プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年09月21日

フレデリック・ラルー『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』―ティール組織をめぐる5つの論点(1)


ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 嘉村賢州

英治出版 2018-01-24

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 著者によれば、組織は長い歴史を通じて、受動的、神秘的、衝動型、順応型、達成型、多元型、ティール(進化)型へと進化するという。現在、多くの組織は達成型の段階にいる。達成型では、まずは明確な戦略を策定し、売上高、利益、市場シェアなどの定量的目標を設定する。利益を確保するためのビジネスモデルと、戦略を実現するためのビジネスプロセスや組織、経営慣行を論理的に設計する。社員を飴と鞭の使い分けによって動機づけし、目標を達成することができたら、それに見合う業績給を与える。これが達成型の経営である。多元型については本書ではほとんど述べられていないが、要するに多様なステークホルダーの利害のバランスを取る経営のことである。そして、その後に待っているのがティール型である。

 本書を出版しているのが、C・オットー・シャーマー『U理論―過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』(2010年)やジョセフ・ジャウォースキー『源泉―知を創造するリーダーシップ』(2013年)などを取り扱っている英治出版であるため、『U理論』や『源泉』のように、物理学者デイビッド・ボームが提唱した「内蔵秩序」(我々の目に見える世界の背後にある統一的な無意識の世界。我々が目にしている世界のことをボームは「顕前秩序」と呼ぶ)というコンセプトを下敷きとして、人々がダイアローグ(対話)によってつながり合えば、私とあなたという境界線は消滅し、無意識のレベルで1つになって自ずと変化が生まれるといった内容だったらどうしようかと思った(『源泉』に至っては、ダイアローグの相手はもはや人間でなくてもよく、動物であっても意識を昇華させることが可能だとされている)。

U理論[第二版]――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術U理論[第二版]――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
C・オットー・シャーマー 中土井僚

英治出版 2017-12-20

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源泉――知を創造するリーダーシップ源泉――知を創造するリーダーシップ
ジョセフ ジャウォースキー Joseph Jaworski 金井 壽宏

英治出版 2013-02-22

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 人間には古代から「普遍」に対する憧れがあるらしく、統一的な価値を中心に、人間が皆平等で、個人が個人であると同時に全体に等しいような集合を志向するようである。啓蒙主義はその憧れの実現を一気に推し進める運動であった。だが、これは言い換えれば全体主義であり、その暴力性は歴史が証明してきたところである。だから、ピーター・ドラッカーは、特にジャン・ジャック・ルソーに代表されるフランス啓蒙主義に対して、キャリアの初期から批判的であった。私も、人間の理性が完全であるというのは決して叶わぬ夢であり、理性が限定されているからこそ自由で多様な思想が生まれると信じている。世界がその自由に寛容であることが真の保守的なリベラリズムであって(日本のガラパゴス化したリベラルは、「保守的なリベラリズム」などという言葉を理解できないであろう)、私はそれを支持したい。

 ティール組織は全体主義につながるような危険なマネジメント思想ではなかったので、私としてはひと安心した。ティール組織とは、簡単に言えば、大きな存在目的に向かってそれぞれのチームが自主経営を行う組織である。ティール組織は流動的なチームによって経営され、各チームに大幅な権限が与えられている。なお、ティール組織では、権限は経営陣から移譲されるものではなく、最初からチームが保有しているものだとされるため、権限委譲という言葉は使われない。ティール組織には、全社的な戦略も定量的な目標もない。

 まず、目の前にいる様々な顧客に対して何ができるかを全社員が考える。その顧客に提供可能な価値が全社的な存在目的と合致するならば、その顧客のために働く。それぞれの顧客が抱える課題が明らかになったら、その課題を解決するのにふさわしいチームが自発的に結成される。チームは成果と目標を掲げるが、定量面よりも定性面が重視される。「我々は顧客に対して、社会に対してどのような貢献をすべきか?」といった具合だ。チームは、顧客の課題解決に必要な経営資源を自力で調達する。社員はチームで採用し、育成・評価もする。原材料・機械などの購入権もチームにある。ITシステムの構築もチームが主導権を握る。原材料購入やシステム構築の予算は、チームが本社から獲得しなければならない(ティール組織では、現場の権限が大きい反面、本社の規模は非常に小さい)。それぞれのチームメンバーは、こうしたタスクを含め、マネジャーや他のメンバーの役割を積極的かつ大幅に引き受ける。

 チームだけで課題を解決することが困難な場合は、他のチームと調整することができる権利がある。タスクや経営資源の融通をめぐっては、チーム間のコミュニケーションを通じて自由に決定される。あるチームが他のチームに相談する権利を有する代わりに、他のチームから相談を持ちかけられた場合にはそれを断ってはならない。現場の問題は基本的に現場で解決するというのがティール組織の基本スタンスである。どうしても現場では問題が解決できない場合に限って、経営陣に対してその問題がエスカレーションされる。もちろん、チームは課題解決のパートナーを社外に求めてもよい。ただし、社外のパートナーとの契約上のやり取りやパートナー関係のマネジメントに関しては、そのチームが全責任を負うことになる。

 ここまで見ていくと、ティール組織とは、全社員が経営者となることを目指している組織であると言える。ドラッカーはかつて『経営者の条件』の中で、「時間をマネジメントする者はエグゼクティブ(経営者)である」と述べた。ティール組織の社員は、時間だけでなく、あらゆるタスクや資源をマネジメントしている、正真正銘の経営者である。

ドラッカー名著集1 経営者の条件ドラッカー名著集1 経営者の条件
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 ドラッカーは戦後のGMを研究する中で、「分権化」という概念を提唱したことでも知られる。ここからは私の勝手な解釈だが、アメリカはマズローの欲求5段階説で最上位の欲求に位置づけられる「自己実現」を目指す社会である。しかし、いくら自由と平等を標榜するアメリカでも、全員が自己実現をすることはできない。自己実現ができるのは、企業の経営陣ぐらいであろう。残りの人々は、自己実現を目指す経営陣に利用され、運がよければ4番目の承認欲求が得られるという状態であった。しかし、分権化を通じて経営の責任が各事業部のマネジャーに下りてきたことで、彼らもまた経営を手に収め、自己実現が可能になった。そして今、ティール組織によって全員が経営者となることで、全員が自己実現の機会を獲得したと考えられる。

 このように書くと、ティール組織はいいことづくめのように思える。しかし、本書は解を提示した書ではなく、問題提起をした書であると思うから、この本を手がかりにいくつかの問題を検討しなければならない。さしあたって私が考えついた問題を5つ列挙する。

 ①本書を読むと、ティール組織がある課題に直面した場合、その課題を解決するための諸々のチームが即座にでき上がって、連携しながら迅速に仕事を完遂するような印象を受ける。本書には明確に書かれていないが、これはおそらく複雑系の理論の影響を受けていると思われる。ブログ別館の記事「マーガレット・J・ウィートリー『リーダーシップとニューサイエンス』―秩序と変化を両立させる複雑系」でも書いたように、複雑系においては、組織が環境からある変化を受けると、場を通じてその情報が組織内の連関要素に伝わる。ここで言う場とは、組織の価値観と言い換えてもよい。組織が価値観によって十分に充填されているほど、情報の伝達スピードは上がる。組織の諸要素は情報を好きなように解釈するため、カオスが生じる。だが、組織全体で見てみると、一定の秩序を保って変化している。これを自己組織化と呼ぶ。

 複雑系の理論は実験でも確認されていることであるし、ティール組織を日本も取り入れることができたら望ましいであろう。ただし、個人的には、本書に書かれているティール組織を日本企業がそのまま実装すると、かえって大変な問題を生むことが危惧される。ティール組織は、端的に言えば、全ての物事をインフォーマルなやり方で進めようとする組織である。ところが、日本人はこのインフォーマルというものに滅法弱い。フォーマルなやり方を軸として、それをインフォーマルなやり方で補うのが日本人の性に合っている。

 仮に、日本企業が今すぐティール組織を導入した場合、すぐに予想されるのは、仕事のやり方をその都度チーム内やチーム間のコミュニケーションを通じて決定することによって、業務の属人化がさらに進んでしまうことである。ただでさえ「重い」と言われる日本企業は、ティール組織でスピードが上がるどころか、むしろスピードが下がるに違いない。私は、良品計画のように立派なマニュアルを作るべきだとまでは思わないが、ティール組織においてもマニュアルというフォーマルな標準を上手に活用することが重要ではないかと考える。

無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい
松井 忠三

角川書店 2013-07-10

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 マニュアルは全てのケースを網羅する必要はない。近年多くの企業が採用しているペルソナマーケティングに関して言えば、代表的なペルソナを持つ顧客に対して製品・サービスを製造・販売するプロセスを標準プロセスとして規定すればよい。大切なのは、ペルソナから外れる個別の顧客に対する個別の対応プロセスを、誰がいつどのようにしてマニュアルに反映させるかを前もってはっきりさせておくことである。これを公式化しておかないと、マニュアルの改訂が属人化するという意味不明な事態になる(最近私が見た企業では、同じ業務に対してほぼ同時期に4種類のマニュアルが作成されており、マニュアルが意味をなしていなかった)。

 社会人類学者の中根千枝氏が分析した通り、日本はタテ社会である。ティール組織は、U理論のような完全にフラットな組織は志向していない。最小限の階層は認める。しかし私は、日本企業は階層構造を残すべきだと考える。多少コミュニケーションパスが長くなっても、タテのフォーマルなラインを保った方がよい。日本は儒教の影響を強く受けている。下の階層の者は上の階層の者を尊敬しなければならない。尊敬は社会の秩序を維持する上で大切な感情である。それを確認するには、尊敬がない社会を想定すればよい。尊敬がない社会では、誰もが自分の実力がNo.1だとアピールし、争いが絶えないだろう。とはいえ、下の者は上の者に唯々諾々と従うだけではない。『貞観政要』などが教えるように、上の者が誤っていれば、下の者は礼に従ってそれを正すことができる。いや、正さなければならない。上の者も下からの諫言を受け入れなければならない。こうした緊張感のある上下関係が、組織を適切に機能せしめる。

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)
中根 千枝

講談社 1967-02-16

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 山本七平は、日本陸軍に所属していた頃のことを思い出して、ある時組織改編で階層が少なくなったところ、上の者による下の者へのリンチが多発するようになったと述べている(『一下級将校の見た帝国陸軍』〔文藝春秋、1987年〕)。また、近年様々な組織でパワハラが問題となっているが、これは組織のフラット化によってマネジャーが大きな権限を持った結果、権限と権力をはき違えたマネジャーが部下に対してハラスメントを働いている現象だと言える。日本の場合、タテのコミュニケーションパスを縮めると、あまりろくなことが起きないようである。

一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)
山本 七平

文藝春秋 1987-08-01

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 そもそも、ティール組織と日本企業とでは、コミュニケーションの目的が違う。ティール組織では、ほぼ完成された1つの経営体であるチームが自らの経営を「確定」するためにコミュニケーションが行われる。日本企業の場合は、伝統的に職務定義が曖昧で、社員が他の社員やマネジャーの仕事の一部を分担していることが多い。しかし、この点をもって、彼が完全なる経営者であるとまでは言えない。松下幸之助がよく諭していたように、経営者のように発想することは重要だが、一社員が単独で経営者として完成することは決してない。その日本人が経営者に少しでも近づくには、他の社員とのコミュニケーション、特により経営に近い立場にある上司との重層的なタテのコミュニケーションによって、経営的な意味合いへの理解を深める必要がある。つまり、日本組織では、一社員の経営を「補完」するためにコミュニケーションが行われる。

 日本企業の場合、このフォーマルなマニュアルとタテのコミュニケーションが価値観と相まって場を強化し、複雑系の理論に従った組織変化を加速させると考える。

 ②前述の通り、ティール組織の経営陣はほとんど権限を有していない。経営陣の役割は、存在目的を掲げること、ティール組織のインフラを整えること、そして、チームが現場でどうしても解決できない問題が生じたら、その解決に乗り出すことである。どんな製品・サービスを開発するのかも、それぞれのチームに委ねられている。

 ブログ別館の記事「河合忠彦『戦略的組織革新―シャープ・ソニー・松下電器の比較』―3社のその後の命運を分けた要因に関する一考察」でも書いたように、市場が競争的変化のただ中にあり、現場発の創発的戦略が求められている場合はそれでもよいだろう。しかし、市場が構造的変化を迎えていて、包括的戦略が必要な場合には、やはり経営陣が動かなければならないのではないかと感じる。別の言い方をすれば、イノベーションに関しては経営陣が主導的役割を果たすべきだと思うのである。この点については、ブログ本館の記事「DHBR2018年10月号『競争戦略より大切なこと』―当たり前だが戦略もオペレーションもどちらも重要」、ブログ別館の記事「ゲイリー・ハメル『リーディング・ザ・レボリューション』―イノベーション=自己否定ができない人間をトップに据えてはいけない」でも書いたので、ここでは繰り返さない。

 (続く)

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