2015年12月09日
企業内診断士に対して、独立診断士の端くれとして期待している3つのこと
日本国内において中小企業診断士として登録している人の数は22,544名だそうだ(平成26年4月1日付)。診断士という資格は中小企業の経営コンサルティングを期待されているのだが、実際には登録者数の約7割が企業に勤めたままの「企業内診断士」であると言われる。
そこで、企業内診断士の知識研鑽、実務従事の場の創出を目的として、診断士の間では様々な活動が行われている。私が所属する(一社)東京都中小企業診断士協会城北支部には、「企業内診断士フォーラム(KSF)」がある(私は僭越ながら、独立診断士の立場からKSFの活動を側面サポートさせていただいている)。城北支部のKSFは評判がよいらしく、最近は他の支部もKSFの取り組みを真似しようとしていると聞いた。
KSFは原則として偶数月の第4火曜日に中央区で定例会を開催している。定例会では、実務従事案件の紹介、企業診断事例の発表、その他診断士活動に関する討議などを行っている。10月の定例会では、企業内診断士がいずれは独立を目指すことを見据え、「企業内診断士がKSFや城北支部に対して望むこと」というテーマでディスカッションを行った。その中で出た主に3つの意見について、私が独立診断士として企業内診断士に望むことを述べてみたいと思う。
(1)診断士も他の士業と同じように独占業務がほしい
診断士は税理士、公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士など他の士業と異なり、法律で定められた独占業務がない。単に、「経営コンサルティングに関する唯一の国家資格」とうたわれているだけである。そのため、独立開業後に苦労する診断士は少なくない。誤解を恐れずに言えば、「もっと簡単に儲けられるように」、診断士にも独占業務がほしいという声は、企業内診断士だけでなく、独立診断士からも聞かれる。せっかく診断士協会という組織があるのだから、その組織力を活かしてもっと政治的に働きかけるべきだ、と主張する独立診断士もいる。
だが、個人的には診断士に独占業務は必要ないと思う。世の中の多くの中小企業は、独占業務という保護がない世界で日々厳しい競争にさらされている。その中小企業の業績を向上させるためにアドバイスする診断士が、法律でぬくぬくと保護されているのは、どうも矛盾している気がしてならないのである。診断士は企業経営のプロフェッショナルであるとされる。独占業務がなければ儲けられない診断士は、診断士として失格だろう。中小企業の経営者も、そんな診断士が経営の能書きを垂れるのは不愉快だと感じるに違いない。
(2)企業内診断士が経験を積むために、かばん持ち制度のようなものがほしい
企業内診断士もコンサルティング能力を伸ばすために、独立診断士と一緒に仕事をしたいと考えている。しかし、勤め先の業務が本業であるため、診断士としての活動に従事できるのは土日ぐらいしかない。そこで、土日に短時間で(できれば自宅で)できる簡単な仕事を企業内診断士のために切り出してもらえるとありがたい、という意見があった。ちょっとした仕事をお手伝いできる「かばん持ち制度」があると嬉しいそうだ。確かに、私も企業内診断士だった頃はほとんど診断士活動ができなかったので、企業内診断士がそういうふうに思う気持ちは解らなくもない。
だが、いざ独立してみると、別の考えが中心を占めるようになった。まず、自宅でできる仕事を「かばん持ち」とは呼ばない。かばん持ちと言うからには、顧客企業を訪れ、顧客企業と一緒に作業をするべきである。それ抜きにコンサルティングを体感することは不可能だ。そして、顧客企業と接するからには、一定の責任を負ってもらうこととなる。それはすなわち、片手間でできる仕事で済ますのではなく、場合によっては土日を丸々潰してでも一定の成果物を出してもらうことを意味する。そのくらい責任を持ってくれる人でなければ、私も怖くて顧客企業に紹介できない。
私も一応コンサルティング会社に勤めていたコンサルタントの端くれなのだが、コンサルティング会社は若手の育成システムを「徒弟制度」に例える。だが、弟子だからと言って成長を気長に待ってもらえるわけではない。むしろ、早いうちから高い成果が要求される。作ったパワーポイントの資料の出来が悪いと、目の前で破り捨てられる。顧客企業との討議について行けず黙っていると、こっぴどく絞られる。仮に上司が大目に見てくれたとしても、顧客企業が黙っていない。「こちらは高いフィーを払っているのに、あの人は何もしていない。別の人に代えてほしい」と容赦なく言われる。顧客企業の浮沈がかかっているのだから、厳しくて当然であろう。
(3)今すぐ独立する予定はなく、勤務先でコンサルティングのような業務もできないのだが、その場合はどうすればよいか?
将来的には独立を目指すとしても、当面は現在の勤務先で働き続けたいという企業内診断士も少なくない。勤務先の仕事はコンサルティングとは無関係である。また、(2)で登場したかばん持ち制度に参画する余裕もない。その場合、コンサルティングの知識を枯らさずに、KSFや城北支部で活動を継続するにはどうすればよいか?という不安の声が一部の人から上がった。
そういう企業内診断士に対しては、コンサルティングの知識や能力を磨くということをあまり意識せずに、むしろ今自分が取り組んでいる仕事での専門性を高めた方がよい、とアドバイスしたい。過去の記事でも書いたが、独立すると最初は公的機関の登録専門家になって仕事をすることが多い。登録専門家には、特定の分野で10年程度の経験があることを要求されるケースがほとんどである。海外販路開拓の専門家であれば商社などの実務経験、ものづくりの専門家であれば製造現場の経験といった具合だ。逆に、コンサルティング能力はあまり問われない。
私などはそういう実務経験がなく、キャリアのほとんどをコンサルティング業務に費やしてきたので、公的機関の専門家に登録することができず苦労した。これから独立する診断士には私の二の轍を踏んでほしくないため、敢えて「今の勤め先に後5年ほど残って、専門性を深掘りするべきだ」と言いたい。専門性を高めるとは、解のパターンを多様化することである。この場合はこうする、あの場合はああするという細かい条件分岐を持つことである。決して、特定の解に固執して、それを一心不乱に磨き上げることではない。中小企業は千差万別であるから、たくさんの引き出しを用意することは必ず後で役に立つと考える。