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『アナリティクス競争元年(DHBR2014年5月号)』―ビッグデータの方向性とアブダクションの重要性

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年12月26日

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 今回の記事は、以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で課題としていたことに対する、現時点での私の見解を述べるものである。

 人事の分野でGEが注目を集めているのは、伝統的な「セッションC」や「9ブロック」を廃止したからである。より具体的に言うと、GEはグレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、私は半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 先日の記事「【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)」で述べたように、改正職業能力開発促進法の施行により、企業が社員に対してキャリアコンサルティングの機会を提供することが義務づけられた。キャリアコンサルタントには、従来の面談の機能に加えて、組織開発コンサルタントとしての役割が追加される。私はさらに、社員がやりたいことや社員にできること、社員の価値観をベースとした戦略立案、言い換えれば内部環境アプローチによる戦略立案の支援を行うコンサルタントとしての役割も上乗せされると考えている。今回の記事では、その内部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについて、現時点での試案を述べてみたいと思う(ちなみに、外部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについては、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。

 ①最低到達目標の明確化
 以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、私は生活給と年功制の昇進制度を支持している。これは、現在の社員を最大限に活用し、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えるためである。そこで、内部環境アプローチではまず、現在の社員が順調に昇進し、またそれに伴って新卒社員を順調に採用した場合、3~5年後にどのような人員構成になるかを予測する。そして、その人員構成を維持するために必要な売上高、利益(率)をはじき出す。これが、企業が3~5年後に最低限到達していなければならない目標となる。

 ②「やりたいこと―できること―価値観」のセット=事業機会の洗い出し
 次に、キャリアコンサルティングなどの機会を活用して、現在の社員に対し幅広くヒアリングを実施し、それぞれの社員がどんなことをやりたいと思っているのか、どんな能力を持っているのか、どういう価値観で仕事をしているのかを詳細に把握する。それぞれの社員のやりたいこと、できること、価値観はバラバラであっても、組み合わせてみると一貫性が取れるケースが出てくる。例えば、若手社員はある仕事をやりたいと思っているが、それを遂行するだけの能力が不足している場合に、ミドル社員がその能力を補える、といった具合である。こうして、一貫性の取れた「やりたいこと―できること―価値観」のセットを事業機会として抽出する。一例としては、「AIを活用した融資業務の高度化に取り組みたい―スコアリング融資のノウハウ、与信管理の暗黙知―新しい技術に対する進取性、迅速な意思決定、チームワークの重視」が挙げられる。

 私はしばしば、日本企業の特徴は下の階層から上の階層に対する「下剋上(山本七平からの借用)」が起きることにあると述べてきた。つまり、上司からの命令に唯々諾々と従うのではなく、「こうすればもっと上手くできる」と部下が積極的に提案する。それを聞いた上司は、「俺の命令に逆らうな」と言わず、「君がそう言うのならばやってみよ。責任は自分が取る」と言って部下に権限移譲する。これが組織階層の中で繰り返されていくと、最終的には、組織の最下層にあって現場に一番近い社員が最も大きな権限を持ち、組織の最上部にいる経営陣は責任を丸抱えするという構図になる。これはまさに、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」で事例発表をしたサントリーの「見てくんなはれ」と「やってみなはれ」の精神に相当する。

 私は、現場に近いところにいる若手社員から積極的にやりたいことの提案が上がってくる組織が望ましいと考えている。業績が好調な企業というのは、やはり若手や現場が元気である。逆に、若手や現場が活力を失っている企業は、組織全体のムードも沈滞しがちであり、業績も芳しくない。とはいえ、若手社員があれをやりたい、これをやりたいと言っても、彼らはまだ能力的に十分成熟しておらず、確固たる価値観を持っていないケースがほとんどである。そこで、ミドル・シニア社員が登場し、能力と価値観の面で若手の思いを下支えする。こうしたスクラムがいくつも成立すると、企業は多様な戦略オプションを手にすることができる。

 なお、このステップの作業を効率化するために、やりたいこと、できること、価値観をあらかじめ類型化し、どのカテゴリに該当する社員が多いかを定量的に可視化したいという誘惑に駆られることがある。しかし、私はこうしたやり方をお勧めしない。手間はかかるが、社員の生の声をできるだけ丹念に拾っていき、「やりたいこと―できること―価値観」のセットを丁寧に織り上げることが重要である。というのも、やりたいことなどを類型化してしまうと、想定される事業機会が各カテゴリの組み合わせの数に限定され、創造的なアイデアが出てこないからである。

 ③事業機会の選択
 ②で抽出した事業機会のうち、企業としてどれに取り組むかを絞り込む。外部環境アプローチでは、PEST分析をカスタマイズしたPET分析を用いたが、内部環境アプローチでは、J・B・バーニーの「VRIOフレームワーク」を用いるとよいだろう。

 ⅰ)Value(経済価値に関する問い)
 その企業の保有する経営資源やケイパビリティによって、その企業は外部環境における脅威や機会に適応することが可能となるか?
 ⅱ)Rarity(希少性に関する問い)
 その経営資源をコントロールしているのは、ごく少数の競合他社のみか?
 ⅲ)Inimitability(模倣困難性に関する問い)
 その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するか?
 ⅳ)Organization(組織に関する問い)
 企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか?

 通常、VRIOフレームワークを用いる際には、主に組織能力を経営資源の中心として評価するが、内部環境アプローチにおいては、経営資源として価値観も重視するべきである。つまり、その価値観は市場や顧客に向けた価値の創造に貢献するか?その価値観を醸成している企業は希少であるか?その価値観を模倣・学習するのは困難であるか?その価値観を活用する組織的な方針や手順は整っているか?といった問いにも答えていく。

 ④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ⑤ビジネスモデルのデザイン
 これらは外部環境アプローチと同じである。

 ⑥ビジネスプロセスのデザイン
 外部環境アプローチとの違いは、まず、③で絞り込んだ「やりたいこと―できること―価値観」セットの価値観を共有価値観として、ビジネスプロセスのあるべき姿をデザインする際の基本的な方向性に含めるという点である。ここで価値観とビジネスプロセスを結びつけておくことで、強固な組織文化に支えられた事業を展開することが可能となる。

 また、外部環境アプローチでは、求められる成果を最も効果的・効率的に上げられるビジネスプロセスをデザインし、効率性、生産性を重視した上でそれぞれの社員に割り当てる仕事の単位を決めていくが、内部環境アプローチでは社員のモチベーションアップに配慮しながらビジネスプロセスを決めていく。モチベーションが上がる仕事の要件は、以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」でも書いたように、

 ⅰ)顧客からのフィードバックがあること
 ⅱ)一定の裁量を与えられていること
 ⅲ)複数の能力を使わなければならないこと
 ⅳ)能力のストレッチが要求されること
 ⅴ)周囲の社員との協業が必要であること

の5つである。よって、本来は生産性を重視して職務を専門化した方がよいところを、敢えて複数の仕事を同じ人にやらせたり、敢えて同僚や他部門との協業が必要となるように仕事の境界線を調整したり、顧客(社内顧客を含む)からのフィードバックの機会を多く設けたりする、といった工夫を施すこととなる。短期的な効率性は犠牲にされるかもしれないが、中長期的には社員のモチベーションアップと企業の業績向上を両立させることができるに違いないと考える。

 ⑦施策の投資対効果の試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書、貸借対照表のシミュレーション
 これらも外部環境アプローチと同じである。⑧を通じて、今回選択した戦略が①の最低到達目標をクリアしていることを確認する。

 ⑨不足する人材の採用
 たいていの場合、今回選択した戦略を実現し、⑦の施策を実行するには、現有の社員だけでは社員が不足することが明らかになる。その場合には、新しい人材を採用しなければならない。この点は外部環境アプローチでも同様である。外部環境アプローチの場合は、企業に不足している能力を保有している人材をピンポイントで採用するのに対し、内部環境アプローチの場合は、敢えてダイバーシティを重視する。後述するように、ダイバーシティが新しい戦略を構想する上での源泉となるからである。とはいえ、野放図に採用すればよいわけではなく、新卒採用の場合は基本的な性格が備わっているか、中途採用の場合はその人の価値観が自社の共有価値観と合致しているか、という点は見極めておきたい(新卒作用で性格を、中途採用で価値観を重視する理由については、以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)。

 ⑩継続的な戦略的組織学習
 ⑨で新しい人材が入ってくることにより組織構成が変わるため、①の最低到達目標が変化する。また、⑨でダイバーシティを重視し、多様な意思、能力、価値観を持った人を採用したため、企業の「やりたいこと―できること―価値観」セットに変化を及ぼす可能性が生まれる。よって、企業は①の最低到達目標を再計算した上で、主に新しく入社した社員を対象にキャリアコンサルティングなどを実施し、②の「やりたいこと―できること―価値観」セットの洗い出しをやり直さなければならない。そして、③~⑨のプロセスを踏む。その後も、企業は新しく人材を採用する度に内部環境アプローチのプロセスを一からやり直す必要がある。つまり、企業は継続的に戦略的組織学習を行わなければならないということである。

 上記はまだラフなアイデアの段階にとどまっている。私の今後の課題は、上記の一連のプロセスをさらにブラッシュアップさせるとともに、外部環境アプローチと内部環境アプローチを統合した総合的な戦略立案プロセスを構築することである。

2015年05月05日

『IoTの衝撃(DHBR2015年4月号)』―IoTのシステムとクレジットカード・電子マネーシステムの共通点について


ダイヤモンドHarvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 04 月号 [雑誌]ダイヤモンドHarvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 04 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-03-10

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 2005年5月5日にブログを開設してからちょうど10年になりました。旧ブログ現ブログブログ別館合わせて約1,600本、300万字超の記事を書いてきました。10年かかってようやく文章の書き方や学習の仕方が少し解った気がします。もう5月だというのに『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年4月号(発売は3月)のレビューを書くというマイペースぶりですが、今後も自分のペースでブログを続けたいと思いますので、変わらぬご愛顧をどうぞよろしくお願いいたします。
 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に関する特集。IoTとは、「コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと」と定義されている(e-Wordsより)。IT業界におけるもう1つの流行であるビッグデータと結びついて、インターネットにパソコンやスマホ以外のあらゆるモノを接続して様々なデータを幅広く収集し、その分析・活用を通じて顧客に新しい価値を提供しようとする動きであると解釈している。

 マイケル・ポーターの30ページに及ぶ長い論文が収録されていたのだが(マイケル・ポーター、ジェームズ・E・ヘプルマン「『接続機能を持つスマート製品』が変える IoT時代の競争戦略」)、正直に言うと退屈だった(苦笑)。マイケル・ポーターの十八番であるファイブ・フォーシズ・モデルを用いたIoTの分析では、「IoTによって機会も生まれるし脅威も生まれる」という当たり前の結論しか出てこなかったし、IoTをどのように戦略に反映させるかという点に関しては、煮え切らない選択肢を示しただけの印象を受けた。30ページも費やす必要はなかったように思える。

 IoTによって、モノの供給企業はまず、顧客のコスト削減を目指すだろう。最も手っ取り早い方法は、顧客に導入したモノの情報を収集し、適切な保守やメンテナンスを提供して、モノの寿命を伸ばす、というものだ。例えば、コマツは顧客に導入した建設機械をネットワークで管理し、車両情報を顧客に無償で提供している。しかし、一般的に、顧客にとってのコスト減は、企業にとっての売上減を意味する。よって、コマツの真似をする企業側はあまり現れないかもしれない。

 もう1つのコスト削減の方法は、モノに投入される資源(原材料やエネルギー)を節約する、というものである。東日本大震災以降の電力不足によって注目されるようになったスマートエネルギーシステムは、家庭や工場設備で消費される電力を管理し、電力消費の効率化を目指している。だが通常、顧客が消費する資源は、顧客に納入したモノ(機械設備など)とは金額の桁が大きく異なる。仮に、顧客が節約できたコストの一部をモノの供給企業が報酬として受け取るとしても、自社が販売するモノの価格よりは小さく、自社の収益モデルと合わない可能性がある。

 だから、IoTによって顧客への付加価値を高めようとする企業は、コスト削減だけではなく、モノの稼働率向上による売上増を提案しなければならない。
 GEが提案したのは、従来とは異なるシナリオである。このシナリオによると、エーオン(※ドイツ電力・ガス最大手)はすべてのタービンをソフトウェアで結びつけて、動的管理とリアルタイム分析を実現する仕組みを構築する。それによって、風力タービンを追加購入して発電能力を増やすよりも少ない支出で、需要に応えることができるのだ。

 一方GEは、タービンをはじめとする風力発電機器に搭載したセンサーから有益なデータを取り出し、その情報を機器性能の最適化や効率的な稼働・保守に活かすことで価値を創造する。そして性能向上によって顧客が得た利益の一定の割合を請求し、価値を回収する。つまりGEが販売する機器の数は減るが、長期的な互恵関係が構築されるのである。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカニー「製品価値からサービス価値への転換 GEが目指すインダストリアル・インターネット」)
 ここで問題になるのは、IoTのネットワークをどこまで広げるか?ということである。より精緻な分析による生産性向上を提案するならば、自社が納入したモノに関するデータだけでは足りない。顧客は、自社が納入したモノに、他の供給企業から調達した様々なモノをつないで使用している。顧客のシステム全体を最適化するならば、他社のモノの情報も取得する必要がある。

 かといって、供給企業は無制限にIoTのネットワークを広げることはできない。少なくとも、自社にとって直接の競合他社のモノをネットワークに招き入れることはない。仮に自社のIoTシステムによって、自社のモノを使用するよりも競合他社のモノを使用した方が稼働率や売上高が上がるという結論が出てしまったら、自社はシステム開発の費用を負担した上に顧客を失うという悲惨な結果を招く。だから、GEは自社のシステムにシーメンスや日立を入れることはあり得ない。

 自社のIoTシステムに、自社のモノに隣接する関連企業を招き入れる際にも同じ理屈が成り立つ。関連企業は、IoTシステムに自分の競合他社が加わるのを嫌う。なぜなら、競合他社に顧客が流れる可能性が出るからだ。IoTシステムの親元としては、顧客にとっての選択肢を増やし、システムの精度を上げるために、関連企業を数多くシステムに参入させたい。しかし、それだと関連企業が1社も参入してくれず、システムが破綻する。よって、IoTシステムの親元は、自社と関係の深い関連企業を慎重に選びながらシステムに参入させることになる。

 こうしてでき上がるIoTシステムは、クレジットカードや電子マネーのシステムと極めて類似したものになる。クレジットカードや電子マネーの発行元は、顧客を囲い込むために、加盟店を限定している。全ての店舗で使用できる電子マネーというのは存在しない。T-POINTは様々な業界から加盟店を集めているが、1業界から加盟できるのは1企業に限定されている。T-POINTカードは、ファミリーマートだけで利用できるからファミリーマートにとって意味があるのであって、セブンイレブンでも使えるようになってしまったら、ファミリーマートはうまみを失う。

 そして、クレジットカードや電子マネーの種類が年々増えていくのと同様に、IoTシステムも当面は様々な企業のシステムが乱立した状態になるだろう。我々がクレジットカードや電子マネーカードを何枚も財布に入れているように、顧客はいくつものIoTシステムを同時に使わなければならない。顧客からすれば、モノの供給企業から利便性が高まると言われてIoTシステムを導入したのに、かえって利便性が悪くなるという事態になるかもしれない。

 あらゆる企業を取り込んだオープンなIoTシステムを作れるのは、モノから完全に独立したIT企業しかない。ちょうど、普遍的な価値を持つ紙幣を作れるのは、あらゆる購買から独立した中央銀行だけであるのと同じである。例えばグーグルやIBMなら、特定のモノの供給企業との関係を考慮する必要がない。よって、彼らがIoTシステムで工場やオフィスを丸飲みして、売上増につながるソリューションを提供するようになるかもしれない。モノの供給企業がせっせとIoTシステムを構築しても、IT業界の巨人がそれを一気に駆逐してしまうことは十分に考えられる。

2014年05月17日

『アナリティクス競争元年(DHBR2014年5月号)』―ビッグデータの方向性とアブダクションの重要性


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 05月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 05月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2014-04-10

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 (前回からの続き)

 (2)「ビッグデータによる競争は終わった アナリティクス3.0」(トーマス・ダベンポート)/
 「根拠に基づく意思決定の文化をつくる つまるところビッグデータは不要かもしれない」
 (ジャンヌ・W・ロス、シンシア・M・ベアス、アン・クアードグラス)

 相反する内容の論文を同じ特集の中に入れるという、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』がたまにやる”読者への試練”である。前者の論文は、ビッグデータによる競争はアナリティクス2.0であり、これからはそれを超えたアナリティクス3.0が必要だと主張する。

 これに対して、後者の論文は、はっきりとそう書いているわけではないが、企業には既存システムによって収集されるデータを活用する余地がまだ十分に残されている、と言いたげだ。これだけ情報チャネルが多様化している現在において、敢えて「情報のソースを1つに集約せよ」と提言しているのは、そういう意図だろうと私は解釈した。単一の情報ソースに頼るのは、トーマス・ダベンポートの言葉を借りれば、古典的なアナリティクス1.0となるに違いない。

 私も、どちらかと言うと後者の論文に賛同する。情報が増えれば意思決定の質が上がるわけではない。経済学者ハーバード・サイモンは、1971年に「情報は受け手の注意力を衰えさせる。このため、大量の情報は注意力の欠如を引き起こす」と記したそうだ。コンサルティングの現場で感じた私の印象だが、単一のシステムに限定しても、その中の情報を十分に分析・活用できている企業は一握りである。生産管理システム、在庫管理システム、販売管理システム、CRMシステム、SFAシステム、SCMシステム、そしてこれらのシステムを統合するERPシステムなど、どのシステムをとってみても、その中の情報から有益な示唆を導き出せる可能性は大いにある。

 単一のシステムでアナリティクスの”訓練”を積まないまま、ビッグデータに飛びついたとしても、組織は混乱するだけだろう。組織には、使う価値があるのかないのか解らないデータが、あらゆる情報チャネルから流入する。アナリストはそれを高度な解析にかけて、現場にフィードバックする。ところが、統計的な知識に乏しい現場の社員は、解析結果をどのように活かせばいいのかわからない。こういう事態は容易に想像がつく。アナリストが大量にばらまく解析結果の中には、非常に有益なものもあるだろう。だが、現場の社員は、それ以外の大量のゴミデータを受け流して、有益な情報が手に入るのを待つだけの寛容さを持っていなければならない。

 ただ、アナリティクス3.0も、全く無用なコンセプトというわけではないと思う。ダベンポートによれば、アナリティクス3.0とは、「顧客が購入する製品とサービスに『データ・スマートネス』(データ収集・分析機能)を組み込もうという新たな決意」である。データ・スマートネスによって、顧客が製品・サービスをどのように利用しているのかについてデータを取得し、保守・メンテナンスの適切なタイミングを把握したり、製品・サービスの品質改善に役立てたりするのだという(論文では、GEの事例が紹介されている。日本で言えば、コマツの「KOMTRAX」がこれに近い)。

 しかし、これはあくまでも企業側の都合によるものである。顧客の立場に立てば、「製品・サービスに『データ・スマートネス』を組み込むことによって、顧客自らが製品・サービスの利用方法を工夫し、顧客の経験価値を高めることはできないか?」という問いを発するべきではないだろうか?そして、これは新たな差別化の方向性となりうる。この問いに対して的確に答えた事例がぱっと思いつかなくて恐縮なのだが、最近のスマート・グリッド構想において、家庭の電気使用量を可視化し、家電の電気消費を生活スタイルに合わせて最適化する、というのはこれに近いと考える。

 (3)「【インタビュー】消費者の心理はデータから読めるか データは構想に従う」
 (鈴木敏文)

 言い古されたことではあるけれども、「データは過去の延長線上で物事を考えるのに役立つが、全く新しいことを起こそうとする場合には役に立たない」ということに改めて気づかされたインタビュー記事であった。製品・サービスの品質・機能改善や、マーケティング・ミックスの最適化などのように、現状を改善するケースでは、市場や顧客に関するデータを分析することが有益である。ところが、全く新しいイノベーションを考えている場合は、まだ市場や顧客が存在していないのだから、データを取得することは不可能だ。

 鈴木氏がセブンイレブンを作った時、周囲は大反対だったそうだ。「大型スーパーの時代を迎えており、小規模商店はどんどん潰れている」というのがその理由だった。ところが、鈴木氏はこう考えた。全てを大型スーパーにするのが消費者のニーズであるというのは考えにくい。伝統的な商店とは異なる形態の小型店で生産性を高めれば、消費者に受け入れられる、と。その後の結果は言わずもがなである。

 また、セブンイレブンにATMを入れる時も、周囲の大反対にあった。実は、鈴木氏はATMを使ったことがないらしい(妻に任せている)。それでも、次のように考えた。銀行の窓口は午後3時で営業を終えてしまい、その後はATMを利用することになるが、現在ほど遅い時間まで稼働していなかった。当時の人は、普段着でサンダル履きのまま街中の銀行に行くのははばかられるという印象を持っていた。もしコンビニにATMがあれば、わざわざ街に出なくても、ちょっとした買い物に行くついでにお金を下ろすことができる。コンビニが24時間営業していれば、真夜中でも、風呂上がりに部屋着を着たままでも気軽に行ける。以上のような推論から、ATMの導入を決断した。

 鈴木氏の直観的な推論は、「アブダクション」と呼ばれるものだ。推論には、個別の事象を1つずつ拾い上げて一般論を導き出す「帰納法」と、一般論から個別の事象を説明する「演繹法」の2つがあるが、「アブダクション」はその中間に属する第3の推論である。

 アブダクションは、限られた数の事象から一般論を導くという点で、全ての個別事象をすくい上げる帰納法とは異なる。限定的な事象から仮説を設定しているため、大きく外れることもあるが、当たれば誰も気づかなかったルールを確立することができる。優れたイノベーターや科学者は、アブダクションに長けていると言われる。ビッグデータによって誰もが同じような情報を入手できるようになった今、競合他社を大きく引き離すカギはアブダクションにあるのかもしれない。




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