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【JETRO】タイ投資シンポジウム―アジアの次世代ハブを目指して(シンポジウムメモ書き)
【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)
「MSCマレーシア・ステータス」の概要(「マレーシアにおけるICT分野での投資・ビジネス機会セミナー」より)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年07月28日

【JETRO】タイ投資シンポジウム―アジアの次世代ハブを目指して(シンポジウムメモ書き)


タイシンポジウム

 JETROが主催する「タイ投資シンポジウム―アジアの次世代ハブを目指して」に参加してきた。以下、シンポジウムの内容のメモ書き。

 タイ政府は長期的な国家計画として、6つの領域、6つの主要戦略、そして4つの補強戦略から構成される「国家戦略20年計画(6-6-4 計画)」を打ち出している。「6つの領域」とは、

 ①安全保障
 ②国の競争力強化
 ③人材育成
 ④社会的平等
 ⑤グリーン成長
 ⑥不均衡是正および公共セクターの開発

 「6つの主要戦略」とは、

 ①人的資源の能力の向上と開発
 ②公正の保証と社会的格差の縮小
 ③経済強化と持続可能な手段による競争力強化
 ④持続可能な開発に向けたグリーン成長の促進
 ⑤発展と持続可能性を目指す国家開発に向けた国の安定化
 ⑥公共部門管理の効率化及び良好なガバナンスの推進

 「4つの補強戦略」とは、

 ①インフラ整備と物流システム
 ②科学技術、研究、イノベーション
 ③都市、地方、経済区域の開発
 ④国際的開発協力

である。タイでは2017年4月6日に新憲法が発布され、この国家戦略の内容も盛り込まれている。今後、8か月かけて関連法律を整備し、2018年末までに総選挙を行う予定である。タイは現在軍事政権であるが、徐々に民主主義に戻りつつある。

 そのタイが現在打ち出しているコンセプトが「タイランド4.0」というものである。国家経済社会開発庁(NESDB)によれば、これまでの発展は次の3段階に区分される。第1段階(1.0)は農村社会であり、家内工業が中心となった時代で、いわば工業化以前のタイである。第2段階(2.0)は、戦後の天然資源や安価な労働力を活用した軽工業をテコに成長した時代である。そして第3段階(3.0)は外資企業の進出をテコにした重化学工業が中心となった1980年代後半から現在までの期間を指す。そして、第4段階(4.0)が「タイランド4.0」で、「イノベーション」、「生産性」、「サービス貿易」をキーワードとして持続的な付加価値を創造できる経済社会と定義された。

 2017年2月15日、バンコクで「オポチュニティ・タイランド」と名付けた大規模な投資セミナーが開催された。セミナーの冒頭で、プラユット首相は「タイランド4.0」を説明すると同時に、その実現に資する外国企業の投資に過去最大の優遇措置を付与する新投資戦略を明らかにした。バンコク東部に位置するチョンブリ県、ラヨン県、チャチュンサオ県の3県を「東部経済回廊(EEC)」として、大規模な投資優遇策を伴いながら、積極的に開発を進める方針を打ち出した。







 これらタイ湾東部地域は約30年前から開発が進み、現在では石油化学、自動車産業が集積している。自動車産業が集積した、チョンブリー県のレムチャバン港を中心とした地域は「東洋のデトロイト」と呼ばれる。タイ政府は今後5年間で、同地域に1兆5,000億バーツ(約430億ドル、約4兆8,000億円、1バーツ=約3.2円)の投資を官民で行い、地域のさらなる発展を図る。

 <空港や港湾整備など5プロジェクトを優先>
 ウタマ・サバナヤナ工業相は、先に触れた2月15日開催のセミナー「オポチュニティ・タイランド」で、現在EEC地域で開発が計画されている15プロジェクトのうち、2017年に開始する優先順位の高い、以下の5プロジェクトを発表した。

 ①ウタパオ空港・・・投資額は2,000億バーツ(約57億ドル)。現在の滑走路の東側に新たな滑走路を整備する。さらに、旅客ターミナル、商業施設、自由貿易区域、メンテナンス・修理施設、航空産業向け研修施設を新設する。

 ②レムチャバン港開発(第3期)・・・投資額は880億バーツ(約25億ドル)。PPP方式で開発し、世界でトップ10に入る港を目指す。コンテナ取扱量を現在の年間700万TEU(20フィートコンテナ換算)から1,800万TEUに、自動車輸出能力を年間100万台から300万台に増強する。

 ③高速鉄道の敷設、既存鉄道の複線化・・・投資額は1,580億バーツ(約45億ドル)。PPP方式を採用する。ドンムアン空港~スワンナプーム空港~ウタパオ空港間に高速鉄道を敷設する。これにより、ドンムアン空港とウタパオ空港を1時間以内、スワンナプーム空港とウタパオ空港を45分で移動することが可能になる。また、レムチャバン港~マープタプット港間の既存の鉄道を複線化する。レムチャバン港~ラヨーン間、マープタプット港~タラット間までの新線を整備する。

 ④EEC内への特定産業の誘致・・・投資額は5,000億バーツ(約143億ドル)。最先端食料生産・加工技術、自動車・同部品、電子、ロボット、航空機・航空機メンテナンス関連、医療産業(メディカル・ハブ)などをEEC内で発展させる。

 ⑤都市開発・・・投資額は4,000億バーツ(約114億ドル)。チャチュンサオ、チョンブリーに国際教育機関などの集積を目指す。パタヤ、サタヒップは観光都市として開発する。

 <EEC地域への投資促進に向け恩典>
 投資委員会(BOI)は、EEC地域をさらに発展させることを目的に、次世代自動車、スマートエレクトロニクス、高所得層向け観光および健康観光、食品加工、自動機械およびロボット、航空、バイオ化学・環境配慮型石油化学、デジタル、医療の中核拠点、公共インフラ・物流システム開発、観光資源開発、技術面の研究開発・支援サービスへの投資を重点的に誘致する。対象企業に付与される4種類の恩典は以下の通りである。

 ①既に法人所得税を免除されたグループA(法人税を3~8年間免除)の企業に対する恩典として、EEC地区に立地している場合は、さらに5年間の法人税50%減税の権利が付与される。ただし、2017年中に投資申請書を提出する必要がある。

 ②EECの特別促進地区で実施する戦略的プロジェクトの場合、特定産業競争力強化法により、最長15年の法人税免除と、補助金を付与する。

 ③重要性の高い投資プロジェクト実現のため、各組織の支援を統合するとともに、障壁となる規制を緩和する。地域内の利便性向上のためのワンストップサービスも提供する。

 ④財務省の恩典として、EEC内に本社と施設を有する対象業種の企業の経営者、投資家、専門家に対して、個人所得税を17%に軽減する可能性がある。

 本シンポジウム当日の6月7日には、シンポジウムに先立って、世耕弘成経済産業大臣とウタマ・サバナヤナ工業相が、ソムキット副首相の立会いの下、「東部経済回廊および産業構造高度化に向けた協力に関する覚書」に署名した。覚書は、経済産業省とタイ工業省との間で、EECを中心としたタイ産業の高度化に向け、日本産業界の声を伝えるための日タイ対話の実施、インフラを含めたEECに係る情報共有等の協力を表明するものである。

 足下のタイ経済は決して好調とは言えない。GDP成長率は2014年に0.92%にまで落ち込み、その後2015年に2.94%、2016年に3.23%にまで回復した。一方、1人あたりGDPは、2012年の5,850.30ドルから2013年には6,157.36ドルへと増加したが、2014年には5,921.09ドル、2015年には5,799.39ドルと減少している。タイは典型的な「中所得国の罠」に陥っていると言えよう。

 そのため、今回のシンポジウムでも、タイがいかに価値ベースの経済に転換することができるかが焦点となった。ポイントは2つある。1つ目は、これまでは外資を呼び込むために投資額のみに着目していたが、今後は技術力や付加価値の向上、人材育成を重視するということである。もう1つは、タイ1国の経済を考えるのではなく、CLMVを含めた「CLMVT」全体の経済を成長させるというものである。CLMVTには20の大都市、70~80の小都市が存在する。これらの都市間の連結性を高めていくことがタイにとっての大きな課題となっている。そのための施策の1つとして、越境経済特区を10か所に設ける予定である。

 個人的には、タイに進出している日系企業のパネルディスカッションを楽しみにしていたのだが、タイ政府関係者のプレゼンテーションが思いの外熱を帯びてしまい、パネルディスカッションの時間が短縮されてしまった。最後に、パネルディスカッションの内容を記しておく。

 <日立>
 日立はIoT時代のイノベーションパートナーとなるべく、IoTのプラットフォームとして"Lumada(ルマーダ)"を開発した。イギリスでは2017年に高速鉄道が開通し、その車両を日立が提供しているが、そのメンテナンスなどはこのLumadaを活用して行われている。日立はタイをエレベーター/エスカレーター事業の拠点としており、製造からメンテナンス、トレーニングまでを行っている。現在、タイから周辺のASEAN諸国、中東への供給体制を整えている最中である。

 タイでも鉄道はPPP方式が採用される予定だが、ライダーシップリスク(どれだけ乗客が乗ってくれるのかについてのリスク)を誰が取るのかが大きな問題である。PPP方式で鉄道を導入したイギリスでは、イギリス政府がリスクを負ってくれた。タイにおいても、政府の強いコミットメントがないと、当社としても金融機関から資金を調達するのが難しくなると思われる。

 <ヤマトホールディングス>
 国際事業はBotBのフォワーディングから始まり、ロジスティクス、デリバリーへと展開してきた歴史がある。海外で宅急便を開始したのは2010年であり、タイでは2011年に開始した。シンガポール、マレーシアに進出した際には、ドライバーの訓練に苦労し、離職率の高さに悩まされたという経験があるため、タイではSCGと合弁会社を作って宅急便を展開することとした。2016年には南北経済回廊、南部経済回廊で存在感のあるOTLを買収し、宅急便とのシナジーを期待している。具体的には、タイの農作物をマレーシアの店舗や個人へ届ける、中国から越境ECの商品をタイの個人に届けるといったことが可能になる。当社はDHLやUPSに比べると後発であるため、「小口で多頻度」を差別化要因としていきたい。

 タイ政府に対しては、①物流業で外資がマジョリティを取ることができない現在の外資規制の緩和、②輸入通関の透明化・迅速化、③食品輸送の規制緩和(特に食肉)を希望している。

 <トヨタ>
 トヨタがタイに進出した歴史は古く、1962年にまでさかのぼる。現在では年間55万台を生産し、31万台を輸出できる体制になった。当社では「環境チャレンジ2050年」として「二酸化炭素排出量90%減」という目標を掲げている。しかし、当面は内燃機関に頼らざるを得ず、HV、PHVが必要となるため、引き続きタイはアジアにおける重要な生産・輸出拠点となる。

 当社は、バンコクの渋滞解決プロジェクトでリーダーを務めている。大がかりな社会実験のように思われるが、やっていることは小さなことの積み重ねである。例えば、バンコクの信号機は警察官が手動でコントロールしている。そこで、当社が交通量のデータを活用して信号の切り替えのタイミングを最適化するシステムを導入した。また、ビルから出てくる車の交通整理をしたり、学校の送り迎えのためのピックアップを信号付近で行うことを禁止したり、車が混雑しやすい場所にあるバス停を移動させたりなどした。このプロジェクトには多くの省庁が関与している。省庁単独で見ると投資とメリットが見合わない案件でも、省庁横断的に見ると大きな効果が期待できるプロジェクトは多い。今後は官官の連携がもっと進むことを期待している。


2017年06月02日

【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)


ASEAN-JAPAN Open-Innovation Forum(1)

 4月7日、"ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum"がベルサール渋谷ガーデンホールで開催された。主催は経済産業省、一般財団法人海外産業人材育成協会、日アセアン経済産業協力委員会、日本貿易振興機構(ジェトロ)。日ASEAN両地域の主要ビジネス団体による「日ASEANイノベーションネットワーク」形成に向けた協力覚書(MOC)の署名式が行われた(写真)他、日本企業とASEAN連携深化のための、オープンイノベーション促進セミナーが講演された。今さらながら、その時のセミナーの内容をまとめておく。

 まずは、ASEANなどアジア新興国で現在注目を集めているスタートアップ企業、イノベーション企業の紹介があった。新興国では、先進国が歩んできた経済発展のプロセスを順番にたどることなしに、先進国の最新の製品・サービスがいきなり市場で受け入れられることがある。これを"Leap Flog"と呼ぶ。紹介された主な企業は以下の通り。

 ①Go-Jek
 バイクタクシー配車アプリを提供するインドネシア企業。2011年にサービスを開始し、これまでに2,500万人がダウンロードしている。登録されている運転手は約24万人、決済は全体で1億件に上る。楽天やKKRなどが出資をしている。バリュエーションは約13億ドル。

 ②Grab
 「東南アジアのUber」と呼ばれるインドネシア企業。サービス開始は2012年だが、アプリのダウンロードは既に3,300万件を記録している。登録されている運転手は約35万人。インドネシアだけでなく、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムで事業を展開している。ソフトバンクやホンダなどが出資をしている。バリュエーションは3,000億円以上。

 ③Paytm
 インド最大級のE-ウォレットサービス企業である。新興国では後述するように銀行口座を持たない人が多数存在するため、代わりにE-ウォレットサービスが発達している。2016年11月にインドで高額紙幣の廃止が発表されたのを機に、急激にユーザが増加した。現在、2億人のユーザがおり、1日のトランザクションは約700万件に上る。

 ④Garena
 シンガポールに本社を置く企業で、メルカリとDeNAを合わせたようなサービスを提供している。サービス開始は2009年で、中国のテンセントなどが株主となっている。メルカリの月間流通額は約100億円だが、Garenaの月間流通額は約18億ドルである。

 ⑤Ookbee
 「ユーザー生成コンテンツのNetflix」とも言うべきタイの企業。タイの他にマレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシアで事業展開をしており、約800万人の会員がいる。サービス開始は2010年。日本のトランスコスモス、中国のテンセントなどが出資している。

 ⑥iFlix
 映像ストリーミングサービスを提供しているマレーシア企業。東南アジアの他にアフリカ、中東でもサービスを提供している。サービス開始は2015年であるが、月額利用料金が約300円という安さが受けて、利用者数は約400万人に上っている。

 ASEANでは、社会的課題を解決するためのイノベーションも生まれている。その1つとして、日本の「ドレミング株式会社」からのプレゼンテーションがあった。世界には、銀行口座を持たない成人が約20億人いるという。同社のミッションは、「貧困層に正規の金融取引を提供すること」である。同社の「リアルタイム給与計算プラットフォーム」を使用すると、退勤した瞬間にその日の給与(税金、社会保険控除後)を算出することができる。「Doreming-Pay」というアプリをインストールしていれば、銀行口座がなくても買い物ができる。加盟店が支払う決済手数料は約2%であり、日本の半分の水準に抑えられている。このようなデジタル通貨が普及すれば、現金の盗難防止、強盗被害の削減やブラックマネーの撲滅が期待できる。

 ここまでがイノベーションの話。本セミナーの主題は「オープン・イノベーション」である。オープン・イノベーションとは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、ソーシャルイノベーションなどにつなげるイノベーションの方法論である。オープン・イノベーションのよいところは、中小企業、スタートアップ企業、ベンチャー企業であっても、大企業と対等に研究開発やイノベーションに取り組むことができるという点である。

 日本とASEANにおけるオープン・イノベーションというものを考えた場合、想定されるのは、日本の中小企業などがASEANの大企業と協業する、ASEANの中小企業などが日本の大企業と協業するという2パターンになるであろう(日本の中小企業などが日本の大企業と協業する、ASEANの中小企業などがASEANの大企業と協業するのは、それぞれ日本、ASEANの課題である)。こういう取り組みは自然発生的に進展するのを期待することが難しい。講演者の1人が指摘していたが、政府によるバックアップが必要である。タイとの間では、JTIS(Japan Thai Innovation Support Network)という団体が、世耕経済産業大臣(当時)の立会いの下、2016年9月9日に発足した。両国のスタートアップ企業10社が参画するとともに、タイトヨタやタイの素材最大手Siam Cement Group(SCG)など両国の大手企業20社以上が名を連ねている。

 一般的にオープン・イノベーションは、主に大企業がNIH(Not Invented Here)症候群を克服し、新しい製品・サービスの開発やビジネスモデルの構築に必要な技術を広く社外に求めることで、イノベーションに要する時間を短縮することを狙いとしている。ただ、個人的にはそんなに簡単にオープン・イノベーションは成功しないように感じている。そもそも、自社に足りない技術が初めから明らかで、その技術を持つ中小企業などから技術の提供を受けるのは、従来の取引関係、主従関係と何ら変わるところがない。オープン・イノベーションが従来の関係と異なるのは、ネットワークに参加するメンバーの立場が対等であり、かつ、メンバーが当初想定していた成果とは異なる予期せぬ成果が創発される点にあると思う。

 オープン・イノベーションに参加する企業は、①自社がやりたいこと、②自社が強みとすること、③自社に足りていないことに関する情報をネットワーク上に公開する。協業の可能性としては3つ考えられる。1つ目は、ある企業がやりたいと思っていることと別の企業がやりたいと思っていることが類似しており、各々が単独で事業を行うよりも協業した方が、より革新的な戦略の下での事業化が見込める場合である。2つ目は、ある企業が強みとすることと別の企業が強みとすることを上手に掛け合わせれば、新たな事業機会が期待できる場合である。いずれも、予期せぬ成功を狙っているという点がポイントである。3つ目は、ある企業に足りていないことを別の企業が補完することで事業化に結びつける場合である。この場合であっても、単なる取引関係にとどまらず、両社が協業することで事業や技術の新たな可能性に気づくことが重要である。

 では、オープン・イノベーションに参加する企業をインターネットでつないで、上記の①~③の情報を流せば、協業が成立するだろうか?欧米の企業はインテリジェンスに長けていて、インターネットの情報やその他の公知情報から相手の素性を見抜く術を身につけている。これはおそらく、植民地時代に本国から遠く離れた植民地を本国からコントロールするために、入手可能な情報だけで植民地経営のよしあしを判断してきた歴史も影響しているのだろう。だから、P&GのConnect & Developmentのように、世界中の研究機関をインターネットでつなげば、オープン・イノベーションの実現をある程度期待することができる。

 ところが、そういう歴史を持たない日本は、相手に直接会って話をしないと、相手のことを信頼し、理解することができない。だから、前述の政府主導組織などが、積極的にリアルの「場」を設けなければならない。そしてこの点は、おそらく日本に限らず、ASEAN諸国も変わらないのではないかと思う。しかも、1回会えば話がまとまるといった簡単な話ではなく、何度か顔を合わせるうちに、前述の①~③に関する情報を徐々にオープンにしていくという関係になるに違いない。

 星野達也『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社、2015年)には、「運転手の眠気検知技術」について、技術を探している企業が技術を深掘りし、提供者も自社技術を明確に提示することですんなりと協業が実現するという話が登場する。同書の著者は株式会社ナインシグマ・ジャパンという、オープン・イノベーションの仲介役を担う企業に勤めているため、技術の探索者と提供者があらかじめ自社のニーズとシーズを明確にしておいてくれると、自社の業務が進めやすいという願いが込められているように思える。しかし、実際には、コンソーシアムなど大勢が集まる会合で短時間の会話を重ねることで、協業の道が開けるのではないかと考える。

オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップオープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
星野 達也

ダイヤモンド社 2015-02-27

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 <1回目>
 探索者「我が社は眠気を検知する技術を探しています。よろしければ、御社がどういった事業をされているか教えていただけませんか?」
 提供者「我が社は脳波を測定する技術の開発を行っています。眠気は脳波の変化でとらえることが可能です」

 <2回目>
 探索者「以前お会いした後、眠気を検知する技術について社内で調査をしてみました。おっしゃる通り、眠気を検知するには脳波を測定するのが有効であるようですね。ただ、他にも、目の動きをとらえる、皮膚電位から脈拍をとらえる、という方法があることが解りました。この2つの方法に比べて、脳波を測定する方法はどういった点で優位性がありますか?」
 提供者「脳波を測定する場合は、○○という点でメリットがあります。ただし、測定の際には○○という点に気をつけなければなりません」

 <3回目>
 探索者「前回教えていただいた話を社内で検討した結果、脳波を測定するという方法で開発を進めようという話になりました。御社は今までどのような分野で実績がありますか?」
 提供者「我が社は、子どもが学習をした際の脳波の変化をとらえる装置を開発しています。主に研究機関向けです」
 探索者「子どもの脳波を測定する技術は、眠気を測定する技術に応用することができそうですか?」
 提供者「測定する脳の部分、とらえる脳波の種類が違うため、すぐには応用することは難しいのが正直なところです。ただし、新たに○○という技術を開発すれば、実現可能かもしれません」

 <4回目>
 提供者「今回お考えの技術は、具体的に誰をターゲットとしていますか?」
 探索者「バスやトラックの運転手をターゲットとしています。彼らの事故防止に役立てばと考えています。先日、御社の製品は研究機関向けとおっしゃいましたが、そうするとかなり大がかりな装置ですよね?」
 提供者「そうです。一般ユーザ向けの製品にするためには、小型化しなければなりませんね。率直に言って、小型化は我が社ではあまり実績がありません」
 探索者「我が社は製品の小型化を強みの1つとしていますので、もしかしたらお役に立てるかもしれません。一緒にプロジェクトをすると、いいものができそうな気がします。是非一度、我が社で具体的な打ち合わせをしませんか?」
 提供者「ありがとうございます」

 上記の例はかなりまどろっこしく書いたが、要するに日本とASEANの間でオープン・イノベーションが成立するかどうかは、手間のかかるリアルのコミュニケーションを惜しまないかどうかにかかっているというのが私の見解である。この点で、オープン・イノベーションはイノベーションに要する時間を短縮するという、欧米企業が考えるメリットは減殺される。だが、日本とASEANの企業は、協業を通じて、それぞれが単独では思いもよらなかった画期的な価値に到達することができるという点に、オープン・イノベーションのメリットを見出すべきであろう。

 最後に、オープン・イノベーションのマネジメントについても触れておく。オープン・イノベーションは2社以上の協業であるから、当然のことながら共通の目標を追求することになる。ただし、共通の目標だけを追求するのであれば、合併して1つの企業になった方がマネジメントしやすい。その道をとらずに、協業というやり方を選択するからには、マネジメントに一工夫が必要である。つまり、両社が共通の目標を追求すると同時に、両社が共通の目標を追求することによって、双方に固有の目標の達成も支援されるという関係を構築することである。バランス・スコア・カード(BSC)で説明すると下図のようになる。

オープン・イノベーションにおけるBSC

 まず、協業によって達成すべき財務の目標をブレイクダウンする形で、協業におけるBSCを作成する。一方で、双方の企業は、自社に固有のBSCの体系を持っているはずである。ここで、例えば、協業のBSCにおける学習と成長の視点の目標を追求すると、A社の業務プロセスの視点の目標にプラスの影響が出る、協業のBSCにおける業務プロセスの視点の目標を追求すると、B社の顧客の視点の目標にプラスの影響が出る、などといった因果関係を描くのである。そうすれば、まさにWin-Winの関係が構築できる。本ブログで私はしばしば、日本企業は水平連携、時に異業種との連携を得意としていると書いてきたが、水平連携に成功している企業はこういったマネジメントを普段から自然に実践していると思う。


2016年05月31日

「MSCマレーシア・ステータス」の概要(「マレーシアにおけるICT分野での投資・ビジネス機会セミナー」より)


マレーシア ペトロナスツインタワー

 (※)マレーシアの「ペトロナスツインタワー」。日本の建設会社ハザマがタワー1(左)を、韓国のサムスン物産建設部門がタワー2(右)を建設した。サムスン物産が建築を急いだせいか、タワー2には建築上の問題が発生した。最終的にはハザマの協力で解決したものの、「タワー2は傾いている」という噂が消えず、未だにタワー2のテナント入居率はタワー1を下回ると言われる。

 マレーシアでは、1996年にマハティール首相(当時)が国家プロジェクトとして「マルチメディア・スーパーコリドー(MSC)計画」を立ち上げ、自国をITハブにしていくべく、海外先進国から関連産業の誘致を積極的に行っている。「MSCマレーシア・ステータス」は、ICT企業ならびにICTを利用して各種サービスを提供する企業に対し、マレーシア政府により認定、付与されるものである。ワールドクラスのサービスの提供者であるという認証であると同時に、MSCマレーシアに規定された各種インセンティブ、権利や優遇策を受けることができる。

 「マレーシア・マルチメディア開発公社」は、MSCマレーシアを推進・実行するために設立された、マレーシア通信・マルチメディア省(日本の経済産業省と総務省の情報通信部門を足し合わせたようなもの)傘下の政府機関である。同公社が開催した「マレーシアにおけるICT分野での投資・ビジネス機会セミナー」で、MSCマレーシアの要件などの話を聞いてきた。

 <MSCマレーシア・ステータス適格要件>
 ①IT・マルチメディア関連の製品・サービスの提供者またはヘビー・ユーザーであること。
 ②多数の知識労働者を雇用すること。
 ③MSCマレーシアの発展に寄与することを示す明確な提案があること。
 ④MSCマレーシアの要件に適合する業務を目的とした、独立の法人を設立すること。
 ⑤MSCマレーシアが認定したサーバーシティないしサイバーセンターに活動拠点を持つこと。
 ⑥環境ガイドラインを遵守すること。

 <MSCマレーシアの10のギャランティー>
 ①ワールドクラスの物理インフラならびに情報インフラ。
 ②マレーシア人ならびに外国人知識労働者の無制限雇用。
 ③マレーシア資本要件を免除することにより、自由な企業所有形態。
 ④海外からの資本金導入ならびに海外からの借入れ自由。
 ⑤最高10年の100%法人税免除、または最高5年の投資減税。
  マルチメディア機器の輸入税免除。
 ⑥知的財産権の保護およびサイバー法。
 ⑦インターネットの検閲なし。
 ⑧グローバルに競争力のある通信料金。
 ⑨主要企業にはMSCマレーシア関連のインフラ・プロジェクトへの入札権。
 ⑩マルチメディア開発公社(MDEC)によるワンストップ・エージェンシーサポート。

 以下所感。ギャランティー②は非常に魅力的であると感じた。通常、新興国は経済成長のために積極的に海外から投資を呼びもうとするが、同時に自国の雇用を守り、技術水準を上げたいとも考える。よって、外国人雇用には厳しい規制がかかることが多い。例えば、ワーカーは全員自国民にせよ、知的労働者に占める外国人の割合を一定以下に抑えよ、最初はある程度外国人の知的労働者を雇用してもよいが、徐々にローカルスタッフに置き換えよ、といった規制である。インドネシアには、人事部長を外国人にしてはならないという変な(?)規定もある。なお、各国の詳しい規制は、JETROの「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」が参考になる。

 ギャランティー⑦については、逆に普段はインターネットの検閲をしているのかと突っ込みたくなった。国境なき記者団は、下図の通り、各国のインターネット検閲状況をレイティングしている(青:検閲なし、黄:多少検閲あり、赤:国境なき記者団の監視対象(厳しい検閲を実施)、黒:大変厳しい検閲を実施、Wikipedia「ネット検閲」より)。

インターネット検閲の状況(世界)
 
 ASEAN10か国に関して見てみると、
 黒:ベトナム、ミャンマー
 赤:タイ、マレーシア
 黄:シンガポール、ラオス、インドネシア
 青:ブルネイ、フィリピン、カンボジア

 となり、マレーシアはASEANの中で検閲が厳しい方の部類に入るようだ。

 ギャランティー⑧に関しては、マレーシア・マルチメディア開発公社の担当者も本音をこぼしていたが、マレーシアの通信コストは必ずしも安くない。JETRO「第22回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2012年4月)」を基に、ブルネイを除くASEAN9か国に日本を加えた10か国のインターネット接続料金(ブロードバンド)の比較表を作成してみた。月額費用に関しては、下限金額と上限金額の両方が記載されている国(シンガポールなど)と、金額が1つしか記載されていない国(日本など)がある。後者については、グラフを作成をする上で便宜的に「月額費用(上限)」に記入しているが、実際には平均費用ととらえて構わないと思う(金額:ドル)。

ASEAN通信費比較(2012年)

 <インターネット接続料金(初期費用)>
 初期費用をグラフ化すると以下のようになる。ミャンマーが飛びぬけて高い。
ASEAN通信費比較(2012年)(初期費用)

 <インターネット接続料金(月額費用)>
 月額費用のグラフは次のようになる。棒グラフが宙に浮いている国は、上限額と下限額のデータがあった国である。通常の棒グラフの国は、金額が1つしか記載されていなかった国であり、平均費用を意味していると考えられる。こうして見ると、マレーシアのインターネット接続料金はASEANの中では高い方である。ただ、上記の表で補足したように、インターネット接続料金に関しては、国によって通信速度などの前提条件が異なるため、単純に金額だけを比較することが難しい。そのせいか、JETROも2013年5月以降の報告書ではこの金額を掲載しなくなった。
ASEAN通信費比較(2012年)(月額費用)

 現在のマレーシアは、通信インフラへ積極的に投資を行っているそうだ。現在、マレーシアからシンガポールを経由して日本へと至る通信ケーブルが敷かれているが、現在これに加えて、マレーシアと日本を直接結ぶ通信ケーブルを開発中であるという。さらに、マレーシアの西側についても、マレーシアからスリランカを経由してインドへと至る通信ケーブルの工事が進んでいる。これらの通信ケーブルが完成すれば、マレーシアの通信コストが下がることも期待できる。



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