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辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店が先か、住民が先か?他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年09月26日

辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店が先か、住民が先か?他


なぜ繁栄している商店街は1%しかないのかなぜ繁栄している商店街は1%しかないのか
辻井啓作

阪急コミュニケーションズ 2013-11-28

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 著者の辻井啓作氏は元中小企業診断士で、広島県呉市で取り組んだ中心商店街活性化の事例は、経済産業省中小企業庁の「頑張る商店街77選」に選ばれた。ところが、その後、商店街活性化施策のあり方に疑問を感じ、現在は商店街向けのコンサルティング、ならびに中小企業診断士としての活動を停止しているという。本書には、商店街や、商店街支援を行う自治体職員に対する辛らつな言葉がこれでもかというぐらいに並んでいる。
 「まちづくり」事業は、商店の再生に比べ、ほとんど費用の持ち出しがないばかりか、マスコミ等にとりあげられ、誉めそやされる可能性も高いのだ。もしかすると、「まちづくり」の先に商店街の活性化や商店の業績向上などないことは、商店街の組合や商店自身もわかっているのかもしれない。それでも、閉塞感の中で何もしないではいられず、「まちづくり」を行っているのかもしれない。しかしそれは、期末テストの前夜に、急に部屋の掃除を始める中学生と同様、「何か前向きなことをしている」と信じることで現実から逃避している姿である。
 商店街で講演をするコンサルタントが、必ずといっていいほど要望されるのが、事例をたくさん紹介してほしいということだ。確かに事例はわかりやすく、写真でもあれば、講演の満足度を上げるのに適している。しかし、提示された事例の中からまねのしやすいものを選んで商店街の事業を決めていくのは、自動販売機で缶コーヒーを選んでいるようなもので、その安易さが成功につながるはずはない。
 自治体職員の業務への意欲については批判的な意見が多いが、私の目から見て、建設関係部署や福祉部門には、意欲があり仕事に熱中する職員が多い。一方で、産業振興の部門には意欲的な職員があまりいないように見える。ごくまれに産業振興部門でも熱意ある職員を見かけるが、周囲から”変わり者”扱いをされて浮いており、あまり権限が与えられていないように感じている。
 本書の内容には基本的に賛同するが、2箇所ほど私と意見が違うと感じたところがあったので、今日はそのことについて書いてみたい。

 (1)著者は、商店街が大手小売店やチェーン店の価格に対して牽制の役割を果たし、地域の物価上昇に歯止めをかけられると期待している。
 商店街で大型、中堅のスーパーマーケットの近くに立地しながら、驚くほどの低価格で集客し、繁盛している店を見かけることがある。(中略)こうした店は、(中略)その多くは償却が終わった古い店舗を活用することで、低価格を実現しているのだ。また、その時の仕入れの状況に応じて、安く仕入れられるものを集中的に仕入れ、低価格で提供して顧客を惹きつけたりもしている。(中略)

 また、商店街で時々見かける驚くほど安い飲食店も同様だ。店舗を所有している、もしくは古い建物を安く借りていること、家族経営であることで、チェーン店の大量仕入れに負けない低価格を実現している。
 確かに、こういうふうに低価格で勝負する商店があるのは事実だ。テレビ東京あたりが日曜日の夜のバラエティで「人情店」として取り上げたがるような商店のことである。しかし、低価格で勝負できる商店はごく一部に限定されると思う。引用文にあるように建物設備の償却が終わっていたり、特定の仕入れルートがあったりするなど、特殊要因がなければ低価格は実現できない。

 大多数の商店にとって、効率を極限まで追求する大手スーパーやチェーン店と価格で勝負するのは無謀である。大手スーパーやチェーン店と同じものを販売する限り、商店には絶対に勝ち目がない。大手スーパーやチェーン店は、「顧客の好みがあまり反映されず、購入頻度が高い買回品(解りやすい例が野菜や下着など)」を大量に仕入れて低価格を実現することに長けている。商店がこれらの店との競争を避けるならば、「購入頻度がそれほど高くなく、かつ顧客の好みに左右されやすいもの」を積極的に取り扱うべきではないだろうか?

 例えば、少し贅沢が味わえるスイーツ、素材や調理方法にこだわった料理、住宅を彩るインテリア雑貨、おしゃれを楽しめる洋服、疲労回復・美容に効果のあるエステなどである。これらの製品・サービスに対しては、顧客は多少のプレミアム価格を支払う準備がある。著者は、低価格で大手スーパーなどに挑戦を挑む商店が物価を安定させると主張しているが、実態はむしろ逆で、高付加価値の製品・サービスを取り扱う商店が増えることで、健全なインフレが生じると思う。

 (2)著者は、タウンマネジャーのあり方についても提言を行っている。1998年の旧中心市街地活性化法の施行により、商店街の活性化事業を行うために、TMO(タウン・マネジメント・オーガニゼーション、まちづくり機関)が設置された。そのTMOに専門家として配置されるのが、タウンマネジャーである。タウンマネジャーには、まちづくりや商店街経営に関する幅広い知見に加えて、多くの利害関係者と調整を図るフットワークの軽さが要求される。だが、そのような人材はなかなかおらず、人選に苦労しているTMOが多い。そこで、著者は次のような提案をしている。
 私はこのような課題の解決方法として、企業からの派遣によるタウンマネージャー雇用を提案したい。専門性を持つ企業が、タウンマネージャー業務を市役所から受託し、その企業の若手社員を長期に派遣するのだ。

 現地で働く若手社員は、フットワークを活かして業務を行い、足りない専門知識や経験は派遣元の企業がフォローや指導を行う体制を作ることで、トータルとして両方の資質を満たすことができる。タウンマネージャーの期間が終了した後には、派遣元企業に戻って経験を活かして業務を行うことも可能となるだろうし、派遣元企業が他の自治体から同様の業務を受託し、再度、タウンマネージャーとして派遣されることも可能になるだろう。
 だが、この仕組みはやや不自然に感じる。こういう例えが適切かどうか解らないが、タウンマネジャーが外部から派遣されて商店街の活性化事業を行うのは、任期が限定された社外取締役が経営の全責任を負っているようなものである。商店街の経営責任は、やはり商店街の人たちにある。一時的に外部の専門家の力を借りることはあっても、その専門家にいつまでも責任を負わせているようでは、商店街の自立はおぼつかない。個人的には、こういうタウンマネジャー制度ならば、どうせ成果が出ないのは目に見えているから、早く止めた方がいいと思う。

 著者が言う、若手社員をタウンマネジャーとして派遣する「企業」の実態も不明である。おそらく、商店街活性化を専門とするコンサルティング会社のことなのだろう。だが、意地悪な見方をすれば、著者の提案は、タウンマネジャー制度を”濫用”してコンサルティング会社と地方自治体を”癒着”させ、本来であれば必要のないコンサルタントの仕事を無理やりひねり出して、自治体から税金を引き出そうという意図が働いているのではないか?と勘繰りたくなる。

 (3)ある地域に一定の人口や商店が存在すると、人口に魅力を感じた商店が他の地域から進出してくる。また、商店に魅力を感じた住民が他の地域から引っ越してくる。すると、人口や商店の増加に伴ってその地域の魅力が高まるので、さらに新しい住民や商店が吸引される。このようにして、市街地は発展していく。では、最初に必要なのは人口と商店のどちらなのだろうか?

 最初に一定の人口があるから、人口を目当てに商店が増え、その商店が新たな人口を呼ぶのか?それとも、最初に一定の商店があるから、商店を目当てに人口が増え、その人口が新たな商店を呼ぶのか?これには色々な考え方があると思うが、私は前者だと思う。中心市街地活性化と言うと、多くの自治体はまずは商店街活性化に力を入れる。しかし、私は住民を増やす施策にもっと注力した方がよいと考える。

 人口が減少した地方では、起爆剤として駅前に大きな商業施設を造ることが多い。最初はもの珍しさも手伝って多くの人が遠方からも訪れる。しかし、その効果は長続きせず、経営不振に陥ったテナントが次々と撤退してしまう。もぬけの殻となった商業施設を見て、周辺住民は「税金の無駄遣いだ」と批判する。こういう話は枚挙に暇がない。

 商業施設から手をつける場合、周辺住民は数が少ないのだから、ビジネスとしてペイさせるためには遠方から観光目的で訪れる人を惹きつけなければならない。ところが、観光スポットというのは一朝一夕にできるものではない。確かに、商店街の中には、鳥取県境港市の「水木しげるロード」のように、観光地化することに成功したところもある(ただし、商店街の全ての商店が観光地化の恩恵を受けているわけではない)。しかし、こういう例は少数派であって、観光地化のプランの多くは失敗している。そのくらい、観光ビジネスは難しいのである。

 これに対して、最初に住民を増やす場合、周辺には商店が不足しているから、住民に多少の不便を強いることになる。だが、最近はネット通販も発達しているし、自動車があれば郊外へ買い物に行くこともできる。だから、周辺の商店不足は、住民にとってそこまで深刻な問題にならないと思われる。商業施設などの箱物に何十億円も投じ(て失敗す)るくらいならば、その資金を住民の誘致に使った方が効果的ではないだろうか?




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