このカテゴリの記事
DHBR2018年1月号『テクノロジーは戦略をどう変えるか』―伝統的な戦略立案プロセスを現代的な要請に従って修正する素案(議論の頭出し程度)
『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法
「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】

お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

最新記事

Top > SDGs アーカイブ
2018年01月11日

DHBR2018年1月号『テクノロジーは戦略をどう変えるか』―伝統的な戦略立案プロセスを現代的な要請に従って修正する素案(議論の頭出し程度)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 01 月号 [雑誌] (テクノロジーは戦略をどう変えるか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 01 月号 [雑誌] (テクノロジーは戦略をどう変えるか)

ダイヤモンド社 2017-12-09

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「テクノロジーは戦略をどう変えるか」というタイトルの特集であるが、取り上げられているのはAR(拡張現実)/VR(仮想現実)、AI(人工知能)、ドローンといったITが中心である。今や経営においてITは欠かせないツールとなったが、ITはあくまでもツールであって目的ではない。この点を勘違いしている経営者や情報システム部門が時々いる。「最新の製品、サービス、パッケージ、システムが登場したから自社にも導入しよう」、「競合他社があの製品、サービス、パッケージ、システムを導入したから我が社も追従しよう」といった具合に意思決定をしてしまう。

 私はビジネスをデザインする際に以下の図を用いることがある。出発点となるのは、自社の経営ビジョンや戦略である。経営ビジョンは経営陣の主観的要素であるのに対し、戦略は外部・内部環境の分析から導かれる客観的要素である。主観的要素と客観的要素をバランスよく考慮した上で、その経営ビジョンや戦略を実現するためのビジネスプロセス(業務プロセス)をデザインする。ただし、この時点ではまだ組織構造や人員配置を考えない。経営ビジョンや戦略が目指している顧客価値を最も効果的・効率的に実現できるビジネスプロセスとは何かとゼロベースで問う。それが明確になった後に、業務の類似性・専門性を踏まえて組織構造を設計し、社員の人数・能力を踏まえてそれぞれの社員に担当させる業務を決定する。

ビジネスのデザイン

 ビジネスプロセスと組織構造、社員の職務範囲を決めた後は、そのビジネスプロセスにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を投入するための仕組みを構築する。ヒトであれば人事制度、モノであれば購買の仕組み、カネであれば予算配分制度、情報であればITがその仕組みに相当する。ここで初めてITが登場するのであって、意思決定の冒頭でいきなりITの話が出てくるのはおかしい。これは他の仕組みにも言える。欧米で流行っているからという理由で、その仕組みの目的や適用条件、成功要件などをよく考えずに自社に移植するのは誤りである。古い例で言えば、富士通が成果主義で失敗したのは、ビジネスプロセスを定義せずに人事制度だけを先に変えようとしたからである。また、ソニーはEVA(経済的付加価値)に基づく予算配分制度を導入したが、短期的な利益ばかりが追求され、イノベーションが阻害されてしまったと言われる。

 以上が、最もオーソドックスなビジネスデザインの方法である。お解りのように、ITは、「我が社の経営ビジョンや戦略を基礎とするビジネスプロセスを最も効果的・効率的に実現できるITとは何か?」という観点に立って導入を検討しなければならない。単に、その時々の流行を追いかけ回しているだけでは全く不十分である。本号にはコマツの代表取締役社長兼CEOである大橋徹二氏のインタビュー記事が掲載されていたが、次の言葉がこのことをよく表している。
 社会的課題(※建設業界における極度の人手不足に起因する、生産性向上の必要性のこと)は何かを見極め、それを解決するためにどうしたらいいか、そのために必要な技術は何かと、逆算しながら技術を考えることではないでしょうか。進化する技術を、いまのビジネスとどう関係付けるかという既存事業ありきの視点で見ていると、そこでフィルターがかかって情報が入ってこなくなります。(中略)

 これだけ短期間でスマコン(※「スマートコンストラクション」の略。コマツが提供する、ドローンなどを活用した建築土木業向けの総合的ソリューションの名称)が4000以上の現場に導入されたのは、ニーズから逆算して技術を考えていったからだと思います。
(大橋徹二「社会的ニーズを満たすための技術経営 経営者ならば、技術の目利きであれ」)
 私は前職でコンサルティング会社にいたが、こういう話をすると、「ITありきで考えてはならないというのは解る。だが、世の中にはITが戦略を変えてしまうケースもある」と、あるマネジャーが言っていたのを思い出す。確かに、戦略がITと密接不可分になっているケースは存在する。Microsoft、Google、Apple、Amazon、Facebook、VISAなどはその代表例であろう。彼らは世界のイノベーションを牽引する巨大な存在である。どうして日本からはGoogleやAppleが生まれないのかが真剣に議論されることもある。ただ、私に言わせれば、ITによって戦略を変えるイノベーションはアメリカから”しか”生まれていない。だから、日本はそれほど深刻になる必要はない。前述のオーソドックスな方法でITを利活用すれば十分であると思う。ちなみに、ITで戦略を変えてしまうアメリカ人イノベーターの頭の中がどうなっているのかは、私にはまだよく解らない。

 さて、先ほどの引用文で、コマツは「社会的課題」に着目しているとあった。社会的課題の解決と経済的価値の創造を両立させる戦略は、マイケル・ポーターがCSV(Creating Shared Value:共通価値創造)と呼ぶものである。ここで私はさらに論を進めて、「実現する価値が経済価値にとどまるか、社会的価値も含むか?」という軸と、「価値創造の方法が経済的方法にとどまるか、社会的方法も含むか?」という軸でマトリクスを作ってみたいと思う。多くの企業は、「経済的価値を、経済的方法で創造」している。だが、これからの時代で中長期的に高く評価される企業とは、「社会的価値も含む価値を、社会的方法も含む方法で実現する企業」ではないかと思う。例えば、途上国の貧困層向けのリーズナブルな衣料品を、社会的弱者を雇用しダイバーシティを実現しながら製造・販売するといったケースがこれに該当する。

 以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」で戦略立案の外部環境アプローチを、「DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)」で内部環境アプローチを紹介した。どちらのアプローチであれ、社会的価値を創造するためには、抽出した事業機会を以下の「社会的ニーズのテスト」にかけなければならない。具体的には、新しく生み出そうとしている製品・サービスが、

 ①顧客の健康をサポートするものであるか?
 ②顧客の生活の衛生面を保つものであるか?
 ③顧客の安全・安心な生活の実現に資するものであるか?
 ④顧客が貧困から脱却するのを助けるものであるか?
 ⑤顧客の自尊心を支えるものであるか?
 ⑥顧客が他者との人間的な絆を構築するのに役立つか?
 ⑦顧客の人間的・精神的成長を支援するか?
 ⑧顧客に有意義な時間の使い方を提供するものであるか?
 ⑨人的資源・地球資源の節約に貢献するものであるか?
 ⑩顧客の人生を社会的規範・道徳的価値観と合致せしめるものであるか?

などと問う必要がある。もちろん、これら全てを満たすことは難しい。だが、できるだけ多くの項目に該当する社会的ニーズに企業は取り組まなければならない。これは、経済的ニーズが快楽、利便性、効率、利益に焦点を当てているのとは対照的である。最近、鳥貴族などに女子高生が早い時間から集まって夕食を取っているらしい。経済的価値という観点から見れば、居酒屋の空き時間を埋め、回転率を上げてくれるから合格である。しかし、社会的価値という観点から見ると、女子高生は家族との絆を犠牲にしているし、また、1回の夕食に(バイトで稼いだお金ならともかく、)親のお金で1,000円も2,000円も使うのはお金に関する正しい価値観を損なっているから、失格である。また、私はスマートフォンも社会的ニーズには合致しないと考える。というのも、スマホでゲームに熱中する人々はたいてい、浪費した時間を後から後悔するからである。

 社会的ニーズのテストを経た後は、その社会的ニーズを社会的な方法で実現するビジネスを設計しなければならない。以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」では、ビジネスプロセスのあるべき姿を描くにあたって、基軸となる考え方をあるべき姿の方向性として定めるべきだと書いた。ここに、社会的な方法に関する方向性も加えていく。1つのヒントとなるのが「SDGs(Sutainable Development Goals)」である。以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」でも書いたが、SDGsとは国連が地球規模の社会的課題について17の目標と169のサブ目標を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、下図の通りである。企業はこの中から、自社で取り組めそうな課題を選択し、あるべき姿の方向性に反映させるとよいだろう。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 伝統的な戦略立案アプローチでは、ビジネスプロセスを定義した後、それを遂行するための人材要件を定め、その要件を満たす社員を充当する。ただ、このやり方の場合、社員を企業の都合に合わせて算術的に扱い、機械の部品のように酷使するする恐れがある。社会的な方法でビジネスを実現することには、社員に自尊心を持たせることも含まれる。社員が企業で働くことにやりがい、生きがいを感じるようでなければならない。端的に言えば、社員のモチベーションを上げなければならない。私は、社員のモチベーションについては社員本人が第一義的には責任を持つべきだと随分と厳しいことも書いてきたが(例えば以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)、企業が社員の日々の活動時間の約半分を占めているという事実を踏まえれば、企業は社員の人生を実りあるものにする特別の配慮を払う必要があるだろう。

 ただし、社員のモチベーションを上げることは、社員を甘やかしたり、社員におもねったりすることではない。むしろ、社員に対しては厳しい現実を突きつけることになる。以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」では、社員のモチベーションを上げるための要件として、①顧客からのフィードバックがあること、②一定の裁量を与えられていること、③複数の能力を使わなければならないこと、④能力のストレッチが要求されること、⑤周囲の社員との協業が必要であること、という5つを挙げた。別の記事「『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない」ではさらに論を進めて、社員が自分の力ではどうしようもできない職場環境については社員を満足させる必要があるが、社員の力が及ぶ範囲においては逆に不満足を感じさせるべきだと書いた。

 具体的には、職場環境に関しては、①本人に裁量や権限を与える、②仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などを整える、③十分な研修、トレーニングの機会を与える、④必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられるようにする、⑤福利厚生制度を充実させる、といった措置を講ずる一方で、仕事内容については、①仕事の量を多くして忙しくさせる、②企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップを感じさせる、③難しい部下や後輩の育成を任せる、④顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを与える、⑤今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描くことを難しくさせる、といった状況を作るべきだと書いた。これらの要件を満たすように組織を設計し、それぞれの社員の業務内容、権限・責任の範囲を具体化し、人事制度などの仕組みを構築していくことが、人的資源の社会的活用につながると考える。


2017年03月31日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法


一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 私がコンサルティングを行う場合には、BPR(Business Process Re-engineering)的な発想をすることが多い。BPRとは、元々は1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが生み出したコンセプトで、日本では『リエンジニアリング革命』という書籍で紹介されている。BPRの目的は、「社内のビジネスプロセス(業務プロセス)を部門横断的に再構築(Re-engineering)して全体最適化し、顧客価値を最も効果的・効率的に実現すること」である。

 ただ、当時のアメリカ企業は、株主から短期的に業績を改善させて株価を上昇させるよう、強いプレッシャーを受けていた。経営陣は、手っ取り早くコストカットやリストラを行う手段としてBPRに飛びついた。その結果、短期的には確かに業績が回復したが、過剰なBPRによって必要な組織能力までが削がれたため、長い目で見ると再び経営不振に陥ってしまった。マイケル・ハマーは、自分の提唱したコンセプトがこのような形で利用されたことを後年になって反省している。

BPRの考え方

 繰り返しになるが、BPRの本来の目的は、全社のビジネスプロセスの最適化によって高い顧客価値を実現することにある。BPRの考え方をまとめたのが上図である。まず、自社の経営ビジョンや事業戦略をインプットとして、自社がどの方向に向かおうとしているのかを明らかにする。それを受けて、その方向を実現するためのあるべきビジネスプロセス(別の表現をすれば、社員の行動の流れ)をデザインする。その上で、ビジネスプロセスに対して人、モノ、カネ、情報といった経営資源を効果的・効率的に投入するための仕組みを構築する。

 失敗する全社改革は、ビジネスプロセスの議論をせずに、いきなり経営資源を投入するための仕組みを変えようとしていることが多い。もう随分昔の話になるが、富士通が成果主義を導入して失敗したのは典型例である。富士通として目指すべきビジネスがまだ明らかになっていないのに、成果主義という人事制度だけをいじったために、現場が混乱してしまった。また、なかなか業績が安定しないソニーも、EVA会計を導入したことがイノベーションの芽を摘んでいると言われる。EVA会計は、投資案件の将来価値をかなり正確に計算できる反面、芽が出るかどうか解らない中長期のハイリスク案件が排除されてしまうというデメリットがある。ITについて言えば、競合他社に遅れまいと流行のシステムを導入して失敗したという話は数え上げればきりがない。

 BPRで重要なのは、ビジネスプロセスのあるべき姿を最初にしっかりと固めることである。その手順を簡単に下図に示した。まず、自社の事業環境(客観的な情報)と経営ビジョン(主観的な情報)を分析し、主要な経営課題を抽出する。そして、それらの経営課題を達成するためのビジネスプロセスのあるべき姿の方向性を固める。あるべき姿の方向性は、この後の作業で具体的にビジネスプロセスをデザインする際の基軸となる極めて重要な考え方である。

 下図は自動車メーカーの例であるが、まずSWOT分析によって、「多様な顧客に対し、個々に適切に訴求」、「本社のノウハウを販社にも共有」という経営課題を導いている。また、経営ビジョンの解釈を通じて、「顧客の把握、顧客に合わせた接点」、「全社情報・ノウハウの集約化」という経営課題を抽出している。これら4つの経営課題から、あるべき姿の方向性を定義する。あるべき姿の方向性は、ビジネスプロセスの基軸となる考え方であるから、プロセス志向で記述する必要がある。下図では、①顧客理解深化と「個」客応対型セールス、②本社によるサポート強化と営業プロセス標準化、③マルチチャネルの活用、という3つの方向性を打ち出している。

あるべき姿のデザイン~作業イメージ

 あるべき姿の方向性が定まったら、それに基づいて具体的なビジネスプロセスへと落とし込んでいく。まず、縦軸にあるべき姿の方向性を、横軸にビジネスプロセスを並べる(下図では顧客の消費プロセスとなっているが、どちらでもよい)。そして、それぞれの方向性を受けて、ビジネスプロセスの各フェーズにおいて具体的にどのような業務を行うのかを記述する。例えば、「①顧客理解深化と「個」客応対型セールス」という方向性を受けて、「情報収集」フェーズでは、「個客ごとに最適化された質の高い情報の作成」という業務を行う、といった具合である。さらに細かくビジネスプロセスを定義する場合には、今度は縦軸に部門・担当者を並べて、各部門・担当者がそれぞれのビジネスプロセスのフェーズで具体的にどのような業務を行うのかを書いていく。

あるべき姿のデザイン~あるべき姿の詳細化

 以上がオーソドックスな方法であるが、最近はCSRもしくはCSVの観点から、社会的要請を反映させたあるべき姿をデザインする方法を考えなければならないと感じている。本号では、循環型経済を実現するために企業が着手すべきこととして、次のような提案がなされている。
 特に、生産プロセスは最終製品そのものと生産に使用されるすべての原料が、分別・再収集可能で、再利用されるか安全に自然に返されるよう、必ず再デザインされなければならない。
(ジョエル・ベーカー・マレン「循環型経済のためのイノベーション」)
 ビジネスのためのイノベーションが直面する最大の課題は、生物学的な投入物(※綿や羊毛のように、製品寿命が終わった際に安全に自然に返すことができる原料のこと)と技術的な投入物(※金属や石油化学製品のような原料で、生産過程で意図的に価値を持つように意図的に加工を施されたもの。安全に自然循環に返すことができない)を製品使用後に効率的に収集・分離し、これらを直線的システムではなく循環型経済システムのなかで機能するような製品と生産プロセスにデザインしていくことである。(同上)
 前述の自動車メーカーの例で言えば、安直な発想だが、4つ目のあるべき姿の方向性として、「④自動車部品や下取り車のリサイクルを推進する」が加わり、「カーライフ期」において、販売店は「部品メーカーと連携して交換部品のリサイクルを行う」、部品メーカーは「交換部品を生物学的な投入物と技術的な投入物に分解する」、「技術的な投入物が新品と同等の品質を有するよう再加工する」、「技術的な投入物を部品製造ラインに再投入する」必要が出てくるだろう。

 また、あるべき姿の方向性のインプットとして重要になるのが、以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」で触れた17の目標である。これらの目標のうち、自社のビジネスに関連するものを取り入れていくことも重要である。ここでポイントとなるのは、社会的要請やSDGsを自社のビジネスの制約要因ととらえないことである。社会的要請やSDGsを自社ビジネスの成長・発展につなげる視点が必要である。この辺りはまだフレームワークにまで落とし込むことができていないため、今後の私の課題である。

 ※4月は1か月間ブログをお休みとさせていただきます。5月にまたお会いしましょう!


2017年02月20日

「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】


SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 城北支部青年部(一応、私が部長を務めております)で、「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援」という勉強会を開催した。ある大手企業のCSR部門に勤める若手診断士の先生からの持ち込み企画で実現したものである。「SDGs(Sutainable Development Goals:持続可能な開発目標)」とは、国連が2015年9月25日に全会一致で採択したもので、地球規模の社会的課題について17の目標と169のターゲット(サブ目標)を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、上記の図にある通りである。

 国連が民間セクターに社会的課題の解決への貢献を要求するようになったのは1999年のことである(やや語弊があるかもしれないが、国連が自ら社会的課題の解決をすることを諦めた年であるとも言える)。1999年には「国連グローバル・コンパクト」が策定され、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」の4分野において、「人権擁護の支持と尊重」、「組合結成と団体交渉の実効化」、「環境問題の予防的アプローチ」、「強要・賄賂等の腐敗防止の取り組み」など10の原則が掲げられた。その後、2000年に入ると「ミレニアム開発目標」が設定され、「極度の貧困と飢餓の撲滅」、「普遍的初等教育の達成」、「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」などが2015年までに解決すべき課題とされた。SDGsはミレニアム開発目標の内容を継承したものである。

 グローバル・コンパクトに関しては、賛同する企業、大学、NPOなどが署名する必要があったが、SDGsは企業などが17の目標から好きなものを選択して自由に取り組んでよいことになっている。だから、冒頭の図も国連が著作権フリーでどんどん配布している。国連は、世界でどの程度の組織がSDGsに取り組んでいるのか正確に把握していない。この敷居の低さが、SDGsの一種の”ウリ”である。ただし、国連は17の目標と169のターゲット(ターゲットの中には数値的目標が設定されているものが多い)の達成度合いについて、定期的にモニタリングしている。

 この企画を持ち込んだ先生の勤務先の企業では、自社の全事業について、17の目標とどのように関わっていくのかを総点検したそうだ。例えば、「4.質の高い教育をみんなに」に関しては、提供するソリューションの中に教育関連のものを増やす、「15.緑の豊かさも守ろう」に関しては、先生の勤務先企業が紙を大量に使用する業種であったことから、紙の原料に責任を持つ、などといったことが合意された。ただし、「14.海の豊かさを守ろう」だけはどうしても自社事業との接点を発見できなかった。そのため、CSR報告書では14だけ触れていない。このように、必ずしも全ての目標をカバーする必要はなく、できることから始めればよいというのがSDGsの特徴である。

 企業がSDGsをマネジメント・システムに取り込んでいくには、例えば環境経営の規格であるISO14000のように、一定の標準化が必要なのではないか?という声が参加者から上がった。現在、CSRのマネジメント規格としてISO26000というものがある。ISO26000は国際標準を示したが、実は認証制度を採用していない。結局、CSRのような活動は認証に馴染まないというのがその理由のようである。同様に、サプライチェーンのCSRに関する規格としてISO20400があるものの、これもISO26000同様、国際標準にとどまり、認証の仕組みを持たない。こういう背景から、SDGsを世界的な標準に落とし込むのは困難であろうというのが先生の見解であった。

 SDGsの認知度はまだまだ低い。SDGsを日本に普及させるために、国としては何をすべきか?という点にも話が及んだ。勉強会のメンバーの間では、SDGsの価値観がどちらかというとリベラル寄りであるから、現在の自民党政権では推進が難しく、むしろ民進党との親和性が高いだろうという見解に至った。自民党は経済成長に躍起になっており、社会的課題には見向きもしていないようである。しかし、実は、SDGsは経済成長を実現する1つのツールとして有効であることに気づくべきだとの意見が出た。また、行政レベルでも、経済産業省のコミットメントがもっと必要だという指摘もあった。現在、SDGsを紹介しているのは外務省のHPであり、経済産業省のHPではSDGsについて一言も触れられていない。これが縦割り行政の弊害というものだろうか?

 一方で、SDGsは、国連が全会一致で採択したとはいえ、西洋のリベラルな価値観の押しつけになるのではないかと危惧する声もあった。地球温暖化のように、それが悪化すれば人類に被害が及ぶことが明らかな課題については、世界的な合意も形成しやすいだろう(その地球温暖化でさえ、アメリカが懐疑的な姿勢を示しているが)。しかし、例えば貧困の問題1つを取って見ても、169のターゲットの最初に「2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」とあるが、1日1.25ドル未満で生活すること=貧困と見なすことが適切かどうかは議論が分かれるところである。

 勉強会のメンバーの中に、ハイチで仕事をしたことがある先生がいた。ハイチでは1日1ドル程度で生活する人が多いが、彼らは別に食べ物に困っているわけでもなく、幸せそうに生活しているとのことだった。貧困かどうかは、絶対的な基準ではなく、その国の歴史的・文化的・社会的背景などによって決まる。ところで、17の目標と169のターゲットをよく読むと、歴史、文化、観光遺産といった項目は一切入っていない。これらの項目を入れると、各国固有の価値観の問題が絡んできて世界的な合意形成ができないから、用意周到に外されたのではないかと思われる。

 中小企業がSDGsを取り入れるためにはどうすればよいか?というのが今回の勉強会のメインテーマである。SDGsは自社ができることから取り組めばよいと書いたが、逆に言えば、「自社ができそうもないことには簡単に手を出すな」ということになる。ピーター・ドラッカーは半世紀以上も前から社会的責任について言及していたが、必ず「自社と無関係な活動にまで取り組むのは、むしろ無責任である」と警告するのを忘れていなかった。

 もう1つ重要なのは、「自社が利益を上げた時だけその剰余金でSDGsに取り組むという態度は望ましくない」ということである。フィランソロピー(寄付金)であればそれでよいかもしれない。しかし、SDGsは日本中、いや世界中で社会的ニーズを抱えた多数の人々を巻き込むものである。利益が出なかったからと言って活動を打ち切ると、社会的ニーズを抱えた人々は途端に窮地に陥る。また、自社とともに社会的ニーズの充足に取り組んできたパートナーにも迷惑がかかる。SDGsは自社の事業やサービスの一環として取り組む必要がある。事業やサービスに深くSDGsを組み込めば、一時的に利益が出なかったからと言ってSDGsの取り組みを止めることはできなくなる。そして理想は、経済成長と社会的ニーズの充足を両立させることである。

 中小企業がSDGsに取り組むイメージをつかむために、「日本理化学工業」を題材とした簡単なディスカッションを行った。同社は、坂本光司教授の『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの最初に登場する企業である。ダストレス・チョークの生産をメインとしており、何よりも特筆すべきなのは、社員約80名のうち、約60名が知的障害者であるという点である。これだけでも、SDGsのうち「8.働きがいも経済成長も」や「10.人や国の不平等をなくそう」などに取り組む先進的な企業であるが、さらにSDGsに取り組むにはどうすればよいかというお題で議論を試みた(同社の事業環境を十分に理解せず、机上のみで議論したことをご容赦いただきたい)。

 あるグループは、同社が知的障害者でも製造ラインで作業ができるように独自の作業標準化を行っている点に注目した。こうした作業標準化のノウハウを新興国・途上国の中小企業に輸出し、製造ライン立ち上げのコンサルティングを行うことを提案した。これは、SDGsの中で言えば「8.働きがいも経済成長も」や「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」と関連する。また、新興国・途上国で雇用が創出されれば、「1.貧困をなくそう」という目標にも貢献する。

 別のグループでは、国内のチョーク市場が縮小傾向にあることを踏まえ、海外でチョークの需要を創造するために、新興国・途上国で学校の増設・運営に携わることを提案した。これは、SDGsの中で言うと「4.質の高い教育をみんなに」、「5.ジェンダー平等を実現しよう」、「10.人や国の不平等をなくそう」と関連する。さらに、学校で給食を出せば「2.飢餓をゼロに」にもつながる。教育水準が上がるとより賃金の高い仕事に就ける可能性が高まるので、「1.貧困をなくそう」にも貢献するであろう。ただし、同社は学校をマネジメントするノウハウは有していないだろうから、パートナーを探す必要がある(「17.パートナーシップで目標を達成しよう」と関連)。

 「充足するニーズが経済的ニーズか社会的ニーズか?」、「ニーズを充足する手段が経済的か社会的か?」という2軸でマトリクスを作ると、企業を4つのタイプに分けることができる。最も数が多いのは、「経済的ニーズを経済的な手段で充足する」というタイプである。ここから企業のCSRの度合いを高めていくには、「経済的ニーズを社会的な手段で充足する」もしくは「社会的ニーズを経済的な手段で充足する」に移行していくことになる。

 「ニーズを経済的な手段で充足する」とは、製品・サービスを製造・販売するために必要な資源(ヒト、モノ、カネ、情報、知識)を、より安く、より早く調達することである。さらに、これらの資源について、よりよいものをよこせと注文をつけることである。端的に言えば、QCDを短期的に追求することだ。経済性を求める企業がQCDにこだわるのは当然である。ところが、あまりに近視眼的な調達を行うと、資源が再生産されるスピードを資源を消費するスピードが上回ってしまい、中長期的には資源の調達が不可能になる。そこで、資源の消費と再生産のスピードのバランスを取る必要がある。これが「ニーズを社会的な手段で充足する」の意味するところである。

 「経済的ニーズを社会的な手段で充足する」というタイプの代表例としては、ダノンとグラミン銀行の提携が挙げられる。ダノンは、グラミン銀行のマイクロファイナンスの仕組みを活用して、新興国・途上国でヨーグルトを販売した。具体的には、マイクロファイナンスによって、現地の乳牛飼育者の経営を支援し、ヨーグルトの戸別訪問販売員を育成した。こうして、とかく新興国・途上国で課題となりがちな、原材料の安定供給と販売チャネルの開拓をクリアすることができた。さらに、ヨーグルトの生産を現地化することで、雇用の創出にも貢献した。

 「経済的ニーズ」とは、先進国に住む我々が一般的に「あれがほしい」と思う時のニーズのことである。これに対して「社会的ニーズ」とは、先進国の一般人のレベルから見て、人間らしく生活するのに十分なニーズが満たされていない人たちが求める根源的なニーズのことであり、衣食住、健康、医療、教育に関連するものが多い。「社会的ニーズを経済的な手段で充足する」タイプの代表例としては、住友化学の「オリセットネット」がある。オリセットネットとは、マラリア対策の蚊帳である。アフリカではマラリアを治療する十分な医薬品を得ることができない。そこで、マラリアを媒介する蚊をいかに排除するかが課題となる。オリセットネットは、網に蚊よけの薬品が練りこんであり、家に取りつけるだけで十分である。そして、医薬品よりはるかに安価である。

 最も進んだCSRとは、「社会的ニーズを社会的手段で充足する」というタイプである。もちろん、経済的な成長を犠牲にして社会性を優先しているわけではなく、企業としての利益も確保する。この時、マイケル・ポーターが言うCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)も達成される。今後、このような事例が増えてくるに違いない。
 【城北支部青年部のご紹介】
 東京都中小企業診断士協会 城北支部には「青年部」があります。主に支部入会後間もない先生(概ね5年以下)を対象に、2か月に1回のペースで勉強会や懇親会を行っています。「支部に入ったものの何をすればよいか解らない」という声をよく聞きますが、まずは青年部の活動を覗いていただければと思います。ここで人脈作りをして、支部内の各部に入部するもよし、研究会や各区会に入るもよし、「城北プロコン塾」に入塾するもよし、青年部をきっかけとして支部内での活動領域を是非広げてください。

 青年部では、他の勉強会や研究会と異なり、若手診断士にとって興味のありそうなテーマや、今回のように若手診断士からの持ち込み企画で勉強会を実施しているのが特徴です。ご興味のある方は、城北支部メーリングリストで配信される青年部のお知らせをご参照いただくか、本ブログのお問い合わせフォームよりご連絡ください。




  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like