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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

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2017年08月18日

『ブロックチェーンの衝撃(DHBR2017年8月号)』―ネットワークは分散型だが中央集権的なプレイヤーが出現すると思う、他

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DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2017年8月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2017年8月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2017-07-10

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 (1)ブロックチェーンの技術的な側面については私は全くの素人なので、今回の記事は本号を読んだ雑感レベルにとどまることをご容赦いただきたい。本号を読むまでは、ブロックチェーンとは現在国家が管理している通貨に代わるもの、といったぐらいのイメージしか持っていなかった。しかし、実はブロックチェーンはそれ以上のことが実現可能であることが解った。
 アクセス権管理では、たとえば、以下のような仕組みが実現されるかもしれない。ユーザーが利用料金や保証金などを支払うと、ブロックチェーン上のスマートコントラクトにより、自動車へのアクセス権が付与される。ユーザーが利用可能な時間帯に車の前に立つと、車からブロックチェーンに照会がかけられ、認証されるとロックが解かれる。
(鳩貝淳一郎「仮想通貨からスマートコントラクトまで社会を変える理念 ブロックチェーン:ビットコインを動かす技術の未来」)
 「スマートコントラクト」については、別の論文でもっと詳しい説明がある。
 事前に取り決めておいた契約条件が満たされれば、支払いも、通貨もしくはその他の資産の譲渡も自動的に行われる。たとえばスマートコントラクトによって、納入業者から発送された荷物が届くと同時に支払いを行う、というケースが考えられる。特定の商品を受け取ったという合図を受取手の企業がブロックチェーン経由で送ることもできるし、その商品にGPS機能を持たせて移動するごとに自動で位置情報をアップデートさせ、最終的にその情報が支払い手続きのスイッチとなるようにすることも可能だ。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカニー「技術普及の4フェーズから読み解く ブロックチェーンと企業戦略」)
 これは私の解釈だが、従来は製品・サービスの流通と資金の決済がバラバラに行われていたのに対し、ブロックチェーンを活用すると両者を同時に実施できるようになる、ということだと思う。ただし、資金の決済はアルゴリズムで自動的に実施できるものの、製品・サービスの流通には人手が介入することが多い。つまり、品質にばらつきが生じる恐れがある。そこで、品質を平準化するために、AI(人工知能)を活用しようという発想が出てくる。
 AIによる安定した高品質サービスの提供は、スマートコントラクトが、金融や情報のやりとり以外の領域に展開するための、極めて重要な要因であると思われる。AIは、我々に、知識やスキルをコモディティ化し、そこへのアクセスを可能とするのである。

 再び運転技術を例に取る。これは1つのスキルであり、それを職業とする人々は、このスキルを車両というインフラとともに提供し、利用者の移動を実現することで価値化する。しかし、人が提供するサービスには、品質のばらつきがある。AIで実現する自動走行は、このスキルにアクセスできない個人に、高品質なスキルへの安定したアクセスを提供することで、移動手段の提供や事故などの防止という貢献をする。
(北野宏明「能力のコモディティ化が切り拓く新市場 ブロックチェーンの活路は人工知能との連携にあり」)
 従来の取引は次の通りである。企業の工場のラインで、ある部品の在庫が発注点を下回ったとすると、購買担当者が仕入先に部品の発注を行う。仕入先の作業員は、フォークリフトなどを使って必要な部品の数を工場の在庫からピックアップし、物流業者のトラックに載せて企業に納品する。企業側は検収を行い、検収がOKであることを仕入先に知らせると、仕入先は請求書を発行する。請求書を受け取った企業は、金融機関で代金の支払いを行う。ここで、この企業と仕入先、さらに物流業者がブロックチェーンとAIを活用したとしよう。

 この企業の工場では、部品の在庫量の情報がブロックチェーンと連動している。在庫が発注点を下回ると、ブロックチェーンが自動的に仕入先に対して部品を発注する。仕入先の工場ではAIロボットが導入されており、注文を受けると、ロボットが必要な量の部品を自動的にピッキングする。同時に、注文情報は物流業者のブロックチェーンとも共有されていて、他の荷主企業の荷物量、納入期限などを勘案し、何時にその仕入先の工場に自動運転トラックを到着させるかを決める。物流業者の自動運転トラックが仕入先の工場に到着する頃には、積載する部品の準備が完全に完了しており、スムーズに積み荷が行われる。後は、自動運転トラックが発注企業に部品を納品する。検品は、発注先企業のロボットが自動的に行う。検収が完了すると、その情報がブロックチェーンに伝えられ、決済が一瞬で完了する。これが近未来の姿なのかもしれない。

 ブロックチェーンは分散型のネットワークが前提だが、その将来は次のように予測されている。
 おそらく、AIによるサービスの高品質化と安定性、効率化と(※原文ママ)追求する巨大プライベートブロックチェーン群と、サービス品質により大きなゆらぎを許容することで、人が直接サービスすることの味わいや面白さを打ち出すDAO(※非自律型中央集権型企業:De-centralized Autonomous Organization)群、さらには、ニッチなAIサービスを展開するDAO群が並存し、多様なブロックチェーンのサービスが生み出されるはずである。
(北野宏明「能力のコモディティ化が切り拓く新市場 ブロックチェーンの活路は人工知能との連携にあり」)
 興味深いことに、分散型のブロックチェーンを集権的に活用する巨大プライベートブロックチェーン群が登場すると予測されている。私は、これはかなり可能性が高いシナリオだと思う。

 インターネットは分散型のネットワークとして広がったが、結局現在のインターネットの世界を支配しているのは、googleやamazon、facebookなど一部の巨大企業である。また、歴史をさかのぼれば、望ましい政治形態は独裁でも専制でもなく、分散的な市民が知恵を統合する民主制だとされてきた。しかし、現在の世界を見ると、結局大きな政治力を持っている国は独裁制か専制主義である。世界中にプレイヤーが分散した時、彼らが自由気ままに振る舞ったのではシステムが崩壊してしまう。各地のプレイヤーが一定のルールにのっとって行動できるよう、オーケストラの指揮者に相当する力の強い者が必要となる。指揮者の力は、世界中のプレイヤーが分散的であればあるほど、強力でなければならないという逆説が成り立つ。

 話は変わるが、ブロックチェーンは改竄が難しいと言われる。ブロックチェーンと言うぐらいであるから、ブロックチェーンとはブロックのチェーン(鎖)である。各ブロックには、過去の「トランザクション」のデータが全て入っている。トランザクションとは、例えばAさんがBさんに10万円送金する、といった取引のことである。ブロックには「ヘッダ」と呼ばれる部分があり、①トランザクションの圧縮データ、②直前のブロックのヘッダの圧縮データ、③ナンスという3つから成り立っている。そして、①+②+③が一定の値を下回るように計算しなければならない。①と②の計算は比較的容易だが、③の計算が非常に難しいとされる。③が求められればヘッダが完成し、そのブロックは直前のブロックと結合することができる。

 ここで、nというブロックを改竄しようとする者がいたとする。つまり、トランザクションを自分の都合のよい情報に書き換えようとしたとする。すると、トランザクションの変化によって、ブロックnのヘッダのうち、①トランザクションの圧縮データが変化するため、③ナンスの値を再計算しなければならない。前述の通り、ナンスの計算は非常に難しい。仮に、運よく条件を満たすナンスが見つかっても、ブロックnのヘッダ情報はブロックn+1における②直前のブロック(つまりブロックn)のヘッダの圧縮データを変化させる。よって、今度はブロックn+1の③ナンスの値を再計算する必要がある。この再計算が際限なく続くため、ブロックチェーンの改竄は困難と言われる。

 ただ、技術に疎い私が言うのもおこがましいが、改竄は「不可能」ではなく「困難」であるとされている。インターネットの世界には様々な暗号技術がある。新しい暗号技術が開発されるたびに、「今回の暗号を見破るのは相当困難だ」と言われてきた。ところが、何十年か経つと、暗号を解読する人が現れるのである。だから、ブロックチェーンも決して安心はできないと思う。

 (2)本号の特集からは外れるが、スティーブン・ヘイダリ・ロビンソン、スザンヌ・ヘイウッド「期待通りの成果を生み出すために 組織改編を成功させる5つのステップ」という論文があった。その5つのステップは以下の通りである。

 ①損益計算書を作成する
 ②現在の強みと弱みを知る
 ③多くの選択肢を検討する
 ④「配線・配管」を正しくする
 ⑤スタートを切り、学習し、軌道修正する

 ただ、個人的には、①損益計算書の作成が最初に来るのはやや不自然であり、③選択肢の検討の段階で、それぞれのプランによって想定される損益計算書を作成するのが筋ではないかという気がした。また、⑤はExecution as Learningと呼ばれるものであるが、組織はITと違って、バグが見つかったらその都度アップデートすればよいという性質のものではない。一度組織を変更してしまうと、微修正であってもそれを再度変えることは非常に手間とコストがかかる。

 業績が伸び悩むと、組織改編に乗り出す企業は少なくない。半年ごとに全社の組織がコロコロと変わる企業は要注意である。組織改編をすると、経営陣は何か大きな改革をしたような気分になってしまうようである。しかも、組織改編は組織図を書き換えればよく、安上がりの改革だと思われている節がある。しかし、実際には、組織改編によって社員の権限や責任の範囲が変わるため、新しい役割に慣れるのに時間がかかる。また、社員の権限・責任の変化に伴い、社内システムのマスターテーブルや権限設定も見直す必要がある。。システムを変更すれば、当然テストのための費用が発生する。さらに、特に営業担当者は、組織が変わったことをいちいち顧客に説明しなければならない。組織改編は決して、安上がりの改革ではないのだ。

 組織改編そのものが目的にならないようにするためには、やはり組織設計の定石を押さえるべきである。企業は、顧客に対して価値を提供するために存在する。まず、自社のターゲット顧客は誰なのか、その顧客に対してどんな価値を提供するのかを明確にする。その上で、その提供価値を実現するには、社内でどのようなビジネスプロセスを整備するべきかを検討する。加えて、そのビジネスプロセスが適切に機能しているかを俯瞰的にチェックする機能も必要である。これがマネジメントであり、ビジネスプロセスと同時にマネジメントプロセスも設計しなければならない。プロセスがはっきりしたところで初めて、どこまでの範囲の業務を1人の社員に担当させるのか、どこまでの範囲の業務を1つの組織としてまとめるのが適切かを熟慮することになる。

 個々の社員の仕事の範囲を決定するには、それぞれの社員の能力や特性、モチベーションの源泉を考慮し、彼らが強みを伸ばし、自律的に仕事ができるようにしなければならない。組織の単位を決める場合、1つの組織を小さくすれば、個々の組織の凝集性は高まる反面、周囲の組織との壁が多くなり、組織間連携が難しくなる。逆に、1つの組織を大きくすると、組織間の調整といった不毛な作業は減少するが、人数が多くなるがゆえに、組織の求心力を保つのが難しくなる。こうした点を念頭に置いて、最適な組織サイズを決定しなければならない。このように、組織設計は非常に難しいのである。そう考えると、組織はおいそれと変えられるものではない。

2017年07月12日

『生産性―競争力の唯一の源泉(DHBR2017年7月号)』―生産性に関するデータを収集・分析する業界団体・シンクタンクが必要、他

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ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)

ダイヤモンド社 2017-06-09

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 ○偏見を叩くだけでは効果は上がらない 差別の心理学:ダイバーシティ施策を成功させる方法(フランク・ドビン、アレクサンドラ・カレフ)
 2016年のマッキンゼー賞受賞論文である。ダイバーシティ・マネジメントが未だに女性活躍推進とほぼ同義で使われている日本企業に比べると、諸外国ではダイバーシティ・マネジメントが進んでいるだろうと勝手に思っていたが、実際にはそうでもないようだ。ダイバーシティ・マネジメント推進のための研修、業績評価制度における公正な評価の実施、公式な苦情申立制度などを導入しても、かえってマイノリティに対する偏見を助長するだけだと論文の著者は指摘する。

 ではどうすべきかというと、1つにはメンター制度が有効であると言う。ただ、同じ人事制度でも、業績評価制度はNGでメンター制度はOKであるという理由が判然としなかった。仮に、マイノリティ中心にメンターをつけたとすれば、それもやはりマイノリティに対する偏見を生むのではないかという疑念が拭えない。著者はもう1つの方策として、ダイバーシティ・マネジメントに関して社会的な説明責任を負わせることが重要であると言う。人は対外的に説明する責任を負うと、より公正であらねばならないと感じることが心理学の研究で明らかになっている。ただし、これもやはり、業績評価制度との違いを説明できないと感じた。というのも、業績評価制度においても、評価結果の根拠を少なくとも社内にはオープンにしなければならない。社内への説明では不十分で、対外的な説明なら効果があるとする理由が論文からは読み取れなかった。

 ダイバーシティには「表層のダイバーシティ」と「深層のダイバーシティ」の2層がある。表層のダイバーシティとは、人種、性別、年齢、障害の有無など、違いが目に見える属性のことである。これに対して深層のダイバーシティとは、価値観、考え方、文化、出身地、学歴、職歴、収入、コミュニケーションスタイル、所属組織、支持政党、宗教、結婚の有無、働き方のスタイルなど、目に見えない違いを指す。ダイバーシティ・マネジメント後進国の日本に住む私がこんなことを言うのはおこがましい話だが、ダイバーシティ・マネジメントは表層レベルのダイバーシティを追求してはならないと思う。深層レベル、特に考え方や価値観の多様性を追求することを第一とし、結果的に表層レベルのダイバーシティが実現されるという形になるのが望ましい。

 ダイバーシティ・マネジメントの目的は、市場の変化や多様性に対応することである。企業は放っておくと、市場/顧客と同じ考え方を持った社員が集まる。市場の変化が小さい時には、その方が効率的に製品・サービスを顧客に提供することができる。ところが、市場や顧客のニーズが変化すると、新しいものの考え方を組織に注入しなければならない。その新しいものの考え方を組織に取り込み、あるいは先取りして、新しい製品・サービスを開発・提供するためにダイバーシティ・マネジメントが必要となる。社会学者のニクラス・ルーマンは、組織が外部の複雑性に適応するためには、組織内部にその複雑性を取り込むことが重要であると述べている。

 もちろん、多様な考え方を持った社員を誰彼構わず採用すればよいというわけではない。企業には、企業として絶対に譲ることができない価値観が存在する。この価値観については、どの社員も共感している必要がある。これを第1層の価値観と呼ぼう。通常、第1層の価値観は5~10程度で簡潔に表現されることが多い。ところが、企業にはそれ以外にも大小合わせると多くの価値観が存在する。日常の意思決定やオペレーションには、実に様々な価値観が投影されている。これを第2層の価値観と呼ぼう。ダイバーシティ・マネジメントにおいては、この第2層の価値観について、企業側の価値観と社員の価値観の衝突を敢えて推奨する。そこから新たな価値が生まれる可能性があるからだ。よって、企業は、単に多様な考え方を持った社員を採用するのでなく、価値観の衝突を上手にマネジメントできる能力を有する社員を選ぶ必要がある。

 ○生産性向上が社会の格差と不満を解消する 知識労働とサービス労働の生産性(ピーター・ドラッカー)
 ドラッカーが1991年に著した論文である。ドラッカーは、知識労働者の生産性を上げるための処方箋として、①必要のない仕事をやめる、②仕事に集中する、③生産性の意味を考える(量が重視されるのか、質が重視されるのか、量と質の両方が重視されるのか)、④労働者をマネジメントのパートナーとする(このように書くと、マネジメントが知識労働者の方に歩み寄るかのような印象を受けるが、実際には、知識労働者に対し、生産性と成果に対する責任を組み込むことが重要であると述べている)、⑤継続して学習する、⑥他人に教える、という6つを挙げている。

 製造業では、IEの発達などによって、生産性を図る指標が整備されている。他方、サービス業では、生産性を図る統一的な指標が存在しない。私は一応IT業界の出身であるのだが、IT投資をめぐっては必ず投資対効果(これも一種の生産性である)が問われる。工場の建設であれば、導入した機械の種類や整備した生産ラインの形状などから、1日あたりの生産量をほぼ正確に計算できる。ところが、ITの場合は、例えば販売管理システムを導入するとどのくらいの投資対効果があるのか、在庫管理システムの場合はどうなのか、などといった問いに答えることができなかった。システムを導入する企業の規模、業務プロセスの複雑さ、プロジェクトの期間や難易度などによってバラバラであると答えるのが精一杯であった。

 ただ、このままではいつまで経っても顧客企業に対して説得力のあるIT投資提案ができない。そこで、IT投資対効果に関するデータを業界全体で収集し、標準的な投資対効果を算出しようという機運が高まった時期があった。現在の私はIT業界から離れてもう長いため、今どのような動きになっているのかご存知の方がいらっしゃったら教えていただきたい。

 私の前職は組織・人事コンサルティングと教育研修サービスを提供するベンチャー企業であったが、この世界もまた、生産性に関する標準的な指標がない世界であった。一応、経験則的に、「この作業ならばこのぐらいの時間が標準的」というものは存在した。コンサルティングのプロジェクトでは、書籍や資料を読み込み、関係者にヒアリングをし、パワーポイントやワードで資料を作成し、プロジェクトメンバーや顧客企業と会議を行い、会議の議事録を残すというのが大まかな仕事の流れである。私がマネジャーから教わったのは、書籍や資料は1時間あたり約60ページ読み、ヒアリングは相手が経営者であれ現場社員であれ30分~1時間、パワーポイントは1時間で1枚、ワードは1時間で1,000字、進捗会議は30分~1時間、顧客企業と重要な意思決定を行う会議は2時間(逆に言うと、進捗確認や意思決定以外の会議は行うな、ということでもあった)、議事録は会議に費やした時間と同じ時間で作成する、というものであった。

 コンサルティング業界は、業界団体らしい団体が存在しない珍しい業界である。理想的なのは、コンサルティングの業界団体ができて、生産性に関するデータを収集し、作業ごとの標準的な時間を明らかにすることである。そして、これはコンサルティング業界に限らず、他の知識・サービス労働の業界全てに共通して言えることである。業界ごとに生産性に関するデータが集まれば、今度は業界横断的に生産性を研究するシンクタンクが設立されて、どの業界にも共通する生産性の指標が開発され、その指標の数値について業界ごとの比較ができるようになるとよい。そうすれば、日本のサービス業の生産性向上に大きく寄与するに違いない。

 ○1312社のデータ分析に基づく提言 日本企業の生産性は本当に低いのか(永山晋)
 しばしば、日本企業の生産性は低いと言われる。OECDが発表しているランキングでも、日本は下から数えた方が早いくらいである。この現実に対し、本当に日本企業の生産性は低いのか、上場企業の従業員数と営業利益のデータを使って検証した論文である。論文の著者は、日本企業の生産性は必ずしも低くないと結論づけているものの、ちょっと待ってほしい。分析の対象は上場企業1,312社となっているが、この上場企業の内訳が問題である。

 上場企業業種別企業数

 上のグラフは、上場企業3,805社の業種別割合を示している(「上場企業サーチ:上場企業データベース」より作成)。グラフから解るように、上場企業の半分近くは製造業である(ちなみに、日本の全企業数約400万社のうち、製造業は約40万社で1割程度にすぎない)。そして、これもまたよく言われているように、日本の製造業の生産性は、世界でもトップクラスである。だから、上場企業の生産性を分析すれば、その数値が高めに出るのは当然である。この論文は、我々が既に知っている常識を単に裏書きしているにすぎない。

 日本の生産性の足を引っ張っているのは、日本企業の99.7%を占める中小企業である。これは中小企業庁が発行している『中小企業白書』からも読み取れる。もちろん、大企業を上回る生産性を達成している高業績の中小企業も存在するが、その割合はわずかにとどまる。全体を押しなべて見ると、下図のように、中小企業の労働生産性は大企業のそれを大きく下回る。

労働生産性と労働構成比

 (※)中小企業庁『中小企業白書2016年度版』「第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向 第3章 中小企業の生産性分析」より。

 これは、中小企業の作業効率が悪いというだけの問題ではない。中小企業は大企業に比べて、圧倒的に社員1人あたりの売上高が低い。そしてさらに悪いことに、売上高が伸び悩んでいるにもかかわらず、販路開拓に注力していない中小企業の割合が拍子抜けするほど高いのである。販路開拓は、普通の企業ならば普通に行うことである。その販路開拓を行っていない中小企業が20%も30%も存在するのは、はっきり言って異常である。日本の生産性を上げるためには、中小企業の営業力の強化こそが不可欠である。

1人あたり売上高の分布

 (※)中小企業庁『中小企業白書2016年度版』「第2部 中小企業の稼ぐ力 第6章 中小企業の稼ぐ力を決定づける経営力」より。

業種別、商品・サービス別に見た販路開拓の取組状況

 (※)中小企業庁『中小企業白書2015年度版』「第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍 第1章 中小企業・小規模事業者のイノベーションと販路開拓」より。

2017年06月12日

『ビジネスエコシステム 協働と競争の戦略(DHBR2017年6月号)』―「継続的で抜本的な変革」をするビジネスエコシステム

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ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 06 月号 [雑誌] (ビジネスエコシステム 協働と競争の戦略)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 06 月号 [雑誌] (ビジネスエコシステム 協働と競争の戦略)

ダイヤモンド社 2017-05-10

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 プローマンらの論文では、それまでの組織変革の研究は、抜本的(radical)か収束的(convergent)かという変化の性質と、継続的(continuous)か一時的か(episodic)という変化のペースで分類すると、抜本的で一時的な変化か、収束的で継続的な変化の研究が大半であったと指摘する。組織において大きな変革は短期間で起き、徐々に起こる場合はそれほど抜本的な変革にはならないということである。しかし、ミッション教会のケースは、5年間継続的に起こり教会の理念や組織体系まで転換する、つまり抜本的かつ継続的な変化を提示した。
(山崎繭加「〔ケーススタディ〕宮城県女川町 復興を超えた社会エコシステムの創生」)
 一般的な戦略論、チェンジリーダーシップ論においては、経営トップや一部の変革リーダーが、経営企画部など限られた専門スタッフと一緒になって戦略や変革ビジョンを策定し、それをトップダウンで組織の末端にまで浸透させるものとされてきた。引用文における「抜本的で一時的な変化」はこうして起こる。ところが、論文の著者は、それとは異なるパターンの変化の可能性を指摘している。つまり、「継続的でありながら抜本的な変革」がある。言い換えればこういうことだろう。毎日の変化は些細なものであったが、それを何年も積み重ねていった結果、数年後に振り返ってみると、昔とは全く違う姿に生まれ変わっていたということだ。論文の著者が宮城県女川町で支援に携わった復興もこれに該当するという。

 企業は顧客との関係を生きているだけではない。当然のことながら、事業を行うにあたって顧客は最も重要であるが、企業は顧客以外にも様々なステークホルダーと関係を結んでいる。行政、非営利組織、仕入先、販売チャネル、技術・業務提携先、物流業者、決済業者、株主、金融機関、教育機関、家庭などが有機的に連携し合ってビジネスを形成する。これを「ビジネスエコシステム」と呼ぶ。企業が急進的で抜本的な変革を行おうとする時、一部のステークホルダーが切り捨てられる危機に直面することがある。身の危険を感じたステークホルダーは変革に強く反発し、結果的に変革が頓挫する。特に、和を重んじる日本では、急進的な変革は嫌われる。

 ビジネスエコシステムにおいては、システムを形成する各要素が少し変化すると、その変化が他のシステム構成要素にも影響を及ぼし、システム全体が少し変容する。もし、企業が抜本的な改革を狙うのであれば、今までのようにTo-Be(あるべき姿)を1枚だけ書いて、それをシステムの構成要因に強制するというやり方では上手くいかない。第1段階としてあるシステム構成要素に働きかけをして少しだけシステム全体を変質させ、第2段階として別のシステム構成要素に働きかけをしてまたさらに少しだけシステム全体を変質させる・・・といったことを繰り返していく。つまり、As-Is(現状)とTo-Beの間に、暫定的なビジョンを何枚も用意しておくのである。

 もちろん、ビジネスエコシステムは一種の生き物であるから、最初に企業側が想定した通りにシステム全体が変容するとは限らない。企業が予期していない方向にシステムが変化することもある。その変化を受けて、企業はTo-Beを柔軟に書き換える寛容さを持つことも必要である。継続的にシステムの構成要素に働きかけを続けた結果、何年か後に振り返ってみると、ビジネスエコシステムが以前とは全く異なる姿に生まれ変わっていた、というのが理想である。急進的な改革では切り捨てることができなかったシステム構成要素も、継続的な改革の果てに、上手に締め出しに成功することもあるだろう。締め出される側も、いきなり関係を断ち切られるより、徐々に関係が薄くなることを感じれば、新しい事業機会を探すなど、対処のしようがある。

 私がよく利用するスーパーでは、半年ほど前から「自動レジ」が導入された。自動レジと聞くと、Amazon Goのように、顧客が専用のアプリをスマホにインストールして、入店時にスマホアプリでQRコード認識し、店内で専用のカバンに商品を入れて退店すると自動で決済されるような姿をイメージするが、実際には全く違っていた。商品のバーコードを読み取る作業は従来通り店員が行う。今までと違うのは、レジの向こう側に決済用の機械が3台ほど並んでいて、決済だけは顧客本人が行うという点である。従来のレジでは一度に1人の決済しかできなかったが、自動レジにより同時に3人が決済を行うことができるので、決済が効率化されるというわけだ。

 スーパーは、レジの機械を納入しているITベンダーとの関係も、今まで働いてくれたパートとの関係も、一度に抜本的に変えることができない。そこで編み出されたのがこの方法だったのだろう。何とも日本的な発想だと私は感じた。もちろん、これは改革の第一弾であって、さらに小さな改革を何度も積み重ねることで、最終的に完全な無人レジが実現される可能性がないわけではない。ただし、日本人は絶対にそこに一足飛びには行かない。

 2010年頃に電子書籍がブームになった時も、似たようなことが起きた。電子書籍の登場によって、日本に固有の取次という業態は消える、新聞販売所は皆潰れると言われた。確かに、経営破綻した取次業者はいるし、廃業に追い込まれた新聞販売所もある。ところが、取次業者は、「電子書籍データを取り次ぐ」という新たな役割を自らに見出し、今でも生き残っている。また、新聞社も新聞販売店との関係を軽視することはできないため、「紙の新聞を定期購読している人には、無料アプリでも新聞を読むことができる」というサービスを始めることで、新聞販売店を守った。もっとも、この先も取次業者や新聞販売店が安泰である保証はどこにもない。出版社や新聞社が今後も改革を続ければ、彼らがビジネスエコシステムからはじき出される可能性はある。ただし、出版社や新聞社の配慮によって、彼らには時間的猶予が与えられている。

 これまでの日本企業の強みは、トップダウンとボトムアップが両方上手くかみ合っている点にあると言われてきた。経営陣は重要顧客との対話や市場全体のマクロのトレンドから戦略を立案し、トップダウンで現場に浸透させる。一方、現場社員は毎日個々の顧客に接する中で顧客の細かいニーズの変化を察知し、現場発の戦略をボトムアップで上に上げる。このトップダウンの戦略とボトムアップの戦略がミドルマネジャー層において擦り合わされることにより(ミドルアップダウン)、全社が納得する戦略が創発されてきた。

 今後の日本企業には、私が本ブログで何度も書いている垂直方向の「下剋上」と「下問」、水平方向の「コラボレーション」によって、ビジネスエコシステム全体を動かす戦略の構想・実行を期待したい。私の理解では、企業を含むビジネスエコシステムは一種の階層社会である。まず、企業の上には市場/顧客がおり、自分のほしい製品・サービスを企業に要求する。その上には行政という層があり、市場が円滑に機能するための様々なルールを作る。その中には、市場に対して特定の製品・サービスの購入を促進するものもあれば、特定の製品・サービスの購入を規制するものもある。自由市場経済と言いつつ、実はこうした行政の機能は軽視できない。

 一方、企業の下には、企業に対して経営資源を提供する様々なステークホルダーがいる。ヒトを供給する家族、モノを供給する仕入先、カネを供給する株主や金融機関、知識を供給する教育研究機関などである。さらに、企業と同じレイヤーには、競合他社や異業種の企業、市場ニーズのうち社会的な側面に応える非営利組織などが存在する。

 下剋上という言葉は山本七平から借りたのだが、下の階層が上の階層からの要求に対して素直に応じるだけでなく、「上の階層の人々はもっとこうした方がよい」と下から提案することを意味している。ただし、一般的な下剋上とは違い、下の階層が上の階層を打倒することは狙っていない。下剋上のよいところは、上の階層で要求される責任を負わずに、下の階層にいながら上の階層と同じ目線で自由に物事を考えられる点にある。下問も山本七平の著書からヒントを得たものである。上の階層は単に下の階層に命令を出すだけでなく、「下の階層の人々が成果を出すために、上の階層から何か支援できることはないか?」と尋ねる。これにより、上の階層は下の階層とパートナー関係になる。それに、下の階層の成果とはつまり上の階層が要求するものであるから、下の階層を支援することは、結果的に上の階層にプラスに跳ね返ってくる。

 経営陣には、行政に対する下剋上を期待したい。市場のルールを形成する行政に、顧客の声を代弁する企業側の見解を反映させることで、顧客の利益にかなったルールを策定させる。そうすれば、企業にとっても事業機会が広がることになるだろう。以前の記事「『寧静致遠(『致知』2017年6月号)』―日本が編み出した水平・垂直方向の「二項混合」について」でも書いたが、ヤフーには政策企画部という部門があり、行政に対して様々な提言を行っている。具体的には、どうすれば国民がインターネット上で健全かつ効果的な取引を行うことができるようになるかという提案である。こうした提案が行政に受け入れられれば、ヤフーにとっても有利になる。

 さらに、経営陣には、ヒトを供給する家族、モノを供給する仕入先、カネを供給する株主や金融機関、知識を供給する教育研究機関などへの下問も行ってほしいところである。企業が成功するには、こうしたステークホルダーの協力が欠かせない。彼らをないがしろにするような戦略は、一時的に成功することはあっても、絶対に長続きしない。下問を通じて彼らのニーズを把握し、彼らの成功にも資するような戦略を構想することが経営陣にとって重要になるに違いない(以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『断絶の時代―いま起こっていることの本質』―「にじみ絵型」の日本、「モザイク画型」のアメリカ」を参照)。

 現場社員には、水平方向のコラボレーションを期待したい。従来、水平方向の協業を推進するのは経営陣の仕事だとされてきた。だが、これからはそれを現場社員の仕事とする。現場社員には、従来以上に権限委譲を進める。顧客だけでなく、外部の企業や非営利組織との連携の道を模索させる。そして、外部の組織を自社のビジネスエコシステムの中に組み込んでいく。ここに、経営陣が行政に下剋上することで構想した新しい戦略、経営陣が下の階層に下問することで構想した新しい戦略、現場社員が水平方向にコラボレーションすることで構想した新しい戦略の3つができ上がる。これらを上手に擦り合わせることが、ミドルマネジャーの新しい仕事となる。

 以上のようにしてビジネスエコシステムを構成するメンバーが増えていけば、企業が独りよがりの戦略を敢行することはもはやできなくなる。人によっては、足手まといが増えたと感じるかもしれない。だが、企業が独断で行った改革の結果、一部の人たちに深い禍根を残すよりも、ビジネスエコシステム全体の調和を保ちながらゆっくりとであっても改革を進める方が、社会的責任の観点からは望ましいのではないかと考える。たとえ、継続的な改革の結果、ビジネスエコシステムから退出するプレイヤーが出るとしても、企業は彼らに十分な責任を果たしたと言える。


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