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DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)
『その時どう動く(『致知』2017年5月号)』―企業の「弱み」を活かした経営というものを考えられないか?

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年12月26日

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 今回の記事は、以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で課題としていたことに対する、現時点での私の見解を述べるものである。

 人事の分野でGEが注目を集めているのは、伝統的な「セッションC」や「9ブロック」を廃止したからである。より具体的に言うと、GEはグレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、私は半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 先日の記事「【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)」で述べたように、改正職業能力開発促進法の施行により、企業が社員に対してキャリアコンサルティングの機会を提供することが義務づけられた。キャリアコンサルタントには、従来の面談の機能に加えて、組織開発コンサルタントとしての役割が追加される。私はさらに、社員がやりたいことや社員にできること、社員の価値観をベースとした戦略立案、言い換えれば内部環境アプローチによる戦略立案の支援を行うコンサルタントとしての役割も上乗せされると考えている。今回の記事では、その内部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについて、現時点での試案を述べてみたいと思う(ちなみに、外部環境アプローチによる戦略立案のプロセスについては、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。

 ①最低到達目標の明確化
 以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、私は生活給と年功制の昇進制度を支持している。これは、現在の社員を最大限に活用し、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えるためである。そこで、内部環境アプローチではまず、現在の社員が順調に昇進し、またそれに伴って新卒社員を順調に採用した場合、3~5年後にどのような人員構成になるかを予測する。そして、その人員構成を維持するために必要な売上高、利益(率)をはじき出す。これが、企業が3~5年後に最低限到達していなければならない目標となる。

 ②「やりたいこと―できること―価値観」のセット=事業機会の洗い出し
 次に、キャリアコンサルティングなどの機会を活用して、現在の社員に対し幅広くヒアリングを実施し、それぞれの社員がどんなことをやりたいと思っているのか、どんな能力を持っているのか、どういう価値観で仕事をしているのかを詳細に把握する。それぞれの社員のやりたいこと、できること、価値観はバラバラであっても、組み合わせてみると一貫性が取れるケースが出てくる。例えば、若手社員はある仕事をやりたいと思っているが、それを遂行するだけの能力が不足している場合に、ミドル社員がその能力を補える、といった具合である。こうして、一貫性の取れた「やりたいこと―できること―価値観」のセットを事業機会として抽出する。一例としては、「AIを活用した融資業務の高度化に取り組みたい―スコアリング融資のノウハウ、与信管理の暗黙知―新しい技術に対する進取性、迅速な意思決定、チームワークの重視」が挙げられる。

 私はしばしば、日本企業の特徴は下の階層から上の階層に対する「下剋上(山本七平からの借用)」が起きることにあると述べてきた。つまり、上司からの命令に唯々諾々と従うのではなく、「こうすればもっと上手くできる」と部下が積極的に提案する。それを聞いた上司は、「俺の命令に逆らうな」と言わず、「君がそう言うのならばやってみよ。責任は自分が取る」と言って部下に権限移譲する。これが組織階層の中で繰り返されていくと、最終的には、組織の最下層にあって現場に一番近い社員が最も大きな権限を持ち、組織の最上部にいる経営陣は責任を丸抱えするという構図になる。これはまさに、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」で事例発表をしたサントリーの「見てくんなはれ」と「やってみなはれ」の精神に相当する。

 私は、現場に近いところにいる若手社員から積極的にやりたいことの提案が上がってくる組織が望ましいと考えている。業績が好調な企業というのは、やはり若手や現場が元気である。逆に、若手や現場が活力を失っている企業は、組織全体のムードも沈滞しがちであり、業績も芳しくない。とはいえ、若手社員があれをやりたい、これをやりたいと言っても、彼らはまだ能力的に十分成熟しておらず、確固たる価値観を持っていないケースがほとんどである。そこで、ミドル・シニア社員が登場し、能力と価値観の面で若手の思いを下支えする。こうしたスクラムがいくつも成立すると、企業は多様な戦略オプションを手にすることができる。

 なお、このステップの作業を効率化するために、やりたいこと、できること、価値観をあらかじめ類型化し、どのカテゴリに該当する社員が多いかを定量的に可視化したいという誘惑に駆られることがある。しかし、私はこうしたやり方をお勧めしない。手間はかかるが、社員の生の声をできるだけ丹念に拾っていき、「やりたいこと―できること―価値観」のセットを丁寧に織り上げることが重要である。というのも、やりたいことなどを類型化してしまうと、想定される事業機会が各カテゴリの組み合わせの数に限定され、創造的なアイデアが出てこないからである。

 ③事業機会の選択
 ②で抽出した事業機会のうち、企業としてどれに取り組むかを絞り込む。外部環境アプローチでは、PEST分析をカスタマイズしたPET分析を用いたが、内部環境アプローチでは、J・B・バーニーの「VRIOフレームワーク」を用いるとよいだろう。

 ⅰ)Value(経済価値に関する問い)
 その企業の保有する経営資源やケイパビリティによって、その企業は外部環境における脅威や機会に適応することが可能となるか?
 ⅱ)Rarity(希少性に関する問い)
 その経営資源をコントロールしているのは、ごく少数の競合他社のみか?
 ⅲ)Inimitability(模倣困難性に関する問い)
 その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するか?
 ⅳ)Organization(組織に関する問い)
 企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか?

 通常、VRIOフレームワークを用いる際には、主に組織能力を経営資源の中心として評価するが、内部環境アプローチにおいては、経営資源として価値観も重視するべきである。つまり、その価値観は市場や顧客に向けた価値の創造に貢献するか?その価値観を醸成している企業は希少であるか?その価値観を模倣・学習するのは困難であるか?その価値観を活用する組織的な方針や手順は整っているか?といった問いにも答えていく。

 ④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ⑤ビジネスモデルのデザイン
 これらは外部環境アプローチと同じである。

 ⑥ビジネスプロセスのデザイン
 外部環境アプローチとの違いは、まず、③で絞り込んだ「やりたいこと―できること―価値観」セットの価値観を共有価値観として、ビジネスプロセスのあるべき姿をデザインする際の基本的な方向性に含めるという点である。ここで価値観とビジネスプロセスを結びつけておくことで、強固な組織文化に支えられた事業を展開することが可能となる。

 また、外部環境アプローチでは、求められる成果を最も効果的・効率的に上げられるビジネスプロセスをデザインし、効率性、生産性を重視した上でそれぞれの社員に割り当てる仕事の単位を決めていくが、内部環境アプローチでは社員のモチベーションアップに配慮しながらビジネスプロセスを決めていく。モチベーションが上がる仕事の要件は、以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」でも書いたように、

 ⅰ)顧客からのフィードバックがあること
 ⅱ)一定の裁量を与えられていること
 ⅲ)複数の能力を使わなければならないこと
 ⅳ)能力のストレッチが要求されること
 ⅴ)周囲の社員との協業が必要であること

の5つである。よって、本来は生産性を重視して職務を専門化した方がよいところを、敢えて複数の仕事を同じ人にやらせたり、敢えて同僚や他部門との協業が必要となるように仕事の境界線を調整したり、顧客(社内顧客を含む)からのフィードバックの機会を多く設けたりする、といった工夫を施すこととなる。短期的な効率性は犠牲にされるかもしれないが、中長期的には社員のモチベーションアップと企業の業績向上を両立させることができるに違いないと考える。

 ⑦施策の投資対効果の試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書、貸借対照表のシミュレーション
 これらも外部環境アプローチと同じである。⑧を通じて、今回選択した戦略が①の最低到達目標をクリアしていることを確認する。

 ⑨不足する人材の採用
 たいていの場合、今回選択した戦略を実現し、⑦の施策を実行するには、現有の社員だけでは社員が不足することが明らかになる。その場合には、新しい人材を採用しなければならない。この点は外部環境アプローチでも同様である。外部環境アプローチの場合は、企業に不足している能力を保有している人材をピンポイントで採用するのに対し、内部環境アプローチの場合は、敢えてダイバーシティを重視する。後述するように、ダイバーシティが新しい戦略を構想する上での源泉となるからである。とはいえ、野放図に採用すればよいわけではなく、新卒採用の場合は基本的な性格が備わっているか、中途採用の場合はその人の価値観が自社の共有価値観と合致しているか、という点は見極めておきたい(新卒作用で性格を、中途採用で価値観を重視する理由については、以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)。

 ⑩継続的な戦略的組織学習
 ⑨で新しい人材が入ってくることにより組織構成が変わるため、①の最低到達目標が変化する。また、⑨でダイバーシティを重視し、多様な意思、能力、価値観を持った人を採用したため、企業の「やりたいこと―できること―価値観」セットに変化を及ぼす可能性が生まれる。よって、企業は①の最低到達目標を再計算した上で、主に新しく入社した社員を対象にキャリアコンサルティングなどを実施し、②の「やりたいこと―できること―価値観」セットの洗い出しをやり直さなければならない。そして、③~⑨のプロセスを踏む。その後も、企業は新しく人材を採用する度に内部環境アプローチのプロセスを一からやり直す必要がある。つまり、企業は継続的に戦略的組織学習を行わなければならないということである。

 上記はまだラフなアイデアの段階にとどまっている。私の今後の課題は、上記の一連のプロセスをさらにブラッシュアップさせるとともに、外部環境アプローチと内部環境アプローチを統合した総合的な戦略立案プロセスを構築することである。

2017年05月08日

『その時どう動く(『致知』2017年5月号)』―企業の「弱み」を活かした経営というものを考えられないか?


致知2017年5月号その時どう動く 致知2017年5月号

致知出版社 2017-05


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 今回の記事は単なる問題提起で終わっている点をあらかじめご了承いただきたい。『致知』の定期購読を始めて3年以上になるが、『致知』に登場する企業は、欧米流の経営を行う企業と、日本流の経営を行う企業とが混在していると最近は思うようになった。

 欧米流の経営においては、まずは強力なリーダーシップを持つ人間が「自分はこれがやりたい」という壮大で明確な目標を設定する。ターゲット市場は最初から全世界である。リーダーは自分が考案したイノベーションについて、「私がやりたがっていることは、世界中の人々が受け入れてくれるはずだ」という強い信念を持っている。そして、そのイノベーションを世界中に普及させるために、VCや株式市場から調達した豊富な資金を使って、大々的なキャンペーンを実施する(その手法は時に強引であるため、「ゴリ押しマーケティング」などと揶揄される)。

 リーダーは、自分が設定した壮大な目標からバックキャスティング的に計算して、いつまでにどんな目標を達成すべきか、綿密な計画を立てる。そして、それぞれの目標をクリアするためのCSF(重要成功要因:Critical Success Factor)を特定する。目標は定量的に測定可能なものであり、CSFは数が絞り込まれているほどよい。リーダーはCSFに経営資源を投入し、目標に向けて邁進する。自ずとその経営は短期志向となる。また、リーダーは目標達成に向けて人一倍努力しているわけだから、他人よりも多くの利益の分け前を要求する。リーダーが数々の目標をクリアし、当初設定した壮大な最終目標を完遂すれば、リーダーの自己実現が完結する。そして、リーダーは莫大な富を手にし、成功者の栄誉をほしいままにする。

 一方の日本流の経営では、強力なリーダーシップを持つ人がいない。顧客をはじめとする様々なステークホルダーから「あれがほしい」、「これをしてほしい」などと色々と注文を受け、それに対して受動的に反応する。したがって、欧米企業のような明確で壮大な目標を持ちづらい。ターゲット顧客も、全世界の人々を想定するといった大げさなことはしない。あくまでも、自社から顔が見える人々のために尽くすのが日本企業である(以前の記事「『繁栄の法則(『致知』2017年4月号)』―日本企業は「顧客の顔が見える経営」に回帰すべきではないか?」を参照)。

 日本企業は、企業を社会の公器として位置づけ、長く存続することをよしとする。よって、欧米企業とは対照的に、中長期的な視点での経営が行われる。と言っても、遠い未来に何か目標を設定して、そこから逆算してスケジュールを組むようなことはしない。企業として、いや人間として当たり前のことを日々1つ1つ積み重ねていけば、自ずとよい結果が得られると信じている。だから、日本企業では職場での挨拶や工場での5Sといった、企業の業績に直結しているとは考えにくい社会的・倫理的行動の数々が重視される。企業は経済的存在である前に、社会的存在でなければならない。欧米企業のように、利益を目的としない。企業やそこに勤める人々が日々善であるならば、利益は後からついてくる。しかも、その利益は非常に慎ましいものである。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)①

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)②

 以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」や「『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案」で上図を用いたが(何度も言い訳間がしいが、まだこの図は自分の中で腹落ちしておらず、修正の余地がある)、欧米流の経営は左上の<象限③>と親和性が高い。<象限③>では顧客のニーズを先取りし、新市場を創造しなければならない。伝統的な市場調査は役に立たない。そこで、イノベーターが自らを最初の顧客に見立て、「自分ならこんな製品・サービスがほしい」と思うものを形にする。そして、「自分がこれほどほしがっているものだから、世界中の人々もきっと同じようにほしがるに違いない」と考える。そして、イノベーションによる世界征服を企む。

 一方、日本流の経営は右下の<象限②>と親和性が高い。この象限では顧客のニーズが比較的明確であるため、企業側が敢えてイノベーションで冒険をしなくてもよい(もちろん、イノベーションが全く不要であるとは言わない)。1人1人の顧客のニーズにきめ細かく応えていけば、それなりの業績は後からついてくる。ただし、<象限②>は、製品・サービスの欠陥が許されない象限である。例えば、自動車業界は不良ゼロを目指している。野球やサッカーではミスをしたチームが負けると言われるが、<象限②>ではいかなるミスも許されない。そのため、社員1人1人が一挙手一投足において、「自分は正しい行動をしたか?」と問わなければならない。

 欧米流の経営のもう1つの特徴は、「自社の強みを活かす」ことである。ドラッカーをはじめ、様々な経営学者やコンサルタントが口を酸っぱくして言っていることだ。強みの要件を整理したゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードの「コア・コンピタンス」や、強みを評価するフレームワークであるJ・B・バーニーの「VRIO」が有名である。強みがなければ、はったりをかますこともある。
 佐藤:例えばある(※ヨーロッパの)オペラのクラスで、「この役を歌える人」と先生から聞かれた時に、私を除いて皆が一斉に手を挙げました。あとで友達に、「何で手を挙げないの」と聞かれ、歌ったことがないからと言ったら、その友達に、「歌ったことがある人なんか一人もいないわよ。経験があるかないかじゃなくて、自分に任せろって言えなきゃダメでしょ」と言われました。でも、「私、そんな嘘つけない」って(笑)。
(村上和雄、佐藤しのぶ「最高の幸せは出逢いの中にある」)
 ここで発想を逆転させて、日本流の経営では、「自社の弱みを活かす」経営ができないか?というのが私の問題提起である。というのも、人間関係においては、自分の強さばかりをアピールする人が受け入れられるとは限らないからだ。敢えて自分の弱みを告白すると、かえってその人に対する信頼感が増すことがある。
 横田:魅力ということで言えば、私は相田みつを先生が自分の弱さを平気でお書きになって、それを認めておられるところが大きな魅力だと、こう思っているんです。
(横田南嶺、相田一人「相田みつをの残した言葉」)
 ただし、「敢えて弱みを見せる」という経営は、今のところ<象限②>よりも<象限③>の方が効果がありそうである。例えば、日本の例になってしまうが、ソニーが1999年に発売したAIBOがそうである。AIBOは、その当時の最新の人工知能、64ビットのRISCプロセッサ、赤外線センサーつき1万8000ピクセルのカラーCCDカメラなどを備えたハイテク製品であった。ところが、エンジニアたちの予想通り、最先端で高度に複雑なデバイスの初期世代につきものの欠点をことごとく備えていた。内蔵ソフトに不具合が起きやすく、持ち主の命令に全く答えないこともあった。しかし、ロボットではなくペットとして売り出されたため、つまり<象限②>ではなく<象限③>の製品として売り出されたため、ユーザーから予期せぬ反応を引き出すこととなった。

 通常のロボットであれば欠陥と見なされる事象が、ペットにありがちな気まぐれな行動に見え、まるでAIBOが「自分の心を持っている」かのように感じられたのである。AIBOのユーザーはAIBOの欠陥を許し、AIBOに愛着を覚えた。雑誌に記事を書くためにAIBOをレンタルしていた人は、AIBOをソニーに返さなければならない時に非常に残念に思ったと雑誌に書いた(以上、ヤンミ・ムン『ビジネスでいちばん、大切なこと』〔ダイヤモンド社、2010年〕より)。最近の例で言えば、AppleのSiriに対して我々が抱く感情がこれに近いだろうか?

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業
ヤンミ・ムン 北川 知子

ダイヤモンド社 2010-08-27

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 私が大好きな「水曜どうでしょう」も「敢えて自らの弱さをさらけ出す」バラエティー番組であろう。いつも「自分が考えた企画は楽しい」と言いながら、旅の途中でなぜか辛い方向に行ってしまう藤村ディレクター、その藤村ディレクターを叱咤して旅を強引に進めるものの、最後は自壊するミスター、フリートークではあれだけ人の心の先読みができるのに、料理の段取りは全くできず、またディレクター陣には何度も騙される大泉さん、カメラマンなのにブレブレの映像を平気で撮影し、挙句の果てには出演者ではなく車窓や風景にカメラを向ける嬉野ディレクターという4人に、視聴者は癒しを感じる(大泉さんは「サラリーマンの入浴剤のような存在」と言っていた)。

 「自分の弱みを見せる」ことが効果的なのは、上図にある通り、<象限③>は情緒面を重視することと関係しているのかもしれない。企業側が見せる弱みや欠陥がむしろ人間味を醸し出し、それに共感する顧客が増えていくということは十分に考えられる。では、情緒面ではなく、機能面を重視する<象限②>で「自分の弱みを見せる」経営は果たして可能なのだろうか?繰り返しになるが、<象限②>は欠陥が許されない、言わば非常に緊張感のある領域である。そこで企業の弱みを前面に打ち出す余地はあるのか?この点は引き続き考えてみたいと思う。




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