このカテゴリの記事
DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他
【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)
『コーポレートガバナンス(DHBR2016年3月号)』―長期志向であるためには短期志向でなければならない、他

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Top > BSC アーカイブ
2018年02月28日

DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 3 月号 [雑誌] (顧客の習慣のつくり方)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 3 月号 [雑誌] (顧客の習慣のつくり方)

ダイヤモンド社 2018-02-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)顧客が自社の製品・サービスを(できれば無意識のうちに)継続的に購入するように「習慣づけ」するためには、「累積優位性」を築くことが重要だと言う。その時のポイントは、「顧客の選択の手間を省いてやる」ことである。脳は、処理を迫られると何度も同じことをしたがるという傾向がある。これを「処理流暢性」と言う。また、最近はどの店舗にも様々な製品・サービスが並んでいるが、あまりに多くの選択肢を見せられると、顧客はかえっていつも慣れ親しんだ製品・サービスを選ぶようになる。これを「認知的負荷」の忌避と呼ぶ。

 P&Gの元CEOであるアラン・G・ラフリーと、元トロント大学ロットマン・スクール・オブ・ビジネス学長の論文「累積的優位を築く4つのルール 顧客の「選択」を「習慣」に変える」によれば、累積的優位性を築くための4つのルールとは、①早く人気を獲得する、②習慣づけを「仕組む」、③ブランド内でイノベーションを起こす、④コミュニケーションをなるべくシンプルにしておく、である。私は最近、商店街の支援をする機会が増えたので、近隣住民が商店街を利用することを習慣とするためにはどうすればよいかと考えることがある。その際、この4つのルールは残念ながら役に立たない。というのも、1つ目のルールで商店街は早くもつまずいてしまうからである。
 マーケティング担当者は、早期に勝つことの重要性を昔から理解していた。タイドは急成長を続けていた自動洗濯機市場に狙いを定めて発売され、P&Gで最も賞賛され、成功し、利益を生むブランドの1つとなっている。P&Gは1964年にタイドを発売すると、すぐにこの分野では最も大きな広告宣伝費をかけた。さらに、当時米国で販売されていたすべての自動洗濯機には常に1箱のタイドを無償提供し、顧客の習慣付けも図ったのである。タイドはすぐにこの「最初の人気コンテスト」に勝利し、その後、後ろを振り返らなかった。
 商店街は、近隣の大型スーパー、コンビニ、チェーン店、ドラッグストア、カテゴリーキラーなどの競合他社に人気コンテストで負けている。商店街関係者は認めたくないだろうが、商店街は敗北からスタートしなければならない。これらの競合他社に向かっている顧客の足を商店街に向かわせるためにはどうすればよいか?言い換えれば、既に染みついてしまった習慣を変化させるためにはどうすればよいか?そのヒントが、渡邊克巳「なぜ同じ商品やサービスが選ばれ続けるのか 顧客の習慣を科学する」という論文にあるような気がした。
 筆者は、習慣的な購買行動を取るもう1つの要因として、自己同一性、いわゆるアイデンティティの維持があると考えている。選択を簡単にすること以上に、この動機が習慣化をより強固にするのではないだろうか。

 これも仮説ではあるが、自己同一性の維持は、社会の中で個人が活動する際に非常に重要な意味を持っている。言動に一貫性があることは、(本当にそうであるかどうかは別にして)「私はあなたに簡単には操作されませんよ」という牽制になるからだ。また人間が社会的動物である以上、他者から信用を得なければ生きていけない。言動の一貫性は、自分が信頼できる人間であることの証明でもある。さらに自己同一性の維持は、他者からの信頼を得るだけでなく、自分自身の快にもつながる。自分は意志に基づいて行動していると思うほうが満足を得やすい。自分の一貫した言動を周囲に見せることで、他者の評価を高め、みずからの満足感にも貢献するという、社会的な機能が存在すると考えている。
 私は首都圏の人間なので、地方で高齢化が急速に進んでいる商店街ではなく、商圏に子育て世代が増加している商店街を前提に話を進めることをご容赦いただきたい。子育て世代、特に小さい子どもを持つ両親の自己同一性とは、「できるだけ節約をしたい」というものもさることながら、「子どもには特別な思いをさせてあげたい」というものではないかと考える。

 平日には子どもを連れて八百屋に行き、店主から「今日の晩御飯は何にするんだい?」と聞かれて、すかさず「ハンバーグ」と答える子どもを制し、「ハンバーグは今度のテストでいい点を取ったらね。今日はピーマンとニンジンを食べてもらうよ」と母親が答え、店主に「ははは、坊やテスト頑張るんだよ」と励ましてもらう。ある時は、子どもに胸肉200g、ひき肉300g、アジの開き4尾といったちょっと難しいお使いをさせ、肉屋と魚屋の店主に手助けしてもらいながら何とか目的のものを購入させる。休日には近所の理髪店に連れて行き、店主と学校の出来事を話す練習をさせる。洋服店では、店主から「あらー、会うたびに大きくなるね」と驚かれながら、洋服をコーディネートしてもらう。そして、夜になるとたまには家族で外食をし、店主に「今日のおすすめはこれだよ、○○君好きでしょ?」などと促されるままに、この日ばかりは大好物を食べさせてもらう。

 多感な時期には、こういう1つ1つのちょっとした特別な出来事が人格形成にプラスの影響を与えるのではないかと思う。そして、大人になってふと子どもの頃を振り返った時に、あの八百屋で、あの肉屋で、あの魚屋で、あの理髪店で、あの洋服店で、あのレストランであんなことがあったなと思い出をかみしめる。これが故郷というものである。

 私の場合、子どもの頃には近所の商店街が既にシャッター商店街化していたため思い出がほとんどないのだが、大学時代を過ごした京都のことはよく覚えている。いつまで友達としゃべっていても怒られなかったオランジュ、から揚げ定食のコストパフォーマンスが異常に高いハイライト、ご飯とルーの比率が明らかにおかしいというくらいにご飯が多かった久留味、まずいが安くて量が多く、昼に食べると午後の授業に間に合わなくなる鷭、鶏白湯ラーメンで有名だった天天有、焼きたてでふわふわのパンがおいしい進々堂、大して旨くはないがなぜか飲み会の後の締めに食べたくなる長浜ラーメンなど、ちょっと個性的なお店のことはよく覚えている。それが多感だった大学時代の思い出に彩りを与えている。だから、京都は私にとって心の故郷である。貧乏だからと言って毎日吉野家などを使っていたら、思い出が貧弱になっていたかもしれない。

 話を元に戻そう。仮に子育て世代が毎日イトーヨーカドーやローソンで買い物をし、週末にはQBハウスで子どもの散髪をし、しまむらで洋服を購入し、ガストで食事をしていたら、子どもの思い出が画一的になり、人格に深みが出ないだろう。もちろん、私はイトーヨーカドーなどの企業を全面否定するわけではない。就職したての20代前半から30代にかけてのお金がない独身時代には、効率・低コスト一辺倒でこういう大手企業を利用するのもよいだろう。だが、結婚して子どもを持ったら、自己同一性にも自ずと変化が現れるのではないだろうか?
 これを購買行動に当てはめると、積極的に「使える言いわけ」を与えることは、習慣を崩すうえで効果的な可能性がある。特に、法律や規制の改正、卒業・就職・転職などのように、外的要因に変化が生じる機会は新たな習慣に誘導するチャンスだと考えている。
 子どもが生まれることも、重要な外的要因の変化である。商店街はこのチャンスを利用しないわけにはいかない。まずは、商圏にどんな子どもがいるのかを観察して子どもたちの顔を覚える、子どもに積極的に挨拶をする、子どもにサービスをする(私の知っているある八百屋では、卸売業者がリンゴの箱につけているシールを子どもに配り続けたら、子どもが親の手を引っ張って「このお店で買い物してほしい」と言うようになったという)、こういったことを通じて、子どもが利用しやすいお店であることを親に訴求することから始めるのが効果的ではないかと考える。

 (2)ハイディ・K・ガードナー「がん研究所はどのように文化を変えたのか 卓越したプロフェッショナルをコラボレーションに巻き込め」という論文は、がん研究所という非常に専門性の高い組織内でいかにしてコラボレーションを実現したかについて述べられた論文である。私は中小企業診断士なので、連携というと企業間連携や産学連携を思い浮かべる。資本提携や業務提携のように、強固なコラボレーションが予定されているものよりも、もう少し緩やかな連携である。資本提携や業務提携であれば、双方の共通目的・目標を設定し、価値観や行動規範を共有し、業務プロセスや組織の様々な仕組みを高度に統合するといったことが成功のカギとなる(この辺りについては、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年12月号に詳しい)。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)

ダイヤモンド社 2016-11-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 一方で、業務提携まで至らない企業間連携では(中小企業の場合はこのケースが圧倒的に多いだろう)、それぞれの企業がもう少し”欲をかいても”よいのではないかと考える。もちろん、連携によって達成すべき目標をバランス・スコア・カード(BSC)などで設定するものの、連携から得られるメリットを本業にも活かし、本業の業績も同時に向上させるというシナリオを描く。下図はその一例である。A社がPという技術を、B社がQという開発環境を保有しており、技術Pと開発環境Qを組み合わせて新製品を共同開発するケースである。共同開発という目標と同時に、A社はP技術を活用して既存のX技術を改良し、顧客満足度の向上を狙っている。同様に、B社はQ開発環境の改善を通じて既存製品のカスタマイズ能力を高め、売上増を狙っている。

中小企業の連携におけるBSC(①企業間連携)

 産学連携の場合は、もっと欲をかいてよい。日本産学フォーラム『協働による知の創造―米国での産学共同プロジェクト実施ガイドライン』(2002年11月)によると、企業と大学では目指すべき目標が全く異なることに注意しなければならないとされている。
 大学とその企業パートナーは常に研究協働はそれ自身目的ではないということを心に留めておくべきである。それは、学界、産業界の科学者が自らの研究を発展させることができる手段であり、企業が迅速に新製品を市場に送り出すことができる手段である。
 ライトン氏が言うには、最優先事項は、参加する双方の人々が「自分たちのゴールが何なのかはっきり述べる」ことである。企業と大学のゴールは互いに異なり、それぞれがそのゴールを達成するという意味で協働から確実で明確に利益を得ることができなければならない。
 企業の最終目標は新製品・サービスを迅速に市場に投入することである。これに対して大学の最終目標は学術的に貢献をすることであり、具体的には論文や書籍を出版することである。この違いを念頭に置いてBSCを作成しなければならない。図にすれば下図のようになる。プロセス目標は産学で共有するものの、最終目標は両者で異なっている。そして、繰り返しになるが、企業も大学も、産学連携から成果を獲得することは当然として、その過程で得られる様々な成果を双方の本業にも活かすことが重要である(図中の太矢印)。

中小企業の連携におけるBSC(②産学連携)
 「協働が機能するには、それぞれのパートナーがその努力から恩恵を蒙らなければならない。この点については参加者全員が独善的であって良い」とアレン氏とジャーマン氏は書いている。それが製品開発、または研究、教育、サービスのどれであろうと、「協働プログラムは、協働しない場合には、中核事業のひとつとして各機関が独自に行うような、開発対象でなければならない」。
 面白いことに、産学連携では、仮に産学連携が行われなかったとしても、企業や大学が単独で実施することができたであろう独立性の高い事業を連携して行う時に望ましい効果が得られると述べられている。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト」で、私が前職で経験した恥ずかしい失敗談を書いたが、この時は自社としてやりたいことが明確でなかった。経営陣は、自社のブランドイメージに学術的な”箔”がつけばよいという程度の考えしかなかった。だから、産学連携の最初の目的は、企業研修に関する洋書を大学の教授と共同で翻訳するというものであった。そこに、脂の乗った大学教授が入り込んできて、自分の研究テーマはこういうものだから、それに関係することをやりたいという話になり、いつの間にかその教授の研究の下請け機関のようになってしまった。

2017年06月02日

【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)


ASEAN-JAPAN Open-Innovation Forum(1)

 4月7日、"ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum"がベルサール渋谷ガーデンホールで開催された。主催は経済産業省、一般財団法人海外産業人材育成協会、日アセアン経済産業協力委員会、日本貿易振興機構(ジェトロ)。日ASEAN両地域の主要ビジネス団体による「日ASEANイノベーションネットワーク」形成に向けた協力覚書(MOC)の署名式が行われた(写真)他、日本企業とASEAN連携深化のための、オープンイノベーション促進セミナーが講演された。今さらながら、その時のセミナーの内容をまとめておく。

 まずは、ASEANなどアジア新興国で現在注目を集めているスタートアップ企業、イノベーション企業の紹介があった。新興国では、先進国が歩んできた経済発展のプロセスを順番にたどることなしに、先進国の最新の製品・サービスがいきなり市場で受け入れられることがある。これを"Leap Flog"と呼ぶ。紹介された主な企業は以下の通り。

 ①Go-Jek
 バイクタクシー配車アプリを提供するインドネシア企業。2011年にサービスを開始し、これまでに2,500万人がダウンロードしている。登録されている運転手は約24万人、決済は全体で1億件に上る。楽天やKKRなどが出資をしている。バリュエーションは約13億ドル。

 ②Grab
 「東南アジアのUber」と呼ばれるインドネシア企業。サービス開始は2012年だが、アプリのダウンロードは既に3,300万件を記録している。登録されている運転手は約35万人。インドネシアだけでなく、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムで事業を展開している。ソフトバンクやホンダなどが出資をしている。バリュエーションは3,000億円以上。

 ③Paytm
 インド最大級のE-ウォレットサービス企業である。新興国では後述するように銀行口座を持たない人が多数存在するため、代わりにE-ウォレットサービスが発達している。2016年11月にインドで高額紙幣の廃止が発表されたのを機に、急激にユーザが増加した。現在、2億人のユーザがおり、1日のトランザクションは約700万件に上る。

 ④Garena
 シンガポールに本社を置く企業で、メルカリとDeNAを合わせたようなサービスを提供している。サービス開始は2009年で、中国のテンセントなどが株主となっている。メルカリの月間流通額は約100億円だが、Garenaの月間流通額は約18億ドルである。

 ⑤Ookbee
 「ユーザー生成コンテンツのNetflix」とも言うべきタイの企業。タイの他にマレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシアで事業展開をしており、約800万人の会員がいる。サービス開始は2010年。日本のトランスコスモス、中国のテンセントなどが出資している。

 ⑥iFlix
 映像ストリーミングサービスを提供しているマレーシア企業。東南アジアの他にアフリカ、中東でもサービスを提供している。サービス開始は2015年であるが、月額利用料金が約300円という安さが受けて、利用者数は約400万人に上っている。

 ASEANでは、社会的課題を解決するためのイノベーションも生まれている。その1つとして、日本の「ドレミング株式会社」からのプレゼンテーションがあった。世界には、銀行口座を持たない成人が約20億人いるという。同社のミッションは、「貧困層に正規の金融取引を提供すること」である。同社の「リアルタイム給与計算プラットフォーム」を使用すると、退勤した瞬間にその日の給与(税金、社会保険控除後)を算出することができる。「Doreming-Pay」というアプリをインストールしていれば、銀行口座がなくても買い物ができる。加盟店が支払う決済手数料は約2%であり、日本の半分の水準に抑えられている。このようなデジタル通貨が普及すれば、現金の盗難防止、強盗被害の削減やブラックマネーの撲滅が期待できる。

 ここまでがイノベーションの話。本セミナーの主題は「オープン・イノベーション」である。オープン・イノベーションとは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、ソーシャルイノベーションなどにつなげるイノベーションの方法論である。オープン・イノベーションのよいところは、中小企業、スタートアップ企業、ベンチャー企業であっても、大企業と対等に研究開発やイノベーションに取り組むことができるという点である。

 日本とASEANにおけるオープン・イノベーションというものを考えた場合、想定されるのは、日本の中小企業などがASEANの大企業と協業する、ASEANの中小企業などが日本の大企業と協業するという2パターンになるであろう(日本の中小企業などが日本の大企業と協業する、ASEANの中小企業などがASEANの大企業と協業するのは、それぞれ日本、ASEANの課題である)。こういう取り組みは自然発生的に進展するのを期待することが難しい。講演者の1人が指摘していたが、政府によるバックアップが必要である。タイとの間では、JTIS(Japan Thai Innovation Support Network)という団体が、世耕経済産業大臣(当時)の立会いの下、2016年9月9日に発足した。両国のスタートアップ企業10社が参画するとともに、タイトヨタやタイの素材最大手Siam Cement Group(SCG)など両国の大手企業20社以上が名を連ねている。

 一般的にオープン・イノベーションは、主に大企業がNIH(Not Invented Here)症候群を克服し、新しい製品・サービスの開発やビジネスモデルの構築に必要な技術を広く社外に求めることで、イノベーションに要する時間を短縮することを狙いとしている。ただ、個人的にはそんなに簡単にオープン・イノベーションは成功しないように感じている。そもそも、自社に足りない技術が初めから明らかで、その技術を持つ中小企業などから技術の提供を受けるのは、従来の取引関係、主従関係と何ら変わるところがない。オープン・イノベーションが従来の関係と異なるのは、ネットワークに参加するメンバーの立場が対等であり、かつ、メンバーが当初想定していた成果とは異なる予期せぬ成果が創発される点にあると思う。

 オープン・イノベーションに参加する企業は、①自社がやりたいこと、②自社が強みとすること、③自社に足りていないことに関する情報をネットワーク上に公開する。協業の可能性としては3つ考えられる。1つ目は、ある企業がやりたいと思っていることと別の企業がやりたいと思っていることが類似しており、各々が単独で事業を行うよりも協業した方が、より革新的な戦略の下での事業化が見込める場合である。2つ目は、ある企業が強みとすることと別の企業が強みとすることを上手に掛け合わせれば、新たな事業機会が期待できる場合である。いずれも、予期せぬ成功を狙っているという点がポイントである。3つ目は、ある企業に足りていないことを別の企業が補完することで事業化に結びつける場合である。この場合であっても、単なる取引関係にとどまらず、両社が協業することで事業や技術の新たな可能性に気づくことが重要である。

 では、オープン・イノベーションに参加する企業をインターネットでつないで、上記の①~③の情報を流せば、協業が成立するだろうか?欧米の企業はインテリジェンスに長けていて、インターネットの情報やその他の公知情報から相手の素性を見抜く術を身につけている。これはおそらく、植民地時代に本国から遠く離れた植民地を本国からコントロールするために、入手可能な情報だけで植民地経営のよしあしを判断してきた歴史も影響しているのだろう。だから、P&GのConnect & Developmentのように、世界中の研究機関をインターネットでつなげば、オープン・イノベーションの実現をある程度期待することができる。

 ところが、そういう歴史を持たない日本は、相手に直接会って話をしないと、相手のことを信頼し、理解することができない。だから、前述の政府主導組織などが、積極的にリアルの「場」を設けなければならない。そしてこの点は、おそらく日本に限らず、ASEAN諸国も変わらないのではないかと思う。しかも、1回会えば話がまとまるといった簡単な話ではなく、何度か顔を合わせるうちに、前述の①~③に関する情報を徐々にオープンにしていくという関係になるに違いない。

 星野達也『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社、2015年)には、「運転手の眠気検知技術」について、技術を探している企業が技術を深掘りし、提供者も自社技術を明確に提示することですんなりと協業が実現するという話が登場する。同書の著者は株式会社ナインシグマ・ジャパンという、オープン・イノベーションの仲介役を担う企業に勤めているため、技術の探索者と提供者があらかじめ自社のニーズとシーズを明確にしておいてくれると、自社の業務が進めやすいという願いが込められているように思える。しかし、実際には、コンソーシアムなど大勢が集まる会合で短時間の会話を重ねることで、協業の道が開けるのではないかと考える。

オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップオープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
星野 達也

ダイヤモンド社 2015-02-27

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 <1回目>
 探索者「我が社は眠気を検知する技術を探しています。よろしければ、御社がどういった事業をされているか教えていただけませんか?」
 提供者「我が社は脳波を測定する技術の開発を行っています。眠気は脳波の変化でとらえることが可能です」

 <2回目>
 探索者「以前お会いした後、眠気を検知する技術について社内で調査をしてみました。おっしゃる通り、眠気を検知するには脳波を測定するのが有効であるようですね。ただ、他にも、目の動きをとらえる、皮膚電位から脈拍をとらえる、という方法があることが解りました。この2つの方法に比べて、脳波を測定する方法はどういった点で優位性がありますか?」
 提供者「脳波を測定する場合は、○○という点でメリットがあります。ただし、測定の際には○○という点に気をつけなければなりません」

 <3回目>
 探索者「前回教えていただいた話を社内で検討した結果、脳波を測定するという方法で開発を進めようという話になりました。御社は今までどのような分野で実績がありますか?」
 提供者「我が社は、子どもが学習をした際の脳波の変化をとらえる装置を開発しています。主に研究機関向けです」
 探索者「子どもの脳波を測定する技術は、眠気を測定する技術に応用することができそうですか?」
 提供者「測定する脳の部分、とらえる脳波の種類が違うため、すぐには応用することは難しいのが正直なところです。ただし、新たに○○という技術を開発すれば、実現可能かもしれません」

 <4回目>
 提供者「今回お考えの技術は、具体的に誰をターゲットとしていますか?」
 探索者「バスやトラックの運転手をターゲットとしています。彼らの事故防止に役立てばと考えています。先日、御社の製品は研究機関向けとおっしゃいましたが、そうするとかなり大がかりな装置ですよね?」
 提供者「そうです。一般ユーザ向けの製品にするためには、小型化しなければなりませんね。率直に言って、小型化は我が社ではあまり実績がありません」
 探索者「我が社は製品の小型化を強みの1つとしていますので、もしかしたらお役に立てるかもしれません。一緒にプロジェクトをすると、いいものができそうな気がします。是非一度、我が社で具体的な打ち合わせをしませんか?」
 提供者「ありがとうございます」

 上記の例はかなりまどろっこしく書いたが、要するに日本とASEANの間でオープン・イノベーションが成立するかどうかは、手間のかかるリアルのコミュニケーションを惜しまないかどうかにかかっているというのが私の見解である。この点で、オープン・イノベーションはイノベーションに要する時間を短縮するという、欧米企業が考えるメリットは減殺される。だが、日本とASEANの企業は、協業を通じて、それぞれが単独では思いもよらなかった画期的な価値に到達することができるという点に、オープン・イノベーションのメリットを見出すべきであろう。

 最後に、オープン・イノベーションのマネジメントについても触れておく。オープン・イノベーションは2社以上の協業であるから、当然のことながら共通の目標を追求することになる。ただし、共通の目標だけを追求するのであれば、合併して1つの企業になった方がマネジメントしやすい。その道をとらずに、協業というやり方を選択するからには、マネジメントに一工夫が必要である。つまり、両社が共通の目標を追求すると同時に、両社が共通の目標を追求することによって、双方に固有の目標の達成も支援されるという関係を構築することである。バランス・スコア・カード(BSC)で説明すると下図のようになる。

オープン・イノベーションにおけるBSC

 まず、協業によって達成すべき財務の目標をブレイクダウンする形で、協業におけるBSCを作成する。一方で、双方の企業は、自社に固有のBSCの体系を持っているはずである。ここで、例えば、協業のBSCにおける学習と成長の視点の目標を追求すると、A社の業務プロセスの視点の目標にプラスの影響が出る、協業のBSCにおける業務プロセスの視点の目標を追求すると、B社の顧客の視点の目標にプラスの影響が出る、などといった因果関係を描くのである。そうすれば、まさにWin-Winの関係が構築できる。本ブログで私はしばしば、日本企業は水平連携、時に異業種との連携を得意としていると書いてきたが、水平連携に成功している企業はこういったマネジメントを普段から自然に実践していると思う。

2016年03月09日

『コーポレートガバナンス(DHBR2016年3月号)』―長期志向であるためには短期志向でなければならない、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 03 月号 [雑誌] (【特集】コーポレートガバナンス)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 03 月号 [雑誌] (【特集】コーポレートガバナンス)

ダイヤモンド社 2016-02-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

○【リスク管理】不祥事への備えはあるか 企業が正しく謝罪する方法(モーリス・E・シュバイツァー、アリソン・ウッド・ブルックス、アダム・D・ガリンスキー)
 第一に、私たち人間は申し訳ないと謝るのを先送りしたい、避けたいと考え、そのための理由(言い訳)を探そうとする傾向がある。謝罪するのは気分が悪く、リスクを伴うように感じられる。権威や面子が失われ、序列が変わり、少なくとも一時的に相手方へ借りをつくってしまう。
 不祥事を起こしたタカタや旭化成建材の経営トップがなかなか謝罪しなかったり、膨れ上がった新国立競技場の建設コストをめぐって誰も責任を取ろうとしなかったりするのを見ると、日本組織のトップは謝罪が下手くそだと思ってしまう。一方で、榎本博明氏が『「すみません」の国』(日本経済新聞出版社、2012年)という本を書いているように、何かあるとすぐに「すみません」と謝ってしまうのもまた日本人である。歴史問題をめぐる謝罪外交はまさにその典型だろう。

「すみません」の国 (日経プレミアシリーズ) (日経プレミアシリーズ 157)「すみません」の国 (日経プレミアシリーズ) (日経プレミアシリーズ 157)
榎本 博明

日本経済新聞出版社 2012-04-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 普通の人はすぐに謝るのに、組織のトップになると簡単には謝らなくなるのはなぜだろうか?以前の記事「山本七平『帝王学―「貞観政要」の読み方』―階層社会における「下剋上」と「下問」」で書いたように、日本の組織では下の階層は上の階層から命令を受けることによって、かえって自由に振る舞うことができる。逆に、上の階層はその分自由を制限されるのだが、下の階層がやったことに対しては責任を取らなければならない。だから、組織論で言うところの権限・責任一致の原則ではなく、権限<責任の原則が成立する。他方、下の階層の人間には、自分は自由に行動して、何かあれば上の階層に責任を取ってもらえばよいという気楽さがある。

 だから、下の階層の人間は、何か問題を起こすと簡単に謝ることができる。なぜならば、表面上は謝罪を口にするものの、実際に責任を取るのは上の階層の人間だと解っているからである。そういう意味では、謝罪は一種のパフォーマンスにすぎず、実ははなはだ無責任なのだ。一方、組織のトップには、責任を転嫁できる上の人間がいない。責任は自分が全て背負い込む必要がある。しかし、今までずっと上の人間に責任を押しつけることでやり過ごしてきた人間が、いきなり全責任を抱えるのは無理だ。だから、日本企業の経営トップは上手に謝罪できない。

 ここで、歴史問題をめぐる謝罪外交についても考えてみたい。政治家は日本の政治のトップである。トップであるのに、彼らが中韓の圧力に屈して安易な謝罪を繰り返してきたのはなぜだろか?これまで本ブログでは、日本組織内の多重構造だけではなく、日本全体も個人―家族―学校―企業・NPO―市場―社会―行政―立法―天皇(―神?)という多重構造だと書いてきた。この構図が正しいとすれば、政治家の上には天皇が存在する。実は、政治家の謝罪は、天皇への責任転嫁なのではないだろうか?現在の天皇は、政治的な発言ができない。それをいいことに、天皇に恥をかかせることでその場しのぎをしてきたのではないかという仮説が成立する。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○企業も投資家を選ぶ時代 【インタビュー】「伊藤レポート」の真意とは(伊藤邦雄)
 その結果、平均の資本コストは7.2%であることが判明しました。つまり、7.3%以上のROEがあれば、海外の機関投資家は日本企業に投資をすることになります。したがって、そういうメッセージでもよかったのですが、半端な数字もインパクトに欠けるのと記憶に残りにくいので、整数「八」を採用し、8%のROEというメッセージにすることにしたのです。
 2014年夏、経済産業省のプロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」の最終報告書が発表された。座長の伊藤邦雄氏にちなんで「伊藤レポート」と呼ばれる。日本の株式市場が海外からもっと資金を呼び込むには、ROEが8%以上必要とされた点が注目された。企業はタダで資金を調達することはできない。金融機関からの借入金には利息を支払う。また、株式市場からの投資に対しては配当を支払い、キャピタルゲインの増加という形で株主に報いる必要がある。これらのコストを資本コストと呼ぶ。

 企業は資本コストを上回る利益を上げなければならないという話は、何も今に始まったことではない。何十年も昔から常識である。少なくとも、ピーター・ドラッカーの『乱気流時代の経営』(ダイヤモンド社、1996年。原著は1980年)にはこう書かれている。
 イギリスの経済学者アルフレッド・マーシャルの初期の研究以来、すなわち今から100年前のころから、市場経済においては、事業継続のためのコストは資金コストを超えることが明らかにされている。したがって、投入した資金から、利子率以下の利益しか生み出すことのできない企業は、赤字であり、未来を収奪していることになる。
「新訳」乱気流時代の経営 (ドラッカー選書)「新訳」乱気流時代の経営 (ドラッカー選書)
P・F. ドラッカー Peter F. Drucker 上田 惇生

ダイヤモンド社 1996-06

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 だが、資本コストを上回るだけの利益では、現状維持にしかならない。企業は既存製品・サービスの陳腐化に対抗し、また新たな収益源を確保するために投資を行う必要がある。その投資は、過去の利益から供給される。この点を指して、ドラッカーは、「企業には利益は存在ない。利益は将来のコストである」と指摘した。企業が本当に上げるべき利益とは、「将来必要な投資+資本コスト」である。だから、ROEは8%では足りない。ROEではないが、稲盛和夫氏は「どんな業種でも経常利益率が10%以上なければ経営とは呼べない」と述べている。

 《2016年3月13日追記》
 ペプシコのインドラ・ヌーイCEOは、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年4月号のインタビュー記事で次のように語っている。
 企業として、やるべきことは2つです。売上げの成長率を1桁台半ばに維持すること、最終利益をそれ以上のペースで伸ばすことです。当社の場合、製品ラインの拡充によって売上拡大を維持しています。と同時に「期待の新星」、つまり特定の国やセグメントで売上げを大幅に伸ばせる2、3のヒット製品を常に模索しています。
(インドラ・ヌーイ「【インタビュー】CEOが語るデザイン思考をもとにした企業変革 ペプシコ:戦略にユーザー体験を」)
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)

ダイヤモンド社 2016-03-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 全ての大企業がそうだとは言わないが、多くの企業、特に株式市場から強いプレッシャーを受けている欧米の大企業は、売上高と利益を持続的に成長させることを目標としている。それが株主に報いる方法であるからだけでなく、利益を将来のイノベーションの原資とし、常に新陳代謝を図りながら組織を進化させるのに必要であると理解しているからである。大企業がそのような戦略的行動をとっているのに、中小企業がいつまでも節税に明け暮れて利益を自ら放棄しているようでは、大企業との差は広がる一方ではないだろうか?

 私は中小企業診断士なので中小企業のことしか解らないのだが、中小企業の中には、法人税を支払うことにひどく抵抗感を感じているところが少なくない。法人税をギリギリ支払わなくてもよい水準に経常利益を着地させる。つまり、経常利益をほぼゼロにする。損益計算書において、営業利益ベースの赤字を営業外収益で埋め合わせ、売上高経常利益率が0.0何パーセントと低く抑えられている企業は、たいてい税理士が何らかの操作を行っている。

 当然、利益がほぼゼロなのだから、内部留保が蓄積されず、設備投資もできない。そういう企業に限って、補助金が出ると我先に飛びつく。事業計画を見せてもらっても、単に古い設備のリプレースにすぎないということがよくある。そういう設備投資は、過去の利益によってカバーすべきである。補助金は、金融機関による通常の審査は通りにくいものの、アイデアはよく練られており、ヒットすれば面白い成長事業になりそうな計画に対してリスクマネーを供給するものである。決して、2流企業の延命が目的ではない。しばしばこの点が誤解されているような気がする。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○長期的視野に立った会社運営のために アクティビストを出し抜く方法(ビル・ジョージ、ジェイ・W・ローシュ)
 結局のところ、アクティビストに対する最大の防衛は、自社が公表した目標を達成する安定した業績である。それがない会社は弱みをさらすことになる。(中略)P&Gが外からの攻撃にもろかったのは、マクドナルドの下、2009~2012年の業績がぱっとしなかったからだ。
 アクティビストとは「もの言う株主」である。本論文によると、業績目標の未達を繰り返す企業がアクティビストに狙われやすいという。だとすれば、日本企業はかなり危ういかもしれない。

 野村総合研究所が東証一部の100銘柄に含まれる製造業54社の中期計画の達成度合いを調べたところ、目標を達成したのはわずか9%、未達が59%であった(野村総合研究所「中期経営計画に潜む落とし穴と処方箋 グローバル製造業における成功・失敗例を踏まえて」)。やや古い記事になるが、日経ヴェリタスが時価総額の上位企業から中期経営計画を発表している100社を抽出し、実績を検証すると、4割の企業が目標を達成できていないことが判明した(日経ヴェリタス「中期計画4割守れず 上場会社100社「公約」の信頼度」2008年2月17日)。

 もっとも、中期経営計画は不確定要素が多いため、未達が多くなるのだろう(それを嫌うアメリカ企業の多くは中期経営計画を発表していない)。同じような検証を、四半期予想や通期予想と実績のズレでやってみたら、興味深い結果が導かれるかもしれない。とにかく、業績目標の未達はアクティビストがつけ入るスキを生じさせる。彼らは「御社は業績が芳しくないですよね?我々は業績を向上させる方策を持っています」と経営陣に迫るわけだ。

 アクティビストを遠ざける第一の方法は、引用文にあるように、業績目標を達成して安定した経営を続けることである。もう1つは、「戦略をシンプルにしすぎない」ことではないかと考える。これは、巷で流行っている戦略論のトレンドとは逆行すると思われるかもしれない。戦略をシンプルにすると、事業、製品、資産、組織、人材をパズルのように分解したり組み替えたりすることが容易になる。そして、そのような操作によって株価を釣り上げるのは、アクティビストの得意技だ。「この事業を2つに分割せよ」、「あの資産を売却せよ」というのは彼らの決まり文句である。

 だから、経営者は自社がモジュールの組み合わせで成り立っているのではなく、全体が1つのシステムとして相互作用しながら機能していると示すことが重要である。これは、(自戒を込めて言うが、)コンサルタントに対する防衛策にもなる。コンサルタントは戦略をシンプルにせよと助言する(私も言ったことがある)。戦略がシンプルでなければ、社員がそれを理解できないなどと、もっともらしいことを言う。しかし、戦略をシンプルにするのは、企業のためというよりも、短期間でアウトプットを出さなければならないコンサルタント側の都合であると言った方がよい。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○競争優位の源泉となる コーポレートガバナンスの3つの原則(グーハン・サブラマニアン)
 おそらく今日のコーポレートガバナンスの最大の欠陥は、短期的業績を重視しすぎることだ。1株当たり利益のわずかな目標未達が株価急落を招きかねないと知っているため、経営陣は四半期利益の目標達成に向け絶え間ないプレッシャーを感じて消耗している。
 しばしば、短期志向の経営は長期志向の経営を犠牲にする、と言われる。だが、果たして本当にそうなのか、ちょっと考えてみたい。アメリカでは、短期志向の経営、別の言い方をすれば財務諸表の数字を偏重する経営に対する反省として、バランス・スコア・カード(BSC)が考案された。企業が追求すべき目標を、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点という4つの視点で定義する。そして、学習と成長に関する目標⇒業務プロセスに関する目標⇒顧客に関する目標⇒財務に関する目標という因果関係で目標が達成される。

 BSCは、財務の視点という短期的な視点に、業務プロセスの視点、学習と成長の視点といった長期の視点を持ち込んだという点で、「バランス」が取れていると説明される。しかし、先ほどの因果関係を素直に紐解けば、短期的に達成されるのは学習と成長、業務プロセスに関する目標であり、その結果として財務の目標が達成される。つまり、財務の目標の方が長期的なのである。短期的な目標を犠牲にして長期的な目標を達成すべきとも言われるが、所詮それは美辞麗句にすぎず、短期的な目標を達成しなければ、長期的な目標も達成できない。

 BSCの説明を使わなくても、長期の利益は短期の利益の積み重ねであることは自明である。短期志向が問題になるのは、過剰なリストラや事業再編、資産売却など、一時的な利益増にしかならず、組織能力の減耗につながる場合である。そうでなければ、短期的な数字を追求することには十分な意味がある。将来的にもっと大きな仕事を行うために、目先の利益を蓄積することは全くもって正当である。仮に、短期投資家がそれを解った上で経営陣に圧力をかけるならば、彼らの声にも耳を傾けなければならない。「短期投資家を否定するなど、天につばを吐く行為とすらいえる」(松本大「自分の弱さを受け入れ、打ち勝つ仕組みをつくる 上場企業の覚悟」)。




  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like