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DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他
『南シナ海・人民元―中国の野望、日本と世界の岐路/沈黙は敗北だ 「中国というアンモラル」に世界が覆われる前に/パリ同時多発テロの衝撃(『正論』2016年1月号)』
平成27年度補正ものづくり補助金の概要について

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年04月18日

DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)

ダイヤモンド社 2018-04-10

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 (1)
 車運転をする世界中の人々が、自動運転の恩恵によって1時間を自由に使えるようになった場合、この膨大な商業的機会を活かすのは、どのような企業だろうか。真っ先に名前が挙がるのは、アルファベットやアップルのようなハブ企業である。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ「グーグル、アップル、アマゾン、アリババ・・・ ハブ・エコノミー:少数のデジタル企業が世界を牛耳る時代」)
 《参考記事》
 「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)
 『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)

製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 「ハブ企業」とはプラットフォーム企業と言い換えてよいだろう。上図については《参考記事》を参照していただきたいが、プラットフォーム企業は元々左上の<象限③>で生まれたものである。<象限③>は多産多死のイノベーションの世界である。イノベーターは自分が愛するイノベーションを何とかして世界中に普及させたがっており、そのためなら自分がお金を払ってもよいとさえ思っている。こうしたイノベーターのニーズに目をつけて、多数のイノベーターを束ねてプラットフォームを形成し、世界中の顧客に対してイノベーションの選択肢を提供するようになったのがプラットフォーム企業である。Amazonは書籍や音楽、GoogleとAppleは音楽やスマホアプリの分野でプラットフォームを提供している。スマホアプリの例で言うと、本来GoogleやAppleはスマホアプリの仕入れ側であるから、アプリ開発者に対してお金を払わなければならないはずだ。ところが、両社はアプリ開発者からお金を取ることに成功している。

 このプラットフォームが、近年は<象限①>や<象限②>にも浸透し始めている。というのも、世界的な供給過多により、サプライヤは先のイノベーターと同様に、自社の製品・サービスを購入してもらうためなら自らお金を払ってもよいと考えるようになってきているからだ。こうしたサプライヤのニーズに最もよく対応しているのがAmazonである。Amazonの品揃えは今や書籍、音楽、映像、ゲーム、家電、家庭用品、アパレル、ベビー用品、食料品にまで広がっている。

 <象限②>について言えば、IoTによるプラットフォーム企業が登場するだろう。自動車を例にとると、今までは自動車が故障したら、修理工場は適切な部品を見繕って修理を行っていた。だが、自動車にIoTが搭載されれば、修理やメンテナンスの際にはIoTに対応した部品と交換される。これは、部品メーカーにとっては、IoTのプラットフォームに載っていなければ、大きな商機を失うことを意味する。その商機を逃さないために、部品メーカーはプラットフォーム企業(おそらくは自動車メーカーであるが、Googleもこの座を狙っている)にお金を払ってもよいと考える。

 冒頭の引用文に戻ろう。プラットフォーム企業(ハブ企業)は、自動運転によって手が空いた1時間だけを狙っているとは考えにくい。手が空いた1時間でできることと言えば、アプリでゲームをするか、映画やドラマを観るぐらいのものであろう。それでは大した商機にならない。プラットフォーム企業の真の狙いは次の文に現れていると思う。
 両社(※アルファベットやアップル)はすでに、地図や広告網のようなボトルネック資産を大規模に展開しており、車内にいる人にふさわしいばかりか現在位置にも適した、極めて的を射た広告を表示する準備を整えている。自動運転車に当然のように装備すべきアドオン機能は、表示された広告を見て「この店に行きたい」と思った時に押す、「ここへ行く」ボタンである(カーナビアプリのWazeはすでにこれを実現している)。ボタンを押すと、表示された場所へ向かうよう車に指示が出される。
 「OK Google、この近辺でおいしいお店を教えて?」と尋ねると、自動運転車にインストールされているアプリが、データベースに蓄積された口コミ情報と広告主が支払った広告料を総合して、レストランを一覧表示する。また、自動運転中は、位置情報を参考に、同じく口コミ情報と広告料を総合して、「この近くに○○が安いお店があります。寄りますか?」と提案する。ユーザがどのお店を選択したかによって、GoogleのAIは賢くなり、ユーザに対してより最適な提案ができるようになる。こんな世の中が到来するであろう。飲食店などの企業は、Googleのプラットフォームに載っていればユーザに紹介されるが、載っていなければ完全に無視される。さらに、プラットフォームを通じてユーザに提案される回数を増やすためには、広告料を払う必要がある。

 「Google Home」や「Amazon Echo」が登場した時、個人的には「何だこれは?」と思ったが、スマートスピーカーは来るべき自動運転時代のプラットフォームを握るための壮大な実験と考えれば納得がいく。Googleなどは、スマートスピーカーに対してユーザがどのような質問をするのか、どのような回答をするとユーザの満足度が高いのか、満足度を上げるためにはアルゴリズムをどのように改善すればよいのか、広告料は取れるのか、取れるとしたらいくらぐらいが妥当なのか、といったことを調査しているのではないかと考える。

 (2)
 お仕着せの企業戦略のほとんどが、社風として根付いた慣習や姿勢と相容れない。経営幹部は、社風との相性次第で戦略の効果がどれほど違ってくるかを、甘く見積もっているのだろう。戦略よりも社風のほうが、常に大きな力を発揮するのだ。
(ジョン・R・カッツェンバック、イローナ・シュテフェン、キャロライン・クロンリー「組織文化こそ競争力の源泉 社風を活かして変革する企業」)
 《参考記事》
 【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見(戦略立案の外部環境アプローチ)
 DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)

 戦略を立案する際には、企業文化をそれと整合させることが必要だということである。新しい戦略は、既存の企業文化とぴったり整合性が取れているのが最も望ましい。しかし、そのようなケースは稀であり、多くの場合は新しい戦略が企業文化に対して変革を求める。この点を考慮しないと、せっかくの新しい戦略が企業文化によって足を引っ張られることになる。上記の《参考記事》で、戦略立案の外部環境/内部環境アプローチについて整理してみたが、企業文化の観点がすっぽりと抜け落ちていることに気づき、反省した。そこで、手始めに外部環境アプローチの中に企業文化の変革を組み込んでみたいと思う。

 外部環境アプローチは、以下の8ステップで構成される。
 ①事業機会の抽出と選択
 ②ターゲット顧客・差別化要因の決定
 ③戦略目標の設定
 ④CSFの特定
 ⑤ビジネスモデルの設計
 ⑥ビジネスプロセスの設計
 ⑦施策の投資対効果試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書の作成

 企業文化について問う必要があるのは、⑥のビジネスプロセスの設計が終わった段階である。⑤のビジネスモデル、⑥のビジネスプロセスを見て、これらの実現に必要な企業文化とは何かと問う。この問いが抽象的であると感じるならば、「このビジネスを実現するために、我が社の社員が重視すべき価値観・行動規範は何か?」と問うとよい。協働が盛んである、革新性が高い、能力主義が徹底している、リスクを取る、品質を重視するなど、様々な答えが出るだろう。その上で、現在の企業文化についても振り返る。すると、望ましい企業文化と現在の企業文化のギャップが見えてくる。このギャップが大きいほど、新しい戦略の実行は困難になる。

 企業文化は定性的で多義的であるため、実際にはギャップを見つけようとしてもなかなか難しい。そこで、ギャップを発見する1つの手助けとなり得るのが、ボリス・グロイスバーグ、ジェレミア・リー、ジェシー・プライス、J・ヨー=ジュド・チェン「社風を変えるうえで知っておくべき8つの特性 変革は企業文化に従う」で紹介されている企業文化の8類型である。同論文では、「柔軟性―安定性」、「独立性―相互依存性」という2軸でマトリクスを作り、企業文化を8つのタイプに分けている。この8つは、お互いに距離が近いほど変革が容易であることを示している。例えば、「目的意識」が強い企業が「学習」重視の企業文化に変化するのは簡単である。一方で、「楽しさ」を重視する企業が「秩序」を重視する企業に変化するのは非常に困難を伴う。

企業文化の8類型

 企業文化のギャップが大きいことが判明した時、取り得る選択肢は2つある。1つは、企業文化のギャップが大きいと解っていても新しい戦略を遂行する場合である。自社が競合他社からの激しい攻撃にさらされていたり、技術革新によって業界全体が大きく様変わりしようとしていたりして、その戦略を実行しなければ生き残りが難しくなるようなケースがこれにあたる。ただし、その場合でも、いきなり企業文化の大変革を目指すのではなく、段階を踏む必要がある。例えば、「楽しさ」を重視する企業を「秩序」を重視する企業へと変革する場合には、いきなり「秩序」を目指すのではなく、まずは「権力」を目指す。その上で、「秩序」を目指すといった具合だ。

 そして、「楽しさ」を重視する企業が「権力」を重視する企業へと生まれ変わるには、経営陣や社員がどのような行動を取るべきかと問う。バーゲニングパワーを行使して取引先に対する交渉力を強化する、マネジャーの権限を拡大する、トップ主導で営業方針を現場に浸透させる、などといったものが出てくるだろう(ちょうど、現場の裁量に任せて自由に仕事をさせていたベンチャー企業が、企業の成長に伴って組織の仕組みづくりをしなければならない場面を思い浮かべていただくとよい)。そうしたら、⑤ビジネスモデルの設計、⑥ビジネスプロセスの設計に立ち戻って、これらの行動を意図的にビジネスモデルとビジネスプロセスに反映し、修正する。

 企業文化のギャップが大きい場合にとり得るもう1つの選択肢は、①に戻って事業機会の選択をやり直すことである。自社の既存の文化との親和性がより高いと思われる事業機会へと切り換えるわけだ。本当は、①事業機会の抽出と選択の段階で、企業文化とのギャップの大きさが解るとよいのだが(前述のリンク先の記事ではPEST分析を簡略化したPET分析を用いている)、事業機会だけを見て、その事業を支える企業文化とは何かを見極めるのは至難の業である。ビジネスモデルやビジネスプロセスを具体的に描いてみて初めて、必要な企業文化が明らかになるものである。よって、大幅な作業のやり直しとなるが、この方法が最善であると考える。

 ただし、あまりに既存の企業文化との整合性を重視すると、結局のところ既存文化との親和性が高いのは既存事業であるということになって、何も変化が生まれなくなる。既存文化を尊重しつつも、新しい戦略の実行にはある程度企業文化の変革が伴うと腹をくくる必要がある。この場合でも、⑥ビジネスプロセスの設計が終わった段階で、前述のように新しいビジネスモデルやビジネスプロセスを下支えする企業文化は何かと問い、既存文化とのギャップを分析して、ギャップを埋めるための新しい行動をビジネスモデルとビジネスプロセスに組み込んでいく。

 以上が、戦略立案の外部環境アプローチに企業文化の変革を埋め込む方法の素案である。重要なのは、一足飛びに新しい企業文化を構築しようとしないことである。慣れ親しんだ行動を変えるのは簡単ではない。行動は少しずつ変えていく。上記のアプローチで言えば、まずAという文化を築きaという行動を習得するために、こういうビジネスモデルやビジネスプロセスにする。次にBという文化を築きbという行動を習得するために、こういうビジネスモデル、ビジネスプロセスにする・・・こうした漸次的変化を繰り返すことで、本来実現したかった戦略を最終的に達成する。これを「漸次的変革」と呼ぶことにしよう。少しずつ変化を繰り返した結果、後から振り返ると、以前とは全然違う姿に生まれ変わっていたという状態である。私も一介のコンサルタントとして、お仕着せの戦略ではなく、こういう粘り腰の戦略を作らなければならないと覚悟した。

2016年01月27日

『南シナ海・人民元―中国の野望、日本と世界の岐路/沈黙は敗北だ 「中国というアンモラル」に世界が覆われる前に/パリ同時多発テロの衝撃(『正論』2016年1月号)』


正論2016年1月号正論2016年1月号

日本工業新聞社 2015-12-01

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 まず、日本も同じことをしてほしい。日本は、CIAもそうですが、全米民主主義基金のようなものも持つべきでしょう(National Endowment for Democracy. レーガン政権時代の1983年に「他国の民主化を支援する」ため設立された基金。アメリカ議会が出資。注)。ない、ということは驚くべきことではありませんか。アメリカの基金の場合、年間予算は1億ドル、中国や香港でのオペレーションも含まれます。日本になぜないのか理解できません。
(マイケル・ビルズベリー、島田洋一「《対談》邦訳もベストセラー、『100年マラソン』著者の忠告 日本には知らせなかった 世界覇権を狙う中国にアメリカが甘い本当の理由」)
 アメリカにはそんな基金があるのかと新たな発見であった。アメリカは自由、平等、基本的人権、市場原理、資本主義といった普遍的価値を他国でも実現させようとしている。そのためには、社会・経済システムに介入し、政権を転覆させることもいとわない。アメリカはインテリジェンスに多大な投資をしている。ただ、アメリカの狙いは、各国の民族性、歴史、風土、文化、社会などの特徴に応じて、その国にフィットした政治・経済体制をカスタマイズすることではないように思える。各国の現状を詳細に把握した上で、アメリカという確固たる理想にジャンプさせるために、どのような方策が有効なのか、方策の方をカスタマイズするのが目的である。

 アメリカがインテリジェンスに多大な投資をするのは、ビジネスにおいても同じである。最近は、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)などが話題だ。ただし、ここでもアメリカ企業の目的は、顧客のニーズに応じて製品・サービスを細かくカスタマイズすることではないと感じる。例えば、GEは航空機のエンジンにセンサーを内蔵して、稼働状況をモニタリングし、運用・保守サービスを最適化したり、リプレースの時期を的確に見極めたりしている。いわゆるIoTの仕組みである。GEの目標は、顧客企業を囲い込んで、エンジンの売上高を増加させることに他ならない。

 確かに、AmazonやYoutubeなどのように、顧客情報を活用して製品・サービスをカスタマイズしている例があるのも事実である。しかし、見方を変えれば、両社は高度なアルゴリズムによって、本を購入するならAmazon、動画を見るならYoutubeと顧客に思わせる、すなわち、他のネットサービスを排して、AmazonやYoutubeというプラットフォームから顧客が逃れられないようにしようという意図を感じる(ここまでの内容は、以前の記事「『意思決定の罠(DHBR2016年1月号)』―M-1のネタ見せ順と順位に関係はあるのか再検証してみた、他」を参照)。

 だが、日本が同じようなことをすると大失敗するように思える。アメリカですら、上記のような価値観の押しつけは失敗に終わっているという指摘がある。
 しかし、まさにイラク戦争の失敗はアメリカが「共有する価値観」と思っていたものが、中東の地でも実現可能だと信じてしまったことから生じたのではないのか。しかも、こうした「価値観外交」の結果としてイラクに無秩序をもたらし、ひいては「イスラム国」を生み出してしまったのではないのか。
(東谷暁「パリ同時多発テロ批判に思う」)
 日本はそもそも、アメリカのように理性の働きによって普遍的な理想をデザインすることが苦手である。自分が経験したこと、見聞きしたことをベースに、”望ましいと思われること”を構想する。逆に、見たこともないことを情報によって認識することが非常に弱い。だから、日本ではインテリジェンスが発達しない。日本人の構想は、その人を取り巻く環境、周囲の人々との関係の性質、本人の性格や考え方などによって制約されている。だから、普遍性がないのである。

 以前の記事「麻生太郎『自由と繁栄の弧』―壮大なビジョンで共産主義を封じ込めようとしていた首相」で、麻生太郎氏が日本から東ヨーロッパにかけて、自由、民主主義などの共通の価値観で結ばれた国々からなる「自由と繁栄の弧」を形成しようとしていることを書いた。また、第2次安倍政権は「価値観外交」を掲げて、価値観を同じくする国とのリレーション強化に努めた。当時は素晴らしい外交だと思っていたが、どうもそんなに簡単な話ではなさそうだと思い直した。

 日本が自らの構想を他者に押しつければ、絶対に軋轢が生まれる。仮に、以前の記事「イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人と中国人』―「南京を総攻撃するも中国に土下座するも同じ」、他」で書いたことが日本人の本質であるとすれば、日本は外交するたびに相手国を攻撃するか、相手国に土下座するかのどちらかである。すなわち、日本の構想を受け入れない相手国を力づくでねじ伏せて反撃を食らうか、構想を押しつけることをあきらめて相手国の現状に追従するかのどちらかである。いずれの道をとっても、日本は手痛いダメージを負う。

 日本人は、インテリジェンスに弱い反面、対象をじっくりと洞察することに長けている。近年、マーケティングの分野で「エスノグラフィー(文化人類学)・マーケティング」が注目されている。これは、文化人類学者のように、何の先入観も持たずに相手を観察し、相手の潜在ニーズを発見するものである。これは日本企業なら昔からやっていたことだ。アメリカがエスノグラフィー・マーケティングに注目するのは、彼らがインテリジェンス重視であったことへの反省の表れである。

 日本は外交の場でも、エスノグラフィックな対象の把握に努めなければならない。日本自身の限られた経験から導かれた構想を崇高な理想として絶対視してはならない。代わりに、各国の民族性、歴史、風土、文化、社会などの特徴に応じて、その国にフィットした政治・経済体制の構築を支援する必要がある。しかも、アメリカが目指すような一足飛びの変化ではなく、漸次的な前進を目指すべきだ。アメリカは自らの理想を絶対に動かさないが、日本は観察された事実が増えるに従って、目標とする政治・経済体制を徐々に変質させても構わない。仮に、日本が日本民主主義基金なるものを設立するとすれば、こういう活動を目的とすべきであろう。

 話は変わるが、経営コンサルタントの仕事は、顧客企業のあるべき姿(To-Be)を描き、現状(As-Is)とのギャップを抽出して、ギャップを埋める施策を立案し、将来の業績を予測することであるとされる。かつての私は結構な理想主義者だったので、いったんあるべき姿を描いたら、それを絶対に動かさないところがあった。私の描く理想が100であれば、顧客企業の現状がcccだとしても、cccから半ば強引に100に持っていく方策を考えようとしていた。

 だが、100とcccは異質すぎて、簡単にはギャップを埋められない。それに、第三者的には100が望ましいように見えても、顧客企業はその100を居心地がよいと感じないかもしれない。顧客企業を取り巻く環境、ビジネスモデルの特徴、組織能力、組織構造、風土、人材の性質などを考慮すると、遠くて異質な100を目指すよりも、実は近くて類似のbbbに持っていく方が顧客企業にとっては望ましいことが多い、ということに最近気づいた。

 私も何だかんだで中小企業診断士の世界にもう8年近くいるのだが、8年もいると時折悪評が伝わってくる。大企業や総合商社のOBで、公的機関の専門家として登録されている診断士の中には、自分の経験を中小企業に押しつけてトラブルになる人がいるという。繰り返しになるが、大企業や総合商社での経験は企業特殊的経験であり、全く普遍性がない。そのことに気づかずに、自分が経験したやり方が一番だと勘違いしている人がいるようなのである。

 私も、そういう勘違いをした診断士に出会うことがある。ある家電メーカー出身の診断士数名と立て続けに仕事をする機会があったが、彼らはことあるごとに「私がいた会社ではこんなことは考えれない」、「私がいた会社ではこういうやり方をしていたのだから、そうするべきだ」などということを顧客企業の前で平気で口にする。もちろん、これも私の限られた経験なので、その家電メーカーの社員が皆同じように考えていると一般化することはできない。ただ、仮に類似の傾向が見られるならば、シャープ、東芝の次にダメになる家電メーカーはここではないかと心配になる。

2016年01月06日

平成27年度補正ものづくり補助金の概要について


工場

 2015年12月18日に経済産業省が公表した平成27年度補正予算の資料によると、平成24年度補正から4年連続で「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金)」が実施されるようだ。今回も平成26年度補正時とほぼ同額の予算(1,020.5億円)が計上されている。以前、官公庁関係者で補助金に詳しい人に話を聞いたところ、「同じ名前の補助金はだいたい3年で終わる」とのことだったので、今回の継続は意外であった。2017年4月には消費増税を控えているため、景気対策と銘打って平成28年度補正でもものづくり補助金が出るかもしれない。

 まだ公募要領も何も出ておらず、具体的な中身はよく解らないのだが、中小企業庁のHPにヒントとなる資料が1つアップされていた。「平成27年度補正予算「ものづくり・商業・サービス新展開支援事業」に係る事務局の募集を開始します」というページは、タイトルの通り補助金の事務局(事業計画の審査、補助金の支払い業務など、採択された中小企業の各種サポートを行う事務局。平成24年度補正~平成26年度補正ものづくり補助金では、全国中小企業団体中央会が受託)を公募するページである。その「公募要領」には次のような記載がある。
【補助対象経費と補助率】
 1.革新的サービス・ものづくり開発支援
  (1)一般型(補助上限1,000万円、補助率2/3以内)
   機械装置費、技術導入費、運搬費、専門家経費
  (2)小規模型(補助上限500万円、補助率2/3以内)
   機械装置費、原材料費、技術導入費、外注加工費、委託費、
   知的財産権等関連経費、運搬費、専門家経費、クラウド利用費

 2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援(補助上限3,000万円、補助率2/3以内)
   機械装置費、技術導入費、運搬費、専門家経費
 「1.革新的サービス・ものづくり開発支援」は従来から存在する類型である。これに対して、今回新たに加わったのが「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」であり、経済産業省の資料では「IoT等の技術を用いて生産性向上を図る設備投資等を支援」と書かれている。この場合は補助上限が3,000万円まで引き上げられる。

 「1.革新的サービス・ものづくり開発支援」の(1)一般型、「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」の補助対象経費を見ると、おそらく「設備投資のみ」が対象になると思われる。従来は(1)一般型の下に、さらに「試作開発+設備投資」と「設備投資のみ」という2つの類型があった。「試作開発+設備投資」を選択すると、試作開発に関連する様々な経費が補助対象となるのに対し、「設備投資のみ」を選択した場合は、対象費目が限定されるという違いがあった。上記で列挙されている経費は、従来の「設備投資のみ」で使用可能だった経費と一致する。

 個人的な印象だが、「試作開発+設備投資」の場合、導入する設備は試作用ということで小規模なものが選択されることが多い。量産に入ったら破棄しても構わないという小規模なものを購入する。量産段階になれば、量産用の大規模な設備を導入し直す(ただし、補助対象となるのは試作段階の設備のみであり、量産用設備は対象外)。他方、「設備投資のみ」の場合は、最初から量産を見据えて大規模な設備を導入する(1,000万円単位の工作機械など)。総じて、補助金と連動して動くお金は、補助対象費目が少ないにもかかわらず「設備投資のみ」の方が大きい。

 国としては、補助金の投入によってより多くのお金が動いてくれた方が景気の刺激になる。だから、「設備投資のみ」に誘導したい思惑があるのだろう。ところが、個人的に「設備投資のみ」には色々な問題があると感じている。その辺りは以前の記事「「新ものづくり補助金(中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業)」の運用改善に関する私案」、「「ものづくり補助金」の「機械装置費」に関する一考」でも書いた。簡単に言うと、「試作開発における技術的課題の解決を自社で主導的に行う企業を補助する」という補助金の目的に反して、課題解決を機械メーカーに丸投げしている企業が補助金を受け取ってしまう恐れがある、ということだ。

 今回は、「試作開発+設備投資」で1,000万円の補助金を受け取ることができないのかもしれない。「試作開発+設備投資」を行いたい場合は、「1.革新的サービス・ものづくり開発支援」の(2)小規模型を選択する。ただし、従来の小規模型は補助上限が700万円であったが、今回は500万円と減額されている。さらに、補助対象経費から直接人件費(常時雇用する社員の人件費)と雑役務費(試作開発のために臨時に雇用するパート・アルバイトの人件費)が外されている。ソフトウェア開発など、直接人件費がコストの大半を占めるIT企業にとっては非常に不利だ。

 最後に、今回追加された「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」について。最近注目のIoTに関連した類型である。経済産業省の資料では、「新たに航空機部品を作ろうとする中小企業が、既存の職人的技能をデータ化すると共に、データを用いて製造できる装置を配置」という例が挙げられている。だが、これはIoTでも何でもなく、ITを使った製造プロセス改善にすぎない。

 IoTはInternet of Things(モノのインターネット)というぐらいだから、顧客に納入される製品(モノ)自体にデータ収集の機能を持たせることが大前提となる。そして、そのデータを一元管理して、運用・保守サービスの最適化や、顧客の収益力向上に向けた提案を行うことが狙いである。経済産業省の例はIoTの定義に合致しない(この話を知り合いの中小企業診断士にしたら、「きっと『IoT等の技術を用いて・・・』の『等』に含まれる例なのだろう」と解説してくれた)。

 前述の通り、「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」は「設備投資のみ」が認められると思われる。とはいえ、IoT関連の新製品開発が、設備投資だけで可能になるとは到底思えない。大規模なサーバを購入すればIoTが実現できるわけではない。データ収集・通信機能を組み込んだ新製品の試作に必要な原材料費、製品に組み込むソフトウェアを自社で開発するための直接人件費、インターネット上で稼働させる管理ソフトを協力会社に委託する際の外注加工費、データ収集・解析方法に関する知的財産権等関連経費など、様々な費目が必要になることは容易に想像がつく。先ほどの定義の話といい、どうも経済産業省の考えていることはよく解らない。




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