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DHBR2017年9月号『燃え尽きない働き方』―バーンアウトでうつになったら日記をつけてみよう
『ブロックチェーンの衝撃(DHBR2017年8月号)』―ネットワークは分散型だが中央集権的なプレイヤーが出現すると思う、他
『生産性―競争力の唯一の源泉(DHBR2017年7月号)』―生産性に関するデータを収集・分析する業界団体・シンクタンクが必要、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年09月19日

DHBR2017年9月号『燃え尽きない働き方』―バーンアウトでうつになったら日記をつけてみよう


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 09 月号 [雑誌] (燃え尽きない働き方)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 09 月号 [雑誌] (燃え尽きない働き方)

ダイヤモンド社 2017-08-10

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 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2017年9月号の特集は「燃え尽き症候群」。私は医学的なことは詳しく解らないのだが、燃え尽き症候群には大きく分けて2つのタイプがあると思う。1つは、「野心的な目標を掲げてそれを達成した後、次の目標が見えなくてモチベーションを失ってしまう」というタイプであり、スポーツ選手や企業経営者に多い。もう1つは、「自分では精一杯努力しているつもりなのに、一向に小さな成果さえも出せず、ついには何をやっても無駄だという無力感に襲われる」というタイプである。社会が成熟し、かつてのような高い成長が見込めなくなった現代では、後者のタイプの方が多いのではないかと思う。

 後者の燃え尽き症候群は、「心のエネルギーが枯れ果てて、ガス欠車のようにアクセルを踏んでも動かない状態」であり、うつ病との共通点が多い。燃え尽き症候群もうつ病も、「献身的な人、使命感の強い人、頑固で意思が強く思考や感情の切り替えが柔軟でない人、対人関係に不調和がある人、上昇志向が強く能力が高い人」、あるいは「感受性が強く周囲に気を遣いすぎる人、物事の受け止め方の柔軟性に乏しく、几帳面で神経質な人、責任感は強く何事も完璧にこなそうとするが、不器用で一つの物事に過剰にこだわりやすい人」がかかりやすいと言われる。ただし、うつ病の人は、昔のことをくよくよと思い出しては悔んだり、自分1人が犠牲になっていると感じたりする自責的な傾向が強いのに対し、燃え尽き症候群の場合は、他責感が強く表れ、怒りや嫌悪などの攻撃的な感情が他者に対して表れる。

 以前の記事「双極性障害で入院したところ40日の予定が1週間で退院してしまった事の顛末」でも書いたように、私自身もうつ病⇒非定型うつ病(後で知ったことだが、非定型うつ病という病名は医学的に確立されていない)⇒双極性障害Ⅱ型とコロコロと病名が変わってもう9年も治療を続けている。私の場合、双極性障害と言っても、自責的なうつ病の症状が現れるというよりも、前職のベンチャー企業で経験したひどい事柄を思い出しては「あの会社のせいでこうなった」と思うことが多々あり、他責的になりやすいという燃え尽き症候群の方に合致する。

 ただ、病気が発症した時は確かに長時間労働だったものの、燃え尽きるほどの長時間労働ではなかったから、燃え尽き症候群と言うには無理があると自分でも思っている。最近では、先ほどの記事でも書いたように、自分がどういう病気なのかはどうでもよくなっていて、これは私の性格の一部なのだと受け止めて、上手くつき合っていくしかないのだろうと腹を括っている。

 私は医療の専門家ではないので、燃え尽き症候群に関して何かを書くことはできない。しかし、まがりなりにも9年間、うつ病に関連する治療を受けてきたから、ここからはうつ病に関して私の思うところを書いてみたい(本号の特集からは外れるが・・・)。うつ病は一般的に、「脳のエネルギーが欠乏した状態であり、憂うつな気分や様々な意欲(食欲、睡眠欲、性欲など)の低下といった心理的症状が続くだけでなく、身体的な自覚症状(全身倦怠感、頭痛など)を伴う病気」とされるが、一義的な定義は学術的にも確立されていない。つまり、うつ病の症状は患者によってバラバラである。そのため、製薬会社はありとあらゆる抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬を販売している。うつ病の患者の中には、複数種類の薬を服用している方も少なくないだろう。

 しかし、これらの薬には問題もある。通常、新薬販売の認可を得るためには、被験者を2つのグループに分け、一方のグループには新薬を、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)を投与し、新薬を投与したグループのみに効果があったことを証明しなければならない。だが、一部の薬については、この試験に問題があったことが告発されている。
 2002年には複数の厳密な調査によって、製薬会社が薬の認可を得るためにFDAに提出したのと同じデータが再検討され、パキシル、プロザック、ゾロフト(※いずれも、現在主流の抗うつ薬)を初めとするSSRIにはプラセボ〔偽薬〕と比べてほんのわずかな効果しかないということがわかった。
(クリストファー・レーン『乱造される心の病』〔河出書房新社、2009年〕)
乱造される心の病乱造される心の病
クリストファー・レーン 寺西 のぶ子

河出書房新社 2009-08-22

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 私は今年に入ってから「光トポグラフィー検査」というものを受けた。これは、脳活動に伴う大脳皮質の血中ヘモグロビン濃度変化を計測することで、うつ病かどうかを判定する検査である。その結果、私は「典型的な双極性障害である」と言われたのだが、それ以上に衝撃を受けたのは、「抗うつ薬の効果があるのは、うつ病患者のうち全体の3割ほどにしかすぎない」という医師の言葉であった。前述の通り、抗うつ薬の中には効果が怪しいものがある。「薬が効かないのだが・・・」という患者の訴えを聞いた精神科医は、患者を放っておくわけにもいかず、何か手を打たねばとの思いから、新たな薬を次々と追加する。こうして、患者は薬漬けになっていく。

 さらに困ったことに、抗うつ薬などの効果は限定的なのに、服用を止める時には「離脱症状」と呼ばれる副作用を伴う。詳しい説明はこちらに譲るが、具体的には頭痛、倦怠感、眠気、めまい、吐き気、ふらつき、ふるえ、冷や汗、血圧低下などの症状が出る。私も今年8月の入院中に、それまで服用していた抗うつ薬を医師から一度に止めさせられた結果、ひどい離脱症状に苦しんだ。以上のことから言える1つ目の教訓は、「薬に頼りすぎてはならない」ということである。

 抗うつ薬などの薬の効果が限定的である場合、次に選択されるのは認知療法である。人は成長するにつれて固定的なスキーマが形成され、それに基づいて歪んだ思考方法や考えが自然に浮かぶ自動思考が起こる。これがうつ病などの精神病の引き金となる。そこで、そうした認知の歪みに焦点を当て、認知を修正することで症状の改善を目指すのが認知療法である。しかし、この認知療法は、薬による治療よりも難しい。というのも、回復プロセスが患者によって実に多様であるからだ。間違った薬を投与しても効果が出なかったで済まされるが、間違った認知療法を施すと、患者の認知の歪みをさらに強化してしまうことになりかねない。患者の多様性に対応できる医師が日本にどれだけいるのか、私には解らない。このことから言えるもう1つの教訓は、残念なことだが「医師に頼りすぎてもいけない」ということである。
 うつ病の治療に当たってきた臨床医は長い間、認知療法(心理学の一般的な治療法)を受けている患者は、回復に至るまで標準的な経路をたどると想定していた。その経路は、多くの患者が回復した経験を平均して確認されたものだ。ところが2013年、平均ではなく個人が回復する結果に注目した研究者チームは、回復までの標準的な経路が患者の30%にしか当てはまらない事実を発見したのだ。
(トッド・ローズ『平均思考は捨てなさい―出る杭を伸ばす個の科学』〔早川書房、2017年〕)
平均思考は捨てなさい──出る杭を伸ばす個の科学 (早川書房)平均思考は捨てなさい──出る杭を伸ばす個の科学 (早川書房)
トッド ローズ 小坂 恵理

早川書房 2017-05-25

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 それでも私は一応、7年ほど同じかかりつけの医師にお世話になっている。ただし、これはあくまでも気休めであって、結局のところ、「自分の精神病に責任を持つのは自分しかいない」というのが私の正直な実感である。うつ病と向き合うということは、自分の感情と向き合うということである。そのための有効なツールとして、私は「日記」をお勧めしたい。もちろん、繰り返しになるがうつ病の症状は多様であるから、日記が万能な解決策になるとは私も思っていない。私の場合は日記が役に立ったというだけにすぎない。

 日記には、「自分が何で苦しんだか、悲しんだか、腹が立ったか」ということをつらつらと書いていく。とりとめのない文章でも構わない。うつ病の人は几帳面なのできちんとした文章を書かなければならないと思いがちだが、そういうことは全く気にする必要はない。日記を書くと、自分の中に溜め込んでいた負の感情を外部化することができる。それだけでも、心理的な負担は随分と軽くなる。ちなみに、私が「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」という記事をわざわざ1年かけて書いたのも同じ理由である。一部の人からは、「前職の企業から訴えられるかもしれない」と批判も受けたものの、私はあくまでも自分の治療の一環として行ったまでである。前職の企業の名誉を守るのと自分の健康を守るのとを比べれば、後者の方がはるかに重要である。

 また、日記をつけるという習慣を持つことにも意義がある。定年退職した人が認知症にならないようにするためには「きょういく」と「きょうよう」を持つことが効果的であると言われる。これは、「今日行くところ」と「今日の用事」を持つことが大切であるという意味である。同じようなことはうつ病の人にもあてはまる。さすがに、うつ病の人は外出するのもおっくうになりがちであるから「きょういく」までは要求できない。しかし、「きょうよう」の一環として日記をつけることは、とかく乱れがちな日常生活にリズムをもたらす効果があると考える。

 私は2012年夏に入院した際、治療期間がまだ長引きそうだと感じたため、途中から「5年日記」に切り替えた。これは、中小企業診断士の大先輩から教えてもらったものである。5年日記では、1ページに5年分の日記をつけることができる。この日記の利点は、例えば2017年9月19日の日記を書く時には、2016年、2015年、2014年、2013年の9月19日の日記を読み返すことができ、そこから新たな気づきが得られるということである。そこには、過去の自分が何で苦しんだか、悲しんだか、腹が立ったかが書かれている。それを読み返すと、意外とちっぽけなことで悩んでいたのだと思うことが多い。つまり、自分の感情を客観的に直視できる。すると、少しずつだが自分の心理的な成長が感じられ、うつ病の改善に効果がある。参考までに、私の5年日記の写真を掲載しておく。赤線が、私が過去の日記を読み返した時に気づきを得た箇所である。

5年日記
 (※)画像はモザイク処理してある点をご了承いただきたい。

デザインフィル 日記帳 ミドリ 日記 5年連用 洋風デザインフィル 日記帳 ミドリ 日記 5年連用 洋風

デザインフィル

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 なお、今回の記事を書き始めた時、本当は「バーンアウトでうつになった人には、他者からのフィードバックが効果的である」という内容を書くつもりであった。冒頭で述べた通り、燃え尽き症候群の人々の大半は、自分では精一杯努力しているのに、一向に成果が出ず、ついには何をやっても無駄だという無力感に襲われている。彼らは、何をしても周囲から認めてもらえないと感じている。そこで、周囲の人が積極的なフィードバックを与えることが重要ではないかと考えた。

 しかし、以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」で、企業内の人、特に上司は基本的に部下を動機づける理由がないと書いた。というのも、上司は部下に対して給料を支払う立場である。お金を払う立場の人がお金をもらう人を動機づけることが不自然であることは、企業に対して代金を払う顧客がわざわざ企業のことを動機づけようとはしないことを考えれば自明である。読者の皆さんも、企業で何か製品・サービスを購入した時、形式的に「ありがとうございました」と言うだけでなく、「いやぁ、この製品・サービスは本当に役に立ったよ。特にこの点がとてもよかったね」と踏み込んだフィードバックをする機会が何度あるだろうか?もちろん、こういう評価が企業内でも盛んに行われることに越したことはない。しかし、そういう機運が期待できない以上、うつ病には結局のところ本人が責任を持つしかないという見解に至ったわけである。


2017年08月18日

『ブロックチェーンの衝撃(DHBR2017年8月号)』―ネットワークは分散型だが中央集権的なプレイヤーが出現すると思う、他


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2017年8月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2017年8月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2017-07-10

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 (1)ブロックチェーンの技術的な側面については私は全くの素人なので、今回の記事は本号を読んだ雑感レベルにとどまることをご容赦いただきたい。本号を読むまでは、ブロックチェーンとは現在国家が管理している通貨に代わるもの、といったぐらいのイメージしか持っていなかった。しかし、実はブロックチェーンはそれ以上のことが実現可能であることが解った。
 アクセス権管理では、たとえば、以下のような仕組みが実現されるかもしれない。ユーザーが利用料金や保証金などを支払うと、ブロックチェーン上のスマートコントラクトにより、自動車へのアクセス権が付与される。ユーザーが利用可能な時間帯に車の前に立つと、車からブロックチェーンに照会がかけられ、認証されるとロックが解かれる。
(鳩貝淳一郎「仮想通貨からスマートコントラクトまで社会を変える理念 ブロックチェーン:ビットコインを動かす技術の未来」)
 「スマートコントラクト」については、別の論文でもっと詳しい説明がある。
 事前に取り決めておいた契約条件が満たされれば、支払いも、通貨もしくはその他の資産の譲渡も自動的に行われる。たとえばスマートコントラクトによって、納入業者から発送された荷物が届くと同時に支払いを行う、というケースが考えられる。特定の商品を受け取ったという合図を受取手の企業がブロックチェーン経由で送ることもできるし、その商品にGPS機能を持たせて移動するごとに自動で位置情報をアップデートさせ、最終的にその情報が支払い手続きのスイッチとなるようにすることも可能だ。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカニー「技術普及の4フェーズから読み解く ブロックチェーンと企業戦略」)
 これは私の解釈だが、従来は製品・サービスの流通と資金の決済がバラバラに行われていたのに対し、ブロックチェーンを活用すると両者を同時に実施できるようになる、ということだと思う。ただし、資金の決済はアルゴリズムで自動的に実施できるものの、製品・サービスの流通には人手が介入することが多い。つまり、品質にばらつきが生じる恐れがある。そこで、品質を平準化するために、AI(人工知能)を活用しようという発想が出てくる。
 AIによる安定した高品質サービスの提供は、スマートコントラクトが、金融や情報のやりとり以外の領域に展開するための、極めて重要な要因であると思われる。AIは、我々に、知識やスキルをコモディティ化し、そこへのアクセスを可能とするのである。

 再び運転技術を例に取る。これは1つのスキルであり、それを職業とする人々は、このスキルを車両というインフラとともに提供し、利用者の移動を実現することで価値化する。しかし、人が提供するサービスには、品質のばらつきがある。AIで実現する自動走行は、このスキルにアクセスできない個人に、高品質なスキルへの安定したアクセスを提供することで、移動手段の提供や事故などの防止という貢献をする。
(北野宏明「能力のコモディティ化が切り拓く新市場 ブロックチェーンの活路は人工知能との連携にあり」)
 従来の取引は次の通りである。企業の工場のラインで、ある部品の在庫が発注点を下回ったとすると、購買担当者が仕入先に部品の発注を行う。仕入先の作業員は、フォークリフトなどを使って必要な部品の数を工場の在庫からピックアップし、物流業者のトラックに載せて企業に納品する。企業側は検収を行い、検収がOKであることを仕入先に知らせると、仕入先は請求書を発行する。請求書を受け取った企業は、金融機関で代金の支払いを行う。ここで、この企業と仕入先、さらに物流業者がブロックチェーンとAIを活用したとしよう。

 この企業の工場では、部品の在庫量の情報がブロックチェーンと連動している。在庫が発注点を下回ると、ブロックチェーンが自動的に仕入先に対して部品を発注する。仕入先の工場ではAIロボットが導入されており、注文を受けると、ロボットが必要な量の部品を自動的にピッキングする。同時に、注文情報は物流業者のブロックチェーンとも共有されていて、他の荷主企業の荷物量、納入期限などを勘案し、何時にその仕入先の工場に自動運転トラックを到着させるかを決める。物流業者の自動運転トラックが仕入先の工場に到着する頃には、積載する部品の準備が完全に完了しており、スムーズに積み荷が行われる。後は、自動運転トラックが発注企業に部品を納品する。検品は、発注先企業のロボットが自動的に行う。検収が完了すると、その情報がブロックチェーンに伝えられ、決済が一瞬で完了する。これが近未来の姿なのかもしれない。

 ブロックチェーンは分散型のネットワークが前提だが、その将来は次のように予測されている。
 おそらく、AIによるサービスの高品質化と安定性、効率化と(※原文ママ)追求する巨大プライベートブロックチェーン群と、サービス品質により大きなゆらぎを許容することで、人が直接サービスすることの味わいや面白さを打ち出すDAO(※非自律型中央集権型企業:De-centralized Autonomous Organization)群、さらには、ニッチなAIサービスを展開するDAO群が並存し、多様なブロックチェーンのサービスが生み出されるはずである。
(北野宏明「能力のコモディティ化が切り拓く新市場 ブロックチェーンの活路は人工知能との連携にあり」)
 興味深いことに、分散型のブロックチェーンを集権的に活用する巨大プライベートブロックチェーン群が登場すると予測されている。私は、これはかなり可能性が高いシナリオだと思う。

 インターネットは分散型のネットワークとして広がったが、結局現在のインターネットの世界を支配しているのは、googleやamazon、facebookなど一部の巨大企業である。また、歴史をさかのぼれば、望ましい政治形態は独裁でも専制でもなく、分散的な市民が知恵を統合する民主制だとされてきたが、現在の世界を見ると、結局大きな政治力を持っている国は独裁制か専制主義である。世界中にプレイヤーが分散した時、彼らが自由気ままに振る舞ったのではシステムが崩壊してしまう。各地のプレイヤーが一定のルールにのっとって行動できるよう、オーケストラの指揮者に相当する力の強い者が必要となる。指揮者の力は、世界中のプレイヤーが分散的であればあるほど、強力でなければならないという逆説が成り立つ。

 話は変わるが、ブロックチェーンは改竄が難しいと言われる。ブロックチェーンと言うぐらいであるから、ブロックチェーンとはブロックのチェーン(鎖)である。各ブロックには、過去の「トランザクション」のデータが全て入っている。トランザクションとは、例えばAさんがBさんに10万円送金する、といった取引のことである。ブロックには「ヘッダ」と呼ばれる部分があり、①トランザクションの圧縮データ、②直前のブロックのヘッダの圧縮データ、③ナンスという3つから成り立っている。そして、①+②+③が一定の値を下回るように計算しなければならない。①と②の計算は比較的容易だが、③の計算が非常に難しいとされる。③が求められればヘッダが完成し、そのブロックは直前のブロックと結合することができる。

 ここで、nというブロックを改竄しようとする者がいたとする。つまり、トランザクションを自分の都合のよい情報に書き換えようとしたとする。すると、トランザクションの変化によって、ブロックnのヘッダのうち、①トランザクションの圧縮データが変化するため、③ナンスの値を再計算しなければならない。前述の通り、ナンスの計算は非常に難しい。仮に、運よく条件を満たすナンスが見つかっても、ブロックnのヘッダ情報はブロックn+1における②直前のブロック(つまりブロックn)のヘッダの圧縮データを変化させる。よって、今度はブロックn+1の③ナンスの値を再計算する必要がある。この再計算が際限なく続くため、ブロックチェーンの改竄は困難と言われる。

 ただ、技術に疎い私が言うのもおこがましいが、改竄は「不可能」ではなく「困難」であるとされている。インターネットの世界には様々な暗号技術がある。新しい暗号技術が開発されるたびに、「今回の暗号を見破るのは相当困難だ」と言われてきた。ところが、何十年か経つと、暗号を解読する人が現れるのである。だから、ブロックチェーンも決して安心はできないと思う。

 (2)本号の特集からは外れるが、スティーブン・ヘイダリ・ロビンソン、スザンヌ・ヘイウッド「期待通りの成果を生み出すために 組織改編を成功させる5つのステップ」という論文があった。その5つのステップは以下の通りである。

 ①損益計算書を作成する
 ②現在の強みと弱みを知る
 ③多くの選択肢を検討する
 ④「配線・配管」を正しくする
 ⑤スタートを切り、学習し、軌道修正する

 ただ、個人的には、①損益計算書の作成が最初に来るのはやや不自然であり、③選択肢の検討の段階で、それぞれのプランによって想定される損益計算書を作成するのが筋ではないかという気がした。また、⑤はExecution as Learningと呼ばれるものであるが、組織はITと違って、バグが見つかったらその都度アップデートすればよいという性質のものではない。一度組織を変更してしまうと、微修正であってもそれを再度変えることは非常に手間とコストがかかる。

 業績が伸び悩むと、組織改編に乗り出す企業は少なくない。半年ごとに全社の組織がコロコロと変わる企業は要注意である。組織改編をすると、経営陣は何か大きな改革をしたような気分になってしまうようである。しかも、組織改編は組織図を書き換えればよく、安上がりの改革だと思われている節がある。しかし、実際には、組織改編によって社員の権限や責任の範囲が変わるため、新しい役割に慣れるのに時間がかかる。また、社員の権限・責任の変化に伴い、社内システムのマスターテーブルや権限設定も見直す必要がある。システムを変更すれば、当然テストのための費用が発生する。さらに、特に営業担当者は、組織が変わったことをいちいち顧客に説明しなければならない。組織改編は決して、安上がりの改革ではないのだ。

 組織改編そのものが目的にならないようにするためには、やはり組織設計の定石を押さえるべきである。企業は、顧客に対して価値を提供するために存在する。まず、自社のターゲット顧客は誰なのか、その顧客に対してどんな価値を提供するのかを明確にする。その上で、その提供価値を実現するには、社内でどのようなビジネスプロセスを整備するべきかを検討する。加えて、そのビジネスプロセスが適切に機能しているかを俯瞰的にチェックする機能も必要である。これがマネジメントであり、ビジネスプロセスと同時にマネジメントプロセスも設計しなければならない。プロセスがはっきりしたところで初めて、どこまでの範囲の業務を1人の社員に担当させるのか、どこまでの範囲の業務を1つの組織としてまとめるのが適切かを熟慮することになる。

 個々の社員の仕事の範囲を決定するには、それぞれの社員の能力や特性、モチベーションの源泉を考慮し、彼らが強みを伸ばし、自律的に仕事ができるようにしなければならない。組織の単位を決める場合、1つの組織を小さくすれば、個々の組織の凝集性は高まる反面、周囲の組織との壁が多くなり、組織間連携が難しくなる。逆に、1つの組織を大きくすると、組織間の調整といった不毛な作業は減少するが、人数が多くなるがゆえに、組織の求心力を保つのが難しくなる。こうした点を念頭に置いて、最適な組織サイズを決定しなければならない。このように、組織設計は非常に難しいのである。そう考えると、組織はおいそれと変えられるものではない。


2017年07月12日

『生産性―競争力の唯一の源泉(DHBR2017年7月号)』―生産性に関するデータを収集・分析する業界団体・シンクタンクが必要、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)

ダイヤモンド社 2017-06-09

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 ○偏見を叩くだけでは効果は上がらない 差別の心理学:ダイバーシティ施策を成功させる方法(フランク・ドビン、アレクサンドラ・カレフ)
 2016年のマッキンゼー賞受賞論文である。ダイバーシティ・マネジメントが未だに女性活躍推進とほぼ同義で使われている日本企業に比べると、諸外国ではダイバーシティ・マネジメントが進んでいるだろうと勝手に思っていたが、実際にはそうでもないようだ。ダイバーシティ・マネジメント推進のための研修、業績評価制度における公正な評価の実施、公式な苦情申立制度などを導入しても、かえってマイノリティに対する偏見を助長するだけだと論文の著者は指摘する。

 ではどうすべきかというと、1つにはメンター制度が有効であると言う。ただ、同じ人事制度でも、業績評価制度はNGでメンター制度はOKであるという理由が判然としなかった。仮に、マイノリティ中心にメンターをつけたとすれば、それもやはりマイノリティに対する偏見を生むのではないかという疑念が拭えない。著者はもう1つの方策として、ダイバーシティ・マネジメントに関して社会的な説明責任を負わせることが重要であると言う。人は対外的に説明する責任を負うと、より公正であらねばならないと感じることが心理学の研究で明らかになっている。ただし、これもやはり、業績評価制度との違いを説明できないと感じた。というのも、業績評価制度においても、評価結果の根拠を少なくとも社内にはオープンにしなければならない。社内への説明では不十分で、対外的な説明なら効果があるとする理由が論文からは読み取れなかった。

 ダイバーシティには「表層のダイバーシティ」と「深層のダイバーシティ」の2層がある。表層のダイバーシティとは、人種、性別、年齢、障害の有無など、違いが目に見える属性のことである。これに対して深層のダイバーシティとは、価値観、考え方、文化、出身地、学歴、職歴、収入、コミュニケーションスタイル、所属組織、支持政党、宗教、結婚の有無、働き方のスタイルなど、目に見えない違いを指す。ダイバーシティ・マネジメント後進国の日本に住む私がこんなことを言うのはおこがましい話だが、ダイバーシティ・マネジメントは表層レベルのダイバーシティを追求してはならないと思う。深層レベル、特に考え方や価値観の多様性を追求することを第一とし、結果的に表層レベルのダイバーシティが実現されるという形になるのが望ましい。

 ダイバーシティ・マネジメントの目的は、市場の変化や多様性に対応することである。企業は放っておくと、市場/顧客と同じ考え方を持った社員が集まる。市場の変化が小さい時には、その方が効率的に製品・サービスを顧客に提供することができる。ところが、市場や顧客のニーズが変化すると、新しいものの考え方を組織に注入しなければならない。その新しいものの考え方を組織に取り込み、あるいは先取りして、新しい製品・サービスを開発・提供するためにダイバーシティ・マネジメントが必要となる。社会学者のニクラス・ルーマンは、組織が外部の複雑性に適応するためには、組織内部にその複雑性を取り込むことが重要であると述べている。

 もちろん、多様な考え方を持った社員を誰彼構わず採用すればよいというわけではない。企業には、企業として絶対に譲ることができない価値観が存在する。この価値観については、どの社員も共感している必要がある。これを第1層の価値観と呼ぼう。通常、第1層の価値観は5~10程度で簡潔に表現されることが多い。ところが、企業にはそれ以外にも大小合わせると多くの価値観が存在する。日常の意思決定やオペレーションには、実に様々な価値観が投影されている。これを第2層の価値観と呼ぼう。ダイバーシティ・マネジメントにおいては、この第2層の価値観について、企業側の価値観と社員の価値観の衝突を敢えて推奨する。そこから新たな価値が生まれる可能性があるからだ。よって、企業は、単に多様な考え方を持った社員を採用するのでなく、価値観の衝突を上手にマネジメントできる能力を有する社員を選ぶ必要がある。

 ○生産性向上が社会の格差と不満を解消する 知識労働とサービス労働の生産性(ピーター・ドラッカー)
 ドラッカーが1991年に著した論文である。ドラッカーは、知識労働者の生産性を上げるための処方箋として、①必要のない仕事をやめる、②仕事に集中する、③生産性の意味を考える(量が重視されるのか、質が重視されるのか、量と質の両方が重視されるのか)、④労働者をマネジメントのパートナーとする(このように書くと、マネジメントが知識労働者の方に歩み寄るかのような印象を受けるが、実際には、知識労働者に対し、生産性と成果に対する責任を組み込むことが重要であると述べている)、⑤継続して学習する、⑥他人に教える、という6つを挙げている。

 製造業では、IEの発達などによって、生産性を図る指標が整備されている。他方、サービス業では、生産性を図る統一的な指標が存在しない。私は一応IT業界の出身であるのだが、IT投資をめぐっては必ず投資対効果(これも一種の生産性である)が問われる。工場の建設であれば、導入した機械の種類や整備した生産ラインの形状などから、1日あたりの生産量をほぼ正確に計算できる。ところが、ITの場合は、例えば販売管理システムを導入するとどのくらいの投資対効果があるのか、在庫管理システムの場合はどうなのか、などといった問いに答えることができなかった。システムを導入する企業の規模、業務プロセスの複雑さ、プロジェクトの期間や難易度などによってバラバラであると答えるのが精一杯であった。

 ただ、このままではいつまで経っても顧客企業に対して説得力のあるIT投資提案ができない。そこで、IT投資対効果に関するデータを業界全体で収集し、標準的な投資対効果を算出しようという機運が高まった時期があった。現在の私はIT業界から離れてもう長いため、今どのような動きになっているのかご存知の方がいらっしゃったら教えていただきたい。

 私の前職は組織・人事コンサルティングと教育研修サービスを提供するベンチャー企業であったが、この世界もまた、生産性に関する標準的な指標がない世界であった。一応、経験則的に、「この作業ならばこのぐらいの時間が標準的」というものは存在した。コンサルティングのプロジェクトでは、書籍や資料を読み込み、関係者にヒアリングをし、パワーポイントやワードで資料を作成し、プロジェクトメンバーや顧客企業と会議を行い、会議の議事録を残すというのが大まかな仕事の流れである。私がマネジャーから教わったのは、書籍や資料は1時間あたり約60ページ読み、ヒアリングは相手が経営者であれ現場社員であれ30分~1時間、パワーポイントは1時間で1枚、ワードは1時間で1,000字、進捗会議は30分~1時間、顧客企業と重要な意思決定を行う会議は2時間(逆に言うと、進捗確認や意思決定以外の会議は行うな、ということでもあった)、議事録は会議に費やした時間と同じ時間で作成する、というものであった。

 コンサルティング業界は、業界団体らしい団体が存在しない珍しい業界である。理想的なのは、コンサルティングの業界団体ができて、生産性に関するデータを収集し、作業ごとの標準的な時間を明らかにすることである。そして、これはコンサルティング業界に限らず、他の知識・サービス労働の業界全てに共通して言えることである。業界ごとに生産性に関するデータが集まれば、今度は業界横断的に生産性を研究するシンクタンクが設立されて、どの業界にも共通する生産性の指標が開発され、その指標の数値について業界ごとの比較ができるようになるとよい。そうすれば、日本のサービス業の生産性向上に大きく寄与するに違いない。

 ○1312社のデータ分析に基づく提言 日本企業の生産性は本当に低いのか(永山晋)
 しばしば、日本企業の生産性は低いと言われる。OECDが発表しているランキングでも、日本は下から数えた方が早いくらいである。この現実に対し、本当に日本企業の生産性は低いのか、上場企業の従業員数と営業利益のデータを使って検証した論文である。論文の著者は、日本企業の生産性は必ずしも低くないと結論づけているものの、ちょっと待ってほしい。分析の対象は上場企業1,312社となっているが、この上場企業の内訳が問題である。

 上場企業業種別企業数

 上のグラフは、上場企業3,805社の業種別割合を示している(「上場企業サーチ:上場企業データベース」より作成)。グラフから解るように、上場企業の半分近くは製造業である(ちなみに、日本の全企業数約400万社のうち、製造業は約40万社で1割程度にすぎない)。そして、これもまたよく言われているように、日本の製造業の生産性は、世界でもトップクラスである。だから、上場企業の生産性を分析すれば、その数値が高めに出るのは当然である。この論文は、我々が既に知っている常識を単に裏書きしているにすぎない。

 日本の生産性の足を引っ張っているのは、日本企業の99.7%を占める中小企業である。これは中小企業庁が発行している『中小企業白書』からも読み取れる。もちろん、大企業を上回る生産性を達成している高業績の中小企業も存在するが、その割合はわずかにとどまる。全体を押しなべて見ると、下図のように、中小企業の労働生産性は大企業のそれを大きく下回る。

労働生産性と労働構成比

 (※)中小企業庁『中小企業白書2016年度版』「第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向 第3章 中小企業の生産性分析」より。

 これは、中小企業の作業効率が悪いというだけの問題ではない。中小企業は大企業に比べて、圧倒的に社員1人あたりの売上高が低い。そしてさらに悪いことに、売上高が伸び悩んでいるにもかかわらず、販路開拓に注力していない中小企業の割合が拍子抜けするほど高いのである。販路開拓は、普通の企業ならば普通に行うことである。その販路開拓を行っていない中小企業が20%も30%も存在するのは、はっきり言って異常である。日本の生産性を上げるためには、中小企業の営業力の強化こそが不可欠である。

1人あたり売上高の分布

 (※)中小企業庁『中小企業白書2016年度版』「第2部 中小企業の稼ぐ力 第6章 中小企業の稼ぐ力を決定づける経営力」より。

業種別、商品・サービス別に見た販路開拓の取組状況

 (※)中小企業庁『中小企業白書2015年度版』「第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍 第1章 中小企業・小規模事業者のイノベーションと販路開拓」より。



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