPの伸び率には相関関係があることが知られており、カンボジアにおける味の素の使用量の伸び率はASEANの平均よりも上だという。

 ・カンボジアのマクロ経済の状況であるが、一言で言えば絶好調である。IMF、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)ともに、カンボジアの経済を高く評価している。カンボジア経済のエンジンである縫製品輸出、観光は好調が続いている。不動産・建設セクターもバブルが懸念されるものの(2017年に大量にビルが完成するという「2017年問題」を抱えている)、高成長を続けている。2016年の経済成長率は7.0%であり、、IMFは2017年の経済成長率を6.9%と予測している。ADBはカンボジアを「アジアの新たな虎」と呼んでいる。

 物価上昇についても問題はない。物価上昇率は2015年が1.2%、2016年が3.0%であり、2017年は2.7%と予測されている。日銀がどんなに異次元緩和を行っても物価が一向に上昇しない日本から見るとうらやましい限りである。カンボジアの経常収支は赤字であるが、輸出競争力の向上と輸出先の多様化により、縮小傾向にある。この輸出競争力の向上には、日系の労働集約型部品製造業がカンボジアに多数進出したことも大きく貢献している。

 外貨準備高も新興国としては非常に豊富である。2016年末時点で、輸入の4.5か月分にあたる63億ドルの残高がある。通常、外貨準備高は輸入の3か月分あれば十分とされる。IMFは、2017年末には74億ドル(輸入の4.8か月分)にまで増加すると予想している。カンボジアのGDPは約200億ドルであるから、実にGDPの3分の1に相当する。ちなみに、日本の外貨準備高は2015年末時点で約150兆円であり、GDP約530兆円の約28%に相当する。また、2015年の輸入は約78兆円であったから、外貨準備高は輸入の約23か月分ある(150÷(78÷12))。

 実質実効為替レートも2008年以降は安定的に推移している。とはいえ、カンボジアでは現地通貨のリエルはほとんど流通しておらず、キャッシュの8割はドルである。流通しているリエルは10~20億ドルと言われており、いざとなれば先ほど触れた外貨準備高で全額買い取ることも可能である。財政赤字も対GDP比2.6%と非常に低い。公共工事は外国からの援助がついたもののみを優先的に実行するという堅実な財政運営の結果である。IMFと世界銀行は、カンボジアの対外債務の状況を「低リスク」に分類し、当面問題ないと見ている。また、2016年7月には、世界銀行の分類で「低所得国」を卒業し、「低中所得国」に格上げされた。

 ・経済が絶好調なカンボジアであるが、リスクがあるとすれば政治が挙げられる。カンボジアでは人民党のフン・セン首相が1992年から25年にわたって長期政権を敷いている。ところが、2013年の総選挙では野党が躍進し、与党対野党=68対55という結果になった。強気になった野党は国会をボイコットした。また、同年末には縫製労働者の大規模デモが発生し、最低賃金が80ドルから100ドルに引き上げられた。年明けの2014年1月3日には、政府がデモ隊に向かって発砲し、5名が死亡するという事件が起きた。この事件を受けて、デモは全面的に禁止された。その後、与野党は約半年間の話し合いを経て、7月22日に選挙改革などを含む与野党合意に達した。2015年3月には、与野党合意に基づいて選挙法が改正された。

 しかし、与野党の「対話の文化」は短命に終わる。親中派のフン・セン首相と、アメリカが支援している野党のサム・レンシー氏の間で対立が再燃したのである。サム・レンシー氏は国外退去を余儀なくされたが、その国外退去中に、国内では野党議員への暴行事件が起き、野党副党首にスキャンダルが発覚し、さらに著名な政治評論家が殺害されるなど、きな臭い状況が続いている。また、フン・セン首相が南シナ海問題で中国寄りの姿勢を見せ、国内で強硬姿勢を見せていることに対して、欧米からは圧力がかけられている。2017年6月には地方選挙、2018年8月には総選挙があるが、その行方は未知数である。与党が勝利しても、2013年のようなデモが発生する恐れがある。また、野党が勝利すれば、政権交代をめぐって混乱が予想される。

 ・「タイプラスワン戦略」の候補国として、カンボジアはミャンマーに比べると優位である。その理由としては、カンボジアからタイへのアクセスが大幅に改善されたことが大きい。これにより、タイからカンボジアの工業団地に移ってきた日系企業も多い。一方、ミャンマーのインフラは未だに不十分であり、整備にはあと5~10年ほどかかる見込みである。カンボジアはタイとの国境沿いにあるポイペトに工業団地を建設しており、今後ますますタイとの結びつきが強くなるだろう。カンボジアの工業団地の開発を進めている「プノンペン経済特区社(Phonom Penh SEZ Co., Ltd.)」がこのたび上場し、調達した資金でポイペトに工業団地を建設する予定である。

 ・プノンペンからホーチミンまでは約230km、バンコクまでは約600kmであり、バンコク~プノンペン~ホーチミンは太平洋ベルトと同じぐらいの距離である。カンボジア自体は人口も少ない小国であるが、タイ、ベトナムを含めて3か国で国際分業ができれば、競争力の向上が期待できる。長らく課題とされてきたインフラについても、道路や港の開発は一段落ついた。現在、プノンペンとタイを結ぶ国道5号線を片側2車線にする工事を円借款で実施している。また、通信に関しては、最初から光ケーブルとワイヤレスのネットワークを集中的に構築したため、世界で見ても最安のインフラが整っている(プノンペンから日本に国際電話をかけても、1分10円程度)。

 問題は電力である。人口が少ないがゆえに、電力需要が400~500MWぐらいしかない。そのため、必然的に小規模の発電所とならざるを得ず、その分コスト高になる。カンボジアの電力需要の小ささは、福島第一原発の発電量が8,000MWであることと比べてみるとよく解る。



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